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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第九部
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第四話 闇試合本戦

闇試合を観戦に行った天堂達、

その中の紫村がエンターテイメントマッチで勝ち

とうとう本選に挑戦する事になった。

 さて『闇試合』も前座が終わり、いよいよこれから第二部の本選が始まろうとしていた。


 今回のエンターテイメントマッチで勝ち残った紫村にはこの本選での挑戦権が与えられた。しかし嫌ならそれを放棄しても良い事になっている。何故ならハードルが高いからだ。


 本来ならさっき終わった第一部の前座に参戦するのが普通なのだ。それをいきなり本選では無理があり過ぎる。


 だから普通は誰も参戦はしない。バトルロイヤルの優勝賞金100万円をもらて出場権を放棄するのが常だった。だからエンタテイメントマッチなのだ。


 しかし紫村は出場権を放棄せず本選に出場すると言った。そうなるとバトルロイヤルでの優勝賞金はなくなってしまう。つまりその賞金が出場権の代金と言う事になる。


 その代わりこの本選での試合に勝てば千万円台、億と言う金額も夢ではなくなる。その代わり命の保証もないのだが。


 本選はトップ8人によるトーナメント制だった。だから紫村はその中の一人と戦い、勝って初めて本選に臨めると言う事になる。


 そして第一部の優勝者もこの8人の一人と戦って勝てば本選入りに組み込まれる。


 そして最後は本選の優勝者がこの闇試合に君臨する帝王と頂点を決する事になる。しかしそれはこの15年間誰も成しえない事だった。それだけ帝王が強いと言う事だ。


 第一部で優勝したムエタイの選手は本選への出場を希望した。本来なら第一部の優勝で辞退しても良かったのだが優勝の賞金額が桁違いに大きい。だから腕に自信がある者ほど挑戦したくなると言うものだ。


 8強の一人と対戦したムエタイの選手は本場のタイで鍛えた本格的な選手だった。


 腹筋の状態も大腿四頭筋の発達具合も申し分なかった。つまり相当に実践を積んで来てると言う事になる。


 彼はしきりに前蹴りでけん制をかけてきて、彼が得意とする逆足による頭部への廻し蹴りのチャンスをうかがっていた。


 しかし対戦した8強の一人はそのチャンスすら許さなかった。瞬時に踏み込み掌底で相手の顎を突き上げ相手の体が宙に浮いた所に強烈な肘を打ち込んだ。


 それで試合は終了だった。ムエタイの選手の肋骨は数本はへし折れていただろう。正直勝負にならなかった。それだけこの本選の8強は強いと言う事だ。


 紫村と紫村のセコンドについた鳴海はその戦いを見ていた。


「どうです紫村君、いけそうですか」

「部長、冗談がきついですね」

「そうでしたね。では楽しんでくれたまえ」


 紫村の言う冗談とはどう言う意味なのか。相手が強くて勝てそうにないと言う事かそれともその逆なのか。


 ともかくそうこうしている内に紫村の順番が回って来た。今回も8強の一人と対戦してもし勝てたら正式に8強入りをして本選に進めると言う事になる。


 紫村の相手は先ほど選手入り口で紫村の試合を見ていた二人の内の一人だった。彼はどうやら先の試合で負けたムエタイの選手に近いシュートの選手だった。


 先ほどのムエタイの選手は負けたとは言え、表の世界では常にトーナメントに残り優勝も狙える選手だった。それがこうもあさりと倒されるとは一体8強とはどれほどの実力の持ち主なのか。


 紫村がそのシュートの選手と向かい合い、試合が始まると同時に相手は蹴り技の速攻で攻めて来た。まず強烈な前蹴りを放ち、その前蹴りを防ごうと紫村が十字受で防ぎに来た時を待っていたシュートの選手はすかざず最高の蹴りを紫村の上段に放って来た。


 しかもその初撃は見せかけの蹴りではなく、受けなければ確実なダメージを受ける前蹴りだった。それをまるでなかったかのように内側から反転させ踵落としに持って行く技術がどれほどのものか。


 しかしそれは全て紫村の誘いだった。右の踵落としが紫村の頭上に届こうとした時に紫村は踏み込んで踵落としを頭上で止めながら右拳を相手の胸に当てていた。そしてそのままその選手は十数メートルも後方に飛ばされ起き上がって来る事はなかった。


一体そこで何が起こったのか誰にも分らなかった。


「おい、今のは何だ。あいつは一体何をした」

「わからん。誰かわかるか」

「あれは恐らく寸勁だろう。あの蹴りが届いたと思った時に、あいつの拳が奴の胸部に固定されていた」

「何だって寸勁だって。そんなもので本当に人を倒せるのか」

「世の中は広いと言う事だ」


「となると接近戦は危険だと言う事になるな」

「なら問題ないさ。距離を取って倒せば済む事だ」

「そうだな」


 そして紫村は8強に名を連ねる事になった。


 ここからが本番になる。紫村の本番第一試合の相手はレスラーだった。


 しかし我々がテレビで見るようなレスラーではない。これもまた地下レスリング界で最強と言われている男だった。


 この男には並みの攻撃は効かない。どんなパンチもキックもその鍛え上げられた強靭な筋肉がはね返してしまう。立ち技系の選手には最悪の相手だった。


 しかも捕まったら最後、百数十と言われる関節技で体を破壊されてしまう。まさに最悪の相手だ。それでも紫村はその男の前に平然と立っていた。


 打ってこないと見たそのレスラーは紫村の首を捕まえに来た。要するにレスラー達がよくやる首相撲だ。そこからならどんな関節技にでも入れるとそのレスラーは絶対の自信を持っていた。


 紫村は自分の首に掛けられた相手の両腕の前腕部の俗に腕の三里と呼ばれる辺りに中指を掛けた。それだけでそのレスラーは顔をゆがめて痛みに耐えていた。


 更に紫村が指をもう少し押し込むと両手を放し有利な体勢にもかかわらず踵を浮かせて体を伸びあがらせていた。


 これは紫村が指で腕の経絡秘孔を突いたのだ。軽く指をあてがってる様にしか見えないが、それは強烈な痛みをレスラーに与えていた。


 今までの人生の中で経験した事のない様な痛みだった。もはや戦かえると言う様な状態ではなかった。そのレスラーはあっさりとギブアップした。そして紫村はベスト4に進んだ。


 次の相手、つまり準決勝の相手は傭兵だと言う事だった。武術家ではない。つまり殺しの専門家だと言う事だ。この相手が一体どの様な戦法で向って来るのか。


「兄弟、どう思うこの相手」

「無理でしょうね」

「無理とはどう言う事や」

「つまりあの男では紫村には勝てないと言う事です」


「しかし傭兵なら殺しは専門やろう」

「確かにその通りなんですがね、武器がない」

「武器?」

「そうです。戦士や傭兵と言う者は武器を持ってこそ最高の殺しが出来るのです」

「武器なしでは、根性だけは死線をくぐり抜けてますが技術が伴わないのです。相手が並みの人間なら素手でも殺せるでしょう。しかし相手が武術の達人ではどうでしょうかね」


 紫村は武術の達人だった。しかも武芸百般の達人だ。お稽古事の達人ではない。


 本当の殺し合いの中で腕を磨いて来た達人だ。その戦いは傭兵の戦場をも凌駕する。


 傭兵はともかく紫村を捉えて目を潰し、喉仏を圧して男の急所を蹴り潰し、首の骨を折って終わらせようとしていた。


 しかしその試みは全て紫村によって無効にされていた。ともかく紫村を捕まえる事が出来ないのだ。


 手を伸ばせばその肘は打ち砕かれ、足を出せばその膝関節も砕かれる。


 殆どダルマ状態にされた傭兵は野に立てられたカカシと同じだった。これもまた続行不可能と言う事で紫村の勝利に終わった。これで後残すは決勝戦のみになった。


 最後の相手は中国拳法の使い手だった。彼は最初から紫村の戦い方を見ていた。中国拳法でも本当に一部の者しか使えないと言う本物の寸勁をこの男は使った。


 それに経絡秘孔にも通じ点穴も完璧だ。これだけの男は中国武術界にもいないだろう思った。恐るべき男だと。


 もしこの男に弱点があるとするならそれは間合いだと思った。奴は近間の攻防を得意としている。それならまだ方法はある。


 そして彼が使った戦法は八極拳だった。強力な震脚を使った打撃で相手を倒してしまう。これしかないと言う会心の一打を放った。


 しかしその拳は紫村のて掌によって受け止められていた。いや、それだけではないその掌から強烈な波動が襲って来た。つ


 まりそれは発勁だった。その発勁は中国拳法の男の右腕を内部から完全に破壊した。試合はそこまでだった。これで紫村の優勝が確定した。


「しかし紫村の奴、本当に強いな」

「吉岡さん、これで本当に終わりなんですか。本選と言うのは」

「やっぱりわかったんか兄弟。これは本選言うても本当は中盤戦みたいなもんや。この後に最終戦と言うのがあるんや。本当のバケモノはそこにおるんや」


「やっぱりそうでしかた。弱過ぎると思いましたよ」

「しかし、この中盤戦まで勝ち進んだだけでもすごい事なんやで。これから先は普通の人間では無理なんやから」


 吉岡の話ではこの先に『四天王』と呼ばれる者達がいると言う。そしてその上に『闇の帝王』がいるのだと言った。


 ここから先は挑戦者の勝ち抜き戦になる。この4人の『四天王』を倒して初めて『闇の帝王』に挑戦出来るらしい。勿論ここで止めてもいい。


 それでも2000万と言う賞金がもらえる。普通はここでみんな止めるのだと吉岡は言った。何故なら死にたくないからだと。


「なぁ、兄弟。もうこれくらいにせえへんか。紫村の強い事はもうようわかったから」

「どうしてですか吉岡さん。もし『闇試合』に出たら何処まで行けるか見たみたいと言ったのはあなたではなかったのですか」


「そうや、確かにそう言うた。そやけどな、それはここまでの事やったんや。ここまでやってくれたらもう充分や。組を掛けた試合でも出て来るのは中盤戦の中ほど位の選手や。それ以上はおらんのや。まして『四天王』なんか夢のまた夢や」

「どうしてですか。それはやってみないとわからないでしょう」


「なぁ、兄弟。これはここだけの話にしてくれるか。わしもまだ詳しい事は知らんのやが、あの『四天王』と言うのは中国の裏社会の暗殺を専門にしてる奴ららしいんや。しかもやで今まで素手で何十人も殺して来たらしい。


 しかもやで古の世界に『闇』の一族と言うのがいたそうや。そいつらは一人一人が一騎当千で負け知らずの暗殺者やったらしい。


 ここにおる『四天王』や『闇の帝王』と言うのはその血を引いてると言う話なんや。そやからわしら並みの人間では勝てん相手なんや」


「『闇』の一族ですか。それは面白そうな話ですね。ただここから先に進むかどうかは紫村次第です。これは彼の意志で始めた試合ですので。今鳴海が確認に行きましたので少し待ってください」


「と言う事だそうです。どうします紫村君」

「正直な所、許せませんね」

「君もそう思いますか」

「当り前ですよ。俺達も舐められたもんですね。そんなクズと同じに見られるとは。やはりお灸をすえる必要があるでしょう」


「そうですね。では任せます。適当にやってください。私はセコンドとしてここに付きますので」

「わかりました」


 こうして紫村は『四天王』に挑戦する事になった。


「どうやら紫村は『四天王』に挑戦するようですよ」

「兄弟、止めさせる訳にはいかんのかいな」

「無理でしょうね。鳴海も紫村のセコンドに付きましたので」

「おいおい、ほんまかいな。お前らなーどんだけ命知らずなんや」


「おい、あいつ俺達に挑戦するみたいだぞ」

「ほーそれは珍しい。一体何年振りだ、俺達に挑戦する者なんて」


「ところであいつ、俺達の事を知ってるのか」

「多分知らんのだろう。そうでなければ挑戦しようなんて気にはならんだろうからな」

「そうだな、では適当に遊んで殺してやるか」

「そうだな」


 そしていよいよ最終戦となった。観客は沸きに沸いた。それはそうだろう。こんな挑戦はもう何年振りになるか。絶えて久しいものだった。


 それだけ『四天王』の力が強過ぎたのだ。『四天王』の第4席ですら倒せた人間は今までに誰一人としていなかった。


 ましてその上の第三席、第二席、第一席の『四天王』など引き出せる者がいようはずがなかったのだから。


紫村はまず第四席の『四天王』の「周」と対峙した。体格は中肉中背と言った所だった。


 服は上半身は伸縮性のあるニットの様な体にピッタリフィットした物を身につけていた。


外観から見る限り、筋肉質ではなく、むしろほっそりとした感じだった。筋肉もあるのかないのかわからない位だった。


 しかし紫村はその体に張り付く様に鍛え上げられた柔軟性の高い筋肉を見て取った。


「あんたが『四天王』さんかい」

「ああ、そうだ。俺が『四天王』の一人「「周」だ」

「ところでよ、あんた達って『闇』の一族って言うのは本当なのか」

「ほーその話、誰から聞いた」

「噂だよ、噂」


「それが噂かどうかは、お前の体で知る事になるだろうぜ」

「『闇』の一族ってそんなに強いのかい」

「俺達はお前達の想像を絶した所にいる者だ。ようくこの名を刻んであの世に行くがいい」

「そうかい、それはまた結構な事だな。ではお前の名前、憶えておいてやるよ」


 そう言って紫村は無造作にその「周」に向って歩いて行った。紫村が自分の間合いに入ったと見ると「周」は腕をまるでゴムの様にしならせて左右から打ち当てて来た。それも拳ではなく平手で。


 何の変哲もないただのビンタの様な打ち方だったが紫村は受けずにそれをかわした。


 別に当てられても大した事のない様な平手打ちだった。しかし紫村は敢えてそれを避けた。恐らく紫村の心の声がそうしろと言っていたのだろう。


 次の打撃に対して紫村は自らの掌でそれを受けてみた。その瞬間紫村の手が弾かれた。そしてその手には衝撃があった。


「ほー鞭打か。面白い打ち方をするんだな」


 鞭打と言うのは腕や足を鞭の様にしならせて打つ技だ。しかもこれは体の表面にある痛覚を直撃するので物凄く痛い。


 この打を食らうと余りの痛さに戦意を失ってしまう。しかも受けに行けばその部分に絡みつき同じ打を受ける事になる。実に厄介な打撃だ。


しかもこの男の鞭打はただの鞭打ではなかった。その鞭打に勁を乗せて打って来ている。


 こうなればもはや打などと言う単純なものではない。一撃で接触した部位を破壊する殺人技だ。


 なるほど『四天王』と呼ばれるだけの事はあるなと紫村は思った。しかし紫村の手には何のダメージもなかった。衝撃は一瞬で回復していた。


「よくわかったな。俺の打撃が鞭打だと。しかしただの鞭打ではないぞ」

「わかってるさ。お前、それに勁を乗せて打ってるだろう」

「ほーそこまでわかるのか。ではお前に回避は不可能だとわかるだろう」

「さーそれはどうかな。面白い技だからもう一回打ってみろよ。みんな無効化してやるよ」


 そう言われて頭に来たのか、「周」は鞭打を怒涛の如く打って打って打ちまくった。


 しかし紫村はその悉くを掌で打ち返していた。本来ならそんな事をすれば掌が壊れてしまうはずだった。しかし壊れ出したのは「周」の手の平の方だった。


 「周」は余りの痛さに動きを止めてしまった。


「何故だ。何故俺の鞭打が効かない」

「そんなガキの鞭打で大人を倒せるとでも思ったか。もう一度一から修行をやり直すんだな。もし生きていればの話だがな」

「なに。俺の鞭打がガキの鞭打だと」

「それ位の鞭打ならガキでもするぜ。俺達の世界ではな」

「何?お前達の世界だと」

「そうだ。お前の知らない世界もあるって事だ」


 そう言った時紫村の掌が「周」の胸にあてがわれていた。そして紫村の寸勁が炸裂した。「周」は試合場の端まで吹き飛ばされて意識を失った。


 担架で担ぎ出されたが果たして意識が戻るかどうかは疑問だった。


『これで一人片付いたか』紫村はそう呟いた。

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