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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第五章
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狼の吼える夜に 01 —旧友—







 私が神殿から出てライラ達の方へ向かうと、『トキノツルベ』の周りをジリジリと回っている三人の姿があった。まだやってたのね。



 いち早く私の姿に気が付いたライラが、手を振り声を掛けてくる。


「あっ、リナー! おかえりー!」


「おまたせ、みんな。どう、乾いた?」


「うん、もう大丈夫そう、だよ!」


 あれから三人で乾かし続けていたのだろう。ライラの言う通り、トキノツルベは綺麗に乾いていた。


「じゃあ、しまっちゃおうか。袋持ってくるね」


 私は三人に声を掛け、馬車から保存用の袋を持ってきた。三人は袋を受け取り、私と共に乾燥したトキノツルベを袋に丁寧に仕舞っていく。


「それで、どうでした、妖精王様は?」


「途中で叫び声が聞こえたけど……大丈夫だったの、リナ」


 レザリアとニーゼが私に問いかける。困ったぞ。なんて言おう。


「……うん、大丈夫だったよ。何もなかったよ」


 あまり話すとボロが出るかもしれない。そう考えた私は、最低限の返事だけする。ルネディがいたなんて、とても言えない。だが——


「リナ、嘘ついてるでしょ」


 ——ライラだ。ライラは私の方を真剣な表情で見詰める。その私の心を見透かす様な瞳に、私は動揺する。レザリアとニーゼも、何事かと手を止めてしまった。


「……何でそう思うのかな」


「だって、いつものリナとなんか違うもん」


 ——鋭い。図星を突かれて、私の手が震える。考えろ、考えろ、私——。


 しかし、言葉を詰まらせる私に、ライラはぐぐっと顔を寄せてくる。


「何か言えない事なのかな? ねえ、リナ。何があっても私はリナの味方だよ。お願い、教えて」


「ライラ……」


 心が痛い。言えたらどんなに楽だろう。


 ただ、この妹分と友人達を、誠司さんを裏切る様な真似事に巻き込みたくはない。でも、もしかしたら——


 ——私は、覚悟を決める。


「……みんな。笑わないで聞いて欲しいの」


 固唾を飲んで頷く三人に、私は紙の束を取り出す。


「これを見て」


 私は先程アルフさんから貰った『胸を大きくする魔法』が書かれた紙を広げる。やはり皆んなを巻き込む訳にはいかない。こうなりゃヤケだ。


「これって……」


 その魔法が書かれた紙と私の胸を、三人は交互に見比べる。やめたまえ。


「そう、『胸を大きくする魔法』。妖精王様に作って貰ったんだけど、率直に聞かせて。私に扱えると思う?」


 察する三人。訪れる沈黙。お願いだ、誰か何か言ってくれ。しばらくして、その沈黙を破ったのはライラだ。


「……ごめんね、リナ。言いたくなかったよね。私、リナにひどい事した……グスッ」


 おいおい、泣くな泣くな。ライラは何故か半ベソ状態である。でも、なるほど。口には出さないけど、あなたもそうは思ってたのね。うんうん。


「リナ、胸を張って下さい。いえ、すみません、失言でした。リナ、人の価値はそんなものでは決まりませんよ」


「そうだよ、リナ……今のままでも、リナには私や……みんながいるよ」


「レザリア、ニーゼ……わかってるけどさ、わかってるけどさあ!」


 よし、私も気分が乗ってきた。このまま押し切ってみせる。その時、ピコーンとライラに電球が浮かぶ。


「そうだ、リナ。キャルに相談してみる?」


「カルデネに? なんで?」


 ライラはふっふっふっ、と笑う。お手本の様なしたり顔だ。


「キャルね、昔、魔法国で魔法の研究してたんだって! 見た感じ、この魔法最適化されてないよね? キャルならもしかしたら……!」


「マジか」


「マジ、だよ!」


「ライラ!」


「リナっ!」


 私達はガッシリと抱き合う。レザリアとニーゼは涙を流しながら拍手をする。何だこれ。



 ——こうして私の尊厳を犠牲にして、この場は乗り切れたのだった。


 あー、こうなったのも全部あの乳デカ女、ルネディのせいだ。覚えてろっ。











 莉奈達を乗せた馬車は夜道を走る。



 あの後莉奈達は、夕方まで他の薬草などを採取して時間を潰していた。


 そのおかげで、それなりのまとまったお金が手に入りそうなくらいの薬草類が集まった。



 そして夕刻過ぎ、ライラは自ら眠りにつき誠司が姿を現す。


 莉奈はルネディの心配をしたが、誠司が何も言わない所を見ると、どうやら莉奈の忠告通り遠くへと離れたらしい。莉奈は胸を撫で下ろす。


 そして一行は軽食を取り、誠司の運転で彼の『旧友』のいるという場所まで馬車を走らせる——。




「さあ、着いたぞ。皆、降りなさい」


 一時間程走らせただろうか。誠司は皆の乗っている荷台へと声を掛け、馬車を繋ぎ止める。


 莉奈は馬車から降り、辺りを観察する。


「誠司さん。ここ、何もない様に見えるけど……」


「ああ。まあ、何もないな」


 莉奈が見る限りでは、この場所は岩壁に囲まれた場所に開けた自然の更地である。


 少し離れた所に川が見えるが、とても誰かが住んでいる様には思えない。


 もしかしたら洞穴があり、ドワーフが住んでいるのかも知れないと思ったが——誠司が何もないというのなら、それもないのだろう。


「せ、誠司さん、こんな人気ひとけのない所に連れ出して、まさか……信じてたのに……」


「馬鹿。レザリア君やニーゼ君もいるだろう。少し待ちなさい。じきに来るから」


 馬車から降りたレザリアとニーゼも、不思議そうに辺りを見回しながらこちらに近づいて来る。誠司は地べたに座り、空を眺め始めた。


「もー、誠司さん。もったいぶらないで、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」


「はは、楽しみにしていなさい。もうすぐ来るぞ。心の準備をしておきなさい」


 一体何を? と莉奈達が顔を見合わせた時だった。低く、くぐもった声が空から響く。


「——久しいな、セイジ。何年振りだ」


 その声と共に、大きな影が空から降ってきた。莉奈達は恐怖で固まる。あれは一体何だ、魔物にしても大き過ぎる。


 ソレは見上げる程の体躯を持った、狼の姿を持つ者だった。普段、並の魔物など意に介さないクロカゲやアオカゲも、すっかり怯えてしまっている。


「誠司さん……アレは、何なのかな……?」


 震える声で莉奈は誠司に尋ねる。そんな莉奈を見て、誠司はまるで『してやったり』の笑みを浮かべ、目を細めた。



「どうだい、驚いただろう? 彼はこの世界で『ヴァナルガンド』と呼ばれる者。まあ、私達の知っている物語でいう所の——フェンリルだ」







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