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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第四章
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そのクエストは運命を狂わす 01 —クエストへ—







 誠司がライラと邂逅した翌日。彼らの睡眠時間の調整の為、莉奈達は『トキノツルベの採取』に出発するのを一日遅らせる事にした。


 その日の様子はというと、先に目覚めたライラはお父さんの感想を聞きたくて一日中そわそわしてた。


「ねえ、リナぁ。変じゃなかったかなあ。せっかくならおしゃれすれば良かったなあ。うー……」


 ライラの口からおしゃれという単語が飛び出すとは——ライラも年頃の女の子なんだなあと、莉奈はしみじみと思う。


「大丈夫だよ、そのままでもライラ可愛いもん。今日の夜、誠司さんにいっぱい感想聞いとくからね」


「うん、ほんとにお願いね……あー、早く明日になんないかなあ……ねえ、リナ、リナぁ——」


 ——ずっとこんな調子である。けれどそんなライラを、周囲も感慨深く見守るのであった。





 

 そして夜、ライラと入れ替わりに誠司が姿を現す。莉奈は居ても立ってもいられず、開口一番に誠司に問う。


「おはよ、誠司さん。ライラに逢えたんでしょ?」


 その問いに誠司は辺りを見渡し、まずはカルデネに感謝を述べた。


「ああ、逢えたよ。カルデネ君、本当に、本当にありがとう」


 頭を下げる誠司に、カルデネは安堵の息を漏らした。


「……よかった、逢えて。頭を上げて、セイジ様」


「で、で。どうだったの? 感想は? ライラ、めっちゃ気にしてたよ!」


 わくわくした様子の莉奈が誠司に問いかける。誠司は頭を上げ、照れ臭そうに話し始めた。


「そうだな。ライラは私の想像よりもずっと、ずっと——」


 誠司は嬉しそうに語り続ける。周りも楽しそうに合いの手を入れる。話は尽きない。明日は朝早く発つ予定だが、莉奈達は時間を忘れ誠司の話に付き合うのだった——。





 ——翌日。





 準備をしてきます、とレザリアは一旦集落に戻ったので、莉奈とライラは朝食をとり、誠司の話をしながら彼女を待つ。


「——そんな感じでさあ、誠司さん、ライラの事もうべた褒め。可愛い可愛いしか言わないんだもん」


「うひゃあ! もう、照れるなあ! それでそれで!?」


 顔を赤くするライラ。そんな話をしている所で、レザリアが戻ってきた。


「お待たせしました、さあ、行きましょう!」


「うん、行こう!」


 莉奈達が外に出ると、馬房の図面と睨めっこをしているマッカライがいた。莉奈は彼に声を掛ける。


「マッカライさん、私達、数日家を空けるかもしれませんが宜しくお願いします」


「おう、気をつけてな。それと、エルフの嬢ちゃん——」


 マッカライはレザリアに向かいニヤリと笑う。それを受けてレザリアも、マッカライにニヤリと笑い返す。


「——次こそは決着をつけようぞ」


「——ふふ。望むところです」


 ——二人はクックックッと笑い合う。釣られてライラも、訳も分からずくっくっくっと笑い出す。


 随分仲良くなったな、一体何があったんだよ——と莉奈は思うが、まあ仲が良い事に越した事はない。莉奈は、いまだに笑い合う三人を置いて馬車へと向かった。




 

 莉奈が荷物を置くために荷台を覗き込むと、そこにはまさかの先客がいた。


「ニーゼ! どうしたの!?」


 そう、そこには月の集落のエルフ、ニーゼがいたのだ——相変わらず簀巻すまきにされた状態で。


 莉奈は荷台に飛び乗る。


「リナ、久しぶり。この前はごめんね……あまり記憶はないけど」


 莉奈は先日の夜宴を思い返す。ああ、確かこのに初プロポーズ奪われたんだっけか。返して。そんで起きたら横で寝てたもんでびっくりしたけど——。


 そこにレザリアとライラが、一通り満足したのかマッカライに別れを告げ、馬車に乗り込んできた。


「リナ。すいません、ニーゼを同行させてもよろしいでしょうか?」


「あ、うん。それは構わないけど……どうして?」


「はい。私がこの家に給仕に来ておりますので、妖精王様へのお使いをニーゼに引き継ごうと思いまして——」


 レザリアの話だと、数ヶ月に一度、この森にあるエルフの集落の代表が妖精王のもとに集まり、献上品を捧げるしきたりがあるらしい。その役目をニーゼに押し付——引き継ぐとの事だ。


「それはわかったけど、何故簀巻き?」


「ねえ、聞いてよリナ。レザリアったらひどいんだよ?」


 そう言って抗議しようとするニーゼを遮り、レザリアはおごそかな口調で彼女をさとす。


「あなたはリナにくっつきすぎです。わきまえなさい。私達は誇り高きエルフなのですから」


 いやいや、どの口が言う——莉奈とライラは顔を見合わせる。ニーゼはレザリアを「むー」と上目遣いで睨み、口を尖らせた。


「こんな調子なの。リナ、レザリアに変な事されてない?」


「うん、されてる」


「えっ、ちょ、リナぁ!」


 莉奈の一言ですっかり威厳を損ったレザリアは、オロオロし始めた。莉奈は思わず吹き出してしまう。


「ほら、ニーゼ、解いてあげる。何かあったら、レザリアが私を守ってくれるんでしょ?」


「は、はい、それは勿論!」


「じゃあ、問題ないよね?」


 そう言って莉奈はニーゼのいましめを解く。縛めから解かれたニーゼは、ズズイと莉奈に寄ってきた。それをレザリアが手のひらで押し返す。


「それではリナ。妖精王様の所までの道のりを簡単に説明します——」





 莉奈達は一旦表へ出て、レザリアお手製の地図を広げる。


 西の森の大まかな地形が記されてはいるが、場所に目印などは書かれてはいない。魔女の家然り、集落の場所然り、妖精王の場所然り——万一他人の手に渡った時の事を考え、そういった情報は記載していないとの事だ。いくつかフェイク情報もまぜているらしい。


「——妖精王様はこの辺りにいらっしゃいます。方角的にはここから北北東に真っ直ぐ進んだ位置ですね。順調にいけば、馬車なら四、五時間といったところです。わかりましたか?」


「ブルッ!」


 ふむふむ、と莉奈が返事をする前に、寄ってきていたクロカゲとアオカゲの二頭が返事をした。というより、レザリアも馬達に対して説明していた様な節もある。


 理解してるのか? 私の立場は一体——と莉奈は思わなくもないが、この二頭が頼りになるのは事実だ。だからこそ、莉奈も積極的に御者を引き受けている。莉奈は二頭の顔を撫でた。


「今日はよろしくね、クロカゲ、アオカゲ」


「ブルルッ!」


 莉奈に返事をした二頭は、馬車の前に自ら向かい、並ぶ。莉奈は馬達に綱をつけ、準備を終わらせた。ライラ達三人も、馬車に乗り込み出発の時を今か今かと待ちわびる。莉奈は御者台に乗り込み、出発の号令を掛けた。


「それじゃ、行くよ。妖精王様の所に、GO!」


「ヒヒーン!」


 二頭は勇ましくいななき、馬車を走らせる。目的地、妖精王の住まう場所。莉奈は初めてのクエストに心を躍らせるのであった。






 魔女の家の一室——遠ざかっていく馬車を部屋の窓から見送りながら、ヘザーはカルデネに話し掛けた。


「さて、カルデネ。あなたになら見せてもいい——いえ、是非見て貰いたいものがあります」


「うん? なあに?」


 ヘザーは部屋の扉へ向かいながら、話を続ける。


「この家の書庫です。そこには、あなたの知りたい情報があります。但し、他言無用でお願いしますね」


 ヘザーは少しだけ振り返って、涼しげな笑顔を浮かべる。それを聞いたカルデネは、慌ててヘザーの後を追いかけたのだった——。





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