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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第三部
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第五話 とある組織

赤城はやっと今回の事件を解決した。

しかし謎はまだ残ったままだ。

そして更に新たな敵の気配も伺えて来た。

 今回の騒動は暴走族同士の乱闘と言う事で処理された。グレーン・ファイヤーズの本部のある所にはかなりの麻薬が蓄積されていた。


 そしてかなりの者達がそれを使用し中毒化していた事も調べで分かったが、何故かそれが表沙汰になる事はなかった。


 いや、それどころか、署内でもそれは極秘扱いとされ、その捜査権も公安部に持って行かれてしまった。当然そこには何か上の力が働いたんだろう。


 特に現場にいた内本刑事は係長や課長に食って掛かっていた。何故我々のヤマが横から掻っ攫われなければならないんですかと。しかしこればかりは上からの命令なので仕方がなかった。


 今回色々な事が闇に封印された。グレーン・ファイヤーズのリーダーの死、そして車の中で毒殺自殺していた二人の男の死。そして麻薬に関してもその種類や構成物に関しては一切が闇に葬られた。


 あれだけの大乱闘ではあったが他に死人は出てはいなかった。その3人を除いては。警察としても事の真相を表沙汰にはしたくなかったのだろう。


 その為か六甲バスターズやグレーン・ファイヤーズの処罰も調書の作成と戒告処分程度ですんだ。これで全員晴れて放免と言う訳だ。ただその中に赤城の名前は何処にも見当たらなかった。


 ただこの後、神戸市内の暴走族の均衡が大きく変わった事は言うまでもない。六甲バスターズが神戸市内での主導権を握ったと言う事だ。


 赤城もこれでひとまず仕事が終わったと言う事で大槻との最後の別れをしていた。


「先輩、この度は本当にありがとうございました。この先、もし俺らの力が必要ならいつでも言ってください。いつでも駆けつけますから」

「ありがとうよ。そうだな、それなら一つ頼みがあるんだがいいか」

「はい、何でしょうか」


「須磨の方に小さな族のグループがあってな、確か『須磨パークス』とか言ったかな。他にも小さなグループが二つほどあるらしいんだが、そこが今ブラック・シガーズとか言う族に潰されかかってるらしいんだ。どうだ一つ助けてやってくれないか。そこに安本と言うのがいる。俺がいつかまた会おうと言っていたと伝えてくれ」

「わかりました。問題ないです」

「頼む。じゃーまたな、大槻」

 そう言って赤城は六甲を離れた。


 この間、内本刑事も色々と世話になった吉田刑事に報告をしていた。


「吉田さん、その節はありがとうございました」

「いや、どういたしまして。で、どうでした」

「それが、ようわからんのですわ」

「ようわからんとは?」


「私は一応吉木組の動向を探っとたんです。ところがあの暴走族の大乱闘で、私らは全員そっちに駆り出されたんですわ」

「まぁ、そうですやろうな」

「それで暴走族の方が何とか決着がついたと思うたら、何故か吉木組の方も大人しゅうなっとたんですわ」

「大人しいとは?」


「何にもなかったかの様に誰一人騒いどらんのですよ。いや、組自体が存在するのかと言う位静かになって」

「そらまた妙な話ですな」

「そうですやろ。ところが妙なのはそれだけやないんですわ」

「他にもまだ何か」


「今回の暴走族の件も何故か公安が持って行きよった」

「そらまたおかしな話ですな」

「でしょう。あれは私らの扱う事案です。それを何で公安が。しかも緘口令まで敷いて。おっと、これはオフレコでお願いします」


「わかりました。それで赤城に関しては」

「それが妙な事に何処にもその名前が出てこんのですわ」

「そうですか。しかし何事もなかったのならそれで良しとするしかないでしょうな」

「そうですな。しかしおかしな事件や」


 今晩でこのホテルに宿泊するのも最後になる夜だった。鳴海は赤城の報告を受けて既に大阪に戻っていた。


 いつもの様に展望室のバーでいつものカクテルを飲んでいると、そのまたいつもの女性がやって来た。


「相変わらずそのカクテルなんですね」

「ええ、そうです。でもこれも今晩で最後になりそうです」

「と仰いますと」


「仕事が終わったんで明日引き上げる事になってます」

「そうですか、それは残念ですわ。もう少し貴方とはお話していたかったんですが、もうチャンスはありませんの」

 その時また、良い匂いが赤城を取り巻いた。


「知ってますか、男も女もお互いの異性を魅了するフェロモンと言う物質を持ってるらしいんですが、中にはそれの強力なものを意識的に出して、相手を自分の思い道理に出来る人間もいるらしいと言う事を」

「それは知りませんでしたが、そう言う方がおられればいいですわね。お相手に困らなくて」


「まったくです。しかし仕掛けられた者はたまったものではありません」

「そうでしょうか。お互いに楽しくなれればそれはそれでまたいいのではないでしょうか」

「確かにその通りです。ただそれが自然のものであればですが」

「確かに仰る通りですわね」


「ところで知ってますか、今度の暴走族の騒ぎ」

「ええ、ニュースで知りましたが、何でも大きな争いがあったとか」

「そう、大きな争いでした。しかしその真実の大半は闇の中かも知れません」


「それはどう言う事なのでしょうか」

「さー俺にはわからないんですが、もしかしたらあなたなら知ってるんじゃないかと思ったんですがね」

「さー、私には何の事だか」

「そうですか。それは残念です。またいつかあなたとは機会があれば会ってみたいものです。そうだ。名前をまだ聞いていませんでしたね」


「そうですわね。私はサヤ、真山サヤと申します」

「俺は赤城です。赤城敏光と言います。覚えておいてください」

「わかりました。また何処かでお会いしたいものですわね」

「確かに。楽しみにしてます」


 赤城の不思議な女性との邂逅はこの日を持って終わった。しかし赤城は、彼女は何処かの組織に属していて俺を監視または攻略する事を目的に近づいたと言う事は薄々感ずいていた。


 そして彼女の発するあの香りに男を虜にする強力な麻薬の様な興奮剤が含まれている事も。


 彼女は彼女で、今回の事件に赤城が関与している事は分かっていたが、その真意については掴め切れずにいた。


 そしてまた今まで自分のフェロモンの魅力で落とせなかった男もまたあの赤城が初めてだったと言う事を知った。


『面白い男がいるものね。この次が楽しみだわ』


 天堂商会に戻った赤城は詳細な報告書を提出していた。その中で興味を引いたのは、最後に出て来た二人の暗殺者達だった。


 彼らは勝てないとわかると服毒自殺をしたが、その方法は丹波の金森の時と全く一緒だった。


 あの時の暗殺者も今回の暗殺者も同じ組織に属してるのではないかと思われた。共にずば抜けた暗殺能力を有していた。


 もし相手が黄龍や赤龍でなかったら確実に命を奪われていただろう。それ程の相手だった。


 その二つの事件が何処で繋がるのか。贋作と麻薬、これは同じ組織の犯罪だろうか。


 その組織の名前がもし「フォーグル」と言うのであるのなら、それは一体どんな組織なのか。そして今回の事件で別途に動いている組織があったとしたらそれは一体何なのか。


 天堂達に取ってもまた新たな戦いが始まったと言えるだろう。今はまだほんの序章に過ぎないが、天堂はいつかまた彼らとは相まみえる時が来るだろうと確信していた。


 そんな折、こちらでもまた一つの報告がなされていた。


「どうだ、麻薬の成分は解析出来たかね」

「はい、現在80%程までは」

「まだその程度なのか。全容の解明にはどの位かかる」

「そうですね、あと数週間もあれば」

「わかった。全力を尽くしてくれ」

「わかりました」


「あんな物が世に出回っては大変だからな。何が何でも水際で食い止めなければならない。その為にも成分の解析と製造元の割り出しが急務だ」

「わかっております。そちらに関しても課員を総動員して当たらせております」


「それで例の奴らの方はどうだ」

「何とも面妖な連中ですね。我々の方でも鋭意調査は続けているのですが、核心がまだ掴めません」

「それはどう言う事かね」


「見かけはやくざです。やくざとしての登録もされてます。しかし彼らは実際にはやくざらしい事は何一つやっておりません。彼らの世界で言われる『シノギ』つまり収入源ですが、カジノやノミ行為、または恐喝や地上げ、それに港湾労働やその他の仕事の斡旋によるピンハネ等の行為やその他一切の不法行為には手を染めてないのです」


「ではどうして生計を立てているのかね」

「ごく普通に商取引や株の売買、それと今は古美術の商い等で生計を立てているようですが、どれもこれも全て合法的なものです」

「それでは何かね。彼らはやくざではないと言うのかね」

「法律上では普通の経済活動をやっている組織と言う事になりますね」


「では彼らをやくざたらしめているものは何なんだね」

「それがよくわからないのです。ただいくらかの抗争はあったようですが、どれもこれも警察沙汰になったものは一つもありません」


「それでは潰す事も出来ないと言うのかね」

「いいえ、決してその様な事は。必ずやつらの面の皮を剥いで解散に追い込んでみせます」

「わかった。宜しく頼むよ」

「はい、幹事長」


天堂が行く 第三話完

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