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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第三部
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第四話 フォーグル

赤城はグレーン・ファイヤーズと

その中の黒部隊と言うのを潰したが、

そこに新たな敵が現れた。

 赤城がゆっくりとした朝食を終えてロビーに降りてくると一人の男がツカツカと近づいて来た。それはこの前の暴走族の揉め事に巻き込まれた時の担当刑事だった。名前は確か内本と言ったか。


「これは刑事さん。どうかしたんですか。またあの事件の事ですか」

「そうやないが、あんた今度は何をしたんや」

「何をって、俺は別に何もしてませんが」

「嘘言うたらあかんな。ほんなら何で吉木組の奴らが目の色変えてあんたを探し回っとるんや」

「俺をですか。さー」


「さーってな。あんたこれがどう言う意味か分かっとるんかいな」

「どう言う意味かと言いますと」

「あんたは狙われとると言う事や。下手したら命取られるかも知れんのやで」


「それは困ります。では警察の方で守ってもらえるんでしょうか」

「それは・・・そやからわしも困っとるんや」

「ですよね、警察は何か事件が起きないと動けないと言う事ですから」

「しかしあんた落ち着いとるな。ほんまに怖ないんか」


「そりゃ怖いですよ。でもだからと言って何が出来る訳でもありませんから」

「なら早よこの町から出て行き、それが一番や」

「そうしたいのは山々なんですが、まだ仕事が片付いていませんので」


「そやけどなあんた。命あっての物種やで」

「はい、肝に銘じておきます」

「ほんまにわかってんのかいな、一応注意はしたからな」

「ありがとうございます」


 何故この刑事が赤城のいるホテルを知っていたか。それはこの前の事情聴取の時に、連絡先を聞かれてここを教えていたからだ。


『なるほど、奴ら必死になって俺の居場所を探してると言う訳か。ならこっちから挨拶に行ってやるか』


と赤城はそううそぶいていた。


 内本刑事はああ言って出てきたがどうも気になった。あの態度は一体なんだと。あまりにも悠然とし過ぎている。


普通の一般人ならやくざに狙われていると聞いただけで震えあがるはずだ。しかしあの男は何なんだと。


 内本刑事はどうもその辺りが気になって単身で大阪にやって来た。この前身元依頼をした新地南署にだ。そこでこの前の依頼を担当してくれた人にお会いしたいと頼んだ。


「初めまして、私は灘署の生安課の内本言うもんです。突然お尋ねして申し訳ありません」

「いいえ、わしはマル暴担当の吉田言うもんです。よろしゅう」

「マル暴ですか。何で天堂商会の問い合わせにマル暴担当の吉田さんが」

「そやね、まぁこっちへどうぞ」


 そこで吉田は天堂商会と言うのは元天堂組と言う名前のやくざ組織だったと明かした。


「と言う事はなんですか、あの赤城と言うのはやくざやと言わはるんですか」

「まぁ、やくざと言えばやくざやし、やくざでないと言えばやくざではないんでしょうな」

「なんですか、それは」


「そもそも天堂組と言うのは組長を入れてたった9人の小さな組なんですわ」

「なんぼ小さかってもやくざはやくざでしょう」

「普通ならね。そやけどあいつらは自分のシマ内では一切のしのぎをやっとらんのですわ。ましてミカジメ料も何処の店からも取っとらん」


「何ですか、それは。それやったらどうしてしのぎを」

「まぁ、経済やくざと言うんでしょうかな。しかもまっとうな方法で稼いどるんですわ。そやから堅気の会社と全く変わりのない営業をしとると言う訳です。しかも今は古美術を商うとる」

「それで天堂商会ですか」

「そう言う事です。確かにやくざやけどやくざとしての活動は何一つやっとらんのですわ」


「しかしやくざなら暴力行為とかは」

「それが全員犯罪歴なしで、町の誰からも苦情も被害届の一通も出とらんのですよ。それどころか町の人らに慕われとる。それが天堂組なんですわ」

「何かようわからんやくざですな」

「わしもそう思います」


「ただ・・・」

「ただ何です」

「あいつら度胸だけはどんなやくざにも負けんでしょうな」

「なるほど、そう言う事ですか。何かちょっとわかりかけて来たような気がします」


 そう言ってこの前の出来事と今起こってる出来事を吉田に話した。


「そうですか、そう言う事になっとるんですか、今は」

「どうですか。赤城は大丈夫でしょうか」

「ようわかりまへんが、大丈夫な気がします」

「そうですか、やっぱり」


 鳴海は赤城が敵の兵隊を確保して監禁してると言う倉庫にやって来た。そこには赤城と六甲バスターズのリーダーの大槻がいた。


「部長すみません。お手を煩わせまして」

「いいですよ。これも私の仕事の内ですから」

「先輩、この人は?」

「俺の上司の鳴海部長だ」


「鳴海です。赤城がお世話になってるようですね」

「いえ、とんでもありません。お世話になってるのはうちの方ですから」

「ところで彼らをどうやって確保したんですか」


 それは数時間前の事だった。赤城が内本刑事と別れた後大槻から携帯にメールが入った。


 今六甲バズターズのメンバーと黒部隊とが戦っている。自分も今から駆けつけるのでもし来れれば来て欲しいと地図が記されてあった。


 赤城は急いでバイクに飛び乗り現場に駆け付けた。バスターズのメンバーは20人、それに対して黒部隊は5人だった。4倍の戦力がありながらバスターズは苦戦していた。


 無理もない、いくら殴っても鉄パイプや金属バットで骨が砕けるほど叩いても平気で立ち上がり向かってくるのだ。


 いや、それだけではない。彼らの腕力は異常だった。とても人の出せる力ではないレベルのものを出していた。


 4人で1人にかかって行ったとしても互角にすらならなかった。大槻が着いた時には既に15人以上が地面に倒れ危ない状態だった。普通暴走族同士の喧嘩では、間違って撲殺と言うのはあり得るだろう。


 どちらもエクサイトしていれば制御が効かずそうなるケースもある。しかしそれはあくまで事故であって、始めから殺す気で喧嘩する者はいない。


 しかし彼ら黒部隊は違った。彼らに喧嘩などと言う意識はない。初めから相手を殺す。それしかないのだ。これでは同等の力があっても勝負にはなるまい。


 大槻は状況を見て取ると一気に黒部隊の中心に攻め込んだ。流石はリーダーだ。その戦力は凄まじい。一撃で数メートルも吹っ飛ばしてしまった。


 ただ誤算は彼らがそれでも怯まなかったと言う事だ。例え腕が折れようと、足が折れようと構わずに立ち向かってくる。しかもそのパワーは凄まじい。


 もし一撃でも当たれば大槻は動けなくなってしまうだろう。その攻撃をかわしながらの戦いは苦戦を強いられた。


 そして大槻も何発かの打撃を受けていた。正直立っているのがやっとの状態だ。もうだめかと思った時に赤城がバイクで突っ込んで来た。その勢いで一人を跳ね飛ばし大槻の横に来た。


「おい、大槻、大丈夫か」

「先輩、すんません。ドジりました」

「気にするな、これだけやってくれれば十分だ。後は俺に任せておけ」


 そう言って赤城はバイクを降り、黒部隊と対峙した。


「お前らよくも俺の後輩達をやってくれたな。覚悟は出来てるんだろうな」


 そう言った所で心が凍ってしまってる彼らには言葉は届かなかった。その代わり金属バットを持った一人が渾身の力で振り下ろして来た。この力ならコンクリートの床ですら大穴を穿つことが出来るだろう。


 赤城はそのバットを交わしざまに相手のボディに一発のパンチを入れた。それは相手を10メートルも吹っ飛ばすに十分なものだった。普通の人間なら内臓破壊を起こしているだろう。


 しかし彼は口から血を吐きながら、それでも立ち上がって来た。


「なるほど大したもんだ。並みのパンチじゃ効かねーってか」


 自分を遥かに上回る赤城のパンチですら効かなかったとなるともうお手上げだと大槻は思った。


「おい、大槻、時化た顔してんじゃねーよ。本番はこれからだ。ようく見とけ」


 そう言って赤城は次の相手にまたもや同じパンチを叩きこんだ。大槻はこれもだめだろうと思っていた。しかし相手は起き上がっては来なかった。


「なぁ、お前ら、痛みがないからって身体の構造が変わった訳じゃねーんだよ。人間動けなくするのにそう難しい方法は必要ねーんだよ。一発のパンチで十分なんだよ」


 そう言って赤城は残り4発のパンチで全員を沈めてしまった。これがその結果だった。


「なるほどそう言う事ですか。ではこれから先は私の仕事ですね」


 そう言って鳴海は5人の体を調べ始めた。


「先輩、あの人は一体何を」

「うちの上司は医者でもあるんだよ。それも超優秀な」

「い、医者なんですか、あの人が」

「そうだ。変な事言ったら切り刻まれるぞ」


「赤城君、私は人を切り刻んだりはしませんよ」

「でもあの時は・・・」そう言いかけて赤城は口をつぐんだ。そこには鳴海の冷たい目があったからだ。これは超やばいと。


「で、部長、何かわかりましたか」

「ええ、彼らは完全な麻薬中毒ですね。それもかなり強力な麻薬の。その効能は特に感覚神経に作用して痛覚を麻痺させて無痛化しているようです。その為に体のストッパーが外れ常人にはだせないパワーを出してるようです。でもそれにはやはり限界がありますからね。あまり長時間使用すると骨格や筋肉細胞に負荷がかかり過ぎてやがて崩壊するでしょう。持って1時間と言う所でしょうかね」


「そんなやばいものなんですか」

「そうですね。少なくとも市販のものではないようです」

「じゃーあいつ等が作った」

「さーそれはどうでしょうか。単なる暴走族にそんなものが作れるかどうか」

「じゃーまぁ、潰してみればわかりますね」

「そう言う事ですね」


 何ともはや簡単な答えである事か。


「大槻、やつらの根城はわかるか」

「はい、調べてあります」

「なら頼みがある」

「何でしょうか」


「周りを全員で取り囲んで一人も逃がさない様にしてくれ。後は俺が何とかする」

「一人でやると言うんですか。せめて俺にも手伝わせてください」

「普通のメンバーならともかく、彼らが相手ではあなたでは無理でしょうね」

「無理ですか、俺では」


「ですが、私が授ける戦法とある道具を使えば可能でしょう」

「出来るんですね、俺にも」

「ええ、可能です。ではその打ち合わせに入りましょうか」


 そうして鳴海はグレーン・ファイヤーズの壊滅作戦を大槻に伝授した。


「部長、グレーン・ファイヤーズ潰す前に一つ終わらせておきたい事があるんですが構いませんか」

「いいですよ。そう言うだろうと思って持ってきました」


 そう言って鳴海は赤城に一つの仮面を渡した。


「いいんですか、これを使っても」

「構いません。今回は徹底的にやりますから、そちらの要件もこれで潰してきなさい」

「了解です」


 その翌日は神戸の吉木組の命日となった。組事務所に乗り込んで来た一人の仮面を被った男によって、組が壊滅させられたと後に山王会本部に報告があった。


 そして赤城と大槻がグレーン・ファイヤーズの本拠地に乗り込んで行った。勿論赤城は仮面をつけて。それ以外のメンバーは周囲を取り囲んだ。その数まさに800を持って。それこそ蟻の這い出る隙もなかった。


 中では壮絶な戦いが行われていると思いきや、それは一方的な掃討作戦だった。辛うじて大槻が善戦してると言った所で、赤城とは喧嘩にすらならなかった。その麻薬を使用している黒部隊にしてもだ。


 見る見る内に400人近いグレーン・ファイヤーズのメンバーが倒され、一部は外に逃げ出し、外では大乱闘になっていた。


 リーダーの古毛由はなすすべもなく呆然としているばかりだった。こんな事があっていいはずがないと。


 殆ど立てなくなった古毛由に赤城が質問をしようとした時だった。一本の矢が古毛由の額に突き刺さった。


 それはボーガンから撃たれたものだった。それも競技用のボーガンではなく戦闘用のボーガンだった。


 そして二矢目が赤城を襲った。しかしその矢は赤城の二本の指によって挟み取られ、投げ返されていた。


 その速さにボーガンを撃った者も対処が出来ず右肩に自らの矢を受けた。


 最低限の目的は果たしたとその男は逃走に入った。しかしそれを許す赤城ではなかった。彼もまた既に追跡に入っていた。


 ボーガンの男は片腕を押さえながらそれでも素晴らしいスピードで走り、待たしてあった車に飛び乗った。


 そこに赤城が接近した時、車の中から3発の銃声がとどろき、とっさに体をかわした赤城だったが左肩と腹部に銃弾を受けてしまった。


「おもしれーことやってくれるじゃねーか」


 そう言って赤城は体の中に気を溜め圧勢した。その気圧により二発の銃弾が体の中から外に押し出された。その後は少しの傷を残してその殆どが再生していた。


 その次に赤城がやった事は、その車を飛び越え向こう側に着地して車の横っ腹を思いっきり蹴ったのだ。すると車は数回転がって屋根を下にして止まった。


 しかしいくら大男が蹴ったからと言って普通車が吹っ飛ぶものなのか。なるほど赤城が怒れば神戸の町が壊れると誰かが言っていたが、それはもしかすると本当かもしれない。


「さー出て来て勝負してもらおうか。ここから逃げ切れるなんて思うなよ」


 車の中の男とボーガンの男、この2人は赤城の実力を見て勝てないと悟ったのだろう。2人共車の中で自害してしまった。それも丹波の金森の時の様に奥歯に仕込んだ毒で。


 ボーガンを額に打ち込まれた古毛由は赤城の離れ間際に「フォーグル」と言う言葉を残した。それは一体何を意味するのか。


 人の名か組織の名か。少なくとも天堂達に取っては新たな敵の出現に違いなかった。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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