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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第四章
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決戦[introduction] 06 —『エリクサー』—








「——僕のチートスキルは『錬金術師の果てぬ夢(エリクサー)』。人々を、僕と同じく『不老不死』にする能力さ」



 先ほどアルフレードがグリムに語った、チートスキルに関する情報。それを聞いたグリムは、眉を上げた。


「……『不老不死』、だって?」


「ああ。ただ、そこまで期待しないで欲しい。不老不死とは言っても、歳を取らない、病気にならないって類のものだ。怪我はするし、身体機能の大部分を失ってしまったら普通に死ぬ」


 アルフレードの束ねた緑髪が風に揺れた。グリムは険しい顔を浮かべながらも、顎に指を当てて彼に尋ねた。


「つまり……この戦いにおいて、皆の生死を分けるボーダーラインを上げられるという解釈で問題ないか?」


「そうだね。その『不老不死』という体質は、普通なら死ぬ状況でも死ねないかもしれない。この戦いで足掻き切るための、ささやかな『呪い』さ」


 もし致命傷を受けたとしても、その体質は少しだけ時間の猶予をくれる。死ぬほどの痛みに、襲われながら。


 ただ、そのいざという時の『僅か』な時間は、こちら側に天秤を傾けることもあるだろう——。


 グリムは深く息を吐き、アルフレードを見据える。


「……アルフ、教えてくれ。そのチートスキルの『対象範囲』と『代償』を」


「『対象範囲』は僕と『えん』を結んだもの。この戦いに参加している者には全員、効果が現れるはずだ。そして、『代償』だけど——」


 アルフレードは静かに微笑んだ。


「——不老不死である僕の『命』さ。どうだい、ささやかな『代償』だろう?」








 アルフレードの『錬金術師の果てぬ夢(エリクサー)』は発動した。



 これは、千年間孤独に過ごした男が目覚めた能力。



 これは、友を救えなかった男が目覚めた能力。



 これは、死にたいのに生き続けた男が目覚めた能力——。



 彼の身体が、淡く光り出す。そしてその光に呼応するかのように、この戦いに参加する者すべての身体が淡く輝いた。


 光はすぐに収まった。力が抜け落ちたかのように崩れ落ちるアルフレード。グリムが、誠司が、カルデネが彼の元に駆け寄った。


「妖精王様!」


 カルデネの呼びかけに、アルフレードは薄っすらと目を開けた。


「……カルデネ……君の考えた『オペレーション・F』……上手く行くことを祈っているよ……」


 体温が急速に失われていくアルフレードの手を握りながら、カルデネは大きく頷く。彼の手に、涙がポタポタとこぼれ落ちた。


 アルフレードは懺悔するかのように呟く。


「……ああ……長かったなあ……ファウス……ドメーニカ……君たちの、仇、ヘクトールは……ここにいるみんながやってくれたんだぜ……『ニホン』っていう国の……僕たちの仲間がね……」


 誠司は、彼の最期をしっかりと見届けるように見つめていた。


「……だから……僕は先に行ってるけど……安心して、こっちに来い……今度こそ造ろうぜ……誰にも邪魔されない……僕たち三人の……理想……郷……を…………」


 アルフレードの身体から、力が抜け落ちた。その顔は、どこまでも穏やかで、寂しそうで——


 満足そうな彼の死に顔に十字を切り、カルデネは涙を拭かずに立ち上がった。誠司は昇っていくアルフレードの『魂』を見つめながら、語りかけた。


「……安心しろ、妖精王……いや、アルフレード。私やカルデネ君が、必ず決着ケリをつけるから」


 グリムが全員に伝令を飛ばす。



「——……皆に今、ささやかな『祝福』は与えられた! 感じるはずだ、身体に宿った生命の息吹を! アルフの想い、無駄にしないぞ!」







 左半身が凍りついたクレーメンスが、立ち上がる。


「……フッ。これなら少し時間を置けば、動かせそうだ」


「クレーメンス、ごめん、わたしが……!」


 氷竜フィアに立ち並び、クレーメンスは口角を上げた。


 猛吹雪の中、『氷の天使像』から放たれる氷刃に、クレーメンスは炎を燃やす。








「くらえっ、クソ狼!」


 ジュリアマリアの回復薬が、土人形に握り潰されたボッズの足に降りかかる。


 ボッズは斧を杖替わりにして立ち上がった。


「……フン、油断したな。だが、まだまだオレは飛べそうだ」


「大丈夫かい、ボッズよお!」


 ノクスは大剣を投げ、拾い、振り回しながらボッズに檄を飛ばす。その問いにボッズはニイと口端を上げた。


「問題ない。が、少し待っててくれ。ちょうど我らが始祖も来たようだしな」



 ——ズドン……



 神狼ヴァナルガンドの背に乗ったセレスの銃弾が、『土の天使像』を穿つ。







「ごめんなさい、ダイズちゃんにポラナちゃん! わたしのせいで……」


「いえいえ、お気になさらずに、お嬢様。そのまま続けてくださいませ。さあ、ポラナ。動けますよね?」


「当たり前だしっ!」


 メルコレディの張る足場の氷は、ジワジワとダイズとポラナの足を凍りつかせその機動力を奪いかけていた。


 ——『砂の天使像』。ここでは場の支配権を賭け、『砂』と『氷』が争いを続けている。二人に気を遣えるほどの余裕は、メルコレディにはなかった。


 だがそれでも、その双方の自然現象がぶつかり合う中でダイズとポラナは巧みに立ち回っていた。


 ダイズは細目を開け、つぶやく。


「さあて、動きは見えてきました。我々の本気、お見せいたしましょう」







 風の刃に切り刻まれたエルフたちが、立ち上がる。


「大丈夫か、皆の衆!」


 ゾルゼの問いかけに、エルフたちは次々と返事をする。ミズレイアは傷ついた者たちの手当てに回っていた。


 ここ『風の天使像』戦では、莉奈が標的にされていた。


 恐らくは一番の脅威と見做されたのだろう。しかし莉奈は、空間跳躍を駆使して見事に立ち回っていた。


 それを的確にサポートするレザリアの一矢。だがその竜巻の余波は、突発的にエルフたちを襲っていた。


 しかし、チゼットは不敵に笑う。


「リナ様が奮闘されているのに、『風』を冠する我が集落が遅れをとってどうする!」


 その言葉に呼応し、声を上げる『風の集落』のエルフたち。皆が立ち上がったのを見て、ニーゼがナズールドたちの元へと駆け寄った。


「……ナズールド、シズル。そろそろいいんじゃない?」


「そうだね、ニーゼ。『祝福』も受けたようだし、私たちエルフ族の役割、果たす時がきたようだ。シズル、合図を」



 それを聞いたシズルは頷き、風の戦場に草笛を響き渡らせた——。





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― 新着の感想 ―
思ってたのと大分違う能力だったしまさか命がけなんて そうかずっと死にたかったのか… かたき討ちは果たしてくれたから一番大きな心残りがなくなったんだな
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