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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 番外編
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『レザリア』の物語 Ⅰ —前編—





 私の名は、レザリア=エルシュラント。このトロア地方、西の森にあるエルフの集落、『月の集落』の戦士です。


 私は数ヶ月に一度の、妖精王様に献上品を捧げ他の集落のエルフ達との交流を図る、所謂いわゆる『集いの会』の役目を終え、月の集落へと戻りました。


 いつもと変わらない日常のはずでした。だけど、今回は様子が違ったのです。


(え……誰も……いない……?)


 パニックです。私は扉を無理矢理開き全ての住居を確認しましたが、誰一人として姿がありませんでした。


(……私を驚かそうとしているのでしょうか?)


 その様に考えもしましたが、地面に道具が散らばっている所を見るに、そういう訳でもなさそうです。きっと何かあったに違いありません。


 私は注意深く辺りを観察しましたが、メッセージ的なものも残されてはいませんでした。どうしましょう……私は途方に暮れます。


 その時、私の頭に『西の魔女』エリス様の顔が思い浮かびました。


『何か困った事があったら、私とセイジの家に来てね——』


 そうだ、エリス様なら——。しかし、エリス様を頼る事は集落の掟で禁じられています。でも——そう、訪ねるだけ、訪ねるだけなら。


 私は決意し、集落を後にします。目指すはエリス様の住まう『魔女の家』。あの時教えられた記憶を頼りに、私は歩を進めるのでした。




 そして辺りもすっかり暗くなってから数時間。私は『魔女の家』の近くまでやってきました。


 順調です。きっとエリス様の教え方が上手かったのでしょう、目的となる岩壁はすぐそこまで見えて来ました。


(こんな時間に訪ねるなんて……迷惑ですよね、エリス様。ごめんなさい)


 私が心の中で謝罪をしていた、その時でした。


「——お前は、誰だ」


 背後から、男の低く、くぐもった声が聞こえてきました。


 私は慌てて振り返ろうとしましたが——首筋に冷たい物が当てられている感触、そこから発せられる殺気に、私は心臓を鷲掴みにされた様な錯覚に陥ってしまいます。


「ひゃっ!」


 このレザリア、一生の不覚。


 それからの事はよく覚えていません。情けなくも私は気絶してしまったのですから——。




 私が目を覚ますと、そこは『魔女の家』でした。きっとセイジ様が助けて下さったのでしょう。感謝してもしきれません。


 そして、私はここに来た目的を話そうとしたのですが——セイジ様から衝撃の事実を聞かされます。エリス様はお亡くなりになられたと。


 ただ、それでもセイジ様は私の力になると申し出てくれました。なんとお優しいのでしょうか。


 こうして私は、用意して頂いた部屋で眠りにつきます。本来なら思い出話に花を咲かせたい所ですが——状況が状況です。私の為に動いて下さる皆様の為にも、このレザリア、身命をして頑張らねば——私はそう決意するのでした。



 ——えと、どうしましょう、眠れません。なんか外からパタパタと音が聞こえてきます。ものの類でしょうか?


 私は布団を被ってなんとか寝ようと頑張りますが——駄目です。緊張と、興奮と、妖怪『パタパタ』のせいで、微睡まどろむ事すら許されません。


 私は陽が昇り始める時間と同時に起き上がります。妖怪『パタパタ』の音もいつの間にか聞こえなくなっていました。睡眠不足ですが、こう見えてもエルフ族の中では若い方です。頑張りましょう。


 私は昨日ヘザー様に教えて貰った洗面所に向かい、顔を洗います。ふう、冷たい水が染み渡ります。けど、どういう仕組みなんでしょう、これ。


 私がそんな事を考えながら顔を拭いていると、突然声を掛けられました。


「おはよう、レザリアさん。よく眠れた?」


 この人は確か——リナさんという人だ。セイジ様のご家族の方。私は慌てて頭を下げます。


「わ、リナさん! おはようございます! お陰様でぐっすり休めました!」

 

 勿論、嘘です。ぐっすり休めませんでした。しかし、私は気遣いの出来るエルフ。相手に気を遣わせてはいけません。


 しかし——いつまで待っても『頭を上げなさい』との声が掛かりません。おかしいです。目上の方への対応としては間違っていないはずですが——と、その時です。信じられない事が起きました。


 なんと、彼女が私の頭を撫でたのです!


「ひゃっ!」


 驚きのあまり、変な声を上げてしまう私。ど、ど、ど、どういう事でしょう!?


 配偶者でもない私の頭を撫でるという事は、まさか、つまり——今、私は彼女に、求婚をされてしまった!?


 まあ、エルフ族の風習なのですが。


 私は彼女の真意を測ろうと、顔をマジマジと見ます。揶揄からかっているのか、知らないのか、それとも——あ、よく見ると綺麗な人。


「もう、堅苦しいなあ。私には敬語使わなくていいんだよ。レザリアさん——」


 ——世間話を始めた所を見るに、どうやら知らずに頭を撫でた様です。全く、驚いてしまいましたよ。


 気さくに私に話しかけてくれるのは嬉しいのですが、いきなり求婚なんて——そうか、結婚、結婚かあ——。


 私達エルフ族は長命の為か、あまり結婚や子作りに積極的ではありません。


 ただ、それに危機感を覚えた月の集落の長、ナズールドは、集落の掟に『結婚を意識しましょう』なるものを加えました。私も事あるごとに、せっつかされています。


 ただその施策のお陰か、現在月の集落には三人の子供がいます。素晴らしい成果です。だから別に私は急がなくても——。


 ——ハッ。何を考えているのでしょう、私は。そもそも、女性同士で結婚しても子を増やせませんから!


「さ、レザリア。準備しちゃおう! きっと皆んな待ってるよ!」


 そんな私の葛藤も知らず、目の前の女性は私に元気よく声を掛けます。なんて眩しい人。


 その時ちょうど彼女の性格を表すかの様に、リナの背後から朝日が差し込みました。物理的にも眩しいです。


 でも、私もこんな風になれたら——少し頬を赤らめながら、私も元気良く声を上げました。


「はい! 行きましょう、リナ!」






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