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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第四部
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第三話 ミナミの女王

天堂は久しぶりにミナミの高級クラブ「ナビロン」に来ていた。

そこでママの青海に最近今宮辺りで

麻薬が出回ってるみたいだから調べて欲しいと頼まれた。

天堂はそこに鳴海を派遣した。


 天堂が「Time Out」に行くと鳴海がいた。


「あれー最近お前よくここにいるよな」

「私にも自由時間が必要ですから」

「あれーそれってすごく嫌味に聞こえるんですけど」


「そうですか」

「そうですよ。何か当てつけで言ってない」

「まぁ、言ってるような、言ってないような」

「よそうよ、そう言うの、ねっ、鳴海ちゃん」

「では聞きますが、昨日の午後の1時、事務所の金庫から100万円持って競馬に行きませんでしたか。それでみんなすって帰って来たとか」


「あっ、あれはさー、ちょっと運がなくってさー」

「そう言う問題ですか」

「いやー、あのさー今度勝ったらおごるからさ」


「無理です。大体社長に博打運はないんですから」

「そうなの」

「そうです」

「はっきり言うね、おまえ」

「今日のここの分は払っといてくださいね」

「はい」


 天堂商会の事務所の経理一切は鳴海が仕切っている。鳴海がいなければにっちもさっちも進まない。


 幹部の七人衆も一応は文武両道を兼ね備えてはいるので事務方も出来ない事はないのだが、どうしても楽な武の方に走ってしまう傾向がある。


 だからその後始末はいつも鳴海がしてると言うのが実情だ。だからみんな鳴海には頭が上がらない。


 今日天堂は久しぶりにミナミに来ていた。大阪の繁華街には大きく分けてキタとミナミがある。


 キタは大阪駅前から曽根崎界隈を中心とした繁華街に対して、ミナミは心斎橋から難波を中心とした繁華街だ。


 キタよりもミナミの方が庶民的だと人は言う。高級さと言う点においては若干キタの方が上だろう。しかしミナミだって負けてはいない。


 キタに「クラリオン」があればミナミには「ナビロン」がある。ここもまた超が付く高級店だ。


 天堂はこの店を訪れていた。ドアを開けてマネージャーが挨拶をする前にママの青海はるかが飛んで来た。


「どうしてたのよ、長い事来ないで」

「おいおい、それはないだろう。時々は顔出してるじゃないか」

「そんなこと言って、お姉さんのとこばっかり行ってたんでしょう」


「それは違うぞ、こっちだって身体は一つなんだからな」

「今度一回、お姉さんとっちめてやるか」

「止めとけ。お前らが本気で喧嘩したら大阪なんか吹っ飛んでしまうんだからな」

「そうなの」


「ところで最近変わった事はないか」

「そうね、特にこれと言った事はないんだけど、気になる事がないでもないのよね」

「ん?」

「ちょっと待ってね」


 そう言って青海は席を離れた。


「雅代ちゃん、あそこの席お願いね」

「はーい、ママ」

「初めまして私雅代です。よろしくお願いしまーす」

「ああ。こちらこそ」


「あのーママとお知り合いなんですか」

「どうして」

「さっき親しそうにお話されてたから」

「まぁ、長い付き合いだからね」

「そうなんだ。良いママですよね」


「ここは最近入ったの」

「ええ、4か月前位ですかね」

「そうなんだ、それはまずいな」

「何がまずいんですか」

「4か月もここに来てないと言う事になるだろう。また鬼の癇癪が飛んできそうだ。ははは」

「ははは、そうですね」


 たわいもない事で時間を過ごしてたら、ママが帰って来た。


「ありがとう雅代ちゃん、もういいわ。佳代ちゃんを手伝ってくれる」

「はい」


「わかった?」

「ああ、わかったよ。いつからだ」

「そうね、2か月前位からかしら。時々鬱になったり、ハイになったり」

「じゃー今は鬱か」

「そうね」

「と言う事は今は給料前と言う事だな」

「そう」


「前は何処にいたんだ」

「天王寺だけど店の関係とは限らないわよ」

「そうだな、で住所は」

「今宮。今度詳しい資料を送っておくわ。それとね、今宮の方でハングㇾが勢力を伸ばしてると言う噂があるのよ」

「わかった調べてみよう」

「お願い。ああいう子、あまり作りたくないから」

「了解した」


 事務所に帰った天堂は鳴海に

「そう言う事だ。一つ調べてみてくれないか」

「わかりました。ではまずは今宮方面から調べてみましょう」

「誰か連れて行くか」


「いえ、もうこの前の残務整理はもう終わりましたし、他の者にはもう少し経理の勉強をさせたいですから私一人で行ってきます。そんなに大きな事にはならないでしょう」

「そうか、そうだよな。わかった。それなら宜しく頼む」

「はい」


 天堂は鳴海には全幅の信頼を置いている。こいつに任せておけば間違いないと。


 鳴海は見かけはものすごく堅物のサラリーマンとか銀行員、または弁護士とか計理士、ともかくそう言うまっとうな勤め人に見える。


 それ以外はまっとうではないと言っているのではない。ともかくそう言うイメージだと言う事だ。


 そして鳴海は今回懐の中には二種類の財布を忍ばせていた。一つは現金と何種類かの名刺の入った財布。


 これは聞く相手によって色々と自分の身分を変える為だ。そしてもう一つは現金のみの財布、それ以外には何も入ってない。


 そして今宮で、最近この辺りで流行ってると言う合法ドラッグの事を聞きまわっていた。


 1日目、2日目は何の収穫もなかったが3目になってやっと反応が出てきた。


 鳴海が聞きまわっているとどうやら鳴海の後をつけて来る者達が現われた。


 その数は3人。みんな若そうだ。きっと青海が言っていたハングレ連中かも知れない。


 どの辺りで襲って来るかなと思っていたが丁度手前に高架のトンネルがある。そこかと思っていたら予想通りだった。


 トンネルの中ほどで3人が鳴海を取り囲み、一人がナイフを出して鳴海の喉に突き付けた。


 こうなる少し前に名刺の入った財布の方を天井の隙間に投げで突き刺したが誰の目にも見えなかっただろう。


「なーおっさん、色々嗅ぎ回ってるみただけど、何やってるんだよ、ええ」

「いえ、私は別に何も」

「調べはついてるんだよ。何処の回し者だ。お前まさかサツって事はねーよな」

「わ、私は決してそのような怪しい者ではありません。しがないサラリーマンです。ただ身分だけはご容赦を。実はここに少しですが現金があります」


 鳴海が左の内ポケットから財布を抜き取ろうとしたらその若い男が抜き取った。中には現金で6万円入っていた。


「ほーおっさん、ちょっとは持ってるじゃねーか」

「じ、実はそれで薬を売って欲しいのです」

「薬だ。何の事だ」


「はい、この辺では安くて気持ちのよくなる合法的な良い薬が手に入ると聞いたもんですから」

「そんなもん知らねーな、しかしよ、これは紹介料として俺がもらっといてやるよ。この次わかったら教えてやるからよ。今日はこのまま帰りな。どうしても欲しけりゃ、今度は10万持ってこい。わかったな」

「はい。でも何処に」

「心配しなくてもこっちから見つけてやるよ。よし、行け」

「はい」


 そう言って鳴海はその場を離れた。しかしその時に鳴海がナイフを持っていた少年のポケットに小型の発信機を忍び込ませたのには気が付かなかったようだ。


 少年達がその場を離れてからしばらくして鳴海は再びその場に引き返してきた。


『そですね、私の財布を回収しておきませんとね』


 そう言って高架の天井まで飛び上がって天井に突き刺さっていた財布を引き抜いた。そして地面に着地した時、物音ひとつ立てなかった。


 後は発信機の電波を頼りに少年達を追った。すると廃屋の様な事に辿り着いた。


 もう随分使ってない家屋だがその一角には電気がつき中の部屋では何人かの人の気配がした。


 鳴海がそっと覗いてみると、どうやらそこではドラッグを袋詰めしているようだった。


 ここはドッグの配給センターの様な所なのかも知れない。ではそのドラッグの製造元は何処なのか。少なくともここではないようだ。


『後は本人達に聞くしかありませんかね』と言って鳴海は出ていった。


「誰だ」

「あ、お前はさっきのおっさんじゃねーか」

「私はまだ独身なので、おっさんと言われるのはどうかと思うのですが」

「うるせーおっさんはおっさんだろうが」

「そうですね、あなた達よりは」


「てめーどうしてここがわかった」

「あなたのポケットの中を見てください」

「何、ポケットの中だと。あっ、てめーこんなもの仕込みやがって。てめーやっぱりサツの回しもんか」

「警察ではありません。ただ知りたいんですよ。その薬の製造元を」

「それは無理だな。おめーはよ。ここで死ぬんだからよ」


 そう言うなり3人の若者達が襲ってきた。一人は鉄パイプを持って、一人は鉄拳で、もう一人はナイフを持って。さっきのリーダー格らしい少年がナイフを持っていた。


 そしてそのナイフの少年が一歩後ろに引いた。恐らく相手の技量を見る為だろう。かなり場慣れしているようだ。


 鳴海は鉄パイプの少年の動きと同時に中に入り、パイプを握ってる手に自分の手を合わせてそのまま相手の力を利用して前に流した。


 それだけでその少年は前に数メートルすっ飛びもう起き上がっては来なかった。まさに見事な合気の技だ。


 もう一人の少年は空手か何かをやっているのだろう。コンビネーションの突き蹴りの連続技から最後は顔面にストレート・パンチを渾身の力で打ち込んで来た。


 鳴海はそれに合わせてその腕の外から交差させるように下から内側に腕を潜らせ相手の顎に掌底を見舞った。


 それは見事なカウンターになってこれまた真後ろに数メートル吹っ飛び後頭部から落ちてピクリとも動かなくなった。


「おっさん、見かけよりもやるんだな。それは合気道かい」

「まぁ、みたいなもんですかね」

「そうかい、しかし触れる前に手足が切り落とされたらどうしようもないよな」


 そう言って仕掛けて来た彼のナイフの動きは見事なものだった。普通の街の喧嘩名人や格闘技の黒帯クラスでは秒殺だっただろう。


 だが鳴海はそれを紙一重で捌いていた。しかも最低限の動きで。息切れしてきたのはナイフの少年だった。


「どうしました。あなたの技術はその程度ですか」

「ちっ、ミスったかよ。こんな奴がいるとはよ」

「晃司伏せろ」


 晃司と呼ばれた少年が伏せたのと同時に拳銃が火を噴き、鳴海の眉間に向って弾丸が飛んで行った。


 それが当たる瞬間、カキーンと言う音と共に弾が弾き返された。


「おい、うそだろう。漫画かよ」


 それは鳴海の左前腕に嵌められた金属のプロテクターではね返されたのだ。


 飛び込みで参加したガンマンの洋二が更に4発連射した。しかしその全てが同じように弾かれてしまった。


「ワンダーウーマンじゃねんだからよ。そんなのありかよ」


 その銃はリボルバーだったので最後の一発と構え直した時には鳴海はもうその洋二の目の前に来ていた。


 そして銃を持つ手を握られ、空中を一回転して投げ落とされた時には同時に胸部を踏み抜かれ洋二は完全に意識を失った。恐らく肋骨の数本は折れているだろう。


「あまり始めから手荒な真似はしたくなかったんですが拳銃まで出されたんでは仕方ありませんので、少しだけ本気を出させていただきました。ただこれでは準備運動にもなりませんので、この次はもう少しましな人を出せと上の人に言っておいてください。では失礼します」


 そう言って鳴海は残った彼らには何もする事なく去って行った。残された少年は一体何がどうなってるのか理解が出来なかった。ただ一つとんでもない奴を相手にしてしまったようだと言う事だけはわかった。


『これだけ餌を蒔いておけばまた何かの動きをしてくれますかね。鬼が出るか蛇が出るか、次が楽しみです』


 そう言って再びあの怪しげな微笑みを浮かべて鳴海は今宮の町を去って行った。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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