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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第二章
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冒険者莉奈の苦悩 02 —白い燕—






「リ、リナさん、いえ、『白い燕』様! 話は聞きました。この街を救ってくださり、ありがとうございますっ! それで、あの……サ、サインをお願いしますっ!!」


 そう言うやいなや、ヤントは莉奈の前に色紙を差し出す。ざわつく店内。皆の視線が莉奈に集まった——。


 事情を聞かされているアナが「あちゃー」と顔をしかめる。


 客席から「あれが噂の……」だの「実在したんだ……」などの声が聞こえてくる。


 莉奈は一瞬で顔を赤くする。ライラはオタオタする。レザリアは「どうよ!」と得意げにふんぞり返っている。


 そんな様子を見たレティは、ドカドカとヤントに歩み寄り、ポカっと頭を殴った。


「こら、ヤント! アンタはいっつもいっつも余計なことを……いいから早く部屋を用意してきなっ!」


「はいぃ……」


 駆け出すヤントを尻目に見送り、レティが店内の客をジロリと睨む。


「アンタ達も、このはうちの客だ! 余計な事言ってるんじゃないよっ!」


 レティの恫喝どうかつに、客達はビクビクと震えながら食事に戻った。


 もう大丈夫かと深く息を吐いたレティは、莉奈に謝罪をする。


「悪かったね、うちの馬鹿息子が。全く、後先考えずに口を開くもんだから……」


「い、いえ! お気遣いなく!」


「まあ、感謝しているのは事実だ。そこは悪く思わないでやってくれ。どこまで噂が正しいのか分からないけど、アンタが一枚噛んでるのは間違いないんだろ?」


 レティは見透かす様な目で莉奈を見つめた。莉奈はこの人は誤魔化せないと感じとり、素直に肯定する。


「はいぃ……」


 まるでヤントみたいな気弱な返事をした莉奈の背中をレティはバンと叩き、そして耳打ちをする。


「なら胸を張りな、傲慢にならない程度にはね。アタシからも礼を言う。ありがとよ、この街を救ってくれて」


 そう言い残し、レティは腕をまくり厨房へと戻っていった。莉奈は苦笑しながら手を振って見送る。一連の流れを見たライラが、うきうきと小声で莉奈に話しかけてきた。


「ねえねえ、『白い燕』ってなあに? リナのこと? すごい! かっこいい!」


「あはは、なんだろうね……なんでだろうね……」


 レティが居なくなった事で、客達のチラチラという視線を再び感じる。


 アナが憐れむ様な視線を送る。レザリアは笑顔で腕を絡ませてくる。居たたまれない。


 莉奈は隅っこの方に移動し、部屋が用意出来るのをただひたすら待つのであった——。







「——そうか、大変だったな。まあ悪い事をした訳ではない。堂々としていたまえ」



 部屋に案内された後、ライラは速やかに眠りにつき誠司を呼び起こした。


 まず、莉奈は誠司にアナの返事を伝える。


 それを聞いた誠司は少し考えた後、なら今夜伺うとするかと言い、土産を買いに行こうと立ち上がった。


 だが、こちらはレザリアが立候補した。今は誠司に教えられた近くの店に、代わりに買いに出かけている。



 そして『白い燕』問題である。莉奈が「どうしよう」と眉を八の字にして誠司に訴えた結果が、先程の返事である。気の抜けた莉奈は、ポスンと椅子に腰掛けた。


「もう。レティさんと同じ事言って……」


「まあ、そう不貞ふてるな。当時の私達……いや、私はともかくエリスも苦労したからな。割り切るしかないよ、『白い燕』さん」


 そう言ってニヤニヤする誠司に、莉奈は何かを投げつける動作をする。誠司も合わせて、軽く横によける動作をとった。


「あんなの、全部誠司さんとレザリアの手柄じゃん。私、うろちょろしてただけで……」


「そうか? だが一つ言えるのは、君がいなければ間違いなく私は殺されていた。これは紛れもない事実だ」


 誠司は真顔になり、莉奈の目を真っ直ぐ見据えて語りかけた。莉奈は照れ臭さと恐怖で、視線を逸らす。そっか、そんな未来もありえたんだ——。


「……うん、そうなのかもね。でも、やっぱり皆んなのおかげだよ。誰一人欠けても、勝てなかった」


「そうだ。莉奈が欠けていてもな。だから君は、堂々としてなさい。君はそれだけの事をやったんだ。少なくとも、私はそう思うよ」


 目を細め微笑む誠司に、莉奈は赤くなった顔を見られたくなくて、立ち上がりクルリと背を向ける。


 親から褒められる子供はこんな感じなんだろうか。莉奈は照れ隠しに窓から外を覗くフリをする。


「あー、レザリアまだかなー。遅いなー」


 その言葉を聞き、レザリアの『魂』を探知していた誠司が立ち上がった。


「いや、もうすぐ着くな。莉奈、私達も準備をしよう」


 そう言って誠司は荷物から大きめの外衣を取り出し、すっぽりと身に纏う。


「ん? どしたの、珍しいじゃん。そんなの着るなんて」


「ああ。普段の格好だと『救国の英雄』と気付く者の視線が痛いからな。恥ずかしいじゃないか」



 誠司の言葉に固まる莉奈。のち



「……ねえ、誠司さん」


「なんだ」


「……堂々としろーーっ! とうりゃーーっ!!」


 莉奈の飛び蹴りが誠司を襲う。誠司は背後の壺を護る為、腕を交差させ、それを受け止めた。


 莉奈は空中で身をひるがえし、枕を拾い投げ構える。誠司は壁の絵画を外し、攻撃に備える——。


 ——二人の間に緊張が走る。なんだか楽しくなって来た。二人は、ニヤリと笑い合う。


 そのタイミングで扉が開き、レザリアが入ってきた。ジリジリと睨み合う二人を見て、レザリアはたまらず大声で叫ぶ。


「——わわっ、何やってるんですか、二人とも! やめて下さぁい!!」


「ちょ、レザリア、声大き——」


 その声は、思いのほか響いてしまった様だ。階下からドカドカと登ってくる音が聞こえてくる。三人の顔は青ざめた。


「どうした、何かあったのかい!?」




 ——その後、『妖精の宿木』の一室に正座で説教をされている三人の姿があったのは言うまでもない。





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