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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第九部
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第三話 闇試合

やくざ同士の揉め事の決着の付け方の一つに闇試合と言うのがあると言う。

吉岡がその闇試合に天堂を誘った。

 天堂が黄埼や紫村を格闘インストラクターとして派遣してから暫くが経った。金森の所や吉岡の所でもそれなりに指導の成果が上がって腕を上げた者達が出始めて来た。


 特に金森の所は元から精鋭部隊の育成に余念がなかっただけに素材がいい。基礎的な訓練もそれなりに出来ているので上達も早かった。


 だからと言って吉岡の所がだめだと言うのではない。ここも京都では武闘派で知られた組だ。だから他所の組に比べたら良い素材が揃っていた。


 しかしながら素材と言う面ではやはり金森の所だろう。しかし指導者の観点から見れば吉岡の所に送られた紫村の方が格闘の指導には適していた。


 ただしこと戦いと言う事に関しては黄埼も柴村も互角の腕を持っている。要するに殺し合いをやればどっちが勝ってもおかしくはないと言う事だ。


 もし違いがあるとすればそれは戦場の違いだろう。黄埼は自然が戦場だ。それに対して紫村は闘技場や一定空間が戦場と言う事になる。しかしどちらも卓越した殺しのテクニックを持ってる事に変わりはない。


 ただ戦う場所に違いがあると言うだけの事だった。だから普通の人間、特に限られた格闘と言う戦場においては紫村の方に幾分の利があるかもしれない。


 そしてそれは双方の組の在り方に良く合っていた。丹波の金森の所は自然要塞だ。それに対して京都の吉岡は町場が戦場だ。


 そして双方にとって、いや、やくざと言うものが暴力への崇拝者だ。暴力を生業として成り立っている。


 確かに最近は力よりも金だと言う者も増えた。しかし最終的に決着をつけるとなるとやはり腕力と言う事になる。


 だからそう言う者達にとって強いと言う事は憧れの対象以外の何物でもない。まして自分達が何をどうしようが手も足も出ないと言う存在は神にも等しい。


 そう言う存在が今二人いる。丹波の金森の所の黄埼と京都の吉岡の所の紫村だ。


 彼らはもはや単なるインストラクターではなかった。力の崇拝の対象であり、忠誠を誓う相手なのだ。


 そしてその二人を、いや彼ら以外にも闘神を抱える天堂組と言うのはもはや暴力の聖地になっていた。


 自分達の親分と天堂組長とは兄弟分だ。しかし彼らに取って天堂は憧れの師匠筋の最高峰だった。


 始めは天堂の事を経済やくざと軽んじていた彼らも今や天堂を見る目が変わっていた。それはまさに武の宗家であり、暴力の宗家を見る目だった。


 そんな時、京都の吉岡が意気揚々と天堂の所にやって来た。


「どうしたんです今日は、吉岡さん」

「兄弟、兄弟は『闇試合』と言うのを知ってるか?」

「『闇試合』ですか。知りませんが」


「それはな、一種の賭け試合なんや。勿論公で行われる試合とは違う。あくまで闇で非合法で行われる試合や。それにな、時にはそれに組同士の決着を賭ける時もあるんや」

「組同士の決着ですか」


「そうや、ドンパチやったら死人がでるだけやろう。どっちに取っても得な事は何にもない。そこでお互いの選手を出しおうて試合をさせる。そんで勝った方が戦争の勝利者になると言う訳や」

「なるほど、確かにその方が合理的ですね」


「せやろ。せやからその選手の選定はものすごう重要なんや。なんせ組の未来がかかってる訳やからな」

「でしょうね」


「そう言う試合が今度あるんや。どうや見にいかへんか」

「そう言うのは見れるのですか」

「ああ、組関係者は招待される。みんなに見てもらう事で後々のもめ事を回避する為や」

「なるほどね。そう言う目的もあるのですか」


「そんでそれ以外の目的は賭けや。そこでは物凄い金が動くんや」

「だから非合法だと」

「そうや」


「それにここだけの話やけどな。その中には国会議員のお偉いさんや、国の中枢におる者かて賭けに参加しとるそうや。そやからこれが摘発される事はないんや」

「腐った国の象徴みたいなものですね」

「まぁ、そういいなや兄弟。そやけどわしらには有難い話や。無駄に組員達を死なせんですむ」

「確かにそれはそうですね」


 と言う事で吉岡と頭の田崎と天堂と鳴海、それと今回は吉岡が是非にと言って紫村を連れて行った。


 その場所はとある展示会場の地下にあった。そしてその場所はいつも移動するのだそうだ。だから見つけ難いと言われている。


 勿論これを管理している者達がいる。彼らの手によってこう言うものが運営されているのだがその正体ははっきりしないそうだ。


 その闘技場は熱気に噎せ返っていた。地下と言う事もあるのかも知れないが、それだけではこの熱気は説明がつかないだろう。


 要するにみんな血と金に飢えていると言ってもいいのかも知れない。


 ここでの試合方式は勿論無制限だ。ただし武器の使用だけは禁止されている。


 相手を殺しても誰も文句はいわない。相手が戦闘不能になるか敗北を宣言するまで試合は続けられる。


 勝利者のみが正義。それがここでのルールだ。


 試合は始まった。序盤戦から熱戦が繰り広げられていた。それはそうだろう。


 ここでは前座の試合とは言え、表の世界ではチャンピオン・クラスが闘うのだ。当然熱も帯びる。


 「どうだ紫村」と天堂が訪ねた。

「そうですね、序盤としてはこんなものでしょう。ただし奥にいる奴らから比べたら前座も良い所でしょうが」

「確かにそうだな」


「どう言う事や兄弟。あいつらはムエタイとシュートのチャンピオン同士やぞ」

「表の世界ではそうかも知れませんが、ここにいる奥の奴らから比べたら子供みたいなものだと言う事です」


「そんなに凄い奴らが奥におると言うんか」

「そうでうすね。少なくとも普通の人の感覚では」

「そ、そしたらどうなんや、この紫村と比べたら」

「まぁ、問題にはならないでしょう」

「それはこの紫村の方が強いと言う事か」


 「当然です」と鳴海が付け加えた。

「そうなんか。そうか・・・」


 と吉岡は何かを考えているようだった。


 試合は序盤戦が終わり中盤戦に入る前に一つの特別マッチが組まれていた。それが吉岡の言う組の命運を掛けた試合なんだろう。


 組の名前は明かされなかったが組関係の者には一目瞭然だった。それは元プロボクサーとプロのゴロマキ(喧嘩屋)との対戦だった。


 最初は元プロボクサーの方が有利に見えたが、そこは現役でない悲しさだった。相手のタフさの前にやがて体力を消耗して来た元プロボクサーがボコボコにされ始めた。


 特に蹴りに対する防御が弱かった。これがまだ現役に近い時点でならそんな攻撃を食らう前にハードパンチで決着をつけられていたかも知れないが、やはり不摂生が祟ったと言う事だろう。と言う事でゴロマキを擁した組が勝利を収めた。


 そして会場の一角で歓声が上がっていた。敗れた方は肩をいからせて憤慨し、相手方を睨みつけていたがこれが取り決めだ。


 どうする事も出来ず引き下がって行った。ある意味ではこれで良かったのだろう。これで流血を見る事もないのだから。


 その後に休憩時間になった。この間にもどうやら多くの金が動いた様だった。会場のあちこちで歓声やらため息が交錯していた。


 その時、一つのアナウンスが響き割った。

「ご来場の皆様、またまたいつものエンターテイメントマッチの時間がやって参りました。ご自分の腕に自信のある方はどしどしご参加ください。貴方の将来がこれによって開けるかも知れません。賞金も望みのままです」


「吉岡さんこれは?」

「本来は各地の予選を勝ち抜いて来んとこの本選には出場出来んのやけどな、このエンターテイメントマッチで勝てば本選の出場権が手に入るんや。それで一気にトップまで上り詰めた奴が一人おるんや。そいつは今でもトップに君臨しとる。『闇の帝王』と呼ばれてな」


「『闇の帝王』ですか面白そうな名前ですね」

「どうや紫村、お前やってみいひんか。実はなお前の名前をもう登録しといたんや。やるかやらんかはお前次第やけどな」

「社長」

「お前次第だ、好きにしろ」

「わかりました。では一つ遊ばせてもらいます」


 そう言っては紫村は試合場に降りて行った。


「吉岡さん、始めからこれを狙っていたでしょう」

「いや、そう言う訳やないんやがな、あんまりうちの奴らが紫村は桁外れに強いと言うもんやから、もし『闇試合』に出たら何処まで行けるかと思うてな」


「で、この試合の方法はどうなってるんですか」

「これはバトルロイヤルなんや。これに勝ち残った一人だけが本選の出場権を得られると言う訳や」

「バトルロイヤルですか。まぁ、それなら問題はないでしょう」


 そうこう言っている内に試合場に8人の挑戦者達が立ち並んでいた。彼ら8人によってバトルロイヤルが繰り広げられる事になる。その中に紫村もいた。


 しかし不思議な事に序盤戦では誰も顔を見せなった中の闘士達が入り口の通路から試合場を眺めていた。


「吉岡さん、あれは?」

「さっき言うた様に、このエンタテイメントマッチで出て来た奴が今の帝王や。そやからまたそんな奴が出て来るかも知れんので、このマッチだけはあいつらも見るんや」

「なるほどそう言う事ですか。それは正解かもしれませんね」


 そしてバトルロイヤルが開始された。8人入り乱れての戦いと思いきや、何人かが組になって一人の者を襲うと言う形になっていた。


「なるほど自分達の力を温存したいと言う事ですか。弱そうな者を先にみんなで倒しておいて最後に必要な者と戦うと言う作戦ですね。色々と考えるものですね」 


「そうや鳴海、最近はこう言う闘い方で自分を有利に導こうと言う奴が多いようや」

「それではダメですね」

「ダメとは?」

「つまりそう言う者は本当の強者ではないと言う事です」


 このバトルロイヤルが始まった時から腕組みをして見ていた紫村の所に4人が襲い掛かった。


 紫村を弱いと見てまず紫村を潰しにかかったのだろう。紫村はそれを一人一人捌いて倒していた。


「やっぱり紫村は強いのー」

「紫村の奴、遊びが過ぎますね」

「どう言うこっちゃ、鳴海」

「紫村はまだ何もしてないと言う事です」

「何もしてないって、あれだけ相手を倒しとるやないか」

「そうか、そう言う事ですか」

「だな」


「兄弟、どう言う事やねん」

「多分紫村は、あそこで見てる連中に合わせてるんじゃないかと思いますよ」

「あそこって、あの入り口の所で見てる本選の連中の事か」


「ええ、そうです。彼らと同じか、もしくは少し強い程度で相手を倒してるんでしょう。そうすれば意識はするでしょうが過剰反応はしませんからね」

「あいつ等よりちょっと強い程度って、そんな事が出来るんか」

「ええ、紫村なら出来ます」


 そしてバトルロイヤルは紫村が最後まで残ってその出場権を得た。


「おい、どう見る。今回の奴」

「そうだな。特別と言うほどじゃないがそこそこにはやるじゃないか」

「そうだな。あいつとなら面白い試合が出来そうだな。お前負けるなよ」

「お前こそ気をつけろよ」


 そんな会話が彼らの間で交わされていた。


 ただこの会場には上部に特殊ガラスで覆われた特別席があった。外からは中に誰がいるのか見る事が出来ない。勿論それはそう言う立場の来賓の為の特別席だ。


 しかしもう一つ、この闘技場の選手の特別室と言うのがあった。それは『四天王』と呼ばれる者達の席だった。


 『四天王』、それは『闇の帝王』を除いてこの『闇試合』に君臨する4人の男達だった。この4人は過去15年間一度も負けた事がないと言う。


「周よ、あの男どうだ」

「面白そうな男だな」

「そうだな、まだ実力を出してない」

「そうだな。恐らくは中盤戦の決勝辺りまでは上がって来るんではないかな」

「お前もそう思うか」

「ああ」


「もしかするとお前の前に現れるかも知れんな」

「それはそれで面白い。我々の前に挑戦者が現われるなんて随分久し振りだからな」

「そうだな。では楽しみにしていようか」


 特別室の中でそんな会話が交わされていようとは天堂達も知る由もなかった。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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