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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第五章
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決戦[development] 03 —静止—







 ——『土』の戦場。



「……くそっ!」


 ノクスは大剣を拾い上げ、投擲する。土の障壁を張り防ぐ天使像。その上空から、ヴァナルガンドの遠吠えが鳴り響く。



「——……ゥゥオオオオォォォォーーーン……」



 遠吠え一つ。そして、二つ。



 土の天使像目掛けて、無数の青炎が降り注いだ。


 その光景を前に、獣人ボッズは斧を杖にして身体を引きずってきた。


「……大丈夫かい、ボッズよお」


「ふん、問題ない」


 少し土に触れただけで腐り落ちてしまった彼の右足。ノクスの心配する声に、にべもなく返事をした彼は斧を背中に担ぎ、獣のように両手を地につけ前傾姿勢をとった。


「……馬鹿、無理すんじゃねえ」


「そうは言っても、ノクスよ。お前の大剣も、そろそろ底をついてしまうだろう?」


「まあ、な」


 アルフレードの用意した大剣は、今や数えるほど少なくなっていた。


 この長丁場だ。投擲した大剣も拾い上げて再度利用していたが、その大半は土に飲み込まれてしまっている。


 幸運なことに、今の段階で地面に散らばっている大剣はどれも腐食していないが——少なくともボッズの身に起こった現象を見る限り、迂闊には拾いに近づけない。


 額に汗を流すノクスを横目で見て、ボッズは鼻息を吐いた。


「どちらにせよオレたちの役割は、限界までヤツを引きつけることよ」


「違えねえ」


 今、マルテディは力を一点に集中させ、ノクスたちの足元に強固な砂の足場を作り上げている。侵食する土。それをさせまいと覆い被さる砂。


 比較的肉弾戦と相性がよかったはずが、一転して最悪の相性に——現状、この戦場で頼りになるのは、空を駆ける神狼、ヴァナルガンド、ただ一人だ——



 ——と、誰もが思った、その時。



 青髪の女性が、駆け寄ってきた。


「……グリム、おめえ!」


 ノクスの方をチラリと見たグリムは、砂の足場を通り過ぎたところで立ち止まる。


 土に触れ、足元から腐敗していくグリムの身体。しかしグリムの再生スピードはそれを上回った。


「……ふむ。どうやらこちらも、仮説の立証が必要そうだな」


 グリムは観察する。腐敗する身体、散らばっている大剣は無事。グリムは自身の指を何本も斬り落として、土に向かってばら撒くように放りなげる。


 それらは例外なく、腐敗して土に飲み込まれていった。


「……範囲は広大。キミらは絶対に土に触れるな。私とヴァナルガンドが、なんとかこの場は引きつける」


 グリムは端末を増やしながら、ヴァナルガンドに通信を入れた。


「——キミは攻撃の手を緩めずに上空から炎を撃ち続けてくれ。何とか突破口を見つけてみせる。私ごと、やれ」








 ——『氷』の戦場。



 ハウメアの数多の魔法が、『氷の天使像』に襲いかかる。


 何とか氷の障壁を張り防ぐ天使像だったが——



 ——圧倒。



 今やハウメアは、『分身魔法』でもう一体のハウメアを作り上げ、息をもつかせぬ連続攻撃を仕掛けていた。


 それを見るフィアは、茫然とした様子でクレーメンスに漏らす。


「……ハウメア……強すぎない……?」


「ああ。彼女は氷人族、君たち氷竜の血を引く者だ。そして——」


 極寒の吹雪の中、ハウメアの魔法は加速していく。



「——血を積み重ねていった氷人族は、『寒ければ寒いほど魔力が増大する』といった特性を獲得した。この戦い、もうすぐ決着がつくかもな」



「——ふうん。なら、私は別の場所に行った方がよかったかしら?」


 突然、声がかけられた。二人が驚いてその声の方を向くと——地面からルネディが現れた。


「……ルネディ、か。援軍、感謝する」


「ふふ。でもこの寒さ、たまったもんじゃないわね。あなたたち、ここにいなさい」


 そう言ってルネディは、吹雪を避けるように半円状の影のドームを作り上げた。寒さにさらされていたクレーメンスは、深く息を吐く。


「ありがとう、ルネディ。これなら俺の炎の『魔剣』で、暖をとれそうだ」


「どういたしまして……ねえ、ハウメア。できることなら早くしてちょうだい」


 そのルネディの声が聞こえたのか、ハウメアはわずかに口角を上げた。


「じゃあ、特大のいくよー。ルネディ、クレーメンスたちをしっかり守ってねー」


「わかったわ」


 ハウメアは言の葉を紡ぎ始めた。魔力が増大する。魔素が収束していく。



 これなら——影の隙間から、傷口を抑えながらフィアは見る。氷の天使像を牽制するハウメアの分身体。その背後から紡がれるハウメアの言の葉。



 これで終わる——はずだった。



 フィアは見た、見てしまった。



 ——天使像が『微笑み』を浮かべて、両手を広げるのを。



(……あれ……?)


 フィアの頭の動きが、鈍くなる。彼女たちを覆っていた影のドームが消え失せる。


「……どう……したの……?」


 フィアが微睡みながら、クレーメンスとルネディの方に首を回すと——



 ——二人の動きは、静止していた。


 まるで、時間が止まってしまったかのように——



「……ハウ……メア……」


 異変を感じたフィアがハウメアの名を呼びながら向くと——


 分身体は消え失せ、詠唱を中断し、霞んだ意識を払うかのように頭を振る彼女の姿があった。


 ハウメアは杖をつき、身体を支える。


「……まいったね……いくら氷人族が寒さに強いと言っても、これは……」


 天使像は、ハウメアにてのひらを向けた。ハウメアは急ぎ、グリムに通信を入れる。


「——……グリム……足元の雪、氷人族に伝わる『凍てつく時の結界魔法』の原理……奴は、進化した……」


 そこまで伝え終え、ハウメアは詠唱を開始した。天使像から、氷の渦が放たれる。



「——……『護りの……魔法』……」



 その魔法は、完全に攻撃を防ぐことは叶わず——




 ——前に突き出したハウメアの左腕は凍りつき、砕け散った。





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― 新着の感想 ―
時止めは味方だけの専売特許じゃないぜ! …いやいやアカンですやん まあまだこれで他の天使像と合流しようとかそういう知恵が働かないだけマシだけど
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