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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第四章
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そのクエストは運命を狂わす 02 —桜—






 道中は快適だ。


 小型の魔物はクロカゲとアオカゲが意にも介さず蹴散らしてくれるし、通り掛かりの魔物はレザリアが射抜いていく。


 たまに複数体の魔物が立ち塞がった時などは、ニーゼが馬車から飛び出して行った。彼女の剣捌きも中々のものである。レザリアの援護射撃と合わせれば、ここいら辺の魔物では彼女達の相手になる者はいなかった。


 その様にして立ち止まって倒した魔物がいたら、その跡に莉奈とライラ、レザリアの三人が慌てて群がり、ギルドカードをパタパタとする。これで倒した事が記録されるはずだ。


 今日は五月にしては少し暑い。道のりの半分程過ぎた所の水辺で莉奈は馬車を停め、クロカゲとアオカゲに長めの休憩を取らせる。莉奈が綱を外すと、二頭は水辺にゆっくりと向かって行った。




 莉奈は袖をまくり、木陰に腰掛ける。馬達が水を飲む様子を眺めながら、莉奈も水筒の水を喉に流し込む。


 しばらくすると、そんな莉奈の元にライラがてくてくとやって来た。


「ねえ、リナ、見て。レザリアから魔法教わっちゃった」


「そうなの?どんな魔法?」


「ふふーん。よおく見ててね。——『木に花を咲かせる魔法』」


 ライラが魔法を唱えると、莉奈のもたれている木にポンポンポンと色とりどりの綺麗な花が咲いた。莉奈は思わず感嘆の声を漏らす。


「……綺麗」


「でしょ? 何かリクエストある? あったらやってみるよ」


 莉奈は考える。そうだ、あれがいい。この世界にもあるらしいが、莉奈がまだここでは見た事がないあの花。


「……『桜』は出来るかな?」


「あ、リナやお父さんの国でいっぱい咲いてるやつだね。図鑑にのってたやつ。うん、やってみる!——『木に花を咲かせる魔法』!」


 ライラは気持ち先程より力を込めて詠唱する。その魔力は木に波及してゆき——やがて、莉奈の頭上にピンク色の花が満面に咲き誇った。


「……すごい」


「きれいだねえ」


 莉奈は元の世界を懐かしむ。


 辛い事もあったが、悪くない世界だった。


 だけど——何故か帰りたいとは思わない。


 それはこの世界で出会えたものを、失いたくないからなのだろう。


 それだけこの世界で出会えた皆が、莉奈にとってかけがえのない存在となっていたのだ。


「——ありがとね、ライラ。私と出会ってくれて」


 気がつくと、莉奈の頬は少し濡れていた。ライラはそれに気づかないフリをする。


「ううん、こっちこそ、だよ。ありがとね、リナ」



 馬車からレザリアとニーゼがやって来るのが見える。莉奈は慌てて涙を拭った。レザリアは頭上に咲き乱れる花を見て、感心をする。


「簡単な魔法とはいえ、もうここまで出来る様になったのですか……さすがですね、ライラ」


「どう? すごいでしょ。レザリアの教え方が上手いからだよ!」


 簡単とはいえ、並の人物なら一朝一夕で覚えられるものではない。魔法というのは本来そういうものなのだ。


 だがこのライラという少女は、そのセンスと意欲と努力により生活魔法レベルのものなら瞬く間に扱える様になってしまう。さすがは『西の魔女』と呼ばれたエリスの娘といった所か。


「……それにしても綺麗な花だね。何て名前の花なの?」


 ニーゼの質問に、ライラはもったいぶった。


「それはねえ……秘密、だよ。ねえ、みんな、そろそろ行こうよ!」


 そう言い残し、ライラは馬車にスキップをしながら向かう。上手くはぐらかされたニーゼとレザリアは小首を傾げながら後を追った。


 莉奈も出発のため、クロカゲとアオカゲに声を掛けようと立ち上がる。


 その時、少しだけ強い風が吹いた。


 莉奈が歩きながら振り返ると、風に吹かれた花びらが綺麗に空を舞っていたのだった——。









「とうちゃーく!」


 私達は予定通り昼頃に目的地に着いた。御者である私は馬車を停め、ここまで運んでくれた馬達を労う。


「ありがとね、クロカゲ、アオカゲ。今、御飯用意するからねー」


「ブルルッ」


 元気の良い返事を聞いた私は、今度は馬車の中へと声を掛ける。


「ライラ! クロカゲとアオカゲの御飯持ってきてー」


「はーい!」


 私が馬達のブラッシングをしていると、程なくして乾草とリンゴを抱えたライラがやって来た。


「お待たせ! クロカゲもアオカゲもありがと!」


「ブルッ!」


 二頭は嬉しそうに返事をし、ライラの持ってきた食事を食べ始める。それを確認した私達は、荷台へと戻っていった。


「みんなもお疲れ。とりあえず昼ごはん食べちゃおっか」


「はーい!」


 こうして私達は、昼食用として持ってきたサンドイッチを頬張りながら、今後の予定を話し合う事にする。


「では、私達は先に妖精王様に挨拶をしに行ってきます。この周辺は結界の力で魔物も入ってこれませんので、リナ達は採取に専念していて大丈夫ですよ」


「うん、オーケー。あれが妖精王様のいる所?」


 私は馬車から見える建造物を指差した。そこには古めかしい神殿の様な建物がある。いかにもって感じだ。


「そうです、そうです。妖精王様はあの中に住まわれています。一応、会えるかどうか聞いてみましょうか?」


「んー、人間嫌いなんだよね。会えるなら会ってみたかったけど、大丈夫だよ」


 その時、荷台に迷い込んできた妖精が一匹、私の肩に留まった。実はこの場所に近づくにしたがって、ポツポツと妖精を見掛ける様になっていた。こんな時間に妖精を見るのは初めてだ——


 ——というか、目を凝らすと神殿の周りにうじゃうじゃいる。そこかしこに虹色の『妖精の道』が出来ているじゃないか。私はこの世界に来た日の感動を思い出す。


 私は肩に留まった妖精と睨めっこをした。その様子を見たレザリアが、口に指を当て笑い出す。


「ふふ。ここいら辺の妖精は警戒心が薄いとはいえ、リナはモテモテですね」


「そうなんだよねえ。家でもこの子達、たまに早朝に庭に出ると群がってくるんだよね。ホント、公園の鳩みたい」


 何気なく私達の話を聞いていたライラが、突然ハッとしてメモを取り出し何かを書き込み始める。


 なんとはなしに私がそれを覗き込むと——『リナはーれむ』『妖精』と書き込まれていた。なんだソレ。後で没収ね。


「んじゃ、そういう感じで。私達はここら辺で採取してるから、レザリアとニーゼも終わったら声掛けてね」


「はいっ」


「うんっ」





 こうして私は神殿へと向かうレザリアとニーゼを見送る。そして振り向き、ライラに声をかけた。


「よーし、ライラ。探そう、『トキノツルベ』を!」


「はいっ、先生!」


 ——私は、笑いながら逃げるライラを追っかけながら、『トキノツルベ』の採取に挑むのであった。





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