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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第九部
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第二話 詐欺師

天堂は傭兵との戦争が終わり、

金森と吉岡にそれぞれ黄崎と紫村が格闘術の指導に行く事になった。

それはそれでいい。

ただ天堂は古美術商の集まりで最近同業者が詐欺に会っていると言う話を聞いた。

 金森は前回の闘いで1/4に当たる175人ほどを失った。それはかなりの痛手だ。


 しかしそれでも地盤を揺るがすほどのものではなかった。それだけ確固たる地盤がまだあると言う事だ。


 しかし金森自身も今のままではいけないと考えていた。確かに前回の敵は規格外だったかも知れない。


 しかしそれでも天堂は勝った。そしてその前の時も金森の手の者では勝てなかったが天堂の手の者は勝った。


 一体何処が違うのかと考えていた。それはずば抜けた戦闘能力の差だ。


 こればっかりは一朝一夕でどうこうなるものではないがそれでも絶え間ない努力で詰めて行く事は出来るだろう。


 そしてその為には優秀な戦闘のインストラクターが必要だと思った。そんなインストラクターが何処にいる。いるではないか。ずば抜けた戦闘のインストラクターが身近に。


 そう思うと居てもたってもいられず金森は大阪の天堂商会に出かけた。


「兄弟おるかー」

「何ですか金森さん、朝っぱらから」

「いや、悪い、悪い。実はな、話があるんや」

「話とは?」


「悪いがのー、兄弟のとこの幹部の一人貸してもらえんかの」

「貸すってなんですか」

「いや、インストラクター言うやつや」

「インストラクターですか」


「そうや、うちの連中鍛えて欲しいんや。いや金は出すで」

「出張指導ですか」

「そうや兄弟、悪い話やないやろう」

「社長、面白いかもしれませんね」

「そやろう、なっ、頼むわ」

「で、誰を」

「そらやっぱり黄埼やろう」

「まぁ、そちらには縁がありますからね」


「ただこちらにも都合がありますので毎日と言う訳には行きませんが」

「そやな、どや、週3日で」

「週2日ですね。でないとそちらの体が持ちません」

「そうか、そうかも知れんな。よしわかった。週2日で手打とう」


 こうして黄崎が週2回、金森の組員達に格闘術の指導に行く事になった。それを聞きつけた吉岡がそれならうちもと天堂に頼み込み、こちらも紫村(紫龍)を週2回送る事になった。


 金森の所では黄崎の実力は既に衆知の事実なので誰も文句は言わなかったが、吉岡では初めての事なので戸惑いがあった。


 ただ一人義男を除いては。義男は嫌と言うほど天堂の強さを見知っていた。だからその天堂の幹部なら強いだろうと想像がついた。


 しかし他の組員に取って天堂と言うのは頭は切れるが所詮は経済やくざだと言う認識があった。だからそこから回されてきた指導員と言われてもどうかと言う感じでしかなかった。


 そこで紫村が最初にやった事は、吉岡の所の腕自慢を100人集めて100人組手をやったのだ。一応手にはオープンフィンガーのグローブをつけてそれだけで後は何でもあり。


 つまり喧嘩だ。目突き、金的、髪の毛掴み、噛みつきもありとした。当然投げも絞め技もありだ。


 これで一人1分かかったとしても1時間半以上はかかる事になる。しかし紫村はこれをたったの10分で終わらせた。


 つまり一人6秒で倒したと言う事だ。それを100人。これはもうバケモノのレベルだ。


 これには義男ですら度肝を抜かれた。天堂組には一体どれだけのバケモノがいるのかと。


 この頃になってようやく吉岡も、何故天堂組がたった9人しかいないのに一本どっこでやって行けるのかと言う理由がわかった気がした。天堂組はとんでもない特別だったと言う事だ。


 天堂は黄崎を丹波の金森の所に、紫村を京都の吉岡の所にそれぞれの格闘インストラクター、つまり指導員として送り込み、その地位を確固たるものにしていた。


 そして黄埼と紫村のトレーニングは熾烈を極めた。ただしそれは指導を受けているやくざ達の事であって、黄崎達にしてみれば生ぬるい修行でしかないと思っていた。


 しかしそれでも日を重ねる毎にそれなりには進歩をしていた。元々暴力の世界に住んでる者達だ少なくとも覚悟だけはある。


 ただ黄崎達に言わせれば無謀で無意味な覚悟と言う事になるのだが、それを技を通して有効な覚悟へと修正してやった。


 その頃になって来ると吉岡の所の紫村の評価も当然変わっていた。彼らの立場は昔で言えば用心棒の先生のようなものかもしれない。


 ただし用心棒は指導などはしないが。力を生業とするやくざ達に取って自分達を上回る力の持ち主には従う。


 それが彼ら黄崎や紫村であるならその親元、つまり天堂組は彼らにとっての師匠筋の様なものだった。


 そして大阪のやくざ組織においても天堂の地位は盤石だった。今や天堂に逆らおうと言う極道組織は大阪には何処にもなかった。たった9人しかいないこの小さな組にだ。


 そしてそれはそれだけではなかった、日本最大と言われる神戸の山河会でも四天王の二人が死に組は解散となった。これは山河会に取っても大きな痛手だった。


 四天王で残ったのは米倉組組長と耶蘇組組長だけだ。勿論この空いた四天王の席もやがては誰かによって埋められるだろうが、今の所はまだこの二つの組に匹敵するような組は現われてはいなかった。


 そしてその米倉も耶蘇も天堂の恐ろしさは骨身にしみて知っていた。だから彼らが天堂に戦いを挑む事はないだろう。例え山河会の方針がそうなったとしてもだ。


 この日天堂は古美術商の集まりで神戸に来ていた。会場は神戸ポートタワーのすぐ横にあるホテル・神戸マリーナと言う所だった。


 会は盛会で各地から有名な画商や古美術商が集まっていた。そんな中でもやはり天堂商会は群を抜いて業界の最高峰を保っていた。その質と金額において追従を許さなかった。


 会場には即興展示会と販売も兼ねて数々の古美術品が展示されていた。ここで商売をする者も当然いた。


 特に天堂の所には各地から知己を得ようと集まって来る者も多かった。そう言う者達の代表格の誘いで会が引けた後夜の神戸の町に繰り出して、一軒のクラブに入った。


 そこはクラブ「ハーバー」と言う名だった。神戸らしい名だ。


 店としてはまだ出来て新しいクラブだった。だからクラブとしての重厚さはなかったがその分若々しさがあった。


 そのクラブで古美術商としては重鎮と言われる3人のオーナー達と酒を酌み交わしていた。



「ところで天堂はん、あの『クリスの涙』と言われる水晶の落札は流石でしたね。あれにはわしも手が出んかった。あの値段ではな」

「そうでしたな、何しろ15億や。あれはちょっと無理でしたわ」


「しかし天堂はんはあれを転売しはったんでしょう。確か18億やったかな。大したもんやな3億の利益ですか。ようあんな買い手が見つかりましたな」

「あれはたまたまですよ」

「たまたまなー。しかし大したもんや」


「ところでしったはりますか、川西堂さんの話やけど」

「川西堂さんがどうかしたのですか」

「そうやそうや、川西堂さん、詐欺にあいはったとか」

「詐欺ですか。またどの様な」


「何でも陶器の鑑定士や言う者に鑑定頼んだら持ち逃げされはったそうですよ」

「それがまた値の張る陶器で2,000万は下らんとか」

「そう言うたら最近そう言う話をよう聞きますな」

「みんな鑑定士絡みですか」

「ええ、そうです。そやからわたしらも気をつけんとあかんなと言うとったんですわ」


「しかし皆さんもまた川西堂さんもそれなりの鑑定眼はお持ちでしょう。なのにどうして」

「そこなんですわ、何でも分かりにくい傷が見つかったかとか、または色むらがあるとか言われて、見てみると確かにそう言うのがあったそうなんです。それで再鑑定しようと言う事で頼んだら持って行かれたとか」

「ほー欠陥ですか」


「そうなんです。傷物や欠陥品やとか言われたら商売になりませんからね」

「まぁ、そうですが、そんなもの始めに見ればわかるでしょう」

「ところが始めはそんな物はなかったと言うんですわ」

「それが鑑定士が見たらあったと言う訳ですか」

「そうなんです」

「おかしな話ですね」

「まったくですわ」


 天堂は何かそこにトリックがあったんではないかと考えていた。


 そんな話をしている時に一組の客が入って来た。中央には貫禄のある人間が数人を引き連れていた。見るからにその筋の人間だとわかる。


その人物が天堂達を見つけて、

「これはこれは古美術の大御所さん達やないですか」

「これは越村の親分さん、ご無沙汰しております」

「そっちのお若い人は初めてやが何方さんですかいな」

「ああ、こちらは大阪で古美術商やってはる天堂さん言うんですわ」

「大阪の天堂商会の天堂です」


「そうかいな。ほな一つ頼みがあるんやが、うちの事務所に置く大きめの壺を一つ探して欲しんやが出来るか」

「壺ですか。お幾ら位のもので」

「そうやのー2,000-3,000万と言うとこかな」

「わかりました。今度事務所を拝見させて頂いて検討させていただきます」

「ほな、よろしゅう頼むわ」


 そう言って越村達は奥の部屋に消えて行った。


「あの人は?」

「天堂さん、あの人はここから東の明石の方を地盤にしてる越村組の組長さんですわ。陶器が趣味とかでようわしらのとこにも注文にきやはります」

「それで買って行くのですか」

「それが・・」


「何か知らんけど、よう問題が起こるんですわ。収めた品物に傷があるとかどうとかで弁償金払わされたと言う話もよう聞きますしね」

「傷ですか」


 それからしばらくして天堂は明石の越村組の組事務所に行き、設置する場所と周りの状況を確認して、その場に合う壺を検討した。


 天堂の手持ちの中でそれに合いそうなものが一つあった。それは明時代の大壺で、値段は3500万と言うものだった。


 最近では天堂も値段の幅を柔軟にしていたので千万円台の品物も扱っていた。


 値は上限を少し超えたがその写真を越村に見せた所、気に入ったと言う事で納品と言う事になった。


 天堂は納品を済ませ代金は現金で受け取った。それから2日後、越村から、「お前は傷物を売るのか」と言うクレームの電話が入った。


「わかりました。ではこれから伺わせていただきます」と返事をして鳴海を伴って越村組の組事務所を訪ねた。


 そして壺を調べて見ると確かに細い傷が縦30センチに渡って付いていた。勿論そんなものは納品時にはなかったものだ。


 だからこの2日間で付いた事になる。しかしそれにしても見事な手際だと天堂は思った。


実はその傷は作られたものだった。見た目には本当の傷の様に見えるが実際には何処にも傷はない。一種のクリア素材による目の錯覚を利用して作られた物だった。


 しかしそれは余りにも精妙な物でプロでも誤魔化されてしまう物だった。勿論天堂はそれを看破していた。


 越村は当然の様に「どうしてくれるんじゃ」と居直った。「何がお望みでしょうか」と言う天堂の問いに、全額の代金の返済と迷惑料と口止め料を含めて同額を支払えと言うものだった。


 そしてこんな欠陥品をお前にとこに置いておくと信用に関わるだろうから、こちらで処分しておくからここに置いておけと言った。


 そこで天堂は「この壺は納品時にご確認願って受取書にサインを頂いておりますので、その後の事故については当店は感知しない事になっております」


 と言って納品時の壺の周りの写真を見せた。勿論そこにはどんな傷もついてはいなかった。


「なんやと、われ、クズを掴ませておいて白を切ろう言うんかい。このわしを相手にええ度胸しとるやないか」そう言って凄み、周りの組員達も天堂達を取り囲んで威圧した。


「ではこういたしましょう。この壺を科学鑑定に出させていただきます。そこでこの傷が間違いないものであればそちらの要求は全て飲ませていただくと言う事でいかがでしょうか」


「何やと、科学鑑定やと。それはどう言う意味じゃ」

「私はこの傷は後から付けられたものだと思っています。いえ、傷自体存在しないものだと思っておりますので科学鑑定をすれば一目瞭然になると思いますので」


「何やとわれ、わしがいかさまをやったとでも言うんか。われ、誰にもの言うとるのかわかっとんのか」

「一々うるせーんだよ。もうネタは割れてるんだ。こんな真似して荒稼ぎかい。情けねーな。一家を構える長たる者がよ。賭場のいかさまで稼ぐのと同じじゃねーか」

「何やとわれ、死にたいんか」


 そう言った時鳴海が天堂に電話を差し出した。そしてこう言った。「相手が出ました」と。


「米倉さん。越村って確かあなたの舎弟ですよね。今俺にあやを付けて来てるんですがどうします。このままにしますか」

「あなたに代われって事です。あなたの兄貴分からですよ」


 そう言って天堂は携帯を越村に渡した。越村は米倉の言う事を聞いていたがやがて顔が青ざめてきた。何を言われたのかは知らないがかなりの事を言われたんだろう。


「で、どうするよ。越村さん」

「いえ、今回の事はなかった事に」

「それで済む話じゃないだろう。この落とし前、どうつけてくれるんだよ」

「いえ、では迷惑料でも支払わせていただきます」

「いらねーよ、そんなもの。その代わりこの職人の事を教えろよ」

「職人と言うと」


「最近あちこちで同じような事をして俺の同業者から商品掠め取ってる奴の事だよ。この傷だってそいつの仕業だろう」

「しかしそれは」

「そうかい、ならあんたとあんたの兄貴分との関係がこの先どうなっても知らねーからな」


 米倉と兄弟分と言ってもその差は天と地ほどの開きがあった。流石は山河会四天王の一人と言う所か。


「わかりました」


 そう言って越村はその詐欺師、工藤洋平に関する情報を全て天堂に渡した。そして天堂は二度と自分の同業者に手を出したら承知しないぞと釘をさしたおいた。


 そして鳴海に、「やっていいぞ」と言った。鳴海は左の中指を壺の横っ腹に当ててトンと軽く一突きした。


 それはもうちょっと触ったと言う感じのものだった。しかしそれだけで壺は粉々に砕け散った。


 それは寸勁に似た技だった。しかし達人の寸勁ですらここまでのレベルはないだろう。


「こちらもこんなけちのついた壺はもういりませんので、そちらで処分しておいてください」


 この明言は凄い。300万以上もするものをいとも簡単に破棄出来る度胸とは一体どんなものなのか。


 更にはこの壺は動かすのですら大の男が二人はいる。それを軽く指を触れただけで粉々にするなど想像外だ。それを見た組員達は震えていた。


 その後、似たような詐欺事件は一件も起こってはいない。その詐欺師は天堂達の手によって処分されたと言う事だろう。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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