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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第四部
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第四話 合法ドラッグ

合法ドラッグの製造元を突き止めた鳴海はその壊滅に向かった。

しかしそこに一人、特別な存在が邪魔をして来た。

「何だと、洋二じゃ準備運動にもならないからもっとましなのを出せと言っただと」

「はい、そう言ってました」


「晃司、お前のナイフでもどうにもならなかったのか」

「すいません。全然歯が立ちませんでした」

「そうか、洋二がそうあっさりとやられるようじゃな。無理ないか」


「洋二さんは」

「肋骨が3本折れて全治2か月だ」

「そうですか」


「じゃーどうします」

「どうしますって。もっとましなのを出せって言ったんだろう。ならましなのを出すしかないだろう」

「ましなのって、まさかあの人を出すんですか」

「それ以外に何があるよ」


「でもそれはあまりにも危険では」

「しかし他に何か手があるか」

「いえ、・・・」

「なっ!」


 この男、名前を田野倉三郎と言い、田野倉薬品の三男坊だ。田野倉薬品と言えば日本でも五指に入る大手薬品メーカーだ。


 長男の一郎と次男の次郎は会社に入り若くして着々と将来の経営者としての帝王学を学んでいる。


 ただこの三男坊はそう言うのが肌に合わないのか一人離れて我が道を歩んでいる。


 大学では薬学部を実に優秀な成績で卒業した。普通なら何処かの製薬会社等の道に進むのだろう。


 だが何を思ったのか、同じ大学やサークルで知り合ったアウトローの学生達と組んである事を研究し始めた。


 それが合法ドラッグと言われるものだった。


 いくら合法と言う名はついていても、それは現行法に触れないと言うだけの事で、人の精神を荒廃させる事に変わりはない。要するに麻薬だ。


 アウトローとは言え彼らはみな優秀だった。彼らは次から次へと各種の薬を開発して行った。


 そしてその薬を販売する役として町でたむろしているハンゲレ達を利用した。


 その中でも米崎晃司率いるケロスと言うグループは実に優秀だった。しかも喧嘩が強い。リーダーの晃司はずば抜けていた。


 更にその上に兄貴分の佐賀洋二と言うのがいた。元やくざで拳銃の扱いにかけてはかなりのものだと言う評判だ。


 このグループが中心になってその後ろに2グループのハングレ達が売人になっていた。


 ただこう言うものを捌くと言う事は当然地元のやくざとももめる事は分かっていた。


 そこで洋二が連れて来たのが刑務所で知り合った尾木埼煉と言う男だった。


 この男がまた切れた男だった。殺人で10年の刑を受けていたのだが、本当はもっと人を殺しているらしいがそれはまだ表面化していないだけらしい。


 ともかく切れたらもう止まらない。見境なく殺しまくると言う。しかも一旦切れたら誰も止められない。


 しかも彼の使う銃は普通の銃ではないと言う話だ。どんな作りなのか知らないがどんな分厚いコンクリートの壁も粉砕して貫いてしまうと言う。44マグナムですら目ではないと言う話だ。


 それに彼に狙われて助かった者はいないとさえ言われている。暗殺者としても超一流らしい。


 だからその尾木埼煉が入って以来、地元のやくざですら手が出ないと言う有様らしい。田野倉はその煉を投入すると言ったのだ。


 次の日から晃司達は駅や繁華街を張った。あのにやけた男はまた必ずやって来ると思っていた。そしてその男は思った通りやって来た。


「おっさん、金は持って来たか。10万だ」

「この前6万円前渡ししてますので、今回は4万円でいいのでは」

「何舐めた事言ってやがる。いいからついて来い」


 晃司が連れて行ったのは前回とは違うビルだった。こちらも同じような廃工場だったがもっと大きく多少の音は外には聞こえないだろう。


「で、薬は何処にあるのですか」

「おっさんよ。この前言ったよな。もっとましなのを連れて来いと」

「言いましたかね。そんな事」

「とぼけてんじゃねー。だから連れてきてやったぜ。あんたのリクエスト通りのをよ」

「それはどうも」


 その時その廃工場の部屋の奥から一人の男が出て来た。無精髭にボサボサ頭の男だったが目の光だけは鋭かった。


 鳴海は『なるほどこれが切り札ですか。それなりの者ではありそうですね』と理解した。


「お前さんかい、うちの若いもんを可愛がってくれたと言うのは」

「最後の方は決して若いとは言えませんでしたがね」

「じゃかましい。俺が代わって相手してやるよ」


「そうですか。それはどうも」

「ところでお前よ。何でも拳銃の弾を腕のプロテクターで弾くんだって。それってどうするんだい」

「ああ、これのことですか」


 と言って鳴海は左の袖のボタンの所を引っ張ると肘の手前まで簡単にめくれて中から鈍い銀色のプロテクターが顔を覗かせていた。


「ほーそれかい。それで拳銃の弾を弾き返したと言うのかい。なら見せてもらおうか、それをよ」


 そう言うと同時に煉は4発を連射した。鳴海はそれを軽く弾き返した。


「なるほどな、大したもんだ。本当に出来るとは思わなかったぜ、そんな事がよ。ならこれはどうだ」


 そう言うと今度は移動しながら色々な角度から撃ち込んで来た。しかも目標を上下左右に振り分けて。


 勿論鳴海もそこにじっとしていた訳ではない。鳴海も移動しながら弾道をかわし、必要な物だけ弾いて安全を確保した。


 ただ最後の一発。これは確実に鳴海の頭部を狙って来た。しかしあまりにも弾道がはっきりしていたので軽く弾けると思った。


 ところがプロテクターに異変を感じた。弾いた角度が鳴海の計算した角度と少しずれたのだ。


「?何故ですかね。まさか私としたことが」


 その銃撃が失敗したとわかった瞬間煉は姿を消していた。そして気配すらも完全に断っていた。


 鳴海は静かに周囲に気のセンサーを張り巡らせたが何も引っかかってはこなかった。


 勿論晃司やその他二人の気配は感知出来ている。しかしいくら探しても煉の気配は見つける事が出来なかった。


『ほー大した隠形の術ですね』


 鳴海は気のセンサーの範囲を更に広げてみたがやはり何も引っかからなかった。そして鳴海は考えていた。


『これ以上気を広げると密度が落ちる。しかしそこまで遠くにはいかないだろう。だがここまで気配を消せるとは普通の人間には無理だろう。そうなると可能性としては。そうか奴はもしかすると。ならさっきの銃弾も納得出来ると言うものだ』


 その時また一発の銃声が響いた。


「俺はよ、おめえのドたまのど真ん中を狙ったんだ。それなのにどうして避けられたあのタイミングでよ。それに俺は気配を断ってたはずだ」

「確かにあなたの隠形の術は大したものでしたよ」

「では何故だ」


「匂いがしたんですよ」

「匂いだ。俺ってそんなに匂うか。昨日ちゃんと風呂に入ったぞ」

「そうですね、酒は慎んだ方がいいかもしれませんね」

「酒ってなんだよ。そんなに飲んじゃいねーよ」


 本当は酒ではない。煉には『闇』の種族の血が流れていたのだ。ただしかなり薄くなった支族の血ではあったが。


 それでも普通の人間に比べればかなりの能力者と言う事になる。


 それが鳴海のプロテクターの防御の角度を狂わせたのだ。まぁ、微々たるものではあったが完璧主義者の鳴海には看過出来なかったのかも知れない。


「まぁいいや、それじゃーそろそろここらで決着つけようや」

「そうですね。私もあなたをこのまま野放しする訳にはいかない理由が出来ましたので」


 煉は自分では気が付いてないかも知れないが、銃を撃つ時に、ここ一発と言う時には無意識の内に銃に気を込めている。それが『闇』の力の一部だった。そして気配を絶ったのもそうだ。


 それを悟った鳴海は『闇』のセンサーに切り替えたのだ。


 これが最後だと悟った煉は最大の火力で攻撃をして来た。しかしその力の源を見抜いた鳴海にもう揺るぎはなかった。


 悉く煉の弾丸をかわし弾きその死角に潜り込み愛用のメスを投げた。


 ただ投げただけでは当たらない。鳴海がしたのは三角投法だった。一旦壁に当てその反動で目標に当てる。


 普通ならそんなものスピードが落ちて仮に当たったとしても相手の動きを止める事さえ出来ないだろう。


 しかし鳴海のメスはその常識を遥かに超えていた。煉の銃を握る右手に深々と突き刺さっていた。


 そしてそれはそれだけでは終わらなかった。そこから鳴海の龍気が煉の『闇』の気を奪って行った。


「あなたは自身の分と言うものを知った方がいいですね」


 鳴海がそう言った時、煉は膝をついてその場に倒れていた。恐らく煉はもはやその能力を使えないだろう。


「しかし惜しいですね、正規の師に就いてもう少し腕を磨けば、少しはまともな『闇』の一族になれたでしょうに残念です」


 鳴海は煉の腕に刺さったメスを抜いて3人のハングレ達の所に行って、


「ではボスの所に案内してくれますか」


 と言った。流石のハングレ達も震えて声が出なかった。煉が倒された以上、自分達でどうこうなる相手ではないと言う事は分かっていた。


 そこから少し離れた本部とも言うべき建物でボスの田野倉が待っていた。


「よう晃司どうだった。煉のやつはきっちり仕事したか。それともまた暴走しやがったか。と言っても相手は一人だから暴走のしようもないだろうがな」

「ボス、実は・・・」

「どうした、晃司」


「お初にお目にかかります。私は鳴海と申します」

「お。お前は」

「ボ、ボス。こいつが例の」

「じゃー煉はどうした。煉はどうなったんだよ」

「煉の兄貴は倒されました」

「な、何だと」


「なるほど、ここにあるのが合法ドラッグと呼ばれるものですか。しかしどれもこれもみなまともそうなものではありませんね」

「あんたには関係ないだろう」


「そうは行きません。ここは確か吉沢組のシマでしたよね。吉沢が許してるんですか」

「あんたには関係ないと言ってるんだよ」


 鳴海はその場で、携帯で吉沢組に電話を掛けた。


「吉沢さんいますか。鳴海ですが」

『あのー天堂組の鳴海さんでしょうか』

「そうです。その鳴海です」

『少々お待ちください』


『はい、吉沢です』

「ああ、吉沢さんですか。今宮で合法ドラッグを捌いてるハングレがいる事を知ってますよね。どうして野放しにしておくんですか」

『知っとります。そやけど向こうには尾木埼煉ちゅうキチガイがおりましてちょっと手が出んのですわ』


「それはもう大丈夫です。今倒しておきました。場所は〇〇です。それから私は今彼らの本部である〇〇にいます。ちゃんと仕切ってくださいよ。そんな情けない地回りなら私達が潰します。特にうちの社長は麻薬が大嫌いですので。いいですね」

『わ、わかりました。今すぐ向かわせます。はい』


「と言う事ですので、後は吉沢組と話をつけてください。ただし私達は麻薬は好みません。麻薬を見つけたら合法ドラッグであろうと何であろうと、必ずその関係者も含めて潰しますのでそのつもりでいてください」


 そう言って鳴海は吉沢組の到着を待ってその場を離れた。その後どうなったかは鳴海の関知する所ではなかった。


 鳴海はこの結果を天堂に報告した。


「そうか、我々の亜流がいたのか。それは惜しい事をしたな」

「そうですね。しかし仕方ありませんね。あそこまで捻じれてしまっていては」

「そうだな。血の血統は守られなければならんからな」


「そうですね。では今回の結果を青海に報告してやってください」

「お前がしてやればいいだろう」

「いや、私はどうも・・・」

「お前って『海』も苦手だったっけ」

「・・・」


 鳴海は何も言わなかった。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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