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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第五章
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決戦[development] 10 —微笑む者たち—





 

(……打開策……本体を見極める方法……何か……)


 ここ『砂』の戦場でセレスは、狙撃銃で天使像を牽制しながら思考を重ねていた。


 この位置からでは、例え本体に攻撃を当てたとしても手ごたえが分からない。砂嵐で視界が悪くなっていることも相まって、その消え方からも判別がつかない。


「……こうなったら前に出て……でも……」


 もし『東の魔女』とも称されるセレスに何かあったら、この戦線はあっけなく瓦解してしまうだろう。それはつまり、他の天使像との合流を許してしまうことになり、『色彩』による戦況の劣勢——『敗北』を意味することに他ならない。


 動きたいのに、動けない。セレスの頭に、いつも隣でサポートしてくれていた彼女の姿が思い浮かぶ。


「……ふふ、何が『魔人』セレスよ。情けないわね。こんな姿見られたら、笑われちゃうわ」


 セレスは狙撃銃を構え直す。砂嵐の中を、身体中を赤く染めながら駆け続けているポラナの姿が見える。



 ——ズドン



 彼女が立ち回りやすいように、また一体の天使像をかき消した。しかし所詮は分身体、すぐに供給されてしまう。


 その状況に歯噛みし、セレスが狙撃銃に弾を装填しながら次のターゲットを見定めている、その時だった——



 ——天使像が、砂嵐に紛れてセレスの背後に現れたのは。



 セレスは嫌な気配に気づき、振り返る。その天使像は、手をセレスに向けた。


「……くっ!」


 サンドブラストが発射される。それを避けながら、セレスは銃弾を放つが。


 その銃弾は——逸れた。


 高圧縮の砂と石が、セレスの身体を削り取る。直撃は避けたものの、セレスの身体から血が吹き出した。


 うずくまるセレス。天使像は微笑みを浮かべながら、再びセレスに手を向けた。


「……諦めて……なるものですか……」


 セレスはバッグから、ハンドガンを取り出した。体勢を立て直す時間はない。そして、闇雲に天使像目掛けて——



 その時、空から、聞き慣れた声が聞こえてきた。



「——『旋風の刃の魔法』!」



 天使像は一瞬にして、風の刃に切り刻まれた。かき消えていく天使像の姿。


 その者はヒラリと降り立ち、セレスを見下ろした。


「……なあにやってるんですか、セレス様。情け無い」


「……え……なんで……あなたが……」


 セレスは起き上がりながら、その者の姿を認める。


 ゴーグルをかけ、風に魔術師のローブをたなびかせる女性——セレスの腹心、彼女がもっとも信頼を置いている人物、マッケマッケだ。



「——話は来る途中でグリムさんに聞かせてもらいました。本体を特定したいんですってね?」


「……マッケマッケ、あなたが、なんでここに……」


「それはどうでもいいです。そんでお忘れですか、セレス様。二十年前、あーし達が『厄災』マルテディの位置を特定した方法を」


「……あっ!」


 セレスの表情に色が差す。が、それはすぐに消えてしまった。


「……マッケマッケ、あの時は範囲が大きかったから……その方法は、この戦場では……」


 二十年前の方法。それは『砂嵐』の風向きを各所で調べ、その中心部を探るというものだった。


 だが、この戦場は風向きを探るには狭く、かつ、天使像も密集していると言っても過言ではない。


 その中から特定するとなると——



「いるじゃないですか、セレス様。それを可能にする人物が」


 セレスは、マッケマッケと共に一緒に降ってきた人物を見て、そうかと目を見開く。その青髪の女性は、すでに端末を増やし始めていた。


「なかなか面白い考えだね。確かに私の『精密観測』なら、可能かもしれない。とりあえず、やってみようか」


 瞬く間に二十体ほどのグリムが出来上がった。そのグリムたちは、各箇所へと散っていく。


 マッケマッケは、セレスの手を取り起き上がらせた。


「……まったく、舐めすぎなんですよ。セレス様が造り育て上げた国は、あーし達がいなくても立派に回りますって。だからあーしは今、ここにいます」


「……マッケマッケ……マッケマッケ……うわああん!」


 ——スパーン!


 泣き出し、抱きつこうとするセレスをマッケマッケのハリセンがしばく。マッケマッケはその手に握る杖を、孤軍奮闘しているポラナの方に向けて微笑みを浮かべた。


「さ、行きますよ、セレス様。彼女を助けてあげましょう。あなたはただ、突っ走ってりゃいいんです。それを介護するのが、あーしの役目なんですから」






 『氷』の戦場は、窮地に追いやられていた。


 レザリアから通信が入る。


『——……申し訳ありません、矢が尽きました。今、可能な限り回収してきますゆえ……』


「——……すまないね、レザリアちゃん。よろしく頼むよ」


 吹雪が、吹く。


 矢による攻撃が落ち着いたと判断したのか、『氷の天使像』は微笑みながら氷塊を解除した。


「……ちっ……——『暗き刃の魔法』……」


 ハウメアの分身体は、必死に牽制をする。氷竜のフィアは先ほどから、立っていられず膝をついてしまっていた。


 天使像が、手を向ける。苦渋に満ちた表情を浮かべるハウメア。



 その時だ、上空から、氷のブレスが放たれたのは。



「……ルー……?」


 フィアが弱々しく顔を上げる。天使像に立ち向かうは氷竜のルー。


 そしてハウメアのところには——二つの人影が舞い降りた。



「——『大水海の障壁魔法』!」



 空から降りながら、一人の女性が魔法を唱えた。その大量の水の障壁は、戦場一面の雪を水浸しにする。


 舞い降りた二人は杖を地面に突き刺し、その上に器用に降り立った。


 吹雪を避ける風の障壁をまといながら、もう片方の人物が魔法を唱えた。


「——『放水の魔法』」


 地面に積もっていた雪は、放水魔法によって瞬く間に消えていく。


 驚いた表情を浮かべながら二人を見るハウメアを見て——姉妹の魔法使いは、呆れた声を上げた。


「……まったく、どうしたのハウメア。あなたの傷ついた姿なんて、見たくなかったんだけど。ね、ナマカ」


「そうだよ、ハウメア。やっぱり私たちがいないと、全然ダメダメじゃん」


「……ヒイアカ……ナマカ……あなたたち、何で……」


 『時止めの雪』は、消え去った。この姉妹、ヒイアカとナマカの機転によって。


 しかし、未だ吹き荒ぶ雪。ヒイアカは風の障壁を張り、雪除けのフィールドを作り上げる。


「さ、ハウメア。氷人族の血を引くあなたの本領、見せてあげなよ」


「そうだよね。やっぱりブリクセンの王は、ハウメア以外に考えられないから」


「……はは、厳しいね、二人とも。じゃあ、もう少し足掻いてみようか」


 時止めの効果も薄まり、頭がクリアになっていく。そしてそれは、寒ければ寒いほど頭の回転が速くなるハウメアの復活を意味していた。


「さあ、行こうか、二人とも」


 残された右手一本で杖を構えるハウメアの言葉に、ヒイアカとナマカは微笑みながら頷いた——。







 ——そして、彼女たちの他に、途中の戦場で降ろされた者がもう一人——。








「……ライラ!」



 誠司はゲートを潜り抜け、『土』の戦場へと降り立つ。


 駆ける、誠司。土の中に生き埋めになっているライラ。もう、いくばくも時間は残されていないだろう。


 誠司は石英の道の上を、駆ける。彼の姿に気づいたマルテディが、声を上げた。


「……セイジさん! 駄目です、セイジさんが行っちゃ!」


 マルテディは天使像を石英の壁で牽制しながら呼びかけるが——その言葉も、誠司には届かない。


 誠司の接近に気づいたノクスが、大剣を土塚に打ちつけながら叫ぶ。


「セイジ! お前さんは来んじゃねえ!」


 だが、構わずに誠司は駆ける。その時、グリムの通信が響いた。


『——全員、土塚周辺から即時退避! 急げ、巻き込まれるぞ!』


 その言葉を聞き、天を見上げたノクスは——土塚への攻撃を中断して、駆け出した。


 そして、途中ですれ違う誠司のみぞおちに拳を入れて、彼を立ち止まらせる。


「……ぐっ……ノクス……邪魔するな……私は、ライラを……」


「……すまねえ。今はグリムを、信じようぜ」


 肩に抱え上げようとするノクスの手を跳ね除けて、それでも誠司はしっかりと踏み止まる。


 そんな彼に向けて、再びグリムから通信が入った。


『——安心しろ、誠司。ライラは……助かる』


「………………」


 呻きながら土塚を見据える誠司。



 その時——土塚目掛けて、何かが上から降ってきた。



 それは激しい音と共に、土塚を一瞬にして破壊した。まるで、爆撃のような破壊力。


 土砂が辺りに飛び散る。すんでのところでかわした誠司は、土塚の方を注目する。


 そこには——ライラを抱え上げた、一人の人物がいた。



「——大丈夫かい、ライラちゃん。荒っぽい方法でごめんよ。まあ、君ならこれくらいの衝撃、なんて事ないのは知ってるけど」



「……ケホッ……ケホッ……え……あなたは……」


 その人物はライラを、ともすれば乱暴に軽々しく放り投げた。誠司の前に転がっていくライラ。少女はすぐに立ち上がり、解毒魔法と『汚れを落とす魔法』をその身に掛ける。


 ライラの無事な様子を確認したその人物は、首を回す素振りを見せながらつぶやいた。


「さて。手伝ったら恩赦をくれるってさ。別に僕は、この身体さえあればどっちでもいいんだけどね」


「……なんで……お前が……」


 ライラを抱きながら呻く誠司の方を見て、その女性の姿をした者はフッと笑った。


「誠司、言ったはずだぜ? 君の物語は、ハッピーエンドであるべきだと」


 その『無機物』で構成された人物は、戦鎚を肩に担ぎ、『有機物』を腐敗させる土の上を静々と歩いていく。そして、天使像を牽制するために張られた石英の壁の前に立った。


「天使像だかなんだか知らないけど、困るんだよね。僕の描いたシナリオに、ケチをつけるやつは。誠司の物語は、ようやくハッピーエンドを迎えようとしていたのにさ」


 その人物は、戦鎚を軽々しく振り下ろした。衝撃に弱い石英は、粉々に砕け散っていく。


 そしてその石英の向こうにいた天使像は——面白くなさそうに無表情で佇んでいた。



「さあ、カーテンコールにはまだ早い。天使像とやら、僕と殴り合おうぜ?」



 そう言って、ヘザー——いや、ヘザー人形を操る人形師、椿 彗丈は、歪な微笑みと共に戦鎚を振り上げた。





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― 新着の感想 ―
ピンチには援軍って昔から相場が決まってるんですよ ってちえり氏も言ってました(言ってない) 誠司さんヘザー使われてるの複雑だろうな…
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