第五話 影の第二部隊壊滅
赤城こと紅龍と紫龍は暴走族グレーン・ファイヤーズの後ろに潜む『フォーグル』と戦う事になった。
「何!23号と25号がやられただと。どう言う事だ」
そう言ったのは『フォーグル』の影の第二部隊を率いるワーゲル大佐だった。
「はい、どうやら古野目を装って現れた二人によって倒された模様です。それで21号が彼らが捕虜にされる前に射殺しました」
「そうかわかった。しかしあいつら二人が倒されるとはどんな奴らだ」
「一人は大柄な男だと言ってましたので、多分今回の暴走族を率いていた男かと」
「もう一人は?」
「それはわかりません。今回初めて見る男だそうです」
「そんな男達がいると言うのか。世の中は広いと言う事か。面白いではないか」
「いかがいたしましょうか」
「そいつらは今はいい。ともかく『ギルガ』達の行方を探せ」
「わかりました」
部下が去った後、ワーゲルはこんな事を言っていた。
『そろそろだろうな。どんな強力な麻酔と言えども今日で2日目だ。もうそろそろその効き目も切れる頃だろう。そうなれば奴らの居場所もわかると言うものだ』
その頃「SCU」の分室では、
「どうだ奴らの様子は」
「そうですね。そろそろ麻酔が切れます」
「そうか。では本格的な尋問と人体解剖及び分析と行こうか」
人体解剖及と分析とは一体どういう事なのか。つまり彼らに取ってこのゾンビ部隊は人間とは見なしていないと言う事なのだろう。要するに人類に害する物。そう言う認識だと言う事だ。
しかしそれは「フォーグル」でも同じ事だった。要するにそれらは薬の効果による人体実験の産物でしかなかったのだ。
だから彼らの体の中には発信機が埋め込まれていた。意識を取り戻しあるレベルの活性状態になると発動する位置情報発信機能のあるミクロン素子が埋め込まれていたのだ。そしてそれは発動した。
「おい、みんな『ギルガ』達が囚われている場所が分かったぞ。これから『ギルガ』奪還と共に奴ら『SCU』の壊滅作戦を開始する」
赤城達の知らない所で新たな戦いが開始されていた。それは壮絶なものだった。共に人を超えた者達の戦いだった。「ギルガ」と言うゾンビ兵士を創り上げた世界の武器商人対政府の裏組織の人間達の戦いだ。
高坂は特殊な薬を使う事でほぼそれらゾンビと同等の力を引き出す事が出来る。その上に彼自身の身体能力が上乗せされればゾンビと言えども敵ではなかった。
しかしその力を持ってしても影の第二部隊を率いるワーゲル大佐の部下達の身体能力は高坂を凌駕するほどのものがあった。
高坂の上司に当たる重野は銃の名手だ。しかし敵の21号と言うのもまた射撃においては重野に勝るとも劣らない腕の持ち主だった。
双方ともに拮抗した戦いの様に見えた。しかしここで戦力差が出た。「SCU」の実働部隊はこの分室では指揮官を除いて4人しかいなかった。
確かに『ギルガ』捕獲に使った射撃手達はいるが、彼らはここの特殊要員ではなかったので普通の戦闘力しか持っていなかった。それに対してワーゲル大佐の部下は二人を失くしたとは言えまだ8人いる。この戦力差は大きい。
更には目覚めたゾンビ達が暴動を起こした。隔離し厳重に拘束していたはずの拘束衣がワーゲン大佐の部下の手によって解放されたのだ。それによって普通の警備隊は続々と葬り去られていった。
中心となる4対8の戦いは流石にきつい。彼らの分室は破壊され、彼らSCUのメンバーも命辛々逃げざるを得なかった。その中で指揮官を含めた二人のメンバーを失くした。生き残ったのは重野と高坂だけだった。
今回の「SCU」の作戦は大失敗だった。これは東京の本部に報告して新たな指示を仰がなければならなかった。
しかしそこで重野は考えた。このままではこちらは全滅だ。東京の特Aの特殊部隊が来れば話は別だが、今のままではどうにもならない。
奴らは強過ぎる。しかしあいつならどうだと。高坂を倒したあいつなら奴らに太刀打ち出来るんではないかと思った。
確かに今の状況は良くない。あの赤城とも一種の敵対関係にある。しかしもしあいつもこの町の、いや日本の平和を思う気持ちがあるのなら話せばわかるのではないかと思った。
その為にはこちらは頭を下げないといけないだろう。彼の仲間を撃った謝罪はしなければならないだろう。しかし彼をおいて今奴ら「フォーグル」に対抗出来る者はいないと。
重野はその事を高坂に話した。高坂も基本的には賛成だった。彼自身の自尊心を除いては。しかし今はそんな事を言っている時ではなかった。
早くしないと彼らはまた姿を消してしまう。しかし今ならまだ間に合う。そう間に合うのだ。
赤城達も今回はここまでだと思っていた。「ギルガ」の行方もわからないし、また彼ら「SCU」のアジトもわからないではどうしようもなかった。
少なくとも八野井の兄一家を襲撃した影の張本人は見つけ出し、麻薬の販売ルートも叩いた。
まぁ、今回はこんなものだろと赤城達はメイランナーズに別れを告げて、後ろに柴村を乗せて大阪の事務所に帰ろうとしていた。
その時その二人が現われた。
「確か、赤城さんだったよな」
「あんたらか。今更何の用だい。もう俺達に用はないはずだろう。それともまたリターンマッチでもやろうと言うのかい」
「いや、そうじゃないんだ。あんたに相談したい事がある。いや、お願いしたい事があるんだが聞いてもらえるだろうか」
「お願いだって。あれだけの事をやっておいてか。俺の肩を撃ち、何人の人間を殺そうとしたのかあんたわかってるのか。それが政府の人間のやる事かい。やくざ以下じゃないのか」
「やはり俺達の事を知っていたのか」
「ああ、知ってるよ。あんたら『SCU』とか言う組織の人間だろう。裏方だとは聞いてるがよ、それでも政府関係者だろうが。一般国民を殺していい政府関係者なんてあっていいのか」
「それに関しては弁解の仕様もない。もし俺の命で許してもらえるなら許して欲しい。この通りだ」
重野は赤城の前で正座をし、拳銃のグリップの赤城の方に向けて地面に置き頭を下げた。必要ならこれで俺を殺してくれても構わないと言う事だろう。
「あんたも酷な事をするよな。これで俺があんたを殺したら、今度は俺が刑務所行きじゃないか。出来ないと承知でこんな事やってるのかい。策が過ぎるぜ。じゃーな」
「ま、待ってくれ。それじゃー一つだけ話を聞いてくれ。ここに発信機がある。これは俺達があの『ギルガ』達を捕まえた時に取り付けたものだ。残念ながら奴らは『フォーグル』達の手で奪還されてしまった。
しかしこの発信機はまだ有効だ。これを辿れば奴らのアジトに辿り着けると思う。これを渡すから好きな様に使ってくれ。嫌なら川に捨ててくれても構わない。あんたの判断に任す。俺に出来る事はこれだけだ。すまん」
そう言って重野はその発信機を赤城に投げてよこした。赤城はそれを空中で受け取り、少し眺めていたがポケットに入れてバイクを発進させた。
「先輩、あいつどうしますかね」
「わからんな、これだけは賭けだ」
「賭けですか。良い方の目が出るといいんですがね」
「よう、赤城。どうするつもりだその発信機」
「さーどうしたもんかな。捨てるか」
「まぁ、俺はどっちでもいいけどよ」
「ただよ、神戸の時を思い出してよ」
「神戸の時?」
「ああ、神戸にグレーン・ファイヤーズって族がいてよ、そいつらが今度のと同じような麻薬に侵されてゾンビになってやがったんだ。そいつらも元は普通のガキだった。まぁちょっとは世間を拗ねてたがよ。そいつらにこんな麻薬を渡してたのが『フォーグル』って組織だった」
「許せねーか」
「そうだな、やっぱ許せねーよな」
「わかったよ、赤城。付き合うぜ」
「悪いな兄弟」
「おい、それじゃやくざだぜ」
「ははは、違いねー」
「持ってるか」
「ああ、バイクのサイドに入ってる」
「よし、それじゃ久しぶりに仮面を被るか」
「そうしよう」
赤城と紫村は重野からもらった発信機を元に『フォーグル』のアジトを突き止めた。そのアジトは人里離れた僻地にでもあるのかと思われたが意外と普通の町の中にあった。
ただしそこは上が自動車工場になっていて地下がこしらえてあった。アジトはその地下だった。赤城と柴村は前後の出入り口を確認した後、赤城が前、志村が後ろを受け持って侵入した。勿論二人共例の仮面をつけていた。
赤城の侵入に気づいたワーゲルの部下が警告を発した。ただ赤城は静かに落ち着いて奥に進んで行った。
「そこまでにしてもらおうか。お前は誰だ」
「俺か、俺は正義の味方さ」
「冗談言ってると命がいくつあっても足りないぞ」
「あんたかいここの責任者って言うのは」
「そうだ。お前は」
「俺はもう言っただろう。正義の味方だってな」
「そう言えば21号の報告にお前位の大柄な男がいたと言っていたな。まぁいい。なら死んでもらおうか」
そう言うと同時に8人のゾンビ戦士達が襲って来た。しかしそれは問題にすらならなかった。片っ端から叩き伏せられて行った。そして二度と起き上がっては来なかった。全員即死だ。
「驚いたな。これだけのゾンビ兵士を一撃で倒すとはな。そんな人間がいるのか。世間は広いと言う事か。では俺達が相手をしよう」
その時後ろからも打撃音が響いて来た。二人のゾンビと4人のワーゲルの部下が柴村と戦っていた。
「ほーまだ仲間がいたのか。それも同じ仮面を被った者が。ちょっと待って。神戸でも似たような事があったと聞いたが」
「ほー、よく知ってるな。あれは俺がやったのさ」
「そう聞けば益々捨てておく訳にはいかんな。死んでもらうしかないだろう」
「それが出来るのならな。俺達は強いぞ」
「やれー!」
その号令でワーゲルの3人の部下が襲い掛かった。それぞれに暗器を持っていたが赤城には掠る事もなかった。赤城に届く前に手足をへし折られていた。
そこに2発の銃声が轟いた。一発は眉間に、そしてもう一発は心臓に。ただし眉間の弾は仮面に弾き返された。そして心臓を貫いた弾は。何とそれは赤城の分厚い胸の筋肉に押し返されていた。そしてポトリと床に落ちた。
「馬鹿な、あの弾丸を押し戻すだと。そんな事が出来るはずが」
「出来ないともで思ったかい」
今度こそ連射で心臓を貫こうとした21号のこめかみには手裏剣が刺さっていた。それは柴村の投げた手裏剣だった。
柴村は武芸百般の達人だ。当然武器や暗器の類もここにいる誰よりも上手く使いこなす。
「何だと、これは」
ワーゲルがそう思った時には3人の部下は既に赤城によって倒されていた。これも即死だ。後ろのゾンビ2人と4人の部下達も床に沈んでいた。
「これであんた一人になったな。どうするよ」
「まさかな、ここまでの者達がいるとは」
「そう言えばケビンとか言う男も同じような事を言っていたらしいぞ」
「何、ケビンだと。ケビンを倒したのもお前達だと言うのか」
「あれは俺じゃないが俺達の仲間だ」
「そうか、では最後にお前達の本当の名を聞かせてはくれないか。俺はワーゲル大佐と言う」
「そうかい。俺は『赤龍』だ。そしてそいつが『紫龍』だ」
「龍の名を冠に頂く古の暗殺集団。本当にいたのかそんな者達が」
それがワーゲルの最後の言葉となった。そしてこの場所は『闇』達の手によって処理され一切の痕跡は残らなかった。だから重野も高坂もこの結果については何も知らない。
彼らにとっての掛けの目は「丁」と出たのか、それとも「半」と出たのか。それは知る由もなかった。
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