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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第四章
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そのクエストは運命を狂わす 03 —『トキノツルベ』—





「リナー、こっちこっちー!!」


 ——周辺を探し始めてから五分程経った頃、ライラの私を呼ぶ声が聞こえた。


 私は茂みを掻き分け、声のする方へと向かう。そこには——。



「うわっ! 何これ、いっぱい生えてんじゃん!!」


「でしょでしょ!? すごいよね!」


 ライラがぴょんぴょんと飛び跳ねる。


 茂みの奥には採取対象である『トキノツルベ』らしき植物が、決して少なくない数、生い茂っていたのである。


 私はライラに貰ったメモの写しを取り出し、見比べる。元の世界でいう所のゼンマイに似たそれは、どうやらトキノツルベで間違いなさそうだ。


「ねえ、リナ。早く採取しよ!」


「お待ちなさい、ライラ。こんな簡単に見つかるなんて、何かの罠かもしれない!」


「ん? そなの?」


 私は地べたに這いつくばってマジマジと観察する。罠は——ないようだ。


 いや、何と戦っているんだ私は。急に冷静になった私は立ち上がり、服に付いた土を払った。


「うん、大丈夫そうだね。んでライラ、これってどうやって採取すればいいの?」


「んとね、ちょっと待ってて……」


 ライラは確認の為、別のメモを取り出す。マメな彼女は、図鑑に載っている注意点なども書き写していたのだった。それと依頼のメモを合わせ、私に読み上げてくれる。


「えと……『柔らかい部分を折り採りましょう』。『乾燥させて保存します。そうする事で草の持つ魔力が増大します』……依頼の方も、乾燥させた状態でだいじょぶだよ」


「そっか。じゃあすぐに納品しなくても大丈夫そうだね。よし、必要な分、採っちゃおうか」


「うんっ!」


 私達はトキノツルベを摘み、日当たりのいい地面に敷いた布の上にならべていった。


 私はふと、未だ生い茂っているトキノツルベを見る。少しだけ余分に採ったが、そんなに数を減らした感じはしない。根っこの部分を残して摘んであるので、じきに元通りになるはずだ。


「——『乾きの魔法』」


 ライラが魔法を唱えると、彼女の手が暖かく光りだす。


『乾きの魔法』——これは、髪の毛や洗濯物を急いで乾かしたい時に使う、所謂生活魔法に分類される魔法だ。若い女性の習得率が高めの魔法でもある。


 当然私も髪の毛をケアする為に覚えているので、ライラに続き詠唱を始める。


「——『乾きの魔法』」


 私とライラは手をかざしながら、布の周りをジリジリと回る。急激な乾燥はあまり良くない気もするので、ゆっくりと、ムラなく、丁寧に中腰になって手をかざしていく。


 はたから見たら、何かの儀式の様に見えるだろう。まあいい、労働とはこういうものだ。多分。






 二人とも眉間にしわを寄せながら、真面目に乾かし続けて十分程経過した時だった。


 神殿からレザリアが走ってくるのが見えた。後ろからニーゼもレザリアの後を追って——いや、追っかけて?来ている。


 私は作業の手を止め、レザリア達に手を振る。やがて私の前にたどり着いたレザリアは、慌てた様子で声を上げた。


「リ、リナ!」


「どうしたの、レザリア?」


「そ、それが——」


 その時、レザリアに追いついたニーゼが頬を膨らませながらレザリアをポカポカと殴り始めた。何かあったのか。ライラも作業の手を止め、ワタワタし始めた。


「痛、痛っ。ちょ、やめなさい、ニーゼ」


「信じられないよ、レザリア。あんな事言うなんて——」


「な、何があったのよ、あなた達——」


 私は思わず二人の間に割って入る。ニーゼは「もう、もうっ!」と拳を握りしめる。


「どうしたの、二人とも……」


「聞いてよリナ。レザリアったら——」


「おやめなさい、ニーゼ。言いたい事は分かります。ただ、もし——あなたにも教える、と言ったら?」


 不敵に笑うレザリア。その言葉を聞いたニーゼは、雷に打たれたかの様にビクッとする。


 そしてレザリアに近づき——無言で手を差し出した。その手を固く握り返すレザリア。二人は「フフフ……」と私の方を見て笑う。


 間違いない。これ、何か企んでる時のアレだ。というか、私の知らない所で話進めんな。


「もう、そうやってすぐ喧嘩しないの。仲直りした、って事でいいんだよね?」


「はーい!」


 二人は声を揃えて楽しそうに返事をする。なんだかんだで仲良いな。私は安心する。


「ふう。それで? レザリア、随分と慌ててたみたいだけど」


「そ、そうでした!」


 レザリアは思い出したかの様に、素っ頓狂な声を上げる。


「あ、あの、妖精王様とお話をしている最中、流れでリナの事を言ってしまったのです。そしたら——」


 彼女は唾を飲み込み、続けた。


「——妖精王様がリナに会いたいと。しかも二人っきりで」


「……え、なんで? 人間嫌いなんでしょ、妖精王様って」


 レザリアの言葉を私は消化しきれないでいた。もしかして、勝手にトキノツルベを採取したから怒られるとかか!? だとしたら、申し訳がない。


「えと、どうやらリナに強い関心を持った様で……それで少しお話がしたいと」


「う、何言ったのよ、あなた……行ってもいいけど、変な事されないよね?」


「はい、その様な方ではないので大丈夫かとは思いますが……」


 その言葉に、ニーゼが強く頷き同意をする。


「うん。私にはレザリアの方がよっぽど危険だと思うよ」


「ニーゼ! 私のは純粋な気持ちです!」


 猫の様に睨み合う二人。最近見慣れつつある光景に思わずため息を吐く私に、ライラが近づいて来た。


「リナ、通信魔法。何かあったらすぐに呼んでね」


 不安そうな表情を浮かべ指を突き出すライラに私は指を絡め合わせ、笑顔を作って答える。


「うん、大丈夫だよライラ。何かあったらすぐに飛んで逃げるから。——『想いを繋ぐ魔法』」


「約束だよ?——『想いを繋ぐ魔法』」





「じゃあ、気をつけてね」


「うん、待っててねー」


 こうしてライラとの魔法の唱え合わせが終わった私は、不安気な表情を浮かべる三人に見送られながら神殿へと向かう。


 正直、気丈には振る舞っているものの、内心びびっていた。妖精王様ってどんな人なんだろう。めちゃくちゃ偉い人だよね、多分。






「お邪魔しまーす……」


 私は恐る恐る扉を開け中に入る。神殿の中は思ったよりも広くない。奥に一人用の椅子が見えるがそこに人の姿はなく、その手前、八人ぐらいが座れそうな丸いテーブルの一席にその人物はいた。


 その人物は穏やかな笑顔で私に話掛ける。


「やあ、君がリナかい? いらっしゃい、よく来たね」






 ——莉奈は気付かない。気付き様がない。もし、この場に誠司がいたら驚愕したであろうその人物に。


 その人物は長い緑髪を後ろに束ね、中性的な顔立ちをしていた。


 そう、彼は誠司が空間の中で会っている人物、『空間の管理者』と呼ぶ人物の姿そのものだったのだ——。





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