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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第五部
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第四話 金森との義兄弟

 天堂は今までの緑の報告と捕らえた二人の暗殺者から引き出した情報を合わせて新たな敵の事を考えていた。


 ただ惜しむらくは敵の大将、ケビン大佐と言う男を自害させてしまった事だった。


 彼からならもう少し詳しい情報も引き出せただろうに、二人の小者からでは大した情報は引き出せなかった。


 ただ少なくとも彼らは一種の国際な組織である事がわかった。そして日本の何処かに日本支部と呼ばれるものがある事も。


 彼らの組織名はかって神戸の暴走族グレーン・ファイヤーズのリーダーが死に際に言った「フォーグル」だった。


 それがどんな組織なのかはまだ不明だが明らかに組織された暗殺集団であることは間違いなかった。


『表の世界の暗殺集団か。面白いな。俺達とどう違うのかお手並み拝見と行くか』


 そして天堂は今回の贋作事件は単なる試験的なものではなかったかと考えていた。


 何がどう言う試験だったのはまだはっきりわからないが、少なくともその手の組織の収入源としては採算の合わないものだろう。


 そもそも贋作などと言うものは優れた才能を持った一握りの人間に限られる。しかも時間もかかる。


 多少高額で取引出来たとしても多売出来るようなものではない。そう考えればそれは商売として成り立つ様なものではない。


 神戸でやっていた麻薬の方が遥かに大きな収益が上がるだろう。


 なら何故あんな贋作なんかに手を染めたのか。きっとそこには別の目的があったのではないだろうかと天堂は考えていた。


 そんな時だ、丹波から金森がやって来た。頭の富永を引き連れて。富永は大きなスーツケースを一つ提げていた。


「天堂はん、これは約束の礼金や、少ないが受け取ってくれんか」


 そう言ってスーツケースを開けた。そこには現金がごっそりと詰まっていた。一億円あった。


「何ですかこれは。こんなにはいただけませんよ」

「なぁ、天堂はん。これは言うてみたらわしの息子の命の値段みたいなもんや。あんなくだらん奴でもわしの血を引く一人息子や。あの息子の命を救ってくれた値段として受け取って欲しいんや」

「金森さん」


「なぁ、頼むわ。それでないとわしの気持ちがすまんのや」

「そうですか、わかりました。そう言う事なら遠慮なく頂いておきます」

「おおきに、天堂はん」


「それでな天堂はん。一つお願いがあるんや」

「なんですか、また改まって」

「わしをあんたの舎弟にして欲しいんや。いや、舎弟はあかんかったんやな。それなら吉岡の兄弟と同じで兄弟分で頼むわ」

「なんですかまた急に」


「いや、急にやない。あんたがわしのとこに訪ねて来てくれた時からもう決めてたんや。わしが付いて行くのはあんたしかないってな。第六天魔王しかないんや」

「金森さん、止めてくださいよ。俺のとこは一本どっこですから」

「それは承知や。そやけど吉岡の兄弟かてそうやろう。ほならわしもそれで頼むわ。これだけはあかん言われても引けへんで」


「参ったな、本当にあなたと言う人は。わかりました兄弟分で結構です。でも正式な盃事はしませんが、それでも構いませんね」

「おおきに、兄弟。これで安心して眠れるわ」

「これも良いんじゃないですか。社長」

「そうか」

「ええ、そうですよ」


 こうして京都の吉岡に引き続き丹波の金森が天堂の兄弟分になった。


 共に老舗の侠客であり、また武闘派でも知られる組だった。地域での勢力もまた群を抜いている。そして彼らは実質的には天堂の舎弟になったのだ。


 それじゃー祝杯をあげようと言う事で京都の吉岡も呼んで大阪で一杯やる事になった。


 ただ場所は「クラリオン」は避けた。やくざが集まるには少し場所柄が高級過ぎた。


 これが天堂でなければここを選んだろう。しかし天堂は実質的なオーナーでもある。


 だからここはやはり堅気の店としておきたかったので余りやくざの集まる所にはしたくなかったのだ。


 それで今回は新地でナンバー2と言われる高級クラブの「銀嶺」にした。勿論ここでも天堂は顔だった。


 天堂と鳴海、吉岡と田崎、それと金森と富永がこの店のテーブルに着いた。


 そしてみんなで兄弟分になった祝杯をあげた。これが言ってみれば契りの盃みたいなものだった。


 天堂も金森の息子の話は避けていた。その代わり神戸の情勢について聞いてみた。


 すると吉岡が最近どうやら神戸が大阪に触手を伸ばしてきたようだと言った。


 特に今は大阪の高級住宅街と言われる豊中方面で少し揉め事が起こってるようだと言った。


 豊中に事務所を出した山河会系の組と地元の組との間でイザコザが起こっているらしい。


 それも恐らくは仕組まれた事だろう。揉めさせておいてバックが出てくると言うシナリオでも作っているのだろう。


 しかしそれは天堂に取ってはどうでもいい事だった。天堂が大阪を守る必要はない。


 ただし天堂の敷地内に入って来たらそれは話が別だ。降りかかりる火の粉は払わなければならない。その場合は徹底的に叩き潰す事にしていた。


 そんな話をしていた時に別のグループが入って来た。それは山根組の会長率いる一団だった。


 山根組と言うのは大阪最大のやくざ組織だった。組員数2,500を誇る最大最強の組織だ。


 その時こちらに気の付いた本部長の笹村が山根に耳打ちした。山根はちらりとこちらを見て、にこりと笑って近づいて来た。


「これは京都と丹波のご両人、今回はお揃いでどうされました」


 大阪最大のやくざ組織の会長と言えどもこの二人には一目置いていた。例え数で勝ってはいてもこの二つの組には侮れないものがあったからだ。


「これは久しぶりですな山根さん。いえ、ちょっとした内輪の祝杯ですよ」

「わざわざ大阪に来てですか」

「まぁ、ちょっとしたついでがあったもんですから」

「そうですか、ほなまぁ、ごゆっくり」


 そう言って山根達は奥のテーブルに向って行った。


「おい、笹村、吉岡と金森はわかるが真ん中におった奴は誰や」

「さー俺にもちょっとわかりません」

「そうか。もしかしたら個人的な知り合いかもしれんな。やくざには見えんかったからな」

「そうですな」


 流石の山根も天堂の事は知らなかったようだ。無理もないだろう2,500を誇る大組織の会長が10人にも満たない組の事など知る由もない。


「今のは?吉岡さん」

「あれは山根組の会長や。大阪最大のやくざ組織や」

「へーあれが大阪最大ですか」

「そやな兄弟。もしかしたら何処かで兄弟とはぶつかる事になるかも知れんな」


「それはないでしょう。そんな大組織と俺のとことじゃ比べようもない」

「いや、それはどうかな。あいつ結構山っ気があって、人のもんは何でも欲しがるタイプやと聞いたからな」

「それはまた厄介な」


「そやな金森の兄弟、あんたの言う通りや。あいつが兄弟のシマの事知ったら触手動かしかねんな」

「そう言うこっちゃ、兄弟。気いつけや」

「わかりました。気をつけておきます」


 そんな話をしながら天堂との祝いの席はそれでお開きとなり、吉岡も金森もそれぞれの場所に帰って行った。


 帰りの車の中で、

「おやじ、どうなりますかね、天堂の叔父貴と山根は」

「そうやな、このままで何事もなしに終わるとは思えんな」

「そうですか、やっぱり」

「ああ、山根は欲の皮が突っ張とるからな、天堂の兄弟のシマの事を知ったら絶対に取りに行くやろうな」


「もしそうなったらわしらはどうしたらええんです。加勢に行きますか」

「そやな、それは兄弟次第やろうな。もし加勢してくれ言うたら一も二もなしに加勢するで」

「そうですな、やっぱり」


「ただな富永、あの兄弟は第六天魔王や。わしらの加勢なんかいらんかもしれんで」

「あのーおやじ。その第六天魔王ちゅうんは何ですか」

「なんじゃお前、知らんかったんか」

「へぇ、すんまへん」


「第六天魔王言うんは織田信長の事や」

「あの織田信長ですか」

「そうや、あの稀代の大うつけの織田信長や。そやから兄弟も並みの男やない。しかし正直な所はわしにもわからん。ある意味楽しみな事ではあるがな」

「そうですか」


 京都に向かう吉岡の車の中でも同じ様な話がなされていた。


「おやじ、やっぱり加勢に行くんですか」

「そら当たりやろう。兄弟に何かあったら助けてやらんとな」

「そやけど相手はあの山根組でっせ」

「それはわかっとる。いざとなったらわしらも根性決めんといかんやろうけどな。ただな、わしにもはっきりとはわからんのやが、兄弟の事やから何かやるんではないかと言う気もするんや」

「それはどう言うことですか」

「さーな、わしにもわからん。ただある種の期待感があるんや」

「そうですか・・・」


 肝心の天堂の方ではどう考えていたのか。


「なぁ、鳴海。もし山根と事を構える事になったらどうする」

「どうするもこうするもないでしょう。みんな喜ぶでしょう。最近暇だと愚痴をこぼしてましたので」

「そうか、みんな喜ぶか。ははは、そうだな。うん、そうだな」


 と、とんでもない答えだった。

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よろしくお願いいたします。

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