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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第二部 第二章
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冒険者莉奈の苦悩 01 —再び、サランディア—






「じゃあ行くよ、クロカゲ、アオカゲ。サランディアまでGO!」


「ヒヒーン!」


 莉奈の掛け声に、二頭の馬はいななきを上げ走り出す。目的地サランディア。莉奈、初めての御者ぎょしゃである。


 この馬車に乗っているのは、莉奈の他にはライラとレザリアだ。


 この三人の中で誰が御者を務めるかの話になった際、二頭の馬が一番懐いている莉奈に白羽の矢が立った。


 片道四時間程度の道のりである事、有事の際にレザリアが自由に動ける事、そして莉奈自身の経験にもなる事から、誠司もこころよく了承してくれたのだ。




 緊張しながらも莉奈は丁寧に操縦する。今のところ順調だ。だが、三十分程走らせた所で異変が起こる——。


「あれ? あれ? クロカゲ? アオカゲ!?」


 莉奈が明らかに動揺した声を上げた。案内役として背後で見守っていたレザリアが、何かあったのかと彼女に声をかける。


「どうしました、リナ?」


「ど、ど、どうしよう……レザリアぁ」


 情け無い表情で振り向く莉奈の顔は、冷や汗ダラダラだ。ライラも「どしたの?」と莉奈の顔を覗き込んだ。


「今の場所、左に曲がりたかったのに、この子達いうこと聞かない……」


 泣きそうな顔で訴える莉奈。その言葉に、レザリアは不思議そうな顔をする。


「……左? どこか寄り道でしょうか?」


「え? さっきの場所左に行くんじゃ……」


 その言葉を聞き、レザリアはに落ちた表情を浮かべて莉奈に返した。


「ああ、この道で合ってますよ。左に行くのは次です。ほら、見えてきましたよ」


「……え?」


 莉奈が前の方を向くと、別れ道が見えてきた。


 慌てて莉奈が「わ、わ」と左へと進路を取ろうとするが——そうするまでもなく、二頭の馬は左の道へと向かいだす。ホッと息を吐く莉奈。その様子を見て、レザリアがクスッと笑う。


「どうやらこの子達、道が分かっているみたいですね……あ、ちょっと失礼」


 そう言ってレザリアは矢をつがえ放つ。


 その矢はいつの間にか前方にいた『熊の魔物』の急所を的確に貫き、馬車が到達する頃には粒子となって消え去っていた。


「あ、ありがと、レザリア」


「いえいえ。リナは安心して操縦して下さい……あ、次、右です」


「あわわ……」


 今度も莉奈が右へ進路を取ろうとするより先に、二頭は右へと向かう。それを見ていたライラが感嘆の声を上げた。


「クロカゲも、アオカゲも、すごい!」


「ヒヒーン!」


 いななきで応える二頭の馬。その様子に、莉奈は肩を落とす。


「……あのー、もしかして私、いらないんじゃ……」


 その言葉が届いたのか、二頭の馬は莉奈をチラッと見て少し速度を落とし「ブルッ!」と鳴いて再び速度を上げる。レザリアは莉奈の肩に手を置いた。


「『そんな事ないよ』ですって。リナは手綱をしっかり握ってて下さいね」


「え、もしかしてレザリア、何言ってるか分かるの?」


「……いえ。そんな気がしただけですよ」


 レザリアは思う。もし自分がこの子達だったらそうしたであろうと。莉奈が手綱を握ってくれるだけで、頑張ろうとするだろうと。


 実際の所は分からない。だが彼女なら、レザリアの大好きな彼女なら馬達にそこまで愛されても別に不思議ではない、そう思う。


(……まったく、人たらしなんですから。まあ馬ですけど)


 レザリアのちょっとした不満を乗せながら馬車は走る。そして昼過ぎに出発した馬車は、夕刻時には無事サランディアに到着したのであった。









「あ、ライラちゃん、リナちゃんお久しぶりー! 元気してた?」


 滞在する宿『妖精の宿木』の扉を開くと、ジョッキ片手に忙しそうにホールを駆け回っているノクスの娘、アナの姿があった。


 アナはテーブルにジョッキを置き、莉奈達のもとに駆け寄ってくる。アナとライラはハイタッチを交わした。


「アナ、久しぶり! 忙しそうだね!」


「まあねー、この時間はね。ありがたいことだよ。えと、こちらのエルフさんもお連れの方?」


「あ、はい、レザリアと申します……!」


「よろしく、レザリアさん! あたしはアナ。ここで看板娘やってまーす!」


 その言葉が聞こえたのか、テーブルの男性達から「自分で言ってんじゃねえよ!」と笑い声が聞こえる。その男達に向かって、アナはべーっと舌を出した。


 その様子をにこやかに眺めながら、莉奈は誠司からの言伝ことづてを思い出してアナに伝える。


「ねえ、アナさん。誠司さんからの伝言なんだけど……ノクスさんちに挨拶に伺いたいけど都合のいい日はあるか、だって」


「うんうん。ちょっと待っててねー」


 そう言ってアナは通信魔法を立ち上げる。しばらくやり取りした後、アナは笑顔で返事を伝えた。


「夜ならいつでもいいって。なんなら今夜でも」


「ありがと! 誠司さんに伝えておくね」


 その時、厨房の方からおたまを持った恰幅かっぷくのいい女性がやって来た。


「こら、アナ! いつまで油売ってんだい! 料理が冷めちまうじゃないか!!」


 そう怒鳴るのは、この『妖精の宿木』の女主人、レティだ。


 アナは「はいっ!」と元気よく返事し、急ぎ足で仕事に戻った。フンと鼻を鳴らしアナを見送ったレティは莉奈達に挨拶をする。


「アンタ達よく来たね。また泊まっていくんだろう?」


「こんばんは、レティさん。またしばらくお世話になります」


「お世話になります!」


 莉奈とライラは頭を下げる。だが、レザリアは何故か莉奈の後ろでプルプル震えていた。


 実は先月、レティとレザリアは顔を合わせていた時からこの様子なのだが何かあったのだろうか。その様子を見て、レティは笑う。


「エルフの嬢ちゃん、何も怖がることはないだろ。ゆっくりしていきな。ほら、ヤント、早く受付してあげな!」


 レティは受付にいる息子、ヤントに声を上げる。が、なんだか様子がおかしい。何というか、そわそわしているのだ。


 莉奈は受付に向かい、ヤントに声をかける。


「あの……四人でベッドが三つの部屋を……」


 だがそんな莉奈の言葉をさえぎり、ヤントは大声を上げた。




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