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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第二部
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第五話 ローンライダー

少年達の犯罪には一応のけりはついた。

しかしまだ麻薬の入所先がわからなかった。

そこで天堂は赤城を神戸に向かわせた。

 一応少年達の問題は片付いた。しかしだからと言って全てが片付いた訳ではない。勿論被害にあった女性達への精神的なケアの問題もあるだろう。


 それだけ彼らが残した傷跡と言うものは精神的に大きく深かったと言う事だ。それをただ単に少年だからと言う事で許されていいはずがない。


 その事に関しては川野麻美も理解はしていた。彼女は彼女のなりの切口で社会に問いかけようとしていた。彼女も被害者家族の一員として。


 本来ならば被害にあった者達の資料は司法の手に委ねられるべきなのだろうが、天堂達はそれを敢えてこの世から消し去ってしまった。


 普通一般常識から考えれば、それでどうして罪を犯した者達に罰を問う事が出来るのかと言う事になるのだが、それは既に天堂達の手によって処罰が下されていた。それも温情のない処罰が。


 だからこれ以上の余計な詮索は無用と天堂達は全ての証拠を灰にしたのだ。余計なものが残っていれば後々悔いを残す事になるかも知れないと思って。


 それは天堂達なりの被害者に対する思いやりだったのかも知れない。


 それからしばらくした夜、「Time Out」で、鳴海に飲む酒が高過ぎると文句を言われながら二人で飲んでいると川野麻美がやって来た。


「やっぱり、お二人でいらっしゃったんですね」

「どうした、麻美ちゃん。また俺の酒が飲みたくなったか」

「いいですよ、そんな高いお酒。それに鳴海さんだっていい顔はしないでしょう」

「そうなんだよ。こいつは高い高いとうるさいんだよ。で、また何か用かい」


「いえ、そうじゃなくって、あたしってそんなに人を見る目がないんでしょうかね」

「何だ、そりゃ」


「あの浅川信君の事もそうです。全然彼の本心を見抜く事が出来ませんでした。それに貴方がたお二人、いえ、天堂商会の皆さんに関してもやくざは悪い者達だとしか」

「麻美ちゃん。やくざは悪い奴らだ。それは正しいと思うぞ。でなければ裏社会のごくつぶしなんて呼ばれたりはしないからな」

「では貴方がたはどうなんですか」

「俺達だってそうだよ。一皮むけば他のやくざと同じさ。世間の裏街道を歩く渡世さ」

「なに映画みたいな事言ってるんですか。でも何か違うような気がするんですよね。貴方がたは」


 正直麻美には心の中に複雑なものがあった。かってやくざによって麻美一家が崩壊させられ、両親が自殺に追いやられた事実がある。しかし彼らやくざによって、妹、紗耶香が助け出された事もまた事実だ。


 それをどう捉えたらいいのか麻美の中でもまだ整理がついてなかった。だからその時は何も考えずにただ天堂達と一緒に酒を飲んでいた。


 その後今天堂達が気にしていたのは麻薬の入手先だった。あの時は川野麻美の妹、紗耶香の救出を最優先にしたので細かい事は全て後回しにした。


 麻薬の入手先を知ってるはずの浅川信は、黒龍の幻想術によって正直廃人同然となっていた。その他の幹部達も同じだ。だから彼らからその情報を聞き出す事はもはや叶わなかった。


 天堂は「まぁいい。それはこっちでまた調べていけばいいだろう」と考えていた。


 ただ言える事は、彼ら非行少年達がいくら悪辣な事をしていようが麻薬となるとまた別次元の問題だ。


子供達だけで扱えるものではない。必ず何処かで大人の組織が絡んでいるはずだと天堂は思っていた。


 彼ら少年達がアジトとしていた大阪の中津と言う所にあったビルは増崎組のシマだった。そこで天堂は鳴海を増崎組に送った。


 増崎組の事務所と言うのは中津の商店街から北に5キロほど行った所にあった。それほど大きな組ではないが50人ほどの組員を抱えていた。


 だからその辺りの地域としてはそれなりの大きさの組だ。その組事務所の入り口に鳴海が入ろうとすると、ガードをしていた若い組員が、


「おい、われ、何処に行く気じゃ。ここは増崎組の事務所やぞ。わかっとんるんか」


 そう言って鳴海の前に立ちはだかった。その時それを見ていた兄貴分が血相を変えて飛んできて、その若いのを蹴り飛ばした。


「すんません。こいつ最近は入ったばっかりで何も知らんのですわ。許してやってください。それで今日は何か」

「はい、組長にお会いしたいのですが」

「わ。わかりました。少々お待ちを。おい、康夫、おやじに鳴海さんがお見えになったと伝えてこいや。さ、どうぞ。こちらです」


 そのやり取りをキョトンとして見ていた若い組員は隣にいた兄貴格に聞いていた。


「兄貴、あれは一体誰なんですか」

「あほ知らんのか。あれは天堂組の頭の鳴海さんや」

「天堂組でっか・・聞いた事ない名前やけど」

「そんな事知らんでもええんじゃ。そやけど絶対に粗相したらあかんぞ。お前の首一つ位簡単に飛ぶんやからな」

「ほんまでっか」


 その若い組員は今になって震えがきていた。


「これは鳴海さん。今日はどう言うご用件で」

「ええ、ちょっと聞きたい事がありましてね。あなたの所で麻薬は扱ってますか」

「い、いえ。とんでもない。うちではそれはご法度ですわ。それにお宅からも麻薬はあかんと言われてますさかいな」

「そうですか。わかっていただいているなら結構です。ただ最近この辺りで少年達が犯罪を犯していたのを知ってるでしょう」

「ええ、知っとります」


「その子供達が麻薬を扱っていたのは知ってましたか」

「ええ、薄々とは。しかしわしらにもあのガキらにはちょっと手が出せんかったんですわ。なにしろ親に結構大物がおりまして」

「しかし物は麻薬です。いくら大物の親のいる子供達でも自分達だけで麻薬までは入手出来ないでしょう」

「わしらもそれは気になっとったんですわ。わしらが調べて分かったんはどうやら神戸から流れて来てる言う事くらいで、それから先はちょっと」


「どうしてですか」

「なにしろ向こうは山河会のシマ内なんでこっちも手が出せんのですわ」

「山河会ですか。しかし向こうでも麻薬はご法度では?」

「わしもそう聞いてますが、中には陰でやってる奴がおるかもしれまへん」

「なるほど、そう言う事ですか。わかりました。お手間を取らせました」

「いいえ、こんな事しか言えんですんません」


 そう言いながら増崎は首筋に大量の汗をかいていた。この男の前ではいつも緊張すると増崎は思っていた。


 天堂商会に帰った鳴海は天堂にそう報告した。


「神戸か。そうなるとやはり向こうまで行ってみるしかなさそうだな」

「そうですね、誰か行かせますか」

「そうだな、赤城にするか」

「そうですね。それがいいかもしれませんね」

「よし決まりだ」


 こうして赤城が神戸に送り込まれる事になった。勿論一人でだ。


 この時みんなに、

「なぁ、赤城、神戸の町を壊すなよ」

「何で俺が町を壊すんだよ」

「お前の事だ、頭に来たら町の一つや二つくらい壊しかねん」

「おいおい、俺はそこまで短気じゃないって」

「そうか。この前の夜釣りの時にあんまり魚が餌にかからないって、岸壁のコンクリート叩き割らなかったか」

「いや、あ、あれはだな」

「そうだ。そうだ」と赤城はみんなから囃し立てられていた。


 腹立ててコンクリートを叩き割るとは一体どんな精神と腕力を持っているのやら。ともかくその男が神戸に向かう事になった。


 その出陣式と言う日の地下のガレージでは、天堂始め全員が揃って赤城を送り出そうとしていた。


「社長、何でここなんです。駅のホームとかじゃなく」


 この頃には全員が社会通念に合わせて上司の事を役職で呼んでいた。


「いや、お前にな、プレゼントがあるんだよ」

「俺にですか」

「そうだ。鳴海、いいか」

「はい、準備は出来てます」


 そう言って鳴海が引き出してきたのは黒い車体に赤いアクセントの入ったバイク、カワサキの1,400Ccの大型バイクだった。大柄の赤城には似合いだろう。


「社長、これって」

「そうだ。これはお前のバイクだ。これで神戸に行ってもらう」

「これって、俺がまさか族になるって事じゃ」

「流石にそれはちょっと無理があるだろう。薹が立ち過ぎてるだろう」

「そりゃないっしょ、社長。俺はまだ若いですよ」

「おい、赤城。それは無理だって」

 そう言ってみんなに笑われてしまった。


「あいつらみたいなガキが接触したんだ。向こうにもきっとそれなりの若いハングレ辺りがいるんじゃないかと思ってな」

「それでバイクライダーですか」

「そうだ。その方が自由に動けるだろう」

「そうかも知れませんね」


「それからその左右についてるトランクには現金で左右に200万づつ入れておいた。色々と現金の方が使い易いだろう。もし足りなければ言ってくれいつでも用意する」

「了解っす」

「それとな後ろのトランクには戦闘服とライダー服を入れておいたので適当に使ってくれ」

「わかりました。それじゃーこれで神戸まですっ飛ばして来ますか」


「おい、赤城。名前は何にするんだ」

「赤鬼がいいか。レッドライガーか」


 みんな好き勝手な事を言い出した。


「いや、俺はレッドヘルガーだ」

「やっぱり赤鬼じゃねーか」


 こうして天堂商会の赤城(赤龍)はローンライダーとして神戸の町に向って行った。果たして神戸の町は大丈夫だろうか。


「天堂が行く」第二部完

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