決戦[development] 07 —同時攻撃—
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『——グリム、準備できたよ』
エリスからの通信が入る。グリムは端末を増やしながら、彼女に応答した。
「——それでは私たちも動く。エリスは私からの合図がありしだい、ゲートを開いてくれ」
——『オペレーション・F』。結果は未知数の、危険だけがつきまとう作戦。
エリスとカルデネは今、ジョヴェディに抱えられて『影の天使像』との戦いがあった場所の近くへと移動し、待機している。
グリムはカルデネから預かった『支配の杖』を握り、莉奈と目を合わせて頷き合った。
「——それでは全員に通達する。これより私たちは『オペレーション・F』の第二フェーズを開始する。攻撃を、合わせてくれ」
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「——電光石火」
ポラナの俊撃が、また一体の『砂の天使像』を斬り裂いた。
崩れ落ちる天使像。だが別の天使像が、サンドブラストを解き放つ。
「……うっ!」
必死に避けかわすポラナ。しかし、サンドブラストの余波が彼女を打ちつけた。
——『ポラナ。まずあなたは、感情をコントロールできるようになりなさい。感情は視野を狭めます。常に、冷静でいることが大事ですよ』——
師、ダイズの言葉を思い出す。怒りは感じている。焦りは無理して抑えつけている。
先ほどから致命傷は避けているものの、今やポラナは血まみれの状態だ。
だが——彼女は冷静に、相手の攻撃を見極める。
「——こちらポラナ。グリム。サンドブラストの中に、石の破片が混ざってきた。殺傷能力、増大」
戦場を駆け抜けながら、ポラナは通信を入れる。
そう。『砂の天使像』は、サンドブラストの中に『石の破片』を混ぜ始めていた。
「ポラナ、下がって!」
セレスの掛け声と共に、天使像の一体が彼女の銃弾により弾け飛ぶ。横には、メルコレディの攻撃で天使像二体が氷漬けになっていた。
しかし、深追いは禁物だ。今は、『オペレーション・F』のために攻撃を合わせないと。
天使像をある程度引きつけたポラナは、氷の道を駆け抜け退避した。それを見たセレスは、言の葉を解き放った。
「——『渦巻く颶風の魔法』!」
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氷の戦場では、フィアが傷つきながらも『氷の天使像』の攻撃をブレスで防ぎ続けていた。
その背後に座るハウメアは、『護りの魔法』でフィアをサポートする。
しかし、微笑みを浮かべながら距離を詰めてくる天使像。意識が朦朧とする。少しでも気を抜いたら倒れてしまいそうだ。
だがフィアは、己を奮い立たせ背後の人の子たちを守り切ろうとする。
その時だ。
——トスッ
天使像のこめかみを、一本の矢が突き抜けた。攻撃を中断し、天使像は矢の放たれた方向に氷の障壁を張った。
それと同時に、フィアはよろめき地面に座り込んだ。再び天使像はこちらを向くが——
「……頭は回らないけどね、これなら少しくらいは、相手をしてやれそうだ」
——天使像から距離を置いて、ハウメアの『分身体』が現れた。
分身体は、言の葉を紡ぎ始める。天使像は分身体に迫ってくるが——
「遅い」
——概念的存在である『分身体』なら、時止めの雪の上でも自由に動ける。
そして、天使像の攻撃よりも速く言の葉は紡がれた。
「——『闇深き鋭刃の魔法』」
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ボッズたちは『石英』の道を駆けていた。
「——『毒を無くす魔法』」
ライラの解毒・対毒魔法が矢継ぎ早に紡がれていく。
獣のように駆けていたボッズは立ち止まり、体勢を低くして力を溜め始めた。
天使像は土砂を巻き上げ、飲み込もうとする。
しかし、地中からクリスタル状の石英の柱が次々と生えてきて、道に壁を作り上げた。
「うおおらああぁぁっっ!」
ノクスの大剣の一振りが、防御しようと作り出された天使像の土の障壁を打ち砕いた。
「さあ、大盤振る舞いっすよ!」
ジュリアマリアは接近し、天使像に攻撃魔法の込められた魔道具を次々と投げつける。
怯む天使像。天使像はよろめきながらも直接、腐敗の土を発射するが——
「——『毒を無くす魔法』」
——その土の腐敗効果は、見事にライラが打ち消していた。
「フン!」
力を溜め終えたボッズが、残された三肢を使って跳躍する。
体毛の上からでも分かるほどの膨れ上がった肉体、浮き上がる血管。
重力を乗せ、真っ直ぐ振り下ろされた彼の断頭の斧は——
『…………ゥウ…………ァ…………ァァ…………』
——見事、天使像を両断した。
すぐに再生を始めようとする天使像。しかし、ボッズは——
——両断した天使像の間に、身体を滑り込ませた。
「……ちょ、何やってんすか……このクソ狼!」
ジュリアマリアが、悲痛な叫び声を上げる。
天使像はボッズの身体のせいで、上手く再生できない。
だが、代償に——彼の身体は圧迫され、ひしゃぎ始めていた。
ボッズは、声の限り叫んだ。
「……さあ、始祖よ! あなたの攻撃で、天使像にとどめをっ!」
直接天使像に触れたせいか、ボッズの身体は急速に腐り落ちていっていた。
それを天から見下ろすヴァナルガンドは——目を閉じた。
「……お前は、我らの誇りだボッズ。我は剛の名を、永遠に魂に刻み込むと誓おう」
——遠吠えが、響き渡る。ボッズの身体は、もはや原型をとどめていないほど潰されており——
「……終わりだ」
ヴァナルガンド自身が、火の玉になって降り注ぐ。
天使像は腕を上げようともがくが——ボッズは最期の力を振り絞って、天使像の首を噛みちぎった。
「…………ボッズーー!!」
ノクスがライラを抱え上げ、退避する。ジュリアマリアが背を向け駆け出していく。
直後、青炎をまとった神狼は、天使像を直撃した——。




