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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第二章
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冒険者莉奈の苦悩 09 —魔力量計測—





 私とライラ、そしてレザリアは紙に必要事項を記入する。それを確認したクロッサさんは、よっこらせっ、と何やら少し大きめの水晶玉みたいなものを取り出した。


「それではこちらに両手をかざして下さい。個々の魔力の波長を、ギルドカードに登録いたしますので。リナさんからどうぞ」


 後ろの人達が距離を詰めてくるのがわかる。多分、覗こうとしているのだろう。なにかあるのか?


 私はとりあえず両手をかざしてみる。そして——。


 私が手をかざすと、水晶玉は『ビビッ』という音を鳴らして赤く光った。クロッサさんの眉がピクリと動く。


「……これは」


 そう言って、クロッサさんは魔法書をめくり始めた。え、なによ。後ろの人も騒ついているじゃん。もしかして、私——すごかったりして?


 やがてクロッサさんは本をパタンと閉じた。


「……エラーですね。リナさんは魔力認証ではなく、指紋認証にしましょう」


 にこやかに告げるクロッサさんの言葉に、私を含め、一斉に気が抜ける周囲の人々。


 一瞬、もしかしたらって思っちゃったけど……まあ、今まで魔法に関してはそこそこ試してきた。私に突出した何かがないのは分かってるよ。


「それではリナさん。今度は両手の指先を水晶玉に当てて下さいね」


「あ、はい」


 私は言われた通りに水晶玉に両手の指先を当てる。


 今度は水晶玉は青く光り出し、やがて『ピピッ』という音と共に中央に数字が浮かんだ。ん? なんだ【057】って。


 その数字を肩越しに覗き込んでいた人達が、「普通だ」「普通だ」と連呼する。何なのよあなた達。あと、近いって。


「……あのう、この数字って」


「はい、こちらはリナさんの『魔力量』になります。魔法職以外なら平均的、といった感じですね」


 ああ、なるほど。とりあえず平均以下でなくて良かった。そう私が胸を撫で下ろしていると——



「待ちたまえ、君達!」



 ——何やら魔法職っぽい男が観衆に声をかける。


「君達。彼女の数字を『普通』、そう言ったね」


「ああ、まあ普通だろ。それがどうした、エンダー」


 エンダーと呼ばれた優男やさおとこは、チッチッチッと指を振る。キザだ。


「彼女は空を飛ぶんだろう? その魔力消費量は甚大じんだいだ。とてもじゃないが魔力量57で扱える魔法ではない。そして、この水晶玉は三桁までしか表示出来ない。つまり——」


 唾を飲み込む聴衆。それを見てニヤつくライラとレザリア。エンダーさんは息を吸い込み、大仰な身振りで続けた。


「——少なく見積もっても1057。『厄災』戦の話を聞く限り、僕の見立てでは2057はあるだろうね」


 わあっと湧く聴衆。バカなの? あなた達。隣では、便乗してライラとレザリアもパチパチと拍手をしている。いや、君達まで乗るな。


 皆の反応に満足そうなエンダーさんが、私の方に近付いてきた。


「やあ、白い燕。その魔力量、どうやって身につけたのか気になるな。よかったらこの後、一緒に食事でもどうかな?」


 何言ってんだ、この人。私に話を聞いても何も出ないぞ。


 視線の端でレザリアが剣の柄に手をかけるのが見える。マズい。私はエンダーさんに手のひらを向け、顔を背ける。


「いや、すいません、そういうのはちょっと……」


 エンダーさんはその返答を聞き、やれやれと肩をすくめた。いちいちキザだな。


「はは、なるほど。企業秘密って訳だ。まあ気が変わったらいつでも言ってくれ。僕の名前はエンダー。二つ星冒険者さ。じゃあね!」


 そう言って彼はピッと指を振り自分の席に戻っていく。「振られてやんの!」とからかう声が聞こえてくる。


 まったく、余計なことだけしてくれたな。恐らく数値の正常性を理解しているであろうクロッサさんだけが、憐れんだ視線で私を見つめていた。




「……それでは次、レザリアさんお願いします」


「は、はい!」


 レザリアが水晶玉に手をかざすと今度は正常に、私が指をつけた時と同じ様な反応をした。


 そして、表示された数値は——【174】。周りから「おおー」という声が上がる。私はどのくらいなのかとクロッサさんに尋ねる。


「クロッサさん、これ、結構高いの?」


「そうですね。エルフ族は人間族より基本高めではありますが……それを考慮しても、戦闘職にしてはかなり高い方かと」


「すごいじゃん、レザリア!」


 私の素直な賞賛に、「えへへ……」と顔を赤くするレザリア。戦闘職とはいえ、彼女の魔法にはこれからもお世話になるかもしれない。


「それではライラさん、お願いします」


 最後にライラだ。クロッサさんの呼び掛けに、ライラは周りにも聞こえる様な声を上げる。


「はい!『白い燕』の愛弟子まなでし、ライラ行きます!」


 おい、ちょっと待て。このノリノリじゃないか。楽しんでやがる。こいつも後で説教だな。


 そしてライラは目を瞑り水晶玉に手をかざす。その結果は——



「な、ななひゃくごじゅうにいいぃぃっっ!?」



 ——クロッサさんの素っ頓狂な声が再び響き渡る。周りからも、驚嘆の声が上がる。


 そう、水晶玉には【752】という数値が浮かび上がっていたのだ。反応を見る限り、かなり高い数値なのだろう。


「ねえ、クロッサさん。どのくらい高いの?」


「は、はい……。魔族の方は魔力の高さが特徴ですが……それでもだいたい三百くらいです。これはなかなか……」


 周りからも「白い燕、西の魔女に次ぐ記録じゃないか」「ああ、西の魔女は【999】だったな。それに近い数値だ」などの声が聞こえてくる。


 あるんじゃん、カンスト。それ、絶対カンストだよ。というかエリスさん、冒険者だったのね。


 まあ、ライラは幼少の頃より毎日『身を守る魔法』を、その魔力量限界まで注いで唱えてきたのだ。


 加えて『西の魔女』と呼ばれるエリスの娘である。半魔族とはいえ、このぐらい当然といえば当然か。私はライラの頭を撫でる。


「すごいね、ライラ。見直しちゃったよ」


「いえいえ、先生には遠くおよびません、のでっ」


 ライラはそう言って私にペコリと頭を下げた。誰が先生だ、誰が。感嘆の声を上げる周りの視線が突き刺さる。辛い。


 私はライラにデコピンをかましたが——くっ、私の指の方が痛いぞ。




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