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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第四章
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決戦[introduction] 08 —包囲網—






 高台の上のグリムは拳を握りしめ、隣に立つ誠司に声をかけた。


「……『影の天使像』は撃破。エンダー、ビオラは退場。彼らは見事に、成し遂げてくれた」


「……そうか。なあ、グリム君。私は自分が恨めしいよ」


 誠司は声を震わせながら、グリムに漏らした。


「——私の『魂』を斬る能力が、切り札だと言うことは承知している。だが、そのせいで私は動けない。若い命が失われているというのに、だ」


「……誠司……」


 二人は眼下に広がる戦場を、真っ直ぐに見据える。そこでは各所で激しい戦闘が行われている様子が、遠目にも伝わってきていた。


 誠司は、つぶやく。


「やはり私が行っては、駄目なのかね?」


 その問い掛けに、グリムは目を伏せた。


「……すまない、誠司。キミが最後まで生存することが、この戦いに『勝利』するための最低必須条件だ。飲み込んでくれ」


「……勝利、ね……なあ、グリム君。この戦い、勝てるんだよな……?」


 グリムは深く息を吐き出し、誠司に答えた。


「——天使像は、『厄災』たちの能力や『赤い世界』で観測していない攻撃手段を使ってきている。総合的な戦況はまだ想定の範囲内だが……それでも、最悪に最も近い展開だということは否定しないよ」







 ——『光の天使像』の戦場。




 エリスとライラを庇い、注意を一身に引きつけている満身創痍のサンカは、空に浮く『光の天使像』を睨む。


 彼女の背後から『回復魔法』を唱えたライラが声を上げた。


「……お母さん! サンカの傷の治りが遅い!」


「……どうやらそういう攻撃みたいだね。『厄災』のみんなも再生できなかったっていうし……——『光を防ぐ魔法』!」


 『再生阻害』。空から執拗に降り注ぐ光線群。エリスとライラの二人は障壁を張り続けることで精一杯だ。


 今や的を小さくするために人の姿で戦いに臨んでいるサンカ。天使像が空から接近戦を仕掛けようと飛来してくるが——



「……あなたの相手は、私! 二人には近づかせない!」



 ——サンカは傷ついた身体を奮い立たせ、氷のブレスを吐きながら飛翔した。


 天使像の光線群がサンカ目掛けて放たれる。これ以上翼膜を傷つけられたら飛ぶことはできない。サンカは大きく旋回してかわそうとする。


 だが。その数多の光線群の一発が、サンカの脇腹を抉った。


「……っああっ!」


「サンカ!」


 高度を落とすサンカ。ライラが障壁から飛び出して助けようとする。しかしその腕は、エリスによって引き留められてしまった。


「……お母さん!」


「ライラは障壁から出ちゃダメ! お母さんが行くから!」


 『揺らぎの魔法』を唱えながら障壁の外へと飛び出すエリス。だが、間も無くサンカは地表に落ちてしまうだろう。


 それでもエリスが駆け出そうとした、その刹那。



 高速で飛来し、サンカを掬い取る人影が現れた。


 目を見開く、エリスとライラ。その者は宙に立ち、鼻を鳴らした。



「……ワシはなあ、怒りを感じておるんじゃよ。力を持ちながらも、誰も救うことができない、己自身の、無力さに」



 ——元『厄災』ジョヴェディ。無尽蔵の魔力を持つ者。


 『影の天使像』の戦場から駆けつけた彼の双眸は、赤く染まっていた——。




「ジョヴ爺!」


「ジョヴお爺ちゃん!」


 ジョヴェディはサンカを二人の元へと降ろし、そのまま飛翔して空中で『光の天使像』と対峙する。


「——『暗き刃の魔法』」


 彼は最速の魔法で天使像を牽制しながら、グリムに通信を入れた。


「——のう、青髪。この戦場でも強力な魔法の使用は解禁されとるんじゃろ?」


『——ああ。ただ、『影』の戦場でだいぶ『魔素』を使ってしまったからね。キミの判断に任せるが、できれば乱発だけは控えてくれ』


「——……ふむ」


 大気中の魔素の枯渇。長期戦が予想されるこの戦いの懸念事項。『時止め』の結界を張っているので魔素の消費は激しいはずだ。


 事実、過去、ジョヴェディは魔素の枯渇により辛酸を舐めさせられたことがある。


 天使像と渡り合いながらどうしたものかとジョヴェディが思案する、その時。


 声が響いた。



「——それなら、魔素量の関係ない私に任せてちょうだい。あなた達は私のフォローをしてくれればいい、それだけよ」



 ——地面が、瞬く間に影に覆われる。そこから浮き出てきたのは、黒いゴシックドレスを身に纏った女性。


 エリスは空を見上げた。先ほどまで影に覆われていた、不気味な赤い月は——今、その輝きを取り戻していた。


 その姿を認め、ジョヴェディは目を細めた。


「……そうか。エンダーにビオラは、やってくれたんじゃな……」


「ええ」


 その女性、ルネディは、空に浮かぶ天使像に向けて手をひらりと差し出した。



「——さあ、踊りましょう? 私と一緒に、満月の空の下で」



 地表から、ルネディの無数の『影の手』が生えてきた。その腕に掴み取られる天使像。天使像は身体中からまばゆい光を放ち、なんとか影の手を振り解く。


 しかしその時、天使像目掛けて空からもう一つの影が駆け降りてきた。


 その影、銀狼は——天使像の肩口を食い破った。



『——…………ァァアアアアァァッッ…………』



 機械音のような音で、天使像は叫ぶ。傷口を即座に再生させる天使像の様子を見ながら、その銀狼はぺッと噛み切ったものを吐き出した。


「——待たせたな。このハティさんが、光を喰らいつくしてやるよ」



 ——ジョヴェディ、ルネディ、ハティ。



 今ここに、『光の天使像』包囲網は完成した。




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こっちは戦力多くて安心感あるね 特に満月ルネディ
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