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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第四章
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そのクエストは運命を狂わす 04 —妖精王—






「初めまして、妖精王様。私が莉奈です」


 私はドギマギしながら妖精王様に挨拶をする。もし機嫌を損ねたら一大事だ。


 しかし、緊張した様子の私を見て妖精王様は寂しげに笑った。


「僕は王様でもなんでもないよ。周りが勝手にそう呼んでいるだけだ。僕の名前はアルフレード。アルフと呼んでくれ」


 なるほど。誠司さんが『救国の英雄』と呼ばれている様に、この人も周りから呼ばれているだけなのか。妖精王様と聞いて勝手に妖精の進化した様な人を思い浮かべていたが——見た感じでは人間にしか見えない。


「分かりました、では失礼して……ねえ、アルフさん。私にお話しって何でしょう?」


「まあ、まずは座ってくれ。紅茶でいいかい?」


「あ、すいません、はい」


 私はうながされるまま椅子に腰掛ける。そして顔をあげると、なんとテーブルの上にはいつ間にか湯気の立った紅茶が用意されていた。私は目を丸くする。


 その私の様子に構う事なく、アルフさんは組んだ指の上に顎を乗せて私に質問をする。


「ねえ、リナ。君は何処から来たんだい?」


「あ、はい。エリスさん……の住んでいた魔女の家から来ました」


 アルフさんはエリスさんの事を知っているハズだ。これで通じるはず——。


「いや、ごめん。質問し直そう——」


 私の予想とは裏腹に、アルフさんは求めていた答えではないと少し俯く。そして再び私の方を向き直り、言葉を続けた。



「——リナ、君は『転移』前、何処に住んでたんだい?」



 その彼の質問に、私は言葉を失う。驚きだ。こんな質問をしてくるって事はこの人はもしかして、誠司さんの言っていたもう一人の『転移者』の人——。


 いや、違うかもしれない。私は震える手を押さえ考える。


 私の記憶が確かなら、あの時誠司さんはもう一人の転移者について『今は遠くの街で暮らしている』、そう言っていたはずだ。レザリアが生まれる前からこの森に住んでいたというこの人とは、条件がまず合わない。


 とりあえず私は、無理矢理口を開き言葉を出す。


「私は……『日本』という国からこの世界に来ました……」


 その言葉を聞き、アルフさんは上を向いて考え込む。


「『ニホン』……聞いた事が無い国だな。君は『イターリャ王国』は知っているかい? 僕はその国から転移して来たんだけど」


 やっぱりだ。この人は『転移者』だ。先程レザリアは、私が転移者である事をアルフさんに告げたのだろう。それで私が呼ばれた訳だ。でも——


「『イターリャ』王国?……ちょっと分からないです……」


 ——私は頭をフル回転させ考えたが、心当たりがない。いや、語感の似ている国は一つ頭に浮かんだが——あそこは確か共和国のはずだ。王国ではない。


「……そうか。僕たちは、もしかしたら違う世界から来たのかも知れないね。ちなみに僕は『テーラ』という星から来たんだけど」


「私は『地球』という星から来ました」


「……『チキュウ』……そうか、知らない星だな。あわよくば君と昔話が出来るかも、と思っていたんだけど、残念だ」


 そう言ってアルフさんはため息を吐く。私が悪い訳じゃないけど、なんだか申し訳ない。そこで私は、別の話題を切り出す。


「そう言えば転移してきたって事は、アルフさんもスキル——何か特別な能力みたいなのは持っているんですか?」


「そうだね。レザリアに聞いたかどうかは分からないけど、僕がこの森の妖精を生み出しているって話は知っているかい?」


「はい。おかげでこの森は救われたと聞きました」


「それが僕の能力さ」


 なるほど。つまりアルフさんは『穴』に吸い込まれる時——いや、何かおかしくないか?


「……あの、アルフさん。『穴』に吸い込まれる時、妖精の事を考えていたんですか?」


 そうだ。『穴』に吸い込まれる時に考えていた事がスキルとして発現するはずだ。それに関してはほぼ、間違いないだろう。しかし、そんな非常事態時に果たして妖精の事なんて考えるだろうか——。


 その時だった。私の言葉を聞いて考え込んでいたアルフさんが突然声を上げた。


「なるほど。そうか、そういう事だったのか!」


「わっ、どうしました!?」


 突然の大声に、私は思わずってしまった。アルフさんは私の様子を気にせず、まくし立てる。


「いや、ごめん。さっきは言葉足らずだったね。僕の能力は『作る』能力さ。確かに僕は『穴』に吸い込まれる時、その時造っていた建築物の心配をしていた記憶がある。『ああ、まだ造りかけなのに』ってね。それが僕の能力になったんだね。僕は建築家だったのさ」


「作る能力……それではアルフさんは能力で妖精を作りだしてると」


「ああ、そうさ。命ある物は無理だけど、妖精は概念的存在だからね。僕の能力で作りだせる。君の目の前の紅茶もそうだ。他には魔道具や魔法そのものなんかも作れるよ。勿論、色々制限はあるけどね」


 ——ちょっと待て。魔法を作り出せるって、それってなかなかのチート能力じゃない!?


 誠司さんは言ってた。妖精王は魔法に精通していると。実際は、精通しているどころか魔法そのものを生み出せる人物だったという訳だ。


「す、すごいんですね……」


「ああ、でも今はただの引きこもりさ。ところでリナ、君の能力は?」


 アルフさんに聞かれた私は、素直に言っていいものかと戸惑う。『わあ、私、飛んでるー』なんて考えていたとはあまり言いたくない。


 でも、アルフさんはここまで教えてくれたんだ。私だけ言わないのは無しだろう。私は観念する。


「私は……空を飛ぶ能力です」


「それは素晴らしいね。人類の憧れだ——」


 アルフさんは感心した様子で微笑む——あれ? 素直に褒められてる?


 ギュッと目を瞑っていた私は、予想外の反応に肩透かしを食らった気分になる。まあ、いいことなんだけど。


「——それでリナ、君は目覚めたのかい?」


 ん、目覚めるってなんだ? 今、私が目を瞑っていたからか?


 キョトンとする私の顔を見て、アルフさんは優しく微笑む。


「すまない、今のは忘れてくれ。別の話をしようか」


「……はい」


 私は紅茶に口をつける。その紅茶は、とても優しい味がした。





「ところでアルフさん。人間嫌いって言ってましたけど、どうして私に会おうと思ったんですか?」


 私は今更ながら当然の質問をする。まあ、私が転移者だと知って興味を持ったのだろうとは思うが——。


「うん、それは簡単だよ。別に僕は人間が嫌いな訳じゃない。人間が僕を嫌いなだけさ」


「え? どういう事でしょう?」


「……その質問に答える前に、君は転移者だという事を他の『人間』に言った事があるかい?」


 私は思い返す。


『人間』——誠司さんは別として、まずノクスさんの顔が思い浮かぶ。その家族であるアナさんやミラさんも、私が別の世界から来た事を聞かされている様だった。


 レティさんは——確かあの時誠司さんは私の事を、『同じ国の出身』と紹介していた様な気がする。


「えーと、仲の良い人、数人には」


「それで……何も問題はなかったかい?」


 アルフさんの言葉の言い回し的に、『転移者』が嫌われているという事か。だけど、少なくともノクス家に関してはそんな事はない。


「あ、はい。普通に仲良くしてくれていると思います」


「そうか……何しろ千年近く前の話だ。もう風化してしまったのかもしれないね。それなら、君は何も知らない方がいいな。僕は君に嫌われたくない」


 そう言ってアルフさんはいつの間にか出した紅茶に口をつける。いちいち勿体ぶるな、この人。しかし『転移者』が人間に嫌われているとなると、他人事ではない。私は食い下がる。


「あの、教えて下さい。一体なにが——」


「——そうね。その話、私も気になるわ」


 ——その聞き覚えのある声に、私の背筋が一瞬で凍りつく。


 私が慌てて辺りを見回すと、その声の主は床から突然現れた。その豊満な胸を強調した、黒いゴシックドレスを身に纏った女性——



 そう、『厄災』はいつだって、突然やってくる。



 ——『厄災』ルネディだ。






 

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