表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第四章
596/609

決戦[introduction] 12 —あの唄—







 光の天使像を中心に起こる、大爆発。




 ジョヴェディは急上昇をし、かろうじて爆発から逃れた。


 だが——


(……フン。両足とも持っていかれたか……)


 『身を守る魔法』が掛けられているにもかかわらず、彼の左足、くるぶしから先は爆発に巻き込まれて完全に失われており、右足の方も感覚が消え失せていた。


(……まあ、問題ない。じゃが……)


 彼の大技である『爆ぜる光炎の魔法』に近しい現象。


 その爆発が起こった眼下を見渡すと——



 まず、エリスとライラは無事。改めて光を防ぐ障壁を張り直している。


 ルネディは影の防御壁でなんとか防いだようだ。無傷ではないが、しっかり両の足で立っている。


 攻撃を放った天使像は変わらず宙に佇んでいた。そして、その天使像の近くにいた銀狼、ハティは——







(……無事……だったのか……?)


 爆発が収まり、ハティは目を開ける。避けようのない光の爆発。


 だが、彼は、右半身の機能をほとんど失いながらも生きて宙に立っていた。


(……なんで……)


 何故、無事だったのか。彼の瞳に映し出される光景が、全てを物語る。



「……サンカ……ちゃん……」


「……ふふ……まったく、鈍臭い犬っころなんだから……感謝、してよね……」



 そこには、全身が傷ついた竜の姿でハティを庇うように宙に立つサンカの姿があった。


「……なんで……オレのこと……」


 サンカの全身は焼けただれており、崩れ、すでに身体は魔素へと還り始めていた。


「……リナ、様なら……きっと、こうしてたと、思う……から…………」


 ブスブスと音を立て、サンカの身体が失われていく。ゆっくりとサンカの瞳が、閉じられていく。


 その彼女の身体を、天使像の光線群が穿った。もはや繋ぎ止めるもののなくなったサンカは、その攻撃をくらいながらゆっくりと地に落ちていった。



「……おい、やめろよ」



 ハティは、声を絞り出す。それでもサンカの亡き骸に、執拗に光線を放ち続ける天使像。銀狼は、吼えた。



「やめろっつってんだろっ!!」



 神話の中に生きる銀狼は、光を喰らうために駆け出した——。




 駆け寄るハティを認め、天使像は再び両手を広げた。


 パチパチと大気が弾け出す。先ほどの『大爆発』だろう。


 ハティはルネディに通信を入れた。


「——……ルネディちゃん……影で奴を捕縛してくれ」


『——……ふん……いいけど、どうするつもり?』


 ルネディは影で天使像を掴み取る。天使像は輝き、その影の手を振り解こうとするが——



「オレが全部、喰ってやるよ」



 ——ハティは天使像に喰らいつく。大気の弾ける音が、弱まっていった。


 それでも抗い、『大爆発』を起こそうとする天使像。ハティの右前脚が、光によって弾け飛ぶ。



 だが——天使像の動きは止まった。ハティはニヤリと笑い、通信を入れた。



「——爺さん、エリスさん。ここはオレが抑え込む。構わねえ。オレごと……やってくれ」







「……ぬう」


 通信を受けたジョヴェディは、険しい表情を浮かべる。


 手を焼いていた高速移動。それが封じられた今、千載一遇の好機ではある。


 彼は、傷だらけの身体で天使像に喰らいつくハティを見下ろしながら、グリムに通信を入れた。


「——……のう、青髪よ……どうする?」


 ジョヴェディが通信を入れて数秒後、グリムは通信越しでも伝わってくる苦しい声で応答した。


『——…………やってくれ……』


「——……承知……エリス、合わせるぞい」


 そう伝えて彼は、言の葉を紡ぎ始めた。







「……お母さん」


 心配そうに声をかける愛娘の頭を軽く撫でて、エリスは杖を天使像とハティに向ける。


「……ごめんね、ハティ、サンカ。約束する。この戦い、必ず勝利するから」


 エリスもまた、言の葉を紡ぎ始めた。その目から、涙がひとつ流れ落ちた。







 ハティの右後脚が、光に弾け飛んだ。


(……悪いな、シェリー。帰れそうにねえや……)


 光の天使像は、足掻く。足掻いて光を撒き散らす。その光を喰らいながらハティは、彼女がよく口ずさんでいたあの唄を思い返していた——。



 夕焼け 小焼の 赤とんぼ


 負われて見たのは いつの日か



 空は変わらず、赤と白が歪に混ざり合っていた。美しくない、赤。シェリーが好きだったあの夕焼け空とは、似ても似つかない赤。


 ハティの身体が、次々と弾け飛んでいく。だがそれでも、ハティは必死に喰らいつく。



 山の畑の 桑の実を


 小籠に摘んだは まぼろしか



(……早くしてくれ、爺さん……エリスさん……)


 今やハティの身体は、見るも無惨な姿になっていた。


 『祝福』がなければ、既に失われていたであろう命。ハティは最期の力を振り絞って、喰らいついた。


「……うおおおぉぉぉぉっっ、大人しくしやがれえっ!!」


 歪に膨らんでいく彼の肉体。光が、彼の身体を駆け巡る。だが、彼は決して天使像を解放することはなかった。


 そしてついに——二人の魔術師の言の葉は、紡がれた。



「——『焼き尽くす業火の魔法』!」


「——『空間を削る魔法』!」



 地上と上空から迫り来る魔法。それを見たハティは、満足そうに微笑んだ。


「……あばよ、シェリー……」




 十五で姐やは 嫁に行き


 お里のたよりも 絶えはてた




 その二つの魔法は、肉体を削り取り破片を燃やし尽くし、『光の天使像』を跡形もなく消し去ったのだった——。










 遥か遥か遠い、大陸の東の方、戦場からは西方に位置する地で。



 買い物袋を抱えて店を出てきたエルフの女性、シェリーこと『ちえり』は、夕焼け空を眺めた。


(……ハティ、今ごろ何してんのかなあ……)


 ちえりは口ずさむ。元の世界で好きだった、あの唄を。




 夕焼け 小焼の 赤とんぼ


 とまっているよ 竿の先




 いつもの見慣れた、煙突のある夕焼けの街並み。


 その光景、高い高い煙突の先には、いつも当たり前にあった彼の姿だけが欠けていた。






第四章 決戦[introduction] 完。


次章、

第五章 決戦[development]に続きます


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ