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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第四章
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決戦[introduction] 11 —進化—






『——続けて現在の戦況を共有する。『土』、『砂』の戦場は拮抗状態。『光』は戦力集結、撃破を狙う。問題は、現在『厄災』が配備されていない『氷』だが——』







「……フィアちゃん!」


 ハウメアの叫びが、虚しく響く。


 相手の放つ『氷』の攻撃を、ブレスで相殺しているフィアだったが——


 ——矢面に立つ彼女の身体には、避けきれずに喰らってしまった二本の氷柱が突き刺さっていた。


「——『火弾の魔法』!」


 クレーメンスの刀身が、一段と赤く燃え上がる。彼はフィアを庇うように立ちはだかった。


「……大丈夫か、フィア」


「……全然! クレーメンスは下がってて!」


 互いをフォローしながら『氷の天使像』へと駆け出していく二人。その背中を見るハウメアは、歯を噛み締めていた。


「……魔素の使用許可さえおりれば……ここはわたしの場所フィールドなのに……」


 現在、魔素の使用割合は『光』の戦場に大きく割かれている。もしも大気中の魔素が失われてしまった時、それはジョヴェディの『時止め』の結界の破綻を意味し、互角に戦えている各地の戦況が崩れてしまうことに他ならない。


 それでも、ハウメアは許される限りの魔法でサポートを行なってはいる。彼女がいなければ、既にこの戦場の大勢は決していたことだろう。だが、この戦場には強大な力を持つ『厄災』がいない。



 ——早く、早く『光の天使像』を倒して——



 魔素さえ潤沢に使わせてもらえるのならば、この二人にこんな苦労をかけなくて済むのに。ハウメアは祈りながら見つめる、二人の戦士を。フィアは竜形態になり、その背にクレーメンスを乗せて上空から襲いかかる。


 天使像は、自身の周囲に無数の氷柱を浮かべ——



 ——その時、白い風が吹き抜けた。



 両断される天使像。浮かんでいた氷柱はパキパキと地に落ちる。


 すぐさま再生を始める天使像を再び斬り抜け、彼女——英雄『白い燕』莉奈は、大量の氷の障壁を張る天使像を見下ろした。




「……お待たせ、みんな。私がコイツを、引きつける」








 ——『光の天使像』の戦場。



「——『暗き刃の魔法』」


 上空に立つジョヴェディから、黒の刃が雨のように降り注ぐ。


 逃げる天使像。その行く手を遮るように、ルネディの『影の壁』が天使像の前に現れた。


 その壁は、手の形となり天使像を掴み取り——


『——……ァァアアアァァ……』


 ——天使像は身体中から光を放ち、影の手をすり抜けた。そこに背後から飛びかかる銀狼。


「そりゃあ!」


 ハティの鉤爪が、天使像の肉体を抉り取る。天使像は光線を放ちハティを遠ざけるが、その天使像目掛けて追撃のジョヴェディの魔法が降り注ぐ——



「——『焼き尽くす業火の魔法』」






 一方、光を防ぐ障壁内では、エリスとライラが懸命にサンカの治療にあたっていた。


「……お母さん、意識が戻らない……」


「……サンカ……戻ってきて……!」


 脇腹を大きく抉られて、苦しそうに不規則な呼吸を繰り返しているサンカ。



 ——『再生阻害』。天使像の攻撃の、最も厄介な特性。



 アルフレードの遺した『祝福』がなければ、すでにサンカはその命を落としていただろう。


 だが。そのアルフレードの『呪い』は、サンカを再び甦らせる。


「……う……ん……」


「サンカ!」


 ライラの呼びかけに、サンカは薄っすらと目を開けた。そして、その傷ついた身体を無理矢理起き上がらせた。


「動いちゃダメ、サンカ!」


「……戦いは……?」


 サンカは首を回して、障壁の外を確認した。飛び交う光線——目的である『光の天使像』は、空を瞬いていた。


「……行か……なきゃ……」


「ダメ。あなたはゆっくり休んでいて」


 エリスは優しくサンカの身体を押さえつける。


 しかし——サンカは構わずに、『竜』の姿へとその身を変えた。


「……私が……リナ様の……代わりに……この戦場を……」


「行っちゃだめ!」


 ライラは必死になってサンカの尻尾を引っ張り止めようとした。


 だが、サンカは——



 ——ライラを振り払い、傷口から魔素を漏らしながら、空へと飛び立っていった。






「——『渦巻く颶風ぐふうの魔法』!」


 ジョヴェディの風刃を孕んだ竜巻が『光の天使像』を切り刻まんと襲いかかる。それを下降しながらかわす天使像。


 天使像は下降しながらルネディ目掛けて光線群を放った。


「……チッ!」


 ルネディは影の防壁を張り、カウンターで天使像をその影に飲み込もうとする。しかし天使像は光の反射のごとく真上に進行方向を変え、防御手段を持たないハティに襲いかかった。


「……くっ、そっ!」


 無数に放たれる光線の一発がハティの肩を突き抜ける。だが、ハティはお構い無しに天使像に喰らい付いた。


『…………ゥウァァアア…………』


 抉れる身体、霧散する光。すぐに再生は終わらない。



 ——そう。彼らの度重なる波状攻撃の前に、『光の天使像』の再生能力には低下が見られていた。



「……行けるぜ、これなら」


 銀狼が不敵に笑う。


「ええ。一気に畳みかけましょう」


 淑女がクスリと笑う。


 再び天使像に駆け向かうハティに合わせ、ジョヴェディが言の葉を紡ぎ始めた——その時だった。



 ——老練な魔術師は気づく。天使像の口元が、上がり始めていることに。



 大気が、パチパチと、弾け出す。



 その、彼のもっとも得意とする魔法と近しき現象を目にしたジョヴェディは——



 ——全力で、叫び声を上げた。



「……逃げろおっ! 全員、今すぐにじゃあっっ!」



 ただならぬ様子に、一瞬動きを止めてしまったハティ。


 大気が震える、光が連鎖して弾け続ける。



 彼らの本能が、告げる。今、ここにいてはならないと。



 やがて、光は一点に収束した。



 宙に浮く光の天使像は両手を広げ——その顔に、無慈悲な『微笑み』を浮かべた。





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