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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第七部
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第五話 16年の結末

16年に及ぶ川野麻美と川野紗耶香姉妹の恨みの連鎖は

最終局面を迎えようとしていた。

 鳴海は余市に帰ると直ぐに達永陽介の所に向った。すると隠れ家のあちこちに少し争いの後が見られたが達永陽介は無事だった。


 『闇』達の話では島村の手下の一部がここを発見して襲撃して来たそうだが全て返り討ちにしたと言った。


 そして死体は全て処分したのでここを知る者はいないと。それだけやっておけば十分だろうと鳴海も思った。


 そして事態は少し好転した。それは外野が貸し出していた兵隊を急遽呼び戻した事だった。


 その理由は勿論鳴海達の襲撃だ。その為に外野の持ち駒の半分を一瞬にして失ったのだから。


 何処の誰に襲撃されたかはわからないが、ともかくとんでもない事が起こった事だけは理解出来たようだった。外野はもし今度自分が襲われたらと思うと夜も満足に眠れなかった。


 何故なら襲われた者達の証言を聞くとバケモノ達に襲われたとしか思えなかったからだ。


 もはや余市の事などどうでもいい。ともかく自己防衛が先決だった。


 逆に慌てたのは島村の方だった。頼みの綱の外野が手を引いてしまった。しかしそれでもまだ自分に利があると思っていた。


 相手は高々何処の馬の骨ともわからない素人が一人。それと死にぞこないが一人逃げただけだ。


 追い詰めて二人共処分してやると思っていた。そうすれば全てが闇から闇だ。


 最近自分の身の回りが急に騒がしくなって来たので心配になった川野宋次が島村に電話を掛けて来た。


「おい、島村。本当に大丈夫なんだろうな」

「何を心配してる。証拠なんて何もないいんだ。それにあれからもう16年だぞ。誰が当時の事を掘り返そうがどうにもならねーよ」

「だといいんだがな」

「おめーは心配性だな。俺に任しとけって」

「そうか、じゃー頼む」

「ああ」


 その頃札幌でも一つの事が進行していた。予期せぬ事故が起こったので外野は大阪との縁組を早めようとしていた。


 一日でも早く兄弟杯を結んでしまって川澄の爺さんを追い落とす。そうすればススキノは俺のものだと外野は思っていた。


 その為にも今度の縁組は早くしなければならない。そこで吉沢組の頭、小敷に金を渡して段取りを早めてもらえるように頼んだ。小敷もそれならと言う事で組長の現地入りを計画した。


 兄弟分の盃事はここ札幌でやる。それが外野に取っては大事な事だった。


 その一事を持って北海道中のやくざ達に自分の地位を知らしめる為だ。


 そうすれば川澄を立てて自分に反旗を翻す者ももう出て来ないだろうと外野は思っていた。


 その功が奏して来週に大阪から吉沢組の組長、吉沢幸吉が出てくることになった。これは北海道に一種の戦慄をもたらしたと言ってもいいだろう。


 これで地元の均衡が破れる事になる。大阪の吉沢組、そしてその後ろには大阪最大の暴力団山根組がいる。この力を外野が借り受ける事になるのだ。


 今ならまだ潰せると思った者達もいたが事既に遅かった。盃事が決まった今となっては、これを阻止する事は大阪と事を構える事になる。そこまでやる度胸は残念ながら地元のやくざにはなかった。


「おやっさん」

「ちぇ、あのやろう。やってくれやがったな」

「何なら俺が突っ込んでもいいんですが」

「馬鹿、無駄死にだ。それによ、何故だかしらねーが最近随分と用心してるって話だからよ。そんな隙はねーだろうよ」

「ですがこのままでは」

「そうだな、どうするかな」


 その話を聞いていた青海が、

「おじいちゃんも大変なんだね」

「わりーな、青海。せっかくバケーションとかで、この北海道に遊びに来たと言うのにこんな騒動に巻き込んじまってよ」

「それはいいんだけど、やっぱり外野の計画は阻止しないといけないわよね」

「まぁ、そうなんだがよ。今は打つ手がねーんだよ」

「あるわよ。一つだけ」


「ええっ、あるって何だい」

「こうなったらやっぱりあの人に頼むしかないわね。天兄ちゃんは向こうの事で忙しいだろうから」

「頼むって、誰に頼むんだい、青海」

「まぁ、おじいちゃん、任しておいてよ」


 そう言って青海は表に飛び出して行った。


 そしてとうとうその当日が来てしまった。会場を設定して外野組と吉沢組の兄弟杯を交わす時が来てしまったのだ。


 そこに招待された北海道の組長達、ただ川澄に義理を感じている組長達は参列しなかった。


 それが後で悪い結果に繋がるかも知れないがそれよりも義理を重んじたと言う事だ。


 さてこれからいよいよ盃事が始まろうとした時に一人の男が入って来た。


「何じゃわれは、ここを何処やと思とるんじゃ、死にとうなかったら消えんかい」

「悪いがこの盃は中止だ」

「何やと、われ何ぬかしとるんじゃ」

「あんた吉沢さんだったな。電話だ」

「何ぬかしとるんじゃこんなとこで」

「いいのか、あんたのおやじ、山根さんからだが」

「な、何やと」


 吉沢はその電話を受け取って、しばらく耳を傾けていた。その手には力が入り少し震えていた。


『わ、わかりました。会長の言われる通りにします』

「悪いな外野さん、この盃は中止や。縁がなかったと諦めてくれ」

「どう言う事です。吉沢さん」

「そやから中止や言うとるやろうが。これ以上言わすな!」


「その男が邪魔をしたんですか。何者なんです。そいつは」

「この人はな、天堂組の組長、天堂さんや。そして大阪の親睦団体『関西縁友会』の相談役や」

「しかし相談役なら何も権限は」


「ところがな『関西縁友会』には会長も理事長もおらんのや。そやからこの人が実質的なトップやと言う事や。お前、全大阪の極道を敵に回したいんか」

「そんな・・・」


「悪かったな、わざわざここまで足を運ばせて」

「いえ、そう言う事なら仕方おまへん。今回は引かせていただきます」

「ああ、助かるよ」


 そう言うと天堂も吉沢もその会場を後にした。そしてそこに招待された組長達も三々五々と解散して行った。残ったのは外野とその身内だけだった。


「おやじ」

「クソが!クソが!何でこうなるんだよ」


 この話は北海道中のやくざ達の間に広まった。外野が梯子を外されたと。


「こうなったら破れかぶれだ。あのクソ爺の玉を取ってやれ」

「わかりました。道具を用意します」


 当然天堂はこうなる事は予想していた。だから青海にゴーサインを出した。


 後はもう想像に難くないだろう。外野組の本部は正直物理的に破壊された。建物共々。 


 崩壊した建物の下に一体何人の死体があったのかは誰も知らない。


 ただ解体作業をして警察と消防が掘り出してみたが死体は一体も出てこなかったと言う報告が上がって来た。


 ただしそれ以降、外野とその組員達の姿を見た者は誰もいないと言う。まさに『闇』の三傑、恐るべしと言う所だろう。


 鳴海もその報告は受けていた。


『社長にまでご足労を掛けてしまいましたか。しかし青海の奴、またやってくれましたね。あれだけ事を表沙汰にするなと言っておいたのに。まぁ、仕方ありませんかね』


『では今度はこちらの仕上げと行きますか』


 あれから鳴海はもう一度達永陽介の記憶の蘇生術を行った。


 その結果、当時の重要な証拠となる録音テープの存在が判明した。


 それは川野宋史が隠し撮りし、万一の時の為に達永陽介に託した物だった。


 鳴海の記憶復元法によってその隠し場所を達永陽介は思い出したのだ。


 それは川野宋次を兄殺しの殺人教唆に問うには充分な証拠だった。


 川野宋次は新聞記者当時から親しくしていた所轄の刑事に連絡を取りこのテープを渡した。


 そして裏帳簿や金銭の流れなどを示した資料もドラゴン・ファンドの手によって集められていた。


 それらを持って警察は川野宋次の逮捕に踏み切った。そして島村組組長の島村幸三も実行犯として逮捕された。  

 

 こうして16年に及んだ川野夫妻の自殺事件は殺人事件として裁かれる事になった。


この事を知った川野麻美と紗耶香はどんなに喜んだ事か。


 いや、喜ぶと言うには少し重過ぎたかも知れないが少なくとも両親の無念は晴らせたと思った。


 しかし今になって一体誰がこの事件を解決してくれたのか。麻美は紗耶香と共に今度一度余市に帰って見ようと思った。


 正直な所二度と帰りたくはないと思っていた余市だが、ようやくニッカの酒が飲めそうだと思った。


「よう、鳴海さんに青海よ、おめえら本当に大阪に帰っちまうのかよ。こっちが寂しくなるじゃねーかよ」

「じゃー今度大阪においでよ、おじいちゃん。あたしが大阪案内するからさ」

「そうかい。そりゃいいな。よし必ず行くから待っててくれや」

「わかりました。ではお待ちしております」


「それとよ、その時にあんたらの言う社長さんって人にも会わせてもらえるかい」

「ええ、勿論ですとも。きっと社長も喜ぶと思います」

「ならいいな。大阪のドンって一体どんな人物なのか会ってみたくってよ」

「ドンかどうかはわかりませんが伝えておきます」


『ドンですかね。あの人がドンと言えるかどうかはわかりませんがね』


『ハックション!鳴海の奴、また何か俺の悪口言ってやがるな』

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よろしくお願いいたします。

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