第二話 八野井組再び
八野井健二は兄の妻と姪を殺した犯人の敵討ちをしようと考えていた。
それを赤城が助ける事になった。
謎の暴走族集団「ギルガ」によって壊された店は「八野井時計店」と言う所だった。そこは家族でやっている店だった。父親の健一が店主で母親が手伝い。そして高校生の娘も休みの日などは店の手伝いもしていた。
何故その店が狙われたのかはよくわからないがともかく店はほぼ半壊状態に近かった。そして店主は頭を強打されて重傷、母親も腕と足を折られている。最も可哀そうだったのはその日たまたま手伝いをしていた娘だった。
暴行を受けてレイプをされた挙句全身痣だらけになっていた。病院に担ぎ込まれて意識が戻って少し良くなりかけた時に娘は病院の屋上から飛び降りて自殺した。
それを聞いた母親は錯乱状態になったと言う。無理もない話だ。今は二人共家に戻ったが母親は痴呆状態だと言う。家の方は近所の者達や知人によって何とか生活できる程度には修復されていた。
実はこの時一番貢献したのが実の弟の八野井健二だった。健二は今豊中で八野井組の組長をやっている。
そして健二はもう兄の健一とは二十数年会ってはいなかった。無理もないだろう十代でぐれて家を飛び出してやくざになったのだから。家からは当然勘当だった。
健二達の親の葬式の時にも兄、健一の反対にあって親の死に目にはあってはいない。それだけ親や兄には不義理をしていたと言う事になる。
しかしそれでも健二にとってはただ一人の兄弟だ。今でも兄には悪い事をしたと思っているので出来るだけの事はしてやりたかった。
しかも今回の事で自分の姪が被害を受け自殺までした。健二はこんな事をした相手を絶対に許せないと思っていた。
自分の持てるものを全てを掛けても相手を叩き殺してやると思っていた。それが兄の望む事かどうかはわらないが健二にはそれしか出来ないと思っていた。
だから健二は自分の部下達をこの池田に入れて暴走族探しをしていた。ただこの池田にもやくざはいる。だから下手をするとシマ荒らしと間違われて抗争にならないとも限らない。
しかし今の健二にはそんな事はどうでも良かったのだ。もしそれで喧嘩になるならなったで受けてやると思っていた。最優先は兄夫婦と姪の敵討ちだった。
池田のやくざは古野目組と言った。そほれど大きな組ではないがそれでも30人程の組員を抱えている。矢野井組とはいい勝負だ。
その古野目の頭、横崎が古野目と話し合っていた。
「八野井の奴らが入って来てると言うのはほんまか」
「はい、ここしばらく毎日見るそうです」
「あいつら何しとるんや、シマ荒らしか」
「それがようわからんのですわ。何処かがやられた言う話はまだないんですけど」
「それにしても人のシマ内に入って来て何大きな顔さらしとるんじゃ」
「ほな、いてまいますか」
「そやの、見つけたら適当に傷めつけたれ」
「わかりました」
これは健二に取っても良い話ではなかった。しかしこうなる事は初めからわかっていた事だった。しかし今は暴走族が先だ。
この暴走族による被害は健二の兄の店以外にも出ていた。そしてここに来るまでの間に潰されたやくざ組織も幾つかあると言う。更には帰宅途中や学校帰りで襲われたと言う女性達も増えていた。
この被害届を受けて池田署も動き出そうとしていた矢先にブレーキがかかった。本庁からの命令で手を出すなと言う事だった。
これは公安の案件になったと言う。正直何故暴走族が公安の案件になるのか訳が分からなかったが本庁からの命令では仕方がない。しばらく観戦する事になった。
その間大槻が加わったメイナンナーズ達は捜索範囲を広げて「ギルガ」を探していた。しかしどう言う訳か潜伏先がわからない。いつも神出鬼没だった。
赤城はこれは少しおかしいと思い出した。ただの暴走族にこれほどの隠密作戦は出来ないだろうと。とすればバックに誰かがいる。そいつらが匿っている可能性が高い。しかし一体誰が何の為に。
そしてあの夜の男達は何者なのか。
『彼らは俺に手を引けと言った。つまりそれは全くの敵ではないと言う事になる。勿論味方でもないだろうが。では今回の「ギルガ」の後ろにいると思われる「フォーグル」に対抗する組織と言う事になるだろう。だとすればやはり官憲か。社長が言っていた「SCU」かも知れないな』と赤城は思っていた。
赤城がそんな事を思っている時に連絡が入った。それは大槻からだった。メイランナーズにやくざ達が襲って来たと言う。
何だそれはと思いながらも、赤城は「直ぐに行く」言って飛び出した。
そこはメイのメンバーがたまり場としている所だった。今回の前線基地でもある。そこに八野井組の組員達が襲い掛かって来たのた。
メイのメンバーは外に出てる者もいるので12人と大槻達を入れて15人だった。八野井組は10人を事務所に残して20人と八野井が来ていた。
これではやはり多勢に無勢だ。しかも相手は本職と来た。いくら暴走族と言えども分が悪い。
辛うじて良い勝負をしているのは大槻達だけだった。特に大槻の働きは凄かった。やくざ3-4人を相手に一歩も引かなかった。
矢野井はそれを見て、あいつ良い戦闘をすると思った。普通なら組に加えたい所だが今はそう言う場合ではない。ともかくこいつらを捕まえてバックにいる奴らを吐かせないといけないと思っていた。
そこに駆け付けて来たのが赤城だった。その戦闘を見て、これは大槻達が不利だなと思い早速戦闘に加わった。
赤城一人の参加で戦闘は一変した。今まで優勢だった八野井達が一方的に劣勢に立たされた。正直勝負にすらならなかった。まさに千切っては投げ、千切っては投げと言う状態だった。
それを見かねた八野井は拳銃を取り出し一発威嚇射撃をした。その音一発で全ての動きが止まった。
「なぁ、あんた。ガキ相手にそんな物出すのかよ。ちょっと大人げないとは思わないか」
「そう言うお前はどうだ。ガキの喧嘩に親が口出すのか」
「俺は親じゃねー、先輩だ」
「先輩ね、じゃー先輩にこの落とし前つけてもらおうか」
「落とし前と言ってもな、あんたらが先に襲って来たんだろうが。落とし前もクソもないだろう」
「お前らの方こそ散々好き勝手な事しくさって、今更詫びても遅いんだよ。みんな地獄へ行ってもらうぜ」
「おい、ちょっと待て。あんたそれ間違ってないか」
「何が間違ってると言うんじゃ、舐めんなよガキが」
「あんたが言ってるのは『ギルガ』と言う最近この辺りで悪さしてる暴走族の事じゃないのか」
「お前らは違うと言うのか」
「ああ、こいつらは地元の族でメイランナーズと言うんだ。こいつらもその『ギルガ』を探してるんだよ」
「何故お前らがその『ギルガ』とか言うのを探すんじゃ」
「それはあんた、そんな悪さを止めさせる為に決まってるだろう」
「それでお前は」
「俺は助っ人だ」
「ほんなら、お前らは本当のあの暴れまわってる暴走族やないんやな」
「ああ、違う、誓ってもいい」
それでようやく納得したのか八野井は矛を収めた。
「悪かったな、勘違いしてたようや」
「それにしても、やくざのあんたらが何で暴走族なんかを襲うんだ」
「こっちの事情で知人が被害にあったもんでな」
「そうか、あんたらもか。実は俺も今その『ギルガ』と言うのが気になっているんだよ」
「どう言う事や」
「俺とそこにいる3人は以前にそいつらとよく似た暴走族と戦った事があるんだ。で、そいつらは麻薬を使ってた。そして今度の『ギルガ』って奴らも似たような麻薬を使ってる可能性があるんでね」
「何、麻薬やと。その話もうちょっと詳しく教えてもらえるか」
「ああ、わかった」
赤城は以前に戦った「グレーン・ファイヤーズ」と彼らが使っていた麻薬の話をした。
「そしたら今回のその『ギルガ』と言う奴らも似たような麻薬を使うてると言うんか」
「そうだ、ここにいるメイの連中の話ではいくら殴っても痛みを感じないらしい。それでゾンビみたいに襲って来ると言う話だった」
「その話が本当なら、バックにいるのは同じ組織と言う事か」
「俺はそうではないかと思ってる」
「成程な。ようわかった。助かる。しかしそれにしてもあんたは強いな」
「そうでもないよ」
「おやじ、俺今思うたんですけど、まるであの時の天堂さんみたいな強さですわ」
「天堂?天堂ってまさか天堂商会の天堂かい」
「なんやあんた、天堂さんを知ってるのか」
「うちの社長だからな」
「何?そしたらあんたは天堂組、いや天堂商会のもんや言うのか」
「俺はそこの開発課長をやってるんだ」
「ははは、あんたが開発課長な、それはええ」
「で、今回の件は天堂さんは知ってるのか」
「ああ、俺から報告を入れているから」
「そうか、それは奇遇やな。面白い」
ようやく誤解が解けて八野井と赤城はこれからの事を話し合う事にした。取りあえず矢野井組の18人の組員は豊中に返し、その夜は八野井と2人の組員が池田に残った。
そしてちょっとした飲み屋で夜食を取りながら今後の事を事を話し合っていた。これから先は八野井組も赤城達に協力すると言った。その代わり得た情報は全て俺にも渡してくれと八野井は言った。
それはまぁ、仕方ないだろうと赤城も飲んだ。赤城としてもあの連中はやくざでも手に余るだろうと思っていたのでいずれは自分の所に来るだろうと考えていたので。
ある程度話がまとまったので今日はこれでお開きにしようと表に出た所に古野目組の組員達が待っていた。
「なんじゃお前ら」
「お前ら八野井組のもんやろう。人のシマ内で何やってくれとるんじゃ」
「別になにもやっとらんやろう。ただ酒を飲んでただけや」
「ただ酒を飲んでただけやと。ほなら毎日なにをウロウロやっとるんじゃ。目障りなんだよ」
「わかった、わかった。そしたらこれで引き上げるからそれでええやろう」
「そうはいくか、おい、やってまえ」
そう言って古野目組の組員4人が襲い掛かって来た。こっちは赤城を入れて3人だが赤城がいれば何の問題もない。しかし赤城は一歩引いて様子を見ていた。この八野井と言うのがどれだけやるのかを見る為に。
八野井の二人の組員はまぁ、何とか互角に戦っていた。八野井は二人を相手に余裕だった。流石は組を束ねる組長だけの事はあると赤城は思っていた。
「覚えとれよ、このままですむと思うな」
といつもの陳腐な捨て台詞を残して古野目組の者達は去って行った。
「悪かったな、赤城さんよ。余計な事に巻き込んで」
「いや、俺はいいんだがこれから先、ちょっと問題になるんじゃないのか」
「そうやな、俺もここで地元のやくざと揉めとうはないので、明日にでもちょっと顔出して挨拶でもしとくか」
「なら俺もついて行っていいかい」
「ええのんか」
「ああ」
「わかった。ほな頼むわ」
赤城はこの事を鳴海に連絡を取って指示を仰いでいた。
「確かそこの組は古野目組と言ったね」
「はい、そうです」
「待てよ、その組は確か山根組の枝だったはずだ」
「山根ですか、じゃーこの前戦った」
「そうだ。なら問題はないだろう。私の方から山根組の方に話をつけておこう」
「そうですか、そうしてもらえると助かります」
そう言って赤城は電話を切った。そしてこう言った。
『じゃー明日は一つ実のなる話をしてこようか』と赤城は笑っていた。
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