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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第六部
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第四話 天堂襲撃

天堂は大阪戦争の後、「関西縁友会」の相談役に

なって欲しいと言われてしまった。

一応は引き受ける事にした。

すると今度は神戸から。


 天堂の所に山根組の組長と大阪No2の寝屋川の東条組の組長が二人揃って訪ねて来た。


 例の大阪のやくざの親睦団体「関西縁友会」のメンバーとしてだ。そこで天堂に会の相談役になって欲しいと頼み込んだ。


 勿論名前だけで特に堅気衆に関する事で相談事があれば相談に乗ってもらうだけでいいと言った。


 相談役には内部役職も権限も何も束縛されるものはないと力説していた。


 それを聞いた天堂と鳴海は一応会の綱領を見せて欲しいと言った。


 あくまで親睦会で法的な組織ではないので簡単な綱領しかなと言いつつも一応は用意していた。そこは抜かりなくやって来たようだった。


 鳴海に読ませて鳴海の意見を聞いた。鳴海はいいんではないですかと言った。


 ただし辞めたい時はこちらの一存で辞めさせてもらうと付け加えておいた。山根達はそれで結構ですと言って引き上げて行った。


 正直山根も東条も天堂達を前にしてビクビクものだった。それだけ天堂達を恐れていた。


 しかしOKがもらえたので肩の荷を下ろした様に安堵して帰って行った。


「どう思うよ、鳴海」

「正直見え見えですが、まぁ、ここは乗ってやってもいいんではないですか」

「つまり俺に敵の標的の神輿になれと言う事か」

「そうですね。その方が事が早く運んでいいんではないですか」

「まぁ、そう言う見方もあるな」


 大阪戦争が終わった後日、天堂と鳴海が「Time Out」で酒を飲んでいるとまた吉田がやって来た。

 

「よう今日は凸凹コンビが揃てるやないか」

「だから言ってるじゃないですか。俺達は凸凹コンビじゃないって」

「ところでな」

「なんだ無視かよ」


「お前らこの前、ドタバタやったんやてな」

「何の事ですか、よくわかりませんが」

「隠さんでもええがな。ネタは割れてるんや。うちにも極秘の回覧板が回って来とったぞ」

「どう言う回覧板です」

「要するに今日1日、やくざ同士のどんな揉め事があっても一切関与するなと言うようなもんやったな」

「そうですか」


「特にうちの部署では文句タラタラ言うとったが上からの命令や、しゃーないわな。それに一般市民にさえ被害が出んのならええやろうと言う事で了承されたんや。あれ、お前の差し金やろう」

「何で俺が。そんな事してませんよ」


「アホか。府警のトップにそんな圧力かけられるのは吉秋を除いたらお前くらいのもんやろうが」

「そんな事はないでしょう」

「それで何処と戦争したんや。そう言うたら山根組がドタバタしとると言う報告があったけど、まさか山根組やないやろうな」

「そんな無理ですって。向こうは大阪最大のやくざ組織ですよ」


「そやな。2,500と9では話にならんか」

「そうですよ。それに俺達は今ここでこうして酒を飲んでる訳ですから」

「そらそうやな。もし本当にぶつかっとたら今頃お前らはおらんわな」

「そうですよ」

「しかしな、どうも気になるんやがな」


「今日はそんな事を言いにここに来たんですか」

「そうや忘れとったわ。この前本部にも『SCU』の課員がいると言うたやろ」

「ええ」

「そいつらが何や知らんけど公安部長に怒られとったと言う話や」

「どうしてまた」

「さーどうしてやろうな。それはお前の方がよう知ってるんとちゃうか」

「いいえ、俺は何も」


「それでな、それが原因かどうかは知らんが東京から助っ人が来るらしいで。何人かはわからんけどな。そやからお前らも気つけた方がええんとちゃうかと思うてな」

「それはありがとうございます。でもいいんですか。そんな事俺達に教えて」

「元々組織にはない部署や。漏洩には当たらんやろう」

「確かに」

「あぁ、また酔いが醒めてもうたがな。やっぱりやくざとは酒飲むもんやないな。じゃーまたな」

 そう言って吉田は帰って行った。


「今度、吉田さんの為にボトル一本入れておいてやるか」

「社長、それはまずいでしょう。収賄罪に問われかねませんからね」

「そうか、まずいか。それならまだしばらくは自腹で我慢してもらうか」

「そうだ。吉川雅代さんに頼みましょう。彼女からなら問題ないでしょう」

「そうだな。OK。じゃー鳴海、頼んだぞ」

「何で私なんですか」


 天堂には昼の休み時間に鳴海とよく一緒に行く喫茶店とはまた別に一人だけで行く喫茶店があった。


 ちょっと凝った感じの特にコーヒー豆を吟味し、味を重視する店だった。だからあまり客が多いとは言えない。むしろ閑散とした店と言った方がいいだろう。


 よくこれで経営が成り立ってるもんだと思えるが、しかし店のマスターはそれでも自身のスタイルを変えようとはしなかった。


 まぁ、頑固と言ってしまえば頑固なんだが、それだけ自分のやり方に自信と誇りを持っていると言う事だろう。


 だからそんな所が気に入ったのか天堂はよくこの店に通ていた。店の名を「カプリ」と言った。


 鳴海もその事は良く知っていたが敢えて天堂一人の時間を邪魔しようとはしなかった。


 普通やくざの親分がそう言う所にボディーガードも連れずに一人で行く事はない。


 しかし天堂は別だった。大体天堂にボディーガードが必要なのかと言う話だ。


 店のマスターも天堂の事は知っているが敢えて余計な話は何もしない。ただコーヒーを作って出す。


 後は静かなソフトミュージックに耳を傾ける。そう言う時間が流れるだけだった。


 丁度そんな頃ここ神戸では山王会の数人の幹部が集まって大阪攻略の相談をしていた。


「いずれこの話は幹部会に上げんといかん話やけど、どないや大阪の様子は」

「そやな兄弟。わしは大阪は一枚岩やないと思とったんやけど、何や最ちょっと様子がおかしいんや」

「様子がおかしいとは」


「何とのうまとまっとる様に見えるんや」

「それはどう言うこっちゃ。何処が音頭取っとるんや」

「それがようわからんのや。個別には手組んでる訳やないのに、事大阪に関してはまとまりがあるようなんや。訳がわからんで」


「ああ、わしもそんな話聞いたで。何でもまとめ役がおるみたいやで大阪には」

「まとめ役、それは山根組やないのか。あそこが大阪最大の組やろうが」

「それがな、どうも違うようなんや」

「どう言うこっちゃ、それは」

「わしもそんな話聞いたで。ただし夢物語みたいな話やけどな」

「何や、それは」


「何でも天堂組たら言う10人もおらんようなちっちゃな組があって、そこがまとめ役やっとるとか」

「それはないやろう。なんぼ何でもそれは無茶過ぎる話やろう」

「そうやな」

「わかった。ほなわたしが確かめて来たるわ。そんでそれがほんまやったらその天堂たら言うガキの玉取って来たる。そんで終わりやろう」

「よっしゃ、ほな、この件は兄弟に任せるで」


 山河会耶蘇組組長耶蘇幸吉が手下を連れて大阪に出張ってきた。


 勿論その前に配下の探偵を使てある程度の下調べはしてあった。ただその中で驚いたのは天堂組のシマだった。


 組員がたったの8人しかいないのにどうしてあんな一等地のシマを彼らだけで維持出来るのかと言う事だった。


 いくら調べてもバックの組は見当たらない。要するに一本どっこでやっていると言う事だ。


『これは美味しい餌やないか。兄弟らには悪いがそのシマわしがいただこうか。そう言う事ならどっちにしてもその天堂とか言うガキの玉はもらわんとあかんの』


 耶蘇は今回2台の車でやって来た。1台には耶蘇と頭の戸崎と運転手の河北。もう一台には耶蘇の所の戦闘部隊と呼ばれる精鋭4人を乗せて。


 事と次第によってはその場で天堂の命を奪わなければならないので信頼出来る部下4人を選んで連れて来たと言うところだ。


 勿論天堂が時々一人で「カプリ」と言う喫茶店に出入りしている事も調べがついている。そして今日がその日だと言う事も。


 天堂がいつもの入り口に降りる階段の上で一旦足を止めて空を仰ぎ、「まぁ、いいか」と一言言っていつものように階段を下って地下の入り口のドアを開けた。


 普段なら人一人いないはずの店に今日はどう言う訳か人がいた。カウンターには2人が腰をかけてコーヒーを飲んでいた。


 マスターはちらっと天堂を見たが直ぐに目をそらした。それだけで天堂には大よその事は把握出来たが気にした様子もなく中へ入った。


 ドアを閉めて店の中に入った所で左右から2人の男に挟まれ2丁の拳銃が天堂の目の前にあった。


「あんたほんまに一人で来るんやな。組長はんともあろう人がそれじゃ危ないやろう」

「俺はそんなに重要な人間じゃないんでね。それで俺に何か用かい」

「ちょっと話がしとうてな。どや、そこに座れへんか」


 そう言って奥のテーブルに顔を向けた。天堂はマスターに「いつもコーヒーを」と言ってそのテーブルに向った。


 天堂がテーブルの奥に座るとその正面に耶蘇が座り、その左右に2人ずつの組員達が立った。頭の戸崎はカウンターからこちらを見ていた。


 マスターがコーヒーを運んで来た後で、

「で、俺に話と言うのは」

「わしは耶蘇組の耶蘇言うもんや。覚えておいてもらおうか」

「神戸からわざわざご苦労な事だが、その耶蘇さんが俺に何か用かい」


「いや、ちょっと妙な噂を聞いたもんでな、何でも大阪の極道をまとめとる奴がおるとか。それはあんたかいな」

「冗談も休み休み言ってもらいたいもんだな。俺のとこはたった9人の小さな組だ。そんな小さな組になにが出来ると言うんだい。それ位はあんたでもわかるだろう」

「確かにそうやな。ほな、わしらの思い違いと言う事か」

「そうだな」


「まぁ、それならそれでええんや。どやわしの子分になれへんか」

「あんたの子分になって俺のとこのシマの売り上げを上げろって事かい」

「わかりが早いやないか」

「ところが俺はシマ内でしのぎは何もしてないんだよ。だから俺からは上納金は取れないよ」


「何やと、ほなどうやってしのぎしとるんじゃい」

「まっとうな商売だよ。俺は今古美術商やってるんでね」

「ほな、それを上納金として上げたらええやないか」

「それもお断りだ」

「何やと、われ舐めとんのか」

「うちは昔から一本どっこが信念でね。何処の盃も受ける気はないんだよ。申し訳ないな」


「そうか、ほなしゃーないな。ここで死んでもらおうか」

「俺をヤルと。面白い事を言う人だ。出来るんならどうぞ」

「冗談やとでも思とるんかい。おい」


 そう言われて耶蘇の左右にいた男達が一斉に天堂を取り囲み拳銃を天堂に向けた。普通ならこれで終わったはずだった。


 しかしそこまでだった。拳銃が発射される事はなかった。耶蘇は不思議な顔になり、やがて血相を変えて部下達を怒鳴った。

「何やっとんじゃ、はよやらんかい」


 しかしそれでも部下達は動かない。いや動かないのではない、動けないのだ。


 天堂の「鬼気」に当てられて体が硬直していた。いや、それだけではない。心臓は鼓動を速め、身体からは冷や汗が噴出し、息も絶え絶えになり、立っているのが精いっぱいと言う所だった。


 少しでも気が緩めばそのまま二度と帰っては来れない旅に出なければならないとさえ思われた。


 業を煮やした耶蘇が立ち上がり一人の部下から拳銃を奪い、今度は自分で天堂の始末をつけようと天堂に狙いを定めた途端、耶蘇も同じ状況に陥ってしまった。


 体中に震えが来てそれこそ立っているのがやっとだった。しかも耶蘇は彼らよりも年を取っている心臓への負担は更にきつかった。息も満足に出来ず目の前が真っ暗になりそうだった。


 その時点で天堂は「鬼気」を解いてカウンターに歩いて行ってマスターに金を払った。


「悪かったね、マスター。商売の邪魔をして。この人達はもう来ないと思うのでこれで勘弁してくれ」

 そう言って3万円を払った。


「天堂さん、こんなには」

「いいよ、迷惑料だ。取っておいてくれ」


 そう言った時、天堂の横で腰かけていた頭の戸崎が懐に手を入れた。


 その時天堂の手が軽く戸崎の肩に触れた。それだけで戸崎は動けなくなってしまった。


「なぁ、あんた。ここは堅気さんの店だ。野暮な真似はなしにしようぜ」

 そう言って天堂は出て行った。


 ようやく体が動くようになった戸崎は後ろの席を振り返った。するとそこでは組長の耶蘇を始め4人の部下達が床に膝と手をついて肩を鞴の様の激しく動かしていた。


「おやじー、どうしたんです。大丈夫ですか」


 そう言って駆けつけてはみたが、自分も足元がおぼつかない状態だった。


「おやじー」

「ああ、戸崎か。帰ろか。撤収や」

「は、はい」


 戸崎がカウンターに戻って金を払おうとしたがマスターが、

「料金はもう天堂さんから頂いておりますのでそのままお帰りください」と言った。


 普通ならそんな格好の悪い事が出来る訳がない。見栄を張るのが極道だ。しかしこの時だけは戸崎もそれに逆らうだけの気力さえ持ち合わせてはいなかった。


 全員が何とか車に戻って神戸への帰路の中で、耶蘇がぽつりと言った。


「なぁ、戸崎よ。わしらは虎の尻尾を踏んでもうたのかもしれんな」

「おやじ、あれは」

「言うな。何もなかったんや。今回の事は何もなかった事にしとけ」

「はい、わかりました」


 武闘派で知られる戸崎もこの耶蘇の言葉を素直に受け入れた。それは自分の体が十二分に理解していたからだ。あの男には絶対に勝てないと。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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