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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第六部
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第二話 大阪戦争の終結

天堂一門は大阪最大のやくざ組織山根組との決戦に臨んだ。


 戦争の当日、天堂達は朝5時から集まり、ワイワイガヤガヤと焼き鳥の準備をしていた。これはピクニックだった。これから命のやり取りをしようと言う雰囲気など微塵もなかった。


「おっ、良い匂いがして来たぞ。流石は備長炭だな。黄崎、お前よくこんなもの持ってたな」

「俺は焼き鳥には目がないからいつも準備してあるっすよ」


 そんな事を言いながら焼き鳥にかぶりつき、ビールで乾杯をしていた。そして焼き鳥のパーティが終わりに近づいた頃、ようやく井之頭達の兵隊がやって来た。


 その数実に850有余人。こうして並ぶと実に壮観だ。その先頭が匂いに気づき、

「てめえらなにやってやがる」

「腹が減っては戦は出来ぬって言うだろうが。だから焼き鳥で乾杯やってたんだよ」

「何やと、おんどれら舐めとんのか」

「まぁ、そうピーピー言うなって。ちゃんと相手してやるからよ」

「うるさいわ」と言って一人が銃を撃った。


 その銃弾は七輪の近くに着弾した。

「危ないなー、七輪に当たったらどうするんだよ。中の備長炭が壊れるだろうが。これはまだ使い道があるんだからな」

「おい、そこかよ」


 黄崎は最後の焼き鳥の一本を咥えてやっと戦闘準備に入った。井之頭達は天堂達を取り囲もうとしたが、何故か天堂達の前にはコンクリートの道路封鎖の時に使うブロックが逆八の字型に置かれてあったのでどうしても扇形に陣形を敷く事になってしまった。


「それじゃー行くか」と言う天堂の言葉で天堂を先頭に全員がその後ろに一列に並んだ。これは「九龍の矢の陣」と言う陣形だった。


 そこに向けて先頭の集団が総射撃を始めた。今回彼らが用意したのは120丁の短銃だった。それが一斉に火を噴いたのだ。普通なら生きていられるはずがない。しかしそのどれもが天堂達には当たらなかった。


 ただ当たらないのだ。弾き返された訳でも素通りした訳でもない。まるで弾自身が自らの意思で避けて行ったかのように。弾倉が空になるまで撃ち尽くしたがやはり一発も当たらなかった。


 井之頭達は唖然としていた。あまりにも現実離れしたこの事実に。こんな事があるはずがないとみんな思っていた。しかし天堂達は着実に近づいてくる。銃を握った手に脂汗が浮かび一人一人と後ずさり始めた。


 それを後ろから叱咤する幹部達。


「何しとるんじゃ。やったらんかい。ハジキがあかんかったらドスでやったれや」


 そう言って自分自身をも奮起させていた。その時六体の龍が一筋の光の中から飛び出した。みんなの目にはそう見えたと後で言っていた。


 天堂の部下達が歓喜に満ちて戦場に散って行ったのだ。800を超える井之頭の部隊が地に伏すまでに要した時間は僅か10分足らずだった。


 天堂はその様子を満足そうに眺めていた。そこに続々と帰ってきた部下達が文句を言いだした。


「社長、これで終わりですか。これじゃー前菜出されて、メインデッシュはお預けみたいなもんじゃないですか」

「おい、それ、和食と洋食ごちゃ混ぜにしてないか」


 その頃天堂の事務所に京都の吉岡から電話が掛かって来た。


「おお、鳴海か。ちょっと聞いたんやが、お前とこと山根組とで戦争するんやて」

「ええ、もう始まってると思いますが」

「始まってるって、そんなに落ち着いててええんか。兄弟は今何処におるんや」

「部下連れて今現場に行ってます」

「部下って何人や」

「今回は6人です」

「ほんで向こうは」

「多分850人位だと思います」


「なにー850人やと。アホか。そんなもん戦争にもなれへんやないか。直ぐに逃げんかい」

「もうそろそろ終わるか、もう終わってる頃だと思いますが」

「お前な、そんなのんきな事言うててええんか。お前のおやじの事やぞ。心配とちゃうんか」

「うちの社長と部下の事ですから心配はしてません」

「それ本気で言うてるんか」


「ええ、ちょっと待ってください。社長からです」

『はい。わかりました』

「吉岡さん。今終わったそうです」

「終わったてどう言う事や」

「勿論勝ちましたよ、うちが」

「勝ったって、ほんまに850人に勝った言うんか」

「はい」

「ほんま信じられんな。お前らは」


 同時刻、丹波からも電話が入っていた。


「おい、誰かおるか」

「はい、こちら天堂商会、黒田です」

「おお、黒田か。どないなっとるんや、戦争は」


 この頃になると金森の所では、天堂商会の社員は全員幹部クラスの扱いだった。


「ええっとですね、ちょっと待ってください、部長が何か言ってます。戦争は終わったそうです」

「終わった。それでどうなったんや」

「勝ったそうです」

「勝ったやと。あの山根組に勝った言うんか。いや、そう言うてもまだ山根本体に勝った訳やないけど、それにしても井之頭の部隊に勝ったんやろう。それだけでも大したもんや。まぁ、それくらいはやるやろうとは思とったけどな」


「社長はこれからちょっと後始末に行くそうです」

「そうか、わかった。そしたらまたそっちに出向くと伝えといてくれ」

「わかりました」


 実は今回のこの戦いに関しては天堂が府警のトップに手を回して一切関与しない様に頼んでいたのだ。府警にはまだ弱みがあったので仕方なくその提案を飲んだ。


 それにやくざ同士の戦争だ。一般市民にさえ被害が出なければむしろ潰し合ってくれた方が助かると思っていたので丁度良かったのだろう。


 ただしこの戦いの最中に裏の公安から回された2名の課員が今回の戦いの様子を偵察しに来ていた。しかしそれは緑によって眠らされてしまったので内容を知る事は出来なかった。


 天堂は闘いが終わった後、井之頭の車を眺めていた。井之頭は戦闘の後方で、4台の車に前後左右の四方を守らせてこの戦いを観戦していた。


 天堂は赤城に右の1台を蹴り飛ばして残りの3台を井之頭の車に貼りつけて来いと言った。赤城は天堂の言いつけ通りまずは右端の車を蹴り飛ばした。すると車はまるでおもちゃの様に空中で一回転半して屋根から地面に落ちた。誰が信じられるだろうか、人間が蹴って車を宙に舞い上がらせるなどと。


 そして井之頭の前の車は前から、後ろの車は後ろか蹴って井之頭の車をサンドイッチにした。そして左隣の車も。そうなると出口は右のドアだけになってしまった。井之頭からすれば左側のドアと言う事になる。


 そのドアの前に立った天堂が、

「どうした井之頭、出て来いよ。いつまで亀みたいにすっこんでるつもりだ」


 それでも出て来ないので赤城は前の助手席側のドアを蹴った。するとそのドアは半分ほそ車の中にめり込んだ。運転手はそれを見て気を失ってしまった。


 井之頭とその横に座っていた頭の袖垣は這うように車から出て来た。その時には地面に両ひざと両手をついて、顎からは汗が滴り落ちていた。


「お前確か言ったよな。『事務所たたんで出て行くか盃受けるかのどっちかにせえ』と。で、どうするんだよ。この落とし前は」

「いや、それは、そのー」

「やくざって言うのは吐いた唾は飲まないんじゃなかったのか。それとも俺を舐めてるのか。井之頭さんよ」

「決してそう言う訳では」

「俺は今からお前の大将の所に話に行ってくるからここで待ってろ。いいな。逃げたら承知しないからな。赤城、こいつらを見張ってろ」

「了解です」


 山根組の本部では今か今かと井之頭の報告を持っていた。たかが8-9人の組だ。それをあれだけの人数で繰り出したんっだ-1時間もかからないだろうと山根は考えていた。


 そこに入って来たのが天堂だった。


「何じゃお前は。ここを何処やと思とるんじゃ。山根組の本部やど」

「わかってるさ。だから来たんじゃないか」

「何やと。誰かおらんのか!」

「ああ、表の奴らならみんな床に転がってるよ」

「何やと、そんなアホな」


 そう言って本部長の笹村は補佐の一人に様子を見に行かせた。


 帰って来た補佐が、その男の言う通りだと言った。誰一人として満足の動ける者はいないと。


「われは一体誰じゃ」

「俺か、俺は天堂だ。お前達が喧嘩を売って来た天堂商会の社長だよ」

「何!、そんなアホな。お前らは今堺で戦争やっとるんとちゃうんか」

「あぁ、あれはもう終わったよ。何なら確認してみるか。井之頭はまだ現場にいるからよ。電話かけてみたらどうだい」


 そう言われて笹村が井之頭に電話をかけ、会長の山根に渡した。


「おい、井之頭。どうななっとるんや。ここに天堂たら言う奴がきとるぞ」

『会長、すんません。敗北ですわ。わしらみんなやられてしまいました』

「何、アホな事言うとるんじゃ。800人からの兵隊連れて行ってたかが10人足らずにやられたやと。お前寝ぼけとるんか」

『会長、それがほんまなんですわ。わしらじゃ全然歯が立ちませんでした。完敗ですわ』

「何やと・・・」


「わかったかい、山根さん。で、この落とし前どうつけてくれるんだよ。そっちから仕掛けて来た喧嘩だ。これでお仕舞って事はないよな」

「いや、それはやな。井之頭が勝手にやったことでやな」

「舐めてんじゃねーぞ。子供の不始末は親の責任だろうが」


 その時外から駆けつけた山根の子分たちが部屋に飛び込んで来た。その数10名余し。


「会長、どうなってるんですか。表でみんな倒れてましたが、カチコミですか」


「おお、金浦か。そうやカチコミや。こいつやってまえ」


 そう言われた金浦達は一斉に天堂に襲い掛かった。しかし天堂には指一本触れられずにこれもまた床でのたうち回っていた。


 それがあまりにも非現実的な光景だった。とても人の成せる技ではなかった。突っかかって行った一人一人が天堂に触れるか触れないかの所で、全員が四隅の壁まで弾き飛ばされ、肢体をばたつかせて壊れかけの人形の様になっていた。


 それを見た山根も笹村も声が出なかった。しかしそこは流石に多くの修羅場を掻い潜って来た山根だ。机の引き出しから拳銃を取り出して天堂に狙いをつけた。


「ようやってくれたの。そやけどこれでお前も終わりや。覚悟せえや」


 そう言って引き金を引こうとしたが指が動かなかった。いや、それどころか体に震えが来た。心臓が鼓動を速め、冷や汗がタラタラと流れだして来た。


 山根は生きた心地がしなかった。いや俺はこれで死ぬのかとすら思った。それは笹村も同じだった。ここでも天堂の「鬼気」が発動されたのだ。


 もう少し強めれば心臓麻痺を起こすと言うほどのものを。今回の天堂に容赦はなかった。正直な所死んでも構わないと思っていた。ただ瞬殺されなかっただけでも山根は運が良かったと言うべきだろう。


 天堂が「鬼気」を解いた後では山根も笹村も床にうっぷして吐しゃ物を吐き出しながら苦し気に空気を吸い込んでいた。その影響は床に転がっていた10名の部下達も同じだった。


 そしてようやく顔を上げた山根を無理やり立たせて両腕の上膊部の経絡秘孔に指をあて「点穴」を行った。天堂の「点穴」は普通の「点穴」ではなかった。そこに龍気を送り込み身体の機能を永久的ににマヒさせるのだ。


 そして天堂はこう言った。


「お前の腕の経絡秘孔を突いた。お前の両腕はもう一生動かないだろう。そしてそれは誰にも治せない。嘘だと思うなら日本中の医者に診てもらうんだな。それを元に戻せるのは俺だけだ。そして俺が死んだらお前の腕は一生そのままだ。両腕の使えない生活がどんなものか。よく味わってみるんだな」


 そう言って天堂は山根組を去った。


 この時やっと山根と笹村は、この天堂と名乗った男が、あの日キタ新地のクラブで京都の吉岡と丹波の金森と一緒にいた男だと思い出した。

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