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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第八部
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第四話 『フォーグル』の二人

赤城は紫村の協力を得て古野目組を壊滅させ

いよいよ「ギルガ」の裏に潜む組織と戦う事になった。

 赤城は鳴海に連絡を取って緊急出動を要請した。この手のものを治せるのは鳴海しかいないからだ。


 連絡を受けた鳴海は紫村を引き連れてやって来た。


「何だ紫村、お前まで来たのか」

「ああ、お前の応援だとよ」

「別に俺一人でもいいんだけどな」

「まぁ、そう言うなって。俺も暇してるんでな」

「それよりもあなた達手伝ってください。彼らをを向こうの部屋運んで」

「はい」


 鳴海は運び込まれた者達を片っ端から診断し、治療を施して行った。鳴海の手にかかればまるで奇跡の様に症状が改善されて行った。まさに神の手を持つ者と言われるだけの事はある。


 取り合えず麻酔銃で撃たれた全員の意識が戻った。先に意識を回復した八野井がみんなの治療に当たっている鳴海を見て赤城に聞いた。


「赤城さん、あの人は?」

「初対面だったか。うちの総部部長だよ。あの人は医師免許も持ってるんでね」

「総務部長と言いますと」

「こちらの世界では『頭』と言う事になるかな」

「そうでしたか」


「部長、ちょっと」

「何なか」

「部長、こちらが八野井組の八野井さんです」

「初めまして、八野井と言います。この度はこちらの赤城さんにお世話になってます」

「話は聞いています。ここの治療が終わったら後で話をしませんか」

「わかりました」


 治療が終わった時点で赤城はメイ達にこの件から手を引く様にと言った。


 事態はもはや素人がどうこう出来る段階ではない事と、これから先は本当に死ぬ事になるかもしれないから俺達に任せろと言った。そして大槻達にも。


 ただし情報関係で必要な事があったら協力を依頼するかも知れないと付け加えておいた。


 これには本人達も納得したようだ。『ギルガ』達だけでも手を焼ているのに、そこに訳の分からない者達まで加わって銃撃など確かに素人の出る幕ではないようだと納得した。


 そして赤城は八野井に、あの「ギルガ」達はさっきの銃を持った連中がさらって行ったと言った。だから今はあなた達にも出来る事は何もないと。


 八野井はしぶしぶだがそれを承諾するしかなかった。ただし何か新しい情報があれば必ず教えて欲しいと鳴海と赤城に頼んで豊中に引き上げて行った。


「で、どうでした部長」

「赤城君、君が睨んでいたようにあの『ギルガ』達がこれまでに根城としていた所を洗ってみたら全て古野目組の関係先に辿り着いたよ」

「やっぱりそうでしたか。道理でおかしいと思っていたんです。それに今回の事だって、俺達が襲撃を掛けた時は『ギルガ』の連中は既に戦闘態勢を整えてましたからね。誰かが偵察していて教えたんでしょう」


「そうかも知れませんね。それから古野目の過去についてですが、どうやら八野井の兄に当たる人の奥さんですが、元は古野目が先に惚れていたようです。それを八野井の兄さんに取られたと言う事で恨みを抱いていたのでしょう」

「それで今になって『ギルガ』の連中を使って恨みを晴らしたと言う事ですか。もしそれが本当なら許せない仕業ですね」


「その辺りの事情はよく分かりませんが、彼がこの『ギルガ』に関与している事は明白でしょう」

「つまりそれはバックの『フォーグル』と関係があると言う事ですか」

「たぶん、そうでしょうね」


 こちら『フォーグル』の日本支部の第二部隊でも今回の事は問題になっていた。


「『ギルガ』が行方不明とはどう言う事だ」

「はい、古野目からの連絡では昨日、赤城達が『ギルガ』の根城を襲うと言う報告が入ったのが最後でした」

「その後の事はわからないそうです。何でも監視に差し向けた者が倒されて意識不明になっていたとかで」


「で、その赤城とか言う者達は」

「それも解散したらしくわかりません。ただその監視は麻酔弾のようなものを打たれているとの報告が入ってましたので、もしかすると赤城達とはまた別の者達の仕業かもしれません」


「それは『SCU』の可能性もあると言う事か」

「でしょうね。赤城達は暴走族です、それに今回加わって来た八野井組と言うのも単なるやくざですから麻酔銃などと言う様な物は使わないでしょう」

「そうだな。では奴らのアジトを探し出せ。何が何でも『ギルガ』達を取り戻すのだ」

「はい、わかりました」


『しかし「ギルガ」達をも拘束出来る麻酔弾か。少し「SCU」を甘く見過ぎていたのかも知れんな』


 一方天堂商会の鳴海は、

「では私はこれで引き上げますので後は二人に任せます」

「では俺達のやりたい様にやっていいと言う事ですか」

「そうですね、ただ事があまり表沙汰にならない様にお願いします」

「了解しました。任してください」

「正直それが少し怖いんですが、まぁいいでしょう」

 と言う事で鳴海は引き上げて行った。


「よう赤城、どうする」

「そうだな、やっぱり古野目とは話をつけなきゃならねーよな」

「そう言う事だな。お前はもう初対面の挨拶は済ませてるんだろう」

「まぁ、な」

「それじゃーこれから本格的な挨拶と行こうじゃないか」

「そうだな。そうしよう」


 そしてこの二人の悪ガキならぬ悪大人達が古野目組に乗り込んで行った。


「何だてめーらは。ここを何処だと思って・・」


 そこまで言った所で弾き飛ばされてしまった。それからも何人もが阻止しようとしたが全く歯が立たなかった。そして二人はついに古野目のいる部屋に乗り込ん出来た。


「なんじゃーおんどれらは・・・あんたは天堂組の」

「そうだ、覚えていてくれたかい」

「確か赤城さんとか言いましたかね。今回はどんな御用ですか」

「いや、何。あんたと『フォーグル』との関係を知りたくてね」

「何ですかその『フォーグル』と言うのは」


「とぼけるのは止そうぜ、もうネタは上がってるんだよ。今回の『ギルガ』を匿って利用していたのもあんただろう。罪もない人達を傷つけやがって。許せねーな」

「な、何の事だか俺にはさっぱり」

「そうかい、じゃーあんたの体に聞くしかねーよな」


「おい、お前ら。こいつらをやってまえ。ここから生かして出すな」

「おい、赤城よ。生かして出すなと来たぜ。上等な事言ってくれるよな」


 そう言いながら紫村は左手一本で全ての攻撃を防ぎ弾き飛ばしていた。彼にとっては彼らの攻撃など幼児の遊びの様な物だった。片や赤城は豪快な一振りで数人を吹っ飛ばすと言う様な剛腕振りだった。


 ともかくこの二人にとってここのやくざの20や30など数の内に入っていなかった。1分も経たない内に全員が叩きのめされていた。


「さて残ったのはあんた一人だがどうするよ」


 その時古野目は机の中から拳銃を取り出して赤城に向けた。その時にはあの大柄な赤城が何時の間に移動したのか古野目の間の前にいて、親指で拳銃の銃口を押さえていた。


「何をしとるんじゃ。指ごと吹っ飛ばされたいんか」

「出来ると思うならやってみなよ」

「舐めるなよ、くそガキが」


 そう言って古野目は引き金を引いた。その時はじけ飛んだのは拳銃の方だった。それは暴発だった。銃口を塞がれて逃げ道を失った内圧が銃身を吹き飛ばしたのだ。


 当然その拳銃を握っていた古野目も無事で済むはずがない。古野目は人差し指が完全にへし折れ、頬も破片抉り取られていた。赤城の親指にはかすり傷一つなかった。


「だから言っただろう。出来ると思うならやってみなと」


 古野目はしばらくは爆音で耳が聞こえなくなり、指と頬の痛みで口もきけなかっった。その状態から解放されたら今度は余りの痛みにのたうち回っていた。


「お前の痛みなど今まで『ギルガ』の為に被害を受けた人達から比べればかすり傷のようなものだ。それくらいで済むと思うなよ」


「それにな、そんな痛みなぞ本当の痛みから比べれば子供だましみたいなものだと言う事を今教えてやるよ」


 そう言って紫村は古野目の肘の関節辺りを指で圧迫した。そうするとその痛みは直接脳に響き体が硬直するような痛みだった。


 紫村が指を圧迫するたびに古野目体をエビぞりする様に震えていた。


「これを後2-3回もすると、余りの痛さに悶死すると言われているんだがどうだ、試してみるかい」


 古野目は体を震えさせながら激しく顔を横に振っていた。それはもう止めてくださいと言うサインだった。


「どうだい、話す気になったかい」

「は、話します。だからもう止めてください」


 古野目は余りの痛みの為に息も絶え絶えになっていた。この紫村は武芸百般の達人と呼ばれている。だから経絡秘孔を攻めて強烈な痛みを引きだす事など容易い事だった。


 剛力の赤城と武芸百般の紫村が組めば正に鬼に金棒。この二人に立ち向かえる者など表の世界にはいないと思われた。


 赤城達は古野目から『フォーグル』との連絡の取り方聞き出した後、古野目をこの前の廃棄物処理の管理事務所に縛り上げて転がしておいた。


 それを赤城は八野井に『ギルガ』の裏で糸を引いてあんたの兄さんの店を襲わせたのは古野目だと知らせた。


 その知らせを受けてその管理事務所に飛んで行った八野井が、古野目をどうしたかは知る由もなかった。しかしまた知る必要もないだろうと赤城は思っていた。


 赤城達は古野目から聞き出した方法で『フォーグル』に連絡を取り会う段取りをつけた。攫われた『ギルガ』の事で情報があると言う事にして。


 場所は尼崎の大阪湾に面した一角、兵庫県立尼崎の森中央緑地の先端だった。ここは休日以外滅多に人は来ない。


 赤城達が先に車で着いて待っていると一台の黒いベンツの乗用車がやって来た。双方から二人が車を出て向き合った。


「お前らは誰だ。古野目ではないな」

「いえ、俺達は古野目さんの代理です」

「見え透いた嘘はよせ。俺達が古野目以外の人間には会わない事はあいつが一番よく知っている」


「なるほどそう言う事かい。ならあんたらが『フォーグル』って事でいいんだな」

「ほー俺達の事を少しは知ってるようだな。しかしそれは死を意味する言葉だって事も知ってるか」


 そう言うと黒いベンツの二人はゆっくりと歩を進めた。よほど腕に自信があるようだった。


 一人が赤城に向かてダッシュをしその直前で跳躍をして赤城の頭を飛び越えて後ろに着地した。


 しかもその時に空中から赤城の頭に向かって蹴りを入れていた。


 しかし赤城もそんな事で驚くような男ではなかった。しっかりとその蹴りは腕で防いでいた。


「ほー俺の空中殺法を防ぐとは大したものだ。少しは出来るようだな。では遊ばせてもらおうか」


 それに対して赤城はただにやりとしているだけだった。


 もう一人は紫村に向かい腰から鞭を取り出した。


「これには鉄麟が施されている。掠っただけでも皮膚は割けるぞ」

「それはまた結構な代物だな。では俺はこれで相手をさせてもらおうか」


 紫村が取り出したのはヌンチャクだった。流石は武芸百般と言うところか。


 それぞれの二人が戦いを始めた。初めは『フォーグル』の二人が余裕で攻めていたが一向に決め手が掴めなかった。


 全ての技や攻撃が全て無効化されてしまう。こんなはずではなかったと二人は焦りだした。


「お前らは何者だ。この俺達にここまで迫れる者など聞いた事がないぞ」

「それはお前らの認識が低過ぎるんだよ。世の中は広いって事だ」


 空中殺法の男の攻撃も赤城に取っては蚊トンボの様なものだった。


 一人でやたらと赤城の周りを飛び回ってるに過ぎなかった。


 業を煮やしたその男が赤城の正面に飛び上がり上から両眼を狙って来た。


 その時に蹴り上げた赤城の足刀によって十数メートルも後ろに弾き飛ばされてしまった。これでも赤城はまだ力をセーブした方だった。


 紫村を相手にしていたもう一人の男はいくら攻撃を仕掛けても全てその直前でヌンチャクによってその攻撃を弾かれていた。


 鞭の最先端のスピードと言うものは人間の目で認識出来るものではなかった。


 しかもこの男の操る鞭だ。どんな人間にも防ぐ事など不可能なはずだった。


「きさま、何をしている」

「何ておめぇ、そののんびりした鞭を叩いているだけだろうが」

「俺の鞭の軌道が見えるとでも言うのか」

「見えるさ、そんなスローなものなんか。面白い物を見せてやろう。俺の顔を狙ってみな。手で掴んでやるからよ」

「戯言もいい加減にしろ」


 そう言ってその男は渾身の鞭捌きを柴村にくれた。しかしその鞭は柴村の言った通り顔面でピッシと紫村の右手で掴まれていた。しかも紫村の手には一筋の血も流れてはいなかった。


「き、きさま。どうして」

「お前とは実力が違うんだよ。覚えとけこの馬鹿が」


 そう言った瞬間紫村もまた縮地でその男の目前に現れ寸勁で弾き飛ばしていた。


 たったそれだけの事でその二人は身動きすら出来ない程のダメージを受けていた。


「それじゃー聞かせてもらおうか。お前らの『フォーグル』の事をよ」


 紫村がそう言った途端、二つの銃声が響き渡り『フォーグル』の二人の頭を撃ち抜いていた。それは対岸の岸壁から撃たれたものだった。


 赤城と紫村は直ぐに車の影に身を隠して対岸を睨んだ。


「あんな所から撃つかよ。流石だな『フォーグル』もよ」

「そうだな、こっちも少しは気をつけるとするか」

「そうしよう」


 しかし二人に緊張感は全くなかった。


 せっかく掴んだチャンスだったがまた向こうの手によってふいにされてしまった。


「しゃーないな、またの機会にするか」

「そうだな、行こうか」


 そう言って赤城達二人もその場を離れた。また仕切り直しだった。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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