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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第七部
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第四話 青海の実力

札幌に戻った鳴海は、青海と川澄の3人でススキノに出かけて行った。

そこで外野がオーナーをやっている「スノーブ」と言う店に偵察に出かけた。

 鳴海と青海と川澄の3人で夕食をすませ、これからススキノに出かけようと言う事になった。この時は川澄の所の頭である河本もついて来た。


「なぁ、鳴海さんよ、俺は嬉しくってよ」

「何がですか」

「このお嬢ちゃんがうちに顔を出してくれるようになってからうちが何だかパーッと花が咲いたようでよ。まるで俺に孫娘が出来た様な気分だぜ」

「そ、そうですか。それは良かったですね」


 しかしそれは鬼孫ですよとは流石に言えなかった。


「青海、お前は一体いつから川澄さんの所に出入りしてるんです」

「えーっと、今日で3日目かしらね」

「店の方は大丈夫なのですか」

「心配ないって、チーママの楓ちゃんがちゃんとやってくれてるわ。それにあたしだってたまには休みは必要なのよ。そうでしょう」

「まぁ、そうですが、何もよりによってここに来る事はないでしょうに」

「だってさ、ここの方が何だか面白そうだったから」

「ちょっと待ってください。今回は大人しくしててくださいよ」

「ふふふ」


「お前さんら本当にいコンビだな。まるで本当の兄弟みたいだぜ」

「いや、それは・・・」

「でしょう。おじいちゃん」

「おじいちゃんってなんですか、青海」

「いいんだよ。俺もその方が嬉しいんだからよ」

「そうですか。それならいいんですが」

「それによ、この青海が大阪であの有名な『ナビロン』のママだって言うのにはおったまげたぜ。しかもこの若さでよ」


「川澄さんは『ナビロン』をご存じなんですか」

「そりゃおまえ、水商売の世界じゃ誰だって知ってるぜ、大阪に二大超高級クラブありってな。キタの『クラリオン』とミナミの『ナビロン』だ」

「そうですか」


「おっと、着いた。ここだ」


 そう言って川澄が鳴海達を連れて来たのはススキノでも有名な店「スノーブ」だった。ここはこの前に行った「ジョセーヌ」とススキノで一・二を争ってる店だった。


 川澄が入って行くと店のマネージャーはうやうやしく頭を下げ、ママの麗華が飛んできた。


「これは川澄の親分さん、お珍しいですね」

「いや、なに。たまにはこっちにも顔を出しとかなくっちゃと思ってよ」

「それはありがとうございます。どうぞこちらへ」


 川澄達はブースに案内され、ボーイが川澄がキープしているボトルを出して来た。


「俺は北海道の人間だからニッカ党なんだがよ。お前さんらは何でも好きなものを頼んでくれや」


 そう言って出て来たのはニッカのシングルモルトウイスキー「余市」だった。しかしこれは限定品で現地でも中々手に入るものではなかった。しかし川澄はそれを持っていた。恐らくは持ち込みだろう。


「そうですか。では私はシーバスリガルの18年物を」


 鳴海は「余市」を見て滅多に手に入る酒ではないので遠慮をしておいた。それは青海も同じだった。


「親分さん、随分とお綺麗な方とご同伴ですが、こちらは?」

「ああ、これは俺の孫娘だ。宜しくな」

「そうですか。お孫さんでしたか。それはこちらこそよろしくお願いいたします」


 そう言って二人は挨拶を交わしたがこの店のママ、麗華の目には嫉妬の炎が燃えていた。


 これだけの美形はうちの店にもいないと。いや、恐らくはススキノ中の店を探してもいないだろうと思った。


 川澄の隣には孫娘が付いてるので後二人のホステスを呼んでそれぞれの間に入れた。


 そして水割りを作り出したのだがその孫娘の手際の良さと華麗さに麗華はあっけに取られていた。


 うちの子達では到底太刀打ち出来ないと。一体この子は何者なのかと思っていた。


 そんな時にまた一組の団体が入って来た。するとママがちょっと失礼しますと言ってその団体の方に向かって行った。


「やっとおいでなすったか」

「どなたですか」

「あれが外野だ」

「そうですか」


 その時鳴海と青海は同時に気のセンサーで相手の素性を読んでいた。なるほどそう言う男かと二人は納得した。


 ママに教えられたのだろう、外野がこちらに向かってやって来た。


「これはご老体お久しぶりですね」

「お前さんも元気そうでなりよりだな」

「ええ、お陰様で。珍しいですね、こちらにお越しとは」

「たまにはこっちにも顔を出しとかなくっちゃひがまれても何だからよ」

「そうですか。ではごゆっくりどうぞ」

「あいよ」


 そう言って外野達は奥のブースへと消えて行った。


「ここはあいつの店なんだよ」

「ここのオーナーって事ですか」

「そう言うこった」

「あ、お姉ちゃん達もういいぜ。後は俺達でやるからよ」


 そう言って川澄はホステス達を遠ざけた。


「ここのママってのがあいつのコレでよ。いつも「ジョセーヌ」と張り合ってやがるのよ」

「『ジョセーヌ』と言うのはこの前の店ですか」

「そうだ」


「ただ噂だがな、ここのホステス達にも客を取らせてるらしい。ただし町の重要人物にだがな」

「それは許せませんね」

「そうよ、絶対に許せないわ。あたしがギタギタにしてあげるわ」


「待て、お前はいいから押さえていなさい」

「何でよ」

「全くだ、青海の言う通りだぜ」

「川澄さん、あまり焚きつけないでくださいよ」


「おやっさん、それとあいつ、大阪と盃を交わす算段をしてると言う噂もあります」

「何だと、大阪だ」

「ええ」

「つまり大阪の何処かの組をバックにつけようと言う事ですか」

「その様です」

「そうかい、いよいよ俺を追い落としに来やがったか。おもしれーじゃねーか」


 鳴海はこの前の店での事を思い浮かべていた。確か大阪の吉沢組と言っていた。と言う事は大阪最大のやくざ組織、山根組をバックにつけようと言う事かと。


 片や外野のブースでは、

「あのクソ爺、今に見てやがれ。もう直ぐ追い落としてやるかなら。しかしあの横に座ってた女は誰だ。うちにあんな上玉いたか」

「あれは爺さんの孫だそうよ」


「孫だと。それはいいじゃねーか。爺を追い落とす絶好の標的になるんじゃねーか。それによ、あの器量だ。後で十分使えるぜ」

「そうですね、おやじ。しかしあんな爺さん一人ヤルのは簡単じゃないんですか。身内だって3人しかいないって話ですから」


「ところがよ、そうもいかねーんだよ。あいつにゃーシンパって奴らがいてよ。昔世話になったとか何とかで義理持ちが大勢いやがるのよ。北海道中にその数400とも500とも言われてやがる。あの爺に何かあればそいつらが出張って来やがるからな」

「それで大阪との縁組ですか」


「そうよ。吉沢組だけで350だ。それにバックの山根がついてくれれば2500になる。そうなったらいくら爺のシンパでも手も足も出ねえだろうよ」

「はるほど、そうですね」


 外野は取らぬ狸の皮算用を始めていた。


 その日は外野との顔合わせも済んだと言う事で一旦お開きにして鳴海と青海はホテルに引き上げた。


 その翌日、朝もゆっくりしてからチェックアウトの前に鳴海が外出した。ホテルの表に出た所で声が掛かった。


「天兄ちゃん、一人で何処に行くつもりよ」

「青海、何でお前がここにいるのです」

「天兄ちゃんの考える事ぐらいお見通しよ。あたしを出し抜こうなんて無理な話だと思うわよ」

「いや、しかしですね。お前が来ると・・その・・」


「あたしが来ると何よ」

「後始末がですね・・・」

「後始末が、なに」

「まぁいいですかね」


 鳴海は諦めて青海を連れて外野の組事務所に向った。


「で、何処を潰しに行くの」

「潰しにじゃありません。様子を見に行くんです」

「まどろっこしいわね。そんなの簡単に潰してしまえばいいじゃない」

「お前ね、まぁいいから黙ってついて来なさい」

「へいへい」


 外野の事務所はススキノに近い所にあった。流石はこの辺りで勢力を伸ばしているだけの事はある。その他に東の白石と南の清田にも枝の組事務所があった。


 その三つを合わせて140程の勢力となる。外野本家だけで70だ。それだけいれば20程余市に回してもまだ余裕だろう。


 鳴海は取りあえずは枝葉から潰しておく事にした。そこで青海に白石の分家を任せた。


 派手にやり過ぎるなと釘を刺した上で仮面を渡した。そして鳴海は清田の分家に向った。


 白石に向った青海はもう玩具をもらった子供の様にルンルン気分で組事務所に乗り込んで行った。


「ちわーす。誰かいますかー」

とドアを開けたら受付兼見張りの様な男が、

「何だお前は。仮面なんか被りやがって、強盗か。てめーここが何処だかわかってるのか、死にてーのか」

「そうっすね。もらうものはあんたの命でと言うのはどうっすかね」


 青海はアクティブになると結構はすっぱな言い方をする。


「何を舐めた事を言って・・」


 そこまで言った時にはその男は既に壁に張り付いていた。いや、めり込んでいたと言った方がいいだろう。


 人間どれだけの力で押し付けられたらこうなるのかと言う様な見本だった。何しろ壁と面一になっていたのだから。


 壁にぶつけられた轟音で事務所の奥の者達がみな飛び出して来た。そして信じられないものを見るような目つきで壁を眺め、そしてそこにいる仮面に目が行った。


「何だお前は」

「どいつもこいつも判で押したような言葉しかしゃべらないんっすね。あんたら低能っすか」

「何だとこのクソが」


 そう言って掴みかかって来た男の腕を取って青海は振り回した。まさに振り回したのだ。まるで野球のバットのように。


 しかしその腕の先には人間の体がついている。どれだけの体重があるのかは知らないが、30キロや40キロと言う事はないだろう。大の大人だ。60キロや70キロは優にある。


 それをまるで何もないかの如くに振り回していた。それはもう人間バットだった。その人間バットが次から次へと現われた仲間を打ち飛ばして行く。グッシャと言う音を立てながら。


 最後の一振りで手を離した男の体は奥のドアにぶち当たってドアごと奥に弾き飛んで行った。


「な、何事だ」


 と言ってここの組長、安井が顔を出してきたが、今度はその安井に二体目がぶち当たった。


 ゲホッと言う声を出して安井は出て来た部屋の奥まで弾き飛ばされてしまった。


 後からも組員達は出てきたが、足を掴んで振り回した体にヒットされ、また腕を掴んで振り回した体にジャストミートされ、部屋中に壊れた人形が散乱している様な状態だった。


 赤城の怪力も凄い。しかし赤城の場合はまだわかる。秩序ある怪力だ。


 しかしこれはもう何と言ったらいいのか。比べる事すら馬鹿らしいと思える様な未秩序な怪力だった。


 しかし本人はこれでまだ実力の一分さえ出してないと言うのだから、鳴海が心配するのも納得出来ると言うものだ。


 ともかく巨大台風の通り過ぎた状況を残して青海は背伸びをしながら事務所を出て行った。


 鳴海は鳴海できっちりと職人芸の仕事をして清田組を粉砕していた。


「ねぇ、天兄ちゃん。外野の本家はどうするの。潰す?」

「いや、ここは少し怯えさせておいた方がいいでしょう。それよりも私はこれから余市に戻りますので川澄さんの事を頼みます。外野は後できっちりと処分しますから」

「わかったわ、それじゃー向こう頑張ってね」

「了解しました」


 翌朝、鳴海は余市の決着をつける為に余市に戻った。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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