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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第五章
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決戦[development] 09 —抗う者たち—






 ——『砂』の戦場。



 ポラナは、駆け続けていた。


 アルフレードの『祝福』、クラリスの『歌』。それがある限り、ポラナは駆け続ける。



「……電光、石火」



 血塗れの紅い軌跡が、また一体の天使像を斬り抜けた。ポラナは分析する。この斬った時の手ごたえ、それに、ダイズが犠牲になったあの攻撃——



「——こちら、ポラナ。確信した。『砂の天使像』たちには『本体』がいる。間違いない」



 グリムに通信を入れたポラナは、駆けながら冷静に辺りを観察する。


 その時、砂嵐に紛れて一本の腕がポラナを掴み取ろうと手を伸ばしてきた。


「……お前か、本体は……」


 天使像の腕を払いのけ、ポラナは天使像を両断する。


 しかし、払いのける際に触れてしまったポラナの左手首から先は——干からび、砂となって崩れ去ってしまった。


「……ちっ」


 ポラナは舌打ちをして、剣を逆手に構える。


「——続けて連絡。本体は触れたものを『風化』させる力を使う。グリム、セレスさん、メル。うちが引きつけるから、その間に打開策を」


 セレスやメルコレディの攻撃をかわした天使像が、ポラナにサンドブラストを放つ。それをかわしながら、ポラナは砂の戦場を駆け巡るのだった——。







 ——『氷』の戦場。



 ハウメアが、フィアが、レザリアが、『氷の天使像』に攻撃を続ける。


 今や氷塊の中に閉じこもっている天使像。その氷塊から、無数の氷柱が発射される。


「フィアちゃん、下がって!」


 満身創痍のフィア。ハウメアの分身体が彼女の前に駆け向かった。


「……——『護りの魔法』!」


「……ありがとう……助かったわ……」


 『時止めの雪』が敷き詰められているこの戦場で膠着状態を保てているのは、まさに奇跡というより他になかった。


 時止めに対し、ある程度の耐性のあるフィアとハウメア。そして、文字通り矢継ぎ早に『魔法の矢』を放ち、天使像を足止めしているレザリアのおかげだ。


 しかし——その頼みの綱の『魔法の矢』も、決して無限にあるわけではない。その矢が尽きた時、この膠着状態は崩れるだろう。


(……なにか……なにか、手を考えないと……)


 あのグリムですら、この『時止めの雪』には迂闊に近づけない。この戦場での頭脳であるハウメアは、奪われた思考速度で、必死に考えを巡らせるのだった。







 ——『土』の戦場。



「ライラ!」


 ノクスの絶望の叫び声が上がる。


 土に足を踏み出していたライラはその足を掴まれ、瞬く間に土に覆われてしまった。


「……くそっ!」


 ノクスが悪態をつきながら駆け出した。『土の天使像』は消滅した、そう思い込まされていた。


 だが奴は、恐らく衝突の瞬間に地中へと退避したのだろう。そして、ヴァナルガンドを撒き餌に獲物が罠にかかるのを待っていたのだ。


 ——『腐敗』の天敵であるライラを、確実に仕留めるために。


 ライラには『身を守る魔法』が掛けられている。圧死の心配はないだろう。


 問題は、窒息。生き埋め状態である今、数分の時間の猶予も、ない。


 ライラが閉じ込められている土塚に向かって、マルテディが石英の道を作る。ノクスが駆け向かう。ジュリアマリアが本体を警戒する。


 ノクスは腐敗を厭わず、土塚に向かって大剣を振り下ろした。飛び散る土。腐敗するノクスの身体。


 その時、土塚の中から声が聞こえてきた。


「……——『毒を無くす魔法』」


 その魔法は、ノクスの身体に作用し——


「……くそっ、今助けるからなっ!」


 ノクスは大剣を打ちつける。しかし、多少なりとも腐敗の影響が出ている彼の身体では、自慢の膂力は十全には発揮できなかった。


「……くそっ、壊れろよおっ! セイジに……申し訳が立たねえだろうがよっ!」


「……奴が……来るっす……」


 ジュリアマリアが、ポツリとつぶやく。


 その視線の先には——静かな微笑みを浮かべながら浮上する天使像の姿があった。







「……ライラが……危ない」


 土の戦場へと端末を新たに派遣したグリムはその状況を確認し、高台の上、つぶやいた。


 それを聞いた誠司は——太刀を携え、ゲートに向かって駆け出していった。


「……待て、誠司! キミは動くな!」


 しかし誠司は足を緩めることなくグリムに通信で返した。


「——すまないね、グリム君。私にとっての『勝利』はね……家族みんなで、家に帰ることなんだ」


「誠司!」


 呼び止める言葉は、届かない。


 ゲートへと入っていってしまった誠司の姿を見て、グリムは伸ばした腕を下げた。自身の失言。その言葉を聞けば、誠司は飛び出していくのは明らかだろうに——



「……もうすぐだ……もう少しなんだ。この状況を打破できるのは……」



 そうつぶやいたグリムは、東の空を眺めた。





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