表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第七部
33/77

第三話 島村組と外野組

鳴海の調べで川野麻美一家の謎がはっきりして来た。

そこで鳴海はそろそろ決着を付けるかと思っていた時に、

歩く爆弾とも言うべき青海が現れた。

 翌日鳴海は札幌から余市に向った。函館から余市までは函館本線を使って約1時間半ほどの距離だ。


 余市に一番早く着く電車で11時過ぎに出れば1時には着ける。それから昼食でも遅くないだろうと鳴海は函館をその時間に出た。


 余市と言えばやはり「ニッカウイスキーの余市蒸留所」がある事で有名だろう。それ以外にも海の幸やワインも楽しめる所としてもよく知られている。


 ともかく鳴海は余市駅に近い所にホテルを取った。そこを基地にして動き回る計画にしていた。まずは川野麻美の両親が住んでいたと言う場所を訪れてみた。


 しかしそこにはもはや何も残ってはいなかった。ただの空き地になっていた。麻美の両親が海産物の問屋をやっていた当時はそれなりに裕福な家だったと聞いた。  


 麻美の両親が死んだのは麻美がまだ10歳の時だと言うので、鳴海は図書館に行って当時の新聞を探した。


 確かに麻美の両親の自殺が報じられた記事があった。しかし単なる自殺としか掲載されてなかった。


 そこで鳴海はまず警察を訪ね、それから当時の事を知る新聞記者か週刊誌の記者はないかと尋ね歩いた。


 警察では大した情報は得られなかったが、当時その記事を書いた新聞記者が新聞社を辞めて週刊誌の記者になったと聞いたのでそこを訪ねた。


 そこは週刊余市と言う雑誌社だったが、その記者、達永陽介はもういないと言う事だった。


 何でも何かの事故で記憶喪失になって今は施設に入ってると言う話だった。


 それで鳴海はその施設を訪ねた。確かにそこに達永陽介はいたが誰とも話の出来る状態ではないと言う事だった。単なる記憶消失ではなく言語にも支障があると言う事だった。


 ともかく鳴海は会わせてもらう事にした。達永陽介は車椅子に乗っていた。


 言語中枢が麻痺した後で身体機能にも障害が出ている様だとの事だった。ただ手話で少しは意思疎通が出来ると言う事だった。


 そこで鳴海は介護士に少し二人で手話をさせてもらってもいいかと聞いた。介護士はそれではどうぞと少しの間時間をくれた。


 鳴海は外見診断と触感診断で達永陽介は「逆行性健忘症」と判断した。そしてかなりの精神的トラウマによって自己逃避もしていると。そこには相当なショックがあったのだろう。


 こう言う時こその「神の手」だった。鳴海は経絡秘孔の操作と精神感応により達永陽介の精神内に影響を与えて閉じられた扉を開け放った。


「どうですか、私の言ってる事がわかりますか」


 はじめ達永陽介はオドオドし、目を目まぐるしく動かしていたがようやく焦点が定まり、鳴海を真っすぐに見て言った。


「はい、わかります」

「そうですか、それは良かった。いいですか、あなたはこれから復帰するのです。今までの自分に。いいですね」

「あっ、はい」


「ただし、しばらくの間は健忘症と言語障害を装っておいて下さい。これはあなたの安全の為ですので。私はまた明日も来ます。いいですね」


 「はい」と今度ははっきりと答えた。


 鳴海は達永陽介が何かを知ってる。だからそのようになった。いや、されたのだろうと見当をつけた。


 なら今でもまだ監視の目があっても不思議ではない。まずはそれを洗い出す事が先だった。


 鳴海は自分の『闇』を呼び出して達永陽介の警護と周囲の者達の監視をさせた。


 その間に鳴海は16年前の川野家の当時の事情を調べ始めた。


 調べてみると当時の川野家にはかなりの資産があったはずだった。しかし自殺した時には何も残っていなかった。


 だから川野麻美と紗耶香は親戚をたらい回しにされたのだから。


 ではその資産は何処に行ったのか。当時の不動産を調べ、銀行関係にはドラゴン・ファンドの力を使って調べさせた。


 すると川野家の親戚、つまり川野宋史の弟で宋次が小樽にシマを持つ島村組と関係がある事が分かって来た。どうやら宋次と島村とは若い頃ポン友だったようだ。


 当時の中学や高校の先生の話を聞くとかなりの悪だったと言う話が聞こえて来た。


『なるほどそう言う事ですか』


そして金の流れからわかった事は、達永陽介が今入ってる介護センターは川野宋次が理事長を務める施設だった。この施設も兄の川野宋史がなくなってから手に入れている。


『と言う事は施設ぐるみで監視してると言う事ですか。これは早急に達永陽介さんを解放しなければなりませんね』


 最近自分の身の回りを色々と調べている人間がいると気づいた川野宋次は、島村に連絡を取って何とかしてくれと言った。


 「よし分かった」と島村は4人の組員を送り出した。たかが素人だ、ちょっと脅かせばそれで直ぐに消えるだろうと思っていた。


 翌日鳴海がホテルを出た時に4人の男達が寄って来て、ちょっと顔を貸してもらおうかと言った。いつもの古臭いセリフだった。


 鳴海が人気のいない場所について行くと、

「おめー、なんだか知らねーが、色々嗅ぎ回ってるそうじゃねーか。誰に頼まれた」

「何の事でしょうか。私にはさっぱりわかりませんが」

「そうかい、ならお前の体に聞くしかねーな」


 そう言ってその男は右のストレートパンチを放って来た。


 そのパンチを左手の手の平で受け止めて鳴海は右手を上下に動かした。それでその男の右腕は動かなくなった。


「あなたの上腕の筋を切断しましたのでその腕はもう動かないと思いますよ」


 鳴海の右手にはメスが握られていた。しかし相手の腕には一滴の血も流れてはいなかった。まさに神の手だ。


 鳴海は次々に襲い掛かって来た男達の全ての腕の筋を切った。全員が右手の機能を失った事になる。


「反省するのなら治してやらない事もないですが3日以内です。それ以上になると流石の私でも筋の接続は難しくなりますので」


 そう言って鳴海は立ち去った。


 残された男達は唖然としていた。一体何をされたのかすらわからなかったからだ。そして、


「おい、俺の腕どうなってるんだよー」

「動かねーよ」

「俺の腕ー」

「何とかしてくれよー」

 と全員が錯乱状態になっていた。


 鳴海は再び例の川野介護センターを訪ねてみたが、今達永陽介は容態急変につき面会謝絶だと言われた。


『早々と手を打ったものですね。では今夜決行と行きますか』


「『闇』、達永陽介の様子はどうですか」

「はい、今の所問題はありません。ただ部屋に幽閉されています」

「では今晩救出に向かいます。準備しておいてください」

「はい、わかりました」


 その夜、鳴海と『闇』達は達永陽介の救出に向かった。『闇』達の前にはどんな障壁も問題ではなかった。


 全てを取っ払って達永陽介の部屋に辿り着いた。勿論達永陽介の部屋には施錠が施されてあったがそんなものは鳴海にはないも等しいものだった。


「達永さん、助けに来ました。動けますか」

「はい、でも手錠が」

「わかりました。ちょっと手を出してください」

そう言って鳴海は器用に達永陽介の手錠を外してしまった。

「では行きましょう」


 そう言って部屋の外に出てみるとそこにはガードマンらしき男達が3人のびていた。きっと『闇』にやられたのだろう。


 建物の外に出るとそこには車が用意されていた。それに達永陽介を乗せて鳴海は走り去った。


「あのーこれから何処に」

「そうですね、何処か安全な所に心当たりはありませんか」

「以前、記者時代にねぐらにしていた場所があります。多分そこなら大丈夫かと」

「わかりました。ではそこに案内してください」

「はい」


 そこはもう使用されてない家屋だったがまだ生活は出来そうだった。


「随分話せるようになりましたね」

「ええ、毎晩練習してましたからね」

「記憶の方はどうですか」

「はい、そちらも大分戻って来ました」

「かなり恐ろしい思いをされたんではありませんか」


「ええ、正直言うと殺されるかと思いました」

「でしょうね、だから自我を逃避させて自分を守ったんですよ。特殊な健忘症です」

「よくその様な事がおわかりになるんですね」

「私は医師免許を持ってますので」

「そうですか、お医者さんだったんですか」

「元です。今は普通のサラリーマンですよ」

「そのサラリーマンがまたどうしてこんな事を」


「あなたは川野麻美さんと言う人を知ってますか」

「えっ、麻美ちゃんですか。知ってますとも。彼女の小さい頃よく宋史の家で会いましたから」

「あなたは川野宋史さんの?」

「はい、同級生です。親友でした」

「そうでしたか、それであなたは川野さんの事件を追いかけていたんですね」


「ええ、あの事件はどう考えてもおかしい事ばかりでしたからね。ただそれを追いかけていたらキャップにストップをかけられたんです」

「新聞社のキャプですか」

「そうです。きっと何かの圧力があったんでしょう。それで俺は週刊誌の方に移って調べていたんです」


「そしたら今度は島村組ですか」

「よくお分かりですね。その通りです。すごいリンチを受けて死にそうになりました」

「それで記憶消失に逃げたと言う訳ですね」

「いや、俺には何が何だか。ともかく気がついや時には何も覚えていませんでした」

「それでいいのです。そうしてあなたは自分自身を守ったのですから」


「問題は彼らの悪事をどうやって裁くかですね」

「ちょっと待ってください。記憶の中にまだ何か引っかかってるものがあるのです」

「そうですか。では焦らずにそれを思い出しましょう」

「はい」


 その頃島村は組員を増員して余市に送り込んでいた。その数40人。こんな静かな町だ。40人ものやくざが町に入ったら否が応でも目立つ事になる。町の人達は何が起こるんだろうかと戦々恐々としていた。


 その報告を聞いて鳴海は首を傾げていた。島村の組は確か30人程の組だったはずだ。ではどうしてそんなに増えたのか。


 その話を達永にしてみると、それはきっと兄貴分の所から回してもらったんではないかと言う話だった。その兄貴分と言うのは札幌にシマを持つ外野組だと言う。


 島村と外野は兄弟分の盃を交わしていると言う事だった。札幌の外野組とは一体どう言う組なのか。こう言う時は餅屋は餅屋だなと鳴海は札幌に向かった。


 鳴海はこの前の居酒屋「香林」に行って川澄なる人物の事について聞いてみた。川澄と言うのはこの町に古くからいる老舗の博徒だと言う事だった。それも札幌の重鎮と言われ、町の重要人物とも懇親が深いと言う事だった。


 それで教えてもらった住所の所に行ってみた。そこは純然たる日本家屋の一軒家だった。それほど大きくはないが十分に手入れが行き届いていると言った感じの家だった。


 玄関に行ってみると呼び鈴などはなかった。だから引き戸を開けて中に入り「ごめんください。お邪魔します」と声をかけた。随分と古めかしいやり方だ。


 すると中から若い衆が出て来てちゃんと正座をして「どちら様でしょうか」と尋ねた。きっちりと仕込まれていると言う感じだった。


 鳴海は「私は先日居酒屋の「香林」で一緒に酒を飲んでいた天堂商会の鳴海とう者です。川澄さんにお会いしたいのですが」と言うと若い衆が「少々お待ちください」と言って奥にさがって行った。


 しばらくして川澄の爺さんが出て来た。


「よう鳴海さん、お帰り」

「どうも、ちょっと話を聞きたい事がありまして」

「ほーあんたがね。まぁ、おあがりよ」

「はい、失礼します」


 随分と軽い人だなた鳴海は思った。勿論それは良い意味でだ。


 奥の居間の座卓に座ると若い衆が実に良いタイミングでお茶を出して来た。これも実によく躾けられている。


「で、聞きたい事ってなんだい。鳴海さんよ」

「はい、札幌の外野組と言うのをご存じでしょうか」

「外野組だ・・あんた何か揉めてるのかい」

「いえ、直接ではないのですが小樽の島村組と兄弟分の関係にあると聞いたものですから」


「おいおい、あんたよっぽど面倒事が好きなようだな。それも選りによって外野と島村とはな」

「その二つの組がどうだと言うのでしょうか」

「奴らは札付きさ。おっと、やくざはみな札付きだがよ、あいつらはいけねーな」

「そんなに悪いのですか」


「ああ、やくざにも仁や義と言うものがあるんだがよ、奴らにはそれが欠けてやがる。まぁやくざの風上にも置けねーって言うのはやつらの事を言うんだろうな」


「そうですか、それで外野組と言うのはどう言う組なんでしょうか」

「そうさな、最近ではススキノの裏の部分でシノギをやってるって噂を聞くがな」

「裏といいますと」


「俗に売春や麻薬の事だ。こっちじゃ御法度の代物だがよ」

「それに島村も噛んでるとおっしゃるんですか」

「まだ証拠を掴んだ訳じゃねーんだがよ、小樽辺りから女が流れて来てると言う噂もある」

「つまりそれは売春の為の女性と言う事ですか」

「そう言うこったな。あんた一体何に首を突っ込んでるんだい」


「いえ、私は何も売春や麻薬には関係がないのですが、ただ16年目前に余市で自殺した夫婦の事でちょっと」

「16年前の余市だって・・・そう言えば外野の奴が勢力を伸ばし始めたのも確か16年前位じゃなかったかな。その時だろう島村の奴と盃交わしたのは」

「16年前ですか。その時に何か見返りでもあったんでしょうかね」


「かもしれねーな。それから羽振りが良くなったって聞いたからな」

「つまり大金が転がり込んだと言う事ですか」

「かもしれねーな」


「おまえさんよ、これ以上は素人が深入りしねー方がいいかも知れねーぞ。命がいくらあっても足りなくなるかも知れねーからな」

「そうですね。気をつけます」

「ただあんたが素人ならだがな、ははは」

「肝に命じておきます。ありがとうございました」


「何だもう帰るのか、ゆっくりして行きなよ。あんたを待ってる人がいるんだよ。お陰でこっちはてぇへんだよ。どいつもこいつも浮足立っちまいやがってよ」


「よう、もういいぞ。出て来てもよ」


 そう言われて出て来たのは青海だった。


「な、なんでお前がここにいるのです」

「社長がさ、お兄ちゃんを手伝ってやってくれってさ」

「冗談でしょう。何で社長が・・・」


「なぁ、鳴海さんよ、あんたよっぽどこの子が苦手らしいな」

「いえ、そう言う訳ではないのですが」

「どうでぃ、今日はここでゆっくりしていかねーか。余市には明日帰りゃいいじゃねーか」

「でもそれでは」


「そーさな、ここで泊まってもらうと言うのもなんだな。それじゃ近くにホテルを取ってやるからよ、それでいいだろう。それによ、その外野にも会わせてやるぜ」


 そう言われると無下に断る訳にもいかず、この夜は札幌で一泊する事にした。そして達永陽介の方は『闇』に護衛させることにしておいた。


 鳴海は何となく憂鬱な気分だったが青海は嬉々としてはしゃいでいた。全く持って疫病神だと鳴海は思っていた。今までこいつのお陰でどれだけの被害が出た事かと。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ