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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第三部
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第二話 レッドヘルガ

神戸に行った赤城は

早速暴走族の揉め事に巻き込まれていた。

しかしそれがどうやら本命に辿り着きそうな気配でもあった。


 その頃神戸に行った赤城は、軽く神戸市内から周辺をクルージングして地理を頭の中に詰め込んでいた。


勿論最近では優秀なカーナビがいくらでもある。当然バイクにもつけられる。しかし本当の道を頭の中に入れておくのが一番だ。いざ戦いとなった時にはそれが役に立つ。


 赤城は一見粗雑そうな大男に見えるが結構優秀な頭脳の持ち主だった。殆どの道を頭に収め、須磨の海岸で一人のんびりとサンドイッチを片手にミルクを飲んでいた。何とも似つかわしくない光景だが赤城はミルクが好きなのだ。


 そんな時、浜辺の奥の林の中から聞きなれた音が聞こえて来た。それは罵声と共に肉を打つ音だった。誰かが喧嘩をしているようだ。


 赤城の耳はその音から5人の人間が争ってる事を聞き分けていた。


「1対4か。どうするかな。面倒だし放っておくか」


しかしその音はやがて1人の劣勢を伝えてきた。


『ったく、耳が良いと言うのも問題だな。とは言っても緑龍ほどじゃないがな』


 仕方がないかと赤城はのっそりと体を起こして音のする方に向かった。


 見たところ彼らは共に暴走族の様だ。族同士の縄張り争いの喧嘩でもやっているのかと赤城は思った。


「おい、もうその辺で止めておいたらどうだ。殺す気か」

「何だお前は、関係ない奴は引っ込んどれ」

「それもいいんだけどよ。その音がな、うるせーんだよ。もうちょっと静かにやれねーのかよ。このバカどもが」

「なんやと、今おのれバカとかぬかしおったな」

「言ったがそれがどうした」


「あほんだらがー」と言って一人が殴り掛かっていた。赤城の体に触れたかと思った時にはその男は両膝をついて地面に倒れていた。


「同じやるんならよ。これくらい静かにやれって言ってるんだよ。バカが」

「くそがー、おい、やってまえ」


そう言って残りの3人が掛かって行ったが、まるで話にならなかった。これもみな赤城に触れるか触れないかで地面に倒れていた。


「これでやっと静かになったか。うっとうしい奴らだ」


 そう言って赤城はまた元の場所に戻って残りのサンドイッチをほおばっていた。


 そこに片足を引きずる様にしてやって来たのはさっきボコられていた一人の族だった。


「助けてくれてありがとうございました」

「なんだお前、人並みに礼が言えるのか」

「そら、俺かて礼くらい言えますよ」

「そうか、それは良かったな。じゃーもういいから帰れ」

「あのーちょっとええですか」

「は?なんだ」


「あれってあんたのバイクですか。カワサキのニンジャZXやないですか」

「そうだが、それがどうかしたのか」

「俺の憧れのバイクなんですよ。死ぬまでに一度でいいから乗ってみたいと」


「情けない事言うな。お前はまだ若いんだろう。ならこれから先いくらだってチャンスがあるだろうが」

「そうなんすけど、俺金ないんで」

「ないなら働いて稼げよ」

「ええ、まぁ、そうなんすけど・・」


「お前昼めしは?」

「まだです」

「そうか、なら俺に付き合え。飯奢ってやるからよ」

「は、はい。お供します」


 こうして赤城はこの安本を連れて近くの食堂チェーン店に入った。ここで赤城はこの辺りの族の情報をこの安本から聞こうと思っていた。


 安本の話によるとさっきの連中はここから北西部を拠点としているブラック・シガーズと言う族らしい。それなりの勢力を持っていて、安本達のいる須磨領域を狙っているらしい。


 須磨には安本達の様な小さな族が3グループあると言っていた。ただ勢力的には彼らブラック・シガーズには太刀打ち出来ないので、行く行くは消滅させられるか彼らの軍門に下るしかないと言っていた。しかし今はそれでも出来る限りの抵抗をしているんだとか。


 神戸市内には更に大きな二つのグループが互いに勢力をしのぎ合っていると言った。一つは六甲バスターズ。それともう一つがグレーン・ファイヤーズと言うらしい。


 流石のブラック・シガーズもまだ市内を勢力下に置く事は出来ないでいるらしい。


 赤城はそれらのグループの中で麻薬を使っているものはいるのかと聞いたが、詳しくはわからないがグレーン・ファイヤーズは何か変な組織とつながりがあると言う噂を聞いたと言う。その変な組織とは何処の組織なのか詳しい事はわからないと言った。


『なるほど変な組織ね。それは調べてみる必要がありそうだな』と赤城は思った。


「あのー先輩。先輩はOBですよね」

「何だ、そのOBと言うのは」

「そやから俺ら、族のOBなんでしょう。何処のグループに入ってたんですか。教えてくださいよ」


「俺は何処にも属しちゃいねーよ。ローンライダーだ。『レッドヘルガ』と呼ばれてたがな」

「『レッドヘルガ』ですか、何かカッコええですね」

「そうか、お前良い奴だな」


 この赤城、結構乗るタイプかも知れない。


「今度俺のリーダーに紹介しますから是非会ってやってください」と頼まれたが、市内での仕事がすんだらその時にまた会おうと、連絡方法を聞いておいてその時は別れた。


 赤城は再び市内に戻り、安本が言っていた六甲バスターズが根城にしていると言われる辺りに行ってみた。そこは六甲山の麓にある比較的小さな町だった。神戸の様な都会にもこんな所があるのかと思わせる様な所だった。


 六甲バスターズはこの六甲山の南側を中心に活動し、それに対してグレーン・ファイヤーズと言うのは神戸市の北区を中心に活動していると言う事だった


 赤城がその境界線辺りまで来てみるまたしても聞きなれた音が聞こえて来た。


『ほんとこの町はうるさい町だな。少しは静かに出来ないのかね』


 と言いながらも赤城はまた音のする方に向っていた。本人が言うほどに音は気にならないのかも知れない。むしろその手の音は逆に赤城の好奇心を掻き立てる音だったのかも知れない。


 そこでも御多分に洩れず、族達が争っていた。


『ほんと今日は俺の厄日かね。こんなのばっかりだな』


 そう一人呟きながら様子を見てみると、今度はかなりの数で争っていた。3人相手に20人程が襲っている。待ち伏せでも食ったかと赤城は思った。


『しかしあれでは時間の問題だな。まずは下準備でもしておくか』そう言って今の状況をビデオに撮って充分に証拠が撮れた時点で中に入って行った。


 端っこの数人を弾き飛ばして中でうずくまってる3人の所に駆け寄った。一人はまだ軽傷だが二人はかなりの怪我を負っている。これは早めに病院に連れて行った方がいいだろうと赤城は判断した。


「お前ら、そこまでにしておけ。この二人早く病院に連れて行かないと本当に死んじまうぞ。お前ら人殺しになりたいのか」

「知るかそんな事。わしらに刃向かう奴らは皆殺しじゃ」


『何だ、こいつら。頭がちょっといかれてるのか』


 そう思ったが、相手が聞く耳を持たないと言うなら聞かせるしかないかと赤城は行動に出た。


 二人を完全にのばしておいて、後は片っ端から叩き伏せて行った。20人を地面に這わせるのに2分もかからなかった。そうしておいて赤城は救急車を呼んだ。そうすると当然そこから警察にも連絡が行く。


「今救急車を呼んだからな、やがて警察もここに来る。捕まりたくなかったら直ぐに消えろ。いいな」


 そう言われたらどうしようもない。族達は蜘蛛の子を散らす様に消えて行った。今回の主犯者として赤城は先の二人を倒しておいたのだ。彼らはこの事件の加害者の一部であり犯人だ。


 それとビデオもある。ここで赤城は警察での自分の立場を確保しておいた。


 救急車が来て、二人を救急病院に搬送して行った。軽傷ですんだ一人の手当てを救急隊員がして赤城共々残り全員は警察署に連行された。


「なーあんた。あんたはもうええ歳なんやろう。何で暴走族なんかとつるんでるんや」

「俺は別につるんでなんかいませんよ。たまたま現場にいただけです」


「それで六甲バスターズのメンバーを助けてた言うんか」

「そう言う訳ではないんですが、多勢に無勢だったので可哀そうかなと思って、つい」

「あほな事を。一般市民が『つい』で暴走族の加勢なんかせへんで。あんた一体なにもんや」


「俺は怪しいもんじゃないですよ。大阪にある天堂商会の市場調査を担当してる者です。今回こちらには古美術の市場調査に来てるだけですから」

「大阪の天堂商会な。一応調べさせてもらうで」

「はい、どうぞ」


 神戸の灘署の問い合わせに対し、大阪の新地南署からは、赤城敏光と言うのは確かに天堂商会と言う古美術商の社員に間違いはないと言う回答が寄せられた。


特にやくざ組織であるとの添付もなかった。事実この天堂商会の社員全員と言うか組員全員には一切の犯罪歴はなく、また問題のある暴力行為も違法な商取引も一切行ってはいなかったので特に付け加える事はなかったのだろう。良い悪いは別にしてだが。


 証拠のビデオがある以上、赤城がこの騒動の当事者でない事は明白だった。そう言う事で赤城は事情聴取だけで解放された。


警察署で保管されていた赤城自身のバイクにまたがり、署を出て見えなくなった辺りで、数人の六甲バスターズのメンバーが待っていた。


 二人は病院送りになっていたが一番軽傷だった宮坂秋野と言うのが先に警察署を出されて赤城を迎えに来ていたのだ。


「今回はありがとうございました。ほんまに助かりました。もしあんたがいなかったら俺らどうなっていたか。そんで俺らのリーダーも礼を言いたい言うんで、良かったら一緒に来てくれませんか」


 そう言う事で赤城は彼らの後をついて行った。そこは六甲山の麓にある、彼ら六甲バスターズの本拠地だった。


 最初に出て来たのがサブリーダーの加崎と言う男だった。加崎は赤城を値踏みするように見つめてからリーダーの所に連れて行った。


 それ以外の者達は赤城のバイクに見とれていた。ただ単に排気量が大きいと言うだけではない。その装備、外装に至るまで贅沢なほど金のかかったバイクだったからだ。


 リーダーの大槻と言うのは赤城に勝るとも劣らぬ大男だった。赤城が190センチあるとすると彼は195センチはあっただろう。しかもその肢体は共に筋肉の鎧で覆われていた。その二人が並ぶとまさに壮観だった。


「俺はこの六甲バスターズのリーダーやってる大槻言うんやけど、あんたは」

「俺か、俺は赤城だ」

「赤城さんか。今回はほんまにありがとうございました。あんたがおらんかったらうちの二人死んどったかも知れん」


「そうでもないだろう。結構しぶとそうだったぞ。あの二人」

「そう言うてもろたらあいつらも喜びますわ。所であんたはどっかの族にでも入ってはるんですか」

「それはないだろう。俺はもうおっさんだからな」

「そうですか、ならOBですか」

「まぁ、そんなとこだ」


「この辺の族やった人ではないですね。それなら俺が知ってるはずやから」

「そうだな。俺は関東でバイクを転がしてた」

「そうですか、道理で知らんはずや。それでライダー名は」

「レッドヘルガだ」


「レッドヘルガですか。カッコいい名前ですね。それでこれから何処に行かれるんですか」

「何処にもいかねーよ。俺はここでする仕事があるんでな」

「そうですか。でもそれはちょっとまずいかも知れませんね」

「どうしてだい」


「あのグレーン・ファイヤーズが放っておくはずがないからです。奴らかなりしつこいんで」

「つまり俺が狙われると言うのかい」

「ええ、そうです」

「それは困るな。だからと言って仕事を放りだす訳にもいかねーんでな。このままここにいさせてもらうよ」

「そうですか、ならもう一つええですか」

「ん?なんだ」


 そう言った途端、大槻が渾身の右ストレートを出してきた。当たれば相手がどんな大男でも病院行きは間逃れなかっただろう。


ただ大槻はぎりぎりで寸止めするつもりだった。赤城の反応を見る為に。普通の人間ならそれだけで恐れるはずだった。


 それで赤城を諭すつもりでいた。相手は俺と同等の恐ろしい奴だと。しかし赤城は違った。大槻のその右の拳を「ビッシ」と言う音と共に左の手の平で受け止めていた。


 そして二人は動かなかった。いや違う、動けなかったのだ大槻の方が。まるで自分の拳が接着剤でくっ付けられてしまったかのように、ピタッと握られ1ミリも動かせなかった。


 それだけではない。じわじわと赤城の方から得体の知れない圧力が加わって来た。こんな事は大槻にとっても初めての経験だった。


 自分の拳を受け止める人間がいる事すら想像もしなかった。まして自分を遥かに凌駕する力を持った相手など。


 この時点で赤城は力を抜いた。そして釜本の拳を離してニッコリと笑って言った。


「あんたいいパンチしてるぜ」と。

「ありがとうございます。俺らに出来る事があったら何でも言ってください。何でも協力させていただきます」


 大槻はこの一手で完全に赤城に敬服していた。自分を遥かに超える族のOBとして。


 一方大阪の天堂商会では、

「ところでその後、赤城からは何か連絡はあったか」

「ええ、今は何でも神戸市内に拠点を置く一つの暴走族、六甲バスターズと言うのと関わっているそうです。ただ本命はその対抗馬のグレーン・ファイヤーズが怪しいと言ってきました」


「そうか、わかった。赤城には急ぐ事はないからじゅっくりと探索してくれと言っておいてくれ。それとついでだ、山王会の動きも探ってくれと言ってくれ。長期出張扱いだ。」

「わかりました。そう伝えます」


 翌日天堂がいつもの昼の喫茶店にいると、吉田刑事がやって来て、


「おい、天堂。お前、部下に神戸で何させてるんや」

「何ですかいきなり、吉田さん」

「この間な、神戸市内の所轄から問い合わせがきとったぞ。赤城敏光と言うのは何者やとな」

「赤城が何かやりましたか」


「いや、特に何かをやったと言う訳ではないんやがな、何か暴走族と絡んどるそうやないか」

「さー、何の事だか。ただ神戸には古美術の市場調査で出張させてますが」


「古美術の市場調査な。便利な言葉やの。一体どんな調査をさせとるんだか。そやけど向こうで揉め事だけは起こさせるなよ。特にグレーン・ファイヤーズとか言う族には、何や訳の分からんバックがついとるそうやからな」

「わかりました。気をつけさせます」

「お前の、『わかりました』は怖いんや、わしゃ。ほな、頼むで」


 そう言って吉田は引き上げて行った。特にこの時点で天堂に伝える必要はなかったのだろうが、情報を流してくれたんだろうと天堂は思っていた。


 赤城にはもうしばらく頑張ってもらわなければならないなと、天堂は神戸の空を睨んでいた。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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