表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第五章
602/608

決戦[development] 06 —もっと強く—






「ポラナちゃん!」


 メルコレディの叫びが響く。すっかり動きを止めてしまったポラナに向けて、複数の『砂の天使像』からサンドブラストが放たれた。


 しかし——


 その攻撃は、ポラナを穿つことはなかった。紅い光の線が残像となり、地表すれすれを駆け抜ける。



「——……電光、石火」



 瞬く間にポラナは一体の天使像の背後に現れていた。その天使像は、砂となり消え去る。



 ——『そうです、ポラナ。あなたは体格が小さい。しかしそれは、時として大きな武器になるのです』——



 師、ダイズの教えが脳裏をよぎる。



 剣を逆手に構えたポラナの双眸は——紅く染まっていた。








 ——『氷』の戦場。



「……どうしました、私はここです! さあ、こちらへ!」



 焦りを孕ませた声を放ちながら、レザリアの一矢が『氷の天使像』を貫かんと襲いかかる。


 だが天使像は氷の障壁で防ぎ、それ以上レザリアを追ってこようとはしなかった。


(……くっ! これ以上は、誘いに乗ってこない……!)


 天使像は当初の作戦通り、『風』の戦場近くまではおびき出せてはいた。しかし、そこまでだ。まるで持ち場を守るかのように、これ以上は近づいてこないのだ。


 天使像は攻撃を仕掛けてきた者を執拗に狙ってくるはずだ。縄張り的なものがあるのか、それとも——



(……天使像はまだ、ハウメア様たちを攻撃対象に定めている……?)



 ——その考えを肯定するかのように、天使像はレザリアに背を向けて戻ろうとする動きを見せた。


「……待ちなさい!」


 レザリアは矢を続けざまに放つが、天使像の背後に巨大な氷の障壁が現れる。


「……くっ!」


 追いかけようとするが、数歩先の足元には天使像の作り上げた雪。


 レザリアは強く歯を噛み締めながら、迂回の足場を登り始めた。






「…………ハウメア……大丈、夫……?」


 朦朧とする意識をなんとか繋ぎ止め、氷竜の娘フィアはハウメアの元へとたどり着く。


 そこには、うずくまりながら、失った左腕の止血をしている彼女の姿があった。


「……ごめんね、フィアちゃん。このザマだ。まさか、わたしたちにすら影響するほどの『凍結』を使ってくるとはね……」


「……ハウメア……クレーメンスや、ルネディが……」


 クレーメンスとルネディは、今や彫刻のように動きを止めていた。微動だにしない彼らの身体に、雪が積もっていく——。


 ハウメアは頭を振りながら、片手で持つ杖を支えに立ち上がった。


「……ふう。少し吹雪は弱まったように思えたけど……また強くなってきたね……」


「……それって……」


 フィアの頭に、最悪の予感がよぎる。


 そしてそれは、吹雪の中『微笑み』を見せながら浮かび上がる姿を見て、現実になったと実感するのだった。








 ——『土』の戦場。



「——それでは皆さん、浮上します!」


 土砂に飲み込まれたマルテディは、土中、砂の球体を作り上げ皆を守っていた。


 ノクス、ジュリアマリア、右足を失ってしまったボッズ——全員無事だ。


 マルテディは土の侵食を防ぎながら、慎重に砂の球体を浮上させていく。


 ノクスは球体の中から通信魔法を飛ばす。


「——ヴァナルガンド、無事かっ!?」


 だが、応答はない。焦りながらも残された一本の大剣をしっかりと握りしめるノクス。最後の一本だ、もう投擲は使えない。


 やがて球体は、地上へと出た。マルテディはジュリアマリアと目配せをする。


「砂を展開しますっ!」


 マルテディは慎重に砂の球体を解除する。現れる歪な空の光景。そして、『土の天使像』の前には——



 ——ところどころが腐り落ちた身体で、孤軍奮闘するヴァナルガンドの姿があったのだ。



「始祖!」


 ボッズが叫ぶ。ヴァナルガンドは傷つきながらも、宙を駆けながら天使像の注意を一身に引きつけていた。


 だが——天使像は微笑みながら、片手をゆっくりと上げた。


 次の瞬間、地面から触れた者を腐らせる土が大量に巻き上げられた。


「……ぐぬう……」


 ヴァナルガンドは駆け抜けかわそうとするが、無数の土片、そのいくつかはヴァナルガンドの身体に貼り付き、ブスブスと煙を発してその箇所を腐らせていく。


「……お前らは、近づくな。そこで見ておれい……」


 そう呟いたヴァナルガンドは、怯まずに天使像へと駆け向かっていった。ノクスは大剣を構えながら叫んだ。


「マルテディ、足場を!」


「……は、はいっ!」


 砂の道が伸びていく。しかしその道は、すぐさま土に侵食されてしまう。


(……どうすれば……いいの……?)


 砂は土に対して、『相性抜群』ではなかったのか。マルテディは血の出るほど唇を噛み締めて、砂の能力を最大限に発揮する。


(……もっと、もっとだ……もっと、強く、固く……!)


 グリムの通信で、天使像は各戦場で能力を拡張していると伝えられていた。



 ——なら、きっと、私たちの力も……!



 マルテディは、強く、強く願う。



 ——その時だ、



 まるでマルテディの祈りが通じたかのように、戦場に異変が起きたのは。



「……これ、もしかして、マルティさんがやったんすか……?」


 ジュリアマリアは茫然としながら目の前の光景に目を見開く。



 ——触れた者を腐らせる、腐敗の土。そこには強固な、乳白色を帯びた鉱石の道が現れていた。



 砂を強固に圧縮すると、砂岩と呼ばれるものになる。


 だがこれは、更に圧縮された——結晶構造そのものが変化した『石英クォーツ』の道が、そこには出来上がっていた。


 光を反射するその道を広げながら、マルテディは天使像を睨む。


「足場を広げます。みなさんはヴァナルガンドさんを助けてあげてください!」


「フッ、承知!」


 そう応え、ボッズが両手をつき駆け出そうとしたその時。背後から、魔法をかけられた。



「——『毒を無くす魔法』」



 ボッズの身体が、対毒耐性を帯びる。彼が振り返ると、そこには白い杖を握りしめた少女がいた。



「グリムから聞いた。この土、毒なんだってね。毒なら私に任せて」



 ——回復魔法のエキスパート、ライラは『土』の戦場に降り立った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ポラナのこれは……赤い世界のライラと同じ… 魔族の特性なのかな そして厄災も進化出来る、と ちょっと希望見えてきたかな?ルネディも凍結から早く戻ってきて
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ