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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第二章
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冒険者莉奈の苦悩 12 —沈む月—









 ——時は進み、サランディアはルネディ襲来から二度目の満月を迎えた。


 街中が緊張に包まれる中、誠司と莉奈、レザリア、そしてノクス達は細心の注意を払い警戒にあたる。


 だが、そんな誠司達をあざけり笑うかの様に——今月もルネディは姿を見せる事はなかった。






 月も沈み陽が辺りを照らし始めた朝方頃。


『妖精の宿木』の一室には安堵と苛立ちの複雑な感情を抱えた誠司、そしてそれを見守る莉奈とレザリアの姿があった。


「……もう再生していてもおかしくないんだがな。一体、どういうつもりだ」


 誠司が不貞腐ふてくされた様に呟く。はっきり言って、満月の夜にルネディが現れたら現状打つ手は無い。現れなかったのは幸運だ。だが、予告めいた事を言って現れないというのも不気味である。


 莉奈は考える。ルネディが最後に残した言葉、『次は是非満月の夜に』について。


 あの時、他にも無視出来ない言葉を言っていたはずだ。誠司が言及しないのはおかしい。莉奈は思い切って誠司に聞いてみた。


「ねえ、誠司さん。あの時ルネディ、『私は私を殺そうとする者を殺すだけ』って言ってたよね。こっちから手出ししなければ、何もしてこないんじゃないかな?」


 その言葉を聞いた誠司は、息を吐きゆっくり首を横に振った。


「信じろと?」


「いや、でもさあ……現れないから……」


 莉奈の考えももっともだ。莉奈が見たルネディからは、復讐だの殲滅だのではなく『私に関わらないで欲しい』という気持ちだけが伝わってきた。滅茶苦茶怖かったけど。

  

 とりあえず前向きに考えるなら『次は是非満月の夜に』発言も、『どうしてもやるなら満月の夜にしてちょうだいね』とも捉えられる。それは楽観視しすぎか。


 莉奈としてはそんな思惑だったが、誠司は眉間にシワを寄せる。


「あいつがそんなタマかね。莉奈、君は当時を知らない。例えば大量殺人犯が野に解き放たれて、『手出ししなければ何もしないから放っておいてくれ』と言ったら、君は『はい、そーですか』となるか?」


 莉奈は想像する。もし、元の世界でそんなニュースを耳にしたら——。


「……いや、警戒すると思う」


「それと同じだ。それに奴は一度滅んだ身だ。存在していてはいけないんだ。だから——」


「誠司さん!」


 少し熱くなってしまっている誠司の言葉を、莉奈が強く遮った。ハッとなった誠司に、莉奈は真剣に問う。


「ねえ、誠司さん。本気で思ってるの?『一度滅んだ身は存在しててはいけない』って。私の勘違いだったらゴメンだけどさ」


 その思いもよらぬ莉奈の言葉に愕然がくぜんとする誠司。何故だ。知ってるのか。いや、知らずに言っているのか。分からない。誠司は何とか声を絞り出そうとするが——


「莉奈、一体君はどこまで知って……」


 ——言葉の続かない誠司を見て、莉奈は申し訳なさそうにうつむく。


「ごめんね。ただの憶測。私が知っているのは名前だけ。ただもしそうなら、ルネディがどうとかじゃなくてさ、誠司さんはそんな事言っちゃだめだよ」


「……ああ、すまなかったな。今日はもうこの話はやめよう」


 力なくうつむく誠司。すっかり重くなってしまった空気に、二人の会話の意味を測りかねているレザリアが口を開く。


「あの、お二人は何の事を言っているのでしょう?」


「ううん、レザリア。なんでもない。なんでもないんだよ」


 莉奈は立ち上がり、レザリアを軽く抱きしめた。突然抱きしめられたレザリアは「わわっ!」と言って顔を赤らめる——どうやら上手く誤魔化せた様だ。





「——では、念のため後三日ほど滞在したら、カルデネ君を連れて家に戻ろうと思う。君達も採集クエストに出かけるんだろう?」


「うん、そうだね。妖精王様? のいる所に行く予定。誠司さんは妖精王様の事知ってる?」


 ふむ、と誠司はあごに指を当てる。


「私は面識はないが、存在は知っているよ。エリスがよく訪ねていたみたいだ。なんでも、かなり魔法に精通している方らしいが……妖精王とは一体どんな人物なんだい、レザリア君」


 誠司に話を振られたレザリアは姿勢を正し、答える。


「はい。私が生まれるよりも昔、あの広大な西の森がゆるやかに枯れ果てようとしていた時期がありました。妖精が少なくなってしまったのです——」


 この世界の妖精の役割は古来より、植物の受粉を手伝ったり活性化させる役割があった。


 そして必然的に、妖精ありきの生態系が出来上がってしまっていたのだ。妖精が絶滅すれば、自然が保たれない世界に。レザリアの話は続く。


「——妖精が滅びれば、自然と共に生きるエルフ達も滅びに向かいます。ですがそんな時です、あの方がいらっしゃったのは。あの方は次々と妖精達を生み出しました。妖精達は瞬く間に森中に広まり、西の森は現在の様に自然豊かな姿に戻ったとの事です」


「ほう、それは魔法の力なのかね」


「詳しくは分かりません、妖精王様のお力としか。それ以来あのお方は西の森に住まわれる様になり、私達エルフ族は感謝を捧げているのです」


「へえ、会ってみたい!」


 異世界要素に目をキラキラさせる莉奈だったが、レザリアは困った顔をして莉奈を申し訳なさそうに見つめた。


「あの、えと。妖精王様は人間嫌いなんです。それでこの地に落ち着いたとかなんとかで。でも、リナがどうしてもと言うなら頼みこんでみますが……」


「あっ、じゃあ大丈夫だよ! 言ってみただけだから。それでレザリアが妖精王様に嫌われちゃったら嫌だもん」


「ああ、リナ! 私の事なんて気にしなくていいのに」


 莉奈の気遣いに、レザリアは莉奈の手を取り頬をスリスリする。誠司はその様子を溜め息混じりに見ながら、莉奈達に一つの提案をする。


「それでだ、お願いがあるんだが。せっかく妖精王の所に行くなら、ちょっと近くに顔を出したい所があってね。一通り用事が済んだら、私が起きるまでその付近に待機していて欲しいんだ」


「ん?いいけど、どこに顔出すの?」


 誠司は莉奈の問いに口角を上げる。


「——旧友だよ」


 ——あ、何か悪いこと考えてんな。そう察した莉奈は、追求を避ける。こういう思わせぶりな態度はどうかと思うの。


「はいはい、オーケー。じゃあ、何事もなかったら家に帰った次の日に出発でいいかな」


「はいっ!」


「ああ、そうしよう」






 ——そして三日後、彼らは家路につく。


 結局ルネディは現れなかった。複雑な感情を抱えながらも、今は自分達に出来る事をやるだけだと、彼らは自分に言い聞かせる。


 五月は燕が活発な時期だ。いや、認めた訳ではないけれど——そんな事を考えながら、莉奈は馬車を走らせる。


 ただ、莉奈の異世界生活が大きく動き出したのは、確かだった。








これにて第二章終了、次回より少し短めの第三章が始まります。


引き続きお楽しみ下さいませ!

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