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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第四章
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決戦[introduction] 09 —十や二十—







 一方、『風の天使像』の戦場では——



「……なにやってんのよ……お願い……戻って……!」



 ——眼下で繰り広げられるエルフ達の行動を見た莉奈の、悲痛な叫び声が響いていた。



 シズルの鳴らす草笛の音を合図に、彼らは一斉に動き出した。


 吹き荒れる暴風を厭わず、矢を放ちながら距離を詰めていくエルフ達。


 『風の天使像』の注意が、エルフ族達に向く——。


 だが。



「——よそ見をしている、場合ですか?」



 ——トスッ



 暴風の隙間を縫って、レザリアの一矢が天使像を穿った。エルフ族達から気を逸らさせるように、レザリアは矢をつがえ駆け出してゆく。


 暴風の余波で、何人かのエルフが切り刻まれ倒れ込む。しかし彼らは、血まみれの身体で立ち上がって再び歩き出した。


「……みんな……止まってよ……」


 皆の脳内に声を飛ばすが、誰一人として反応しない。


 上空に浮かぶ莉奈は、泣き出しそうな声でグリムに通信を入れた。


「——……グリム……見えてるでしょ? みんなを止めて!」


『——エルフ族に告ぐ。急いで所定の位置に戻れ。勝手な行動はしないでくれ』


 しかしその毅然と放たれる指揮官の指示に、誰からも返事は返ってこなかった——。




 その地表では。命令違反を犯しているエルフ族の一人、チゼットが隣にいるゾルゼに笑いかけた。


「……グリムさんの指示を無視するからには、失敗は許されないな、ゾルゼ。何としてでも、成功させなければな」


「ああ、無論だとも。この戦いを勝利に導くため、我らの命の十や二十、惜しくもなんともないわい」


 傍らではミズレイアを始めとする魔法の使い手が、皆に解毒魔法を施している。


 風に抗い進むエルフ達は、ついに目標地点に到達した。


「ナズールド、範囲内についたよ」


 ニーゼの報告を聞き、シズルに支えられているナズールドは声を張り上げた。


「では、始めてくれ。勝利を、捧ぐために!」


 風に混じり応じる声が伝播する中——エルフ達の言の葉は次々と紡がれていった。



「「——『木に花を咲かせる魔法』」」







「……馬鹿な……何をやっているんだ……」


 高台の上にいるグリムは、呻く。エルフ達は他の戦況が落ち着くまで『風の天使像』を引きつけておく、その役割だったはずだ。


 エルフ達に矢を放ち続けさせたのは牽制のためであって——こんなことをさせる為にやったんじゃない。


 いつかの、ヴェネルディ戦の光景が頭をよぎる。



 ——そう。彼らは今、『風の天使像』の周りに『腐毒花』を咲かせていた——。







 戦場は、瞬く間に紫色に染め上げられていた。


 エルフ族達が今まで放った無数の木の矢——それを媒体として、この戦場には腐毒花の花畑が出来上がっていた。


 その光景を上空から見下ろす莉奈は、涙を流しながら首を横に振る。


「……やめて……やめてよ……」


 その時だ。レザリアから通信が入った。


『——リナ。瘴気に巻き込まれないよう、距離をとって下さい。天使像は私が引きつけますゆえ』


「——……レザリア! みんなを止めて!」


 莉奈の声に沈黙をしていたレザリアだったが、やがて通信を返してきた。


『——私たちは誇り高きエルフ族です。必ずやり遂げて見せますので、リナは見守っていてください』


「——……ダメ……ダメだよう……」


 苦しい表情を浮かべて、莉奈は瘴気内へと意識を飛ばした。


 そこでは——皆が輝く意志を持つかのように、突き進む姿が映し出された。






「——『毒を無くす魔法』」



「——『木に花を咲かせる魔法』」



 エルフ達の魔法が飛び交う。それでも、瘴気の毒に蝕まれていくエルフ達。彼らの身体は、既に紫色に染まっていた。


 ナズールドはよろめきながらも、また一歩前に踏み出す。


「……ゴホッ……なあ、シズル。妖精王様の『祝福』がなければ、とても耐えられなかっただろうね」


「ええ、ナズールド。妖精王様は事前に『祝福』について私たちに告げてくださった。感謝しなければなりませんね」


 アルフレードの慈悲。千年間共に暮らしてきたこの一族への誠意、『祝福』の詳細。


 彼らはその『祝福』の効果を聞かされた時から——この役割を果たすことを、心に決めていた。


 ヴェネルディ戦の顛末は、レザリアから報告を受けていた。エルフ族に伝わる『木に花を咲かせる魔法』。エルフ族の得物である木の弓矢。


 実に自然と共に暮らす彼ららしい戦法じゃないか。皆はこの戦いに勝利するため、満場一致でこの作戦の決行に賛成をした。


 ナズールドは紫色の瘴気の中、睨む。果たして『風の天使像』は——



『……グ……ギ……ギィアアァァ……』



 ——風の障壁を身にまとい、瘴気を吹き飛ばそうと足掻いていた。


 その身体は、未だ原型を保っている。その時、ついに耐えられなくなったエルフが倒れ込む姿が目に入った。


(……駄目……なのか……?)


 ナズールドの目に失意の影が差す。なんとか立ち上がり持ち直す者、そのまま動きを止める者——



 ——しかし、『運命』は彼らに味方した。



『…………ァァアアアァァッッ…………』



 天使像の身体が、わずかに崩れ落ちた。腐毒花の瘴気による侵食ですら追いつく再生能力に見えたが——ついに綻びが見え始めた。


 ナズールドはほくそ笑み、グリムに通信を入れた。


「——こちら、ナズールド。見えるかい?『天使像』の再生能力は無限じゃない。攻撃を続けていれば、いつかは再生が追いつかなくなる時がくる。戦いに、役立ててくれ」





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