表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第五章
600/610

決戦[development] 04 —考察—






 高台の上、ハウメアから通信を受けたグリムは思考する。


(……足元の雪……が、トリガーなのか? まるで『土』と一緒だな。そして『凍てつく時の結界魔法』の原理、か……)


 グリムの解釈では、時間の静止とは分子運動の静止を意味する。


 物質の温度が下がるということは、それは分子運動が低下しているということだ。


 ——積もる雪に触れた者の、『急速な温度低下』——


 まさに、『氷』の能力の発展した力なのかもしれない。



「……どうするの、グリム?」


 莉奈が不安そうな顔で尋ねる。



 ——主力メンバーが集う『オペレーション・F』。


 それを決行するか、いったん中止して危機に瀕している『氷』の戦場に救援を向かわせるか——



 グリムは顔を上げ、苦渋の決断を皆に告げた。



「——……作戦は決行する。『氷』の戦場は……今はの奮闘に期待しよう」








 フィアは、思考の回らない頭ながらも本能的に前に出た。


 それは、後ろのクレーメンスとルネディを守るため。それは、主力であるハウメアを助けに行くため。


「……わたしが……クレーメンスを……みんなを……」


 景色が歪む。寒さを意に介さない氷竜すらをも鈍らせるほどの、体温低下。


 今やうずくまってしまっているハウメアに、天使像は手を向けた。


「……だ、だめ……」


 無駄だと分かりつつも、フィアはハウメアに向かって必死に手を伸ばす。



 が、その時。意識の外からその攻撃は飛んできた。




 ——トスッ




 天使像の眉間を、ひと筋の矢が穿ち抜いた。反動で仰け反った天使像は、その攻撃の出どころの方を向く。



「——お忘れですか? あなたの『吹雪』の外にいる、私のことを」



 そのエルフは直感で危険を感じ取り、雪の積もっていない場所から攻撃を仕掛けていた。


 天使像は彼女を攻撃対象に定める。しかし彼女は、身軽に動き回って的確に天使像を射抜いてゆく。


『——……ウ……ウ、アアアァァッ……!』


 ハウメアの攻撃で再生能力の低下している天使像。その再生の隙を突き、彼女の必中の矢は次々と放たれていく。



「さあ、私の懐に入ってきてごらんなさい。それができるのであれば、ですが」



 ——世界最高の狙撃手、漆黒の瞳を宿したレザリアは、二百メートル先から『氷の天使像』を見据えるのだった。








 ——『砂』の戦場。




『——レザリア。『風』の戦場の方へ引きつけるように戦ってくれ』


 レザリアに通信で指示を出したグリムは、思考する。


 現在、『女神像』の前面に位置していた『天使像』、左から『風』、『影』、『光』は撃破済み。


 後方の戦場は左から『氷』、『土』、『砂』だ。レザリアが『氷の天使像』を隣接している『風』の戦場の方へと上手く誘導してくれれば、『天使像』同士の合流の可能性は低くなるだろう。


 そして、目の前の『砂の天使像』。できればこちらも『光』の戦場の方へと誘導したいが——。


(……まったく……まだ、数が増えたギミックすら解明していないというのに……)


 天使像の一体が、増やしたグリムの端末の一体に手を向ける。そしてそれは、放たれた。



 ——パンッ



 グリムの肉体が、弾け飛ぶ。肉片が削げ落ち骨が剥き出しになったその個体は倒れ込み、流砂に飲み込まれていった。


(……まるで、サンドブラストだな)


 ——サンドブラスト。砂などを圧縮空気と共に高圧で放ち、金属製品の表面などを加工する技術のことだ。


 例えるなら、エリスの『空間魔法』やセレスの『風魔法』に砂を組み合わせたような厄介な攻撃——まるで各地で行われているこちらの攻撃を、学習しているかのような不気味さを感じる。


「……と仮定すると……この増えた天使像たちも、『分身魔法』の応用に近いのかもしれないな」


 その仮定通りだとすると、心配なのは、『魔素』。


 自然現象を操る『厄災』の力に、『魔素』は影響しない。だが、もしも『天使像』がいま使っている『応用』した攻撃に、『魔素』が使用されているとするのならば——


 グリムは皆に情報を共有しながら、駆ける。道なき砂の上を、流砂に飲み込まれながらも、なお。


 ——しかしグリムの足止めでは抑えきれず、『砂の天使像』たちはセレスたちの方へと向かっていった。







 ——『土』の戦場。



 現象を観測しながら、グリムは思考を続ける。


「……『砂』での仮定が事実だとするならば、こちらは『毒魔法』、あるいは『腐毒花』の持つ毒性を参考にしたのかもな」


 土に触れた者を腐らせる能力。


 だがそもそも、『影の天使像』が使った『影による侵食』。あれはこちらの攻撃を学習したとは言い難い。


 学習、発展、応用——それは滅びの使命を持つ者の本能なのだろうか。グリムは顔をしかめながら、端末をばら撒いていく。


 ——検証の結果、戦場全面の『土』が、触れた有機物を腐敗させることが判明した。


 更にはぬかるみ、その土に全てを飲み込んでいくという——。





 宙に立つヴァナルガンドは青炎を吐きながら、天使像を守るように立つ土壁を睨む。


「……まったく。埒があかんのう」


 現状、『土の天使像』の足止めをできるのはヴァナルガンドだけだ。地に足をつけられない今、こうして空中から牽制することしかできない。彼の性分には合わないが、今はこうして足止めさえ続けられれば——



 その時、ジュリアマリアが大声で叫んだ。



「……逃げて! 最大級の嫌な予感がするっす!」



 その言葉を聞いた皆に、緊張が走る。もはや行動原理の根拠とすらなっている彼女の『嫌な予感』。それが、発令された。


 天使像は、微笑みながら両手を広げた。空へ駆けるヴァナルガンド。砂の障壁を展開するマルテディ。


 直後、巨大な土壁が地面からそびえ立つように現れた。



 瞬時にして現れた、見上げるほどのその土壁は——



 ——次の瞬間には崩れ、全てを飲み込むかのように戦場を覆い尽くした。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
200m先からヘッドショットは地味にヤバい さすが射撃性能SSSの本編レザリアさんだぜ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ