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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第三部
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第三話 黒部隊

赤城は不思議な女生徒出会い、

また町の暴力団にも目を付けられた。

そして暴走族グレーン・ファイヤーズとの

三つ巴の闘いになって行った。

天堂が行く:第三部

第三話:黒部隊


 赤城は神戸での宿泊に一泊数万円もすると言う超高級ホテルに泊まっていた。金は高いがこう言う所の方が警備や安全管理が行き届いているからだ。


 費用は全て会社の経費で賄われる。だから赤城自身が心配する事は何もなかった。しかもこう言う場所だと胡散臭い奴は出入りし難い。むしろ赤城自身の方が胡散臭く見られてしまいそうだった。


 そんな高級ホテルの展望室のバーで赤城は神戸の夜景を見ながら一人でカクテルを飲んでいた。ミルク党の赤城としては珍しい。


 その時横でふわりと良い匂いがした。そこにはドレス姿の長い黒髪の美女が立っていた。ふっくらとした唇が官能的だった。そしてそのドレスに押し込められた肢体も女性の魅力を十分以上に表現していた。


 一体何処から現れたのか。きっとこのホテルに宿泊してるのだろうと赤城は思った。そうでなければショーファー付きの車で来たのかと。


 もしこんな女性が街を一人で歩いていたらそれこそ大騒ぎだろう。男達が群がって大行列が出来そうだ。


 そして彼女は、

「あのーよろしかったらご一緒しても構いませんか」と言ってきた。


赤城は一旦ぎょろりとその彼女を眺め、

「どうぞ、俺でよければ」と言った。


 彼女は赤城の隣の椅子に腰をおろすとボーイを呼んで、向こうの自分の飲み物を持って来てくれる様に頼んだ。


「よくこう言う事を?」

「どう言う事でしょうか」

「いえ、俺みたいな者の所に、あなたの様な上品な人は似合わないんじゃないかと思いましてね」


「そうでしょうか。貴方の方こそ魅力的な方ですわ」

「参ったな。そんな風に言われたのは初めてですよ」

「それはきっと今までの方に見る目がかなったのではないでしょうか」

「参ったな、まったく」


「ところでよろしいでしょうか」

「何がです」

「今お飲みになってる物ですが」

「ああ、これですか。これはルジェピーチミルクと言うカクテルなんですよ。知ってます?」

「いえ、存じません。初めて聞きましたわ」

「でしょうね。子供の飲み物みたいな物ですから」

「まさか」


「本当ですよ。殆どはミルクなんです。それにルジェピーチを言うリキュールを入れてあるだけです」

「どうしてまたその様なカクテルを」

「俺はミルクが好きなんですよ。それに酒はあまり強くない。だからこれが丁度いいんです」

「見かけよりは変わった方なんですね」

「でしょう。ガッカリしましたか」


「いいえ、逆に興味が湧きましたわ。私」

「あなたの方こそ変わってる。こんな俺に興味を持つなんて。他に何か目的でも?」

「いけませんか。目的がなければ」

「いいや、それじゃー乾杯しましょうか」

「そうですわね。ではお互いの再会を願って」


 こうして赤城にとっては不思議な夜が終わった。一体あの女は何者で、何の為に俺に近づいて来たのかと思ってみたが、今はまだ何も浮かんでは来なかった。


 赤城はこの所、頻繁に六甲バスターズの大槻に会っていた。グレーン・ファイヤーズに関する情報を聞くためだ。


 数の上では大槻の六甲バスターズの方が少し上回っていた。六甲バスターズが800人に対してグレーン・ファイヤーズは500人だ。しかし勢力的には拮抗してると言う話だった。


 300人の差を埋める何かがグレーン・ファイヤーズにはあると言う事だろうか。大槻に言わせると向こうの兵隊は少しおかしいと言う。


 100人程の黒部隊と呼ばれる連中がいるらしいのだが、彼らは吐出した戦闘能力を持っていると言う。いつももう少しと言う所でその黒部隊によって形勢を逆転させられてきたと言う。


 彼らにはまるで恐怖と言う物がない。どんな怪我をしようが動けなくなるまで襲ってくると言う。まるで痛みを感じないかのように。


 それで大槻の仲間達も黒部隊が出てくれば撤退しているのが現状だと言った。


「黒部隊ね、何者なんだそいつらは」

「それが俺にもわからんのです。奴らが一体何者でまたどんな力を持ってるのか。ともかく不気味な奴らです」

「一度その黒部隊と言うのに会ってみたいもんだな」

「いや、先輩。それは止めた方がいいと思います」

「俺でも危ないと思うか」


「いえ、そうは言いませんが、あまりにも情報不足です」

「それは確かだな。しかしここでうだうだ言ってても話は進まんだろう。こういう時は当たって砕けろさ」

「ではやるんですか」


「ああ。それに100人全員を相手にする必要はないしな、何人か捕まえてみればわかるだろう」

「そうですね。それなら何とかなるかも知れません」

「そう言う事だ。今度奴らが現われたら教えてくれ」

「わかりました」


 そう言う下準備をしておいて、赤城は夜の神戸の町へ出かけて行った。神戸の繁華街は大阪に劣らない賑やかな所だ。それに港町と中国人街と言う環境を持ってるので独特な雰囲気を醸し出している。


 賑やかな繁華街の一流と言われる店に入ってみるのも一つだが、ここは敢えてその逆をしてみる事にした。


 賑やかな所も一筋外れるとひっそりした通りがあるものだ。そう言う所には昔なじみの屋台もある。そう言う所の方がかえって庶民の声を聴く事が出来ると言うものだ。


 赤城はそこで見つけた一台の屋台の乗れんをくぐった。


「おやじさん、冷一杯とおでんを適当に見繕ってくれないか」

「わかりました。お客さん、この辺りの人やないね」

「ああ、仕事でね。出張さ、出張」


「出張ですか。それなら何もこんなとこで飲まんともっと豪華なとこで飲みはったらええのに」

「そうなんだけどさ、俺の上司って言うのが結構金にうるさい人でね」

「へーそうですか、そんな融通の利かんお人もいるんやね」


 そう言う話をしている所に4人の人相の悪いのがやって来た。見て直ぐにその筋の者達とわかるいでたちだ。


「よう、おっちゃん、景気はどうや」

「へぇ、まぁ、ぼちぼちですわ」

「そうか、ほな今日の上がりもらおか」

「ちょっと待ってくださいな。ショバ代はもう払ろてますよって」

「そやから、今日の分や言うてるやろう」

「そんな無茶な」


「あんたらいい加減にしなよ。ショバ代はもう払ったって言ってるじゃないか。それなのにまだ取ろうというのか。情けないね。そう言うのって親分の面子を潰してるんじゃないのか」

「なんや、お前。素人がごちゃごちゃ言うとるんやないわ。怪我するぞ」


「どっかですって金がなくなったからこんな所でカツ上げか。お前ら中学生か」

「なんやと、われ、死にたいんか」

「ここじゃ、おやじさんに迷惑がかかるだろう。向こうに行こうか」

「おお、上等やないか」

「おやじさん。お代はここにおいとくから。釣りはいらないからね」


 そう言って赤城はチンピラ四人と共に路地の裏の方に歩いて行った。


「この辺りでいいか」

「お前、ええ度胸しとるの。しゃーけどな、玄人に喧嘩売ったらどないなるか教えたるわ。おらぁ」


 そう言って最初の男が殴り掛かってきた。赤城はそのパンチを無視して張り手でその男の横っ面を張り飛ばした。それだけでその男はコマの様に回って横の壁まで吹っ飛んで行った。


 次にやくざ蹴りを出して来た男の足を掴んで、まるでハンマー投げの様に振ってこれも反対の塀まで投げ飛ばした。途方もない腕力だ。


 三人目の男は少しは喧嘩慣れしてると見えて、指で目突きに来てかわされると見るや強烈なパンチをボディに打ち込んで来た。その時「グキッ」と言う音と共にその男の右手首はあり得ない方向に曲がっていた。


「慣れない拳で固いもの叩くからそうなるんだよ。ようく覚えておけ」

「クソがー」


 そう言って最後の一人はヤッパを出して腰だめに突っ込んで来た。それを難なく外側にかわし、上からそのヤッパの握った手を叩いた。それだけでその手の手首の手前からポッキリと折れていた。正直喧嘩にすらならなかった。


「お前ら、それでもやくざか。少しは喧嘩の仕方勉強してから出直してこい」

 そう言って赤城はその場を去った。


 組に戻った4人は兄貴分に嫌と言うほど殴られた。


「このドアホが。素人になんちゅう様じゃ。それでもおんどれら極道か。恥を知れ。恥を」


 そして赤城の人相風体を元に総動員で捜索をかけた。素人にやられたままでは面子が立たんとばかりに。


 相手のガタイとその手際から、恐らくは何かの格闘技でも身につけてるのではないかと各種のジムや道場へも組員達を送った。


 しかしその男は何処に行ったのか皆目見当もつかなかった。まさかこんな超高級ホテルに泊まってるとは思いもしなかっただろう。


 今日1日の〆とばかりに赤城はまた展望室のバーでいつものルジェピーチミルクを飲んでいた。するとまた昨日の美女がやって来て、


「またそのカクテルですか」

「ああ、あなたか。良く来ますね。それともここに泊まってるのですか」

「いいえ、泊まってはいませんが、私はここからの眺めが好きでよくここに来ます」

「そうですか、でもここの景色に俺はそぐわないと思うんですがね」


「またそれですか。ちゃんと絵になってますわよ」

「あなた上手いですね。男をその気にさせるのが」

「とんでもありませんわ、私は本当の事を申し上げたまでですわ」


 その時またふわっと良い匂いがした。


「まぁ、いいか。ではそう言う事にしておいてもらいましょうか」

「今日は何かありましたか」

「何故そう思うんです」

「ちょっと気持ちが高ぶっていらっしゃるようなので」

「へーわかるんですか。そう言う事が」

「ええ、何となくですが」

「何となくね。面白いですね。あなたは」


「私で良ければお話相手になりますが」

「そうですか、それじゃー一つ聞いてもらいましょうか」

「はい、何んなりと」


「あなたはこの町の事については詳しいですか」

「それ程でもありませんが、貴方よりは詳しいかもしれません」

「この町にグレーン・ファイヤーズと言う暴走族がいる事は知ってますか」

「はい、名前くらいは聞いた事があります」


「その暴走族が麻薬を使ってると言う様な話は?」

「いいえ、それは存じ上げませんが、それが何か」

「そう言う事を放置しているとその毒牙にかかる人が出るかも知れないと思いましてね」

「貴方はもしかして警察関係の方なんですか、それとも探偵さんか何か」


「俺が警察関係者ならあなたにこんな話はしないと思いますよ。そうじゃないですか」

「確かにそうですわね。では貴方は一体」

「今日はこれくらいにしておきましょうか。ではまた機会がありましたら」

「はい、また機会がありましたら」


 この時もまた良い匂いが漂ってきた。


『やはり俺の動向を探っていたか』

『まずいわね。私の事を疑り出してるみたいね。流石は天堂組の幹部と言う所かしら。だけどもう遅いのよ、赤城さん』


 天堂商会では

「社長、ちょっと神戸まで行ってこようと思うのです」

「どうかしたのか」

「赤城が相手の族の兵隊を捕まえたので見て欲しいと言うものですから」

「わかった」

「では行って来ます」


 そう言って鳴海は神戸に向かった。鳴海の場合はきちんとしたエリート・サラリーマンの風体で新幹線に乗って出かけた。


 ただその新幹線の車中で鳴海をつけていると思しき者達がいた。


『二人ですか。何が目的なんでしょうかね』


 当然鳴海はその尾行に気づいていたが、差して気にした風もなくそのままにしておいた。


 ただこの先赤城の所まで付いて来られる面倒だと思ったので、鳴海は新神戸の駅を降りた所でその二人を巻いた。


 目の前にいたターゲットが一つのコーナーを曲がったのでその後をついて同じコーナーを曲がった時にはそのターゲットは既に消えて何処にも見えなくなっていた。


 二人はうろたえて周囲を探してみたが見つからず玄関口へと駆けて行った。


『一応は訓練されているみたいですね。素人ではないと言う事ですか。まぁ、そのうちわかるでしょう』


 そう一人呟いて鳴海は赤城の元へ急いだ。


 ただある所でこんな報告がなされていた。


「どうだった赤城と言う男は」

「そうですね、一見普通の男の様に見えますが攻略は少し手間取るかも知れません」

「珍しいな、お前からそんな言葉を聞こうとは。お前にかかればどんな男でもイチコロだと思っていたんだがな」

「私もそう思っていたんですが、あの男、どうやら一筋縄では行きそうにありません」


「それはどう言う事だ。お前の魅力が通じないとでも言うのか」

「そうは申しませんが、何かが引っかかるんです。あの男の心には何かもう一枚壁があるような。それがまだはっきりと掴めないのです。ただ仕込みはもう済ませてありますのでそれほど時間はかからないと思います」

「そうか、ならいい。それに焦る事もあるまい。じっくり攻めてくれ」

「わかりました。では失礼します」


 この会話の主は一体何者なのか。そして赤城に対して何をしようとしているのか。今はまだ謎だ。

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よろしくお願いいたします。

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