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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第四章
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決戦[introduction] 05 —ささやかな呪い—






 高台の上、後方待機箇所。


(……エンダー……)


 各箇所に配置してある端末と意識を共有しているグリムは、拳を握りしめた。


 元より、無血での勝利は不可能だと判断はしていた。しかし、こうして実際に犠牲を目の当たりにしてしまうと——指揮を執る者として、言いようのない無力感に襲われてしまう。


 心情的なものはもちろんのこと、何かしらの形で犠牲が生じるたびに勝利への道すじも細くなっていってしまうのだ。


 ——『全滅』。その二文字が、グリムの頭をよぎる。


(……ハティ、急いでくれ……)


 グリムが幻想的な空模様の中に浮かぶ、不気味な赤い月を睨んだ時——


 ——その者は、ゲートを潜り抜けて戻ってきた。



「やあ。戻ってきたよ、グリム。どうだい、戦況は?」


「……アルフ。正直言って芳しくない。各地、『天使像』の攻撃を引きつけるので精一杯。問題の『影の天使像』では、すでにエンダーの左腕が失われてしまった」


「……そうか」


 アルフレードは、女神像の胸元の『赤い宝石』を見つめて目を伏せた。そして次の瞬間には、目をしっかりと開けてグリムの隣に並び立った。



「——では、僕の『チートスキル』を行使する。お願いだ、グリム。ドメーニカとファウスの『魂』を解放し、この戦い、必ず勝利に導いてくれ」







 ハティは駆ける。銀狼の姿となり、赤い月を目指して。


(……チッ。ずいぶんと不味そうな月だねえ……)


 彼が『月の光を喰らう』ためには、ある程度の高度が必要だ。巨大な女神像すら豆粒に見える、そんな高さが。


 やがて、ハティが駆け上り始めてから数分。ついに彼は、『月の光を喰らう』高度に達する。



『……待たせたな。んじゃ、いっちょ始めるぜ!』



 ——赤い月を背景に浮かび上がる銀狼のシルエットが、遠吠えを上げた——。









 『光の天使像』を相手にしているエリスたちは、一進一退の攻防を繰り広げていた。


 天使像が両手を向け、その指先から十本の光線を放つ。


「お母さん!」


「任せて!——『揺らぎの魔法』!」


 空間が、揺らぐ。その揺らぎを通過した光線は、揺らぎにより方向を変えるが——


 ——その軌跡は曲がってもなお方向を修正し、対峙する三人を目指してどこまでも追尾してくる。


「——『光を防ぐ魔法』!」


 ライラの障壁が張り直される。その隙にルネディが再度、天使像を『影』で捕らえた。


「さあ、今のうちに、エリス!」


「さんきゅ!——『空刃の魔法』!」


 エリスの刃が天使像を斬り抜けた。落ちる天使像の腕、胴体から吹き出すドス黒い血のようなもの。


 だが。


 天使像は瞬く間に再生を終え、眩ゆいばかりの光を身にまとって『影』から抜け出した。


 高速で移動をする天使像を、エリスが追撃の魔法で牽制する。


「……やっぱ、何とか一撃で仕留めないと無理そうだねえ」


「お母さんの『空間を削る魔法』なら……」


「そうだね。ねえ、ルネディ。少しだけ時間稼げる?」


 だがその問いかけに、ルネディは肩をすくめて答えた。


「残念ながら、時間切れね」


 ルネディはなけなしの力を使って、地面から生やした『影の手』で天使像を掴み取る。しかしそれは、瞬時にして天使像の光にかき消されてしまった。


 エリスはちらと空を見上げ、苦笑した。


「……『月の光』の消失ね。ルネディは下がってて。私たちが何とかするから!」


「……そうね。あとで必ず復帰するから、耐え凌ぎなさい。あの男のために」


 そう言い残して、ルネディは地面へと潜っていった。あらかじめ決められていた動きだ。最優先事項、『影の天使像』の撃破。それが終わるまで、月の力に頼れないルネディは退避する手はずになっている。


 エリスは攻撃の合間を縫って、ライラに声を飛ばした。


「ライラ! 耐える戦いだよ! お母さんの後ろを守ってちょうだい!」


「うん!」


 ルネディの足止めと障壁が無くなった今、エリスとライラの二人で『光の天使像』の攻撃を引きつけなければならない。


 天使像が向かってくる。その天使像は、歪な微笑みを——



「——させない!」



 ——上空から声が聞こえてきた次の瞬間、天使像周辺に氷のブレスが吐き出された。動きを止める天使像。放たれた光線は、出来上がった氷塊に反射した。


 エリスは空から降りてきた者を、笑顔で迎える。


「サンカ、ありがとね。こっちに来たんだ」


「ええ。『配置B』で展開だって。さ、何とか足止めするわよ!」



 ルネディの抜けた穴に、サンカが舞い降りてきた。


 『光の天使像』戦の局面は、耐え抜く戦いへと移行した。







 『影の天使像』。


 月の光の効力はなくなり、いくぶんかは戦いやすくなっていた。


「——『光弾の魔法』」


 エンダーの滅多やたらに放たれる光弾が、天使像の足止めをする。そのすきに、ジョヴェディの言の葉は紡がれていく。


「——『爆ぜる光炎の魔法』!」


 巻き起こる大爆発。だが、天使像は地面の影に潜り込んでその魔法から退避する。幾度かは肉体を削ることに成功はしたが、奴は影に潜っている間に再生をしてしまうのだ。


「……ぬう。魔素量の関係から、早めにケリをつけたいが……」


「……ふう。『月の力』が無くなったとはいえ、地面に潜られちゃあね。それに、気づいているかい、ジョヴェディ?」


「ああ。彼奴は——」


 ジョヴェディは目配せをして、エンダーに伝える。その視線の示す場所から退避するエンダーとジョヴェディ。直後、その地面から『影の天使像』が生えてきた。


「——何を狙っているのかしらんが、ワシらの懐に潜り込もうとしているのう」


「そうさ。最も脅威である、君のことを狙ってね」


 ただひたすらに不気味。この戦いが長引いてしまえば、ルネディが主戦場とする『光の天使像』戦に影響が直結してしまう。


 何とかこの状況を打破しなければ、と二人が顔をしかめた、その時だ。


 上空から、声が響き渡った。


「ふふ。どうやらアタシの力が必要みたいね——」


 空に浮く少女は影に覆われた満月を背に、ウィッチマントをはためかせた。



「——お待たせ、お爺様。三代目『南の魔女』ビオラ、助太刀するわ」







 再び、高台の上、後方待機箇所。


 アルフレードから『チートスキル』の詳細を聞かされたグリムは、苦悶の表情を浮かべながらうつむいていた。


 そんな彼女に、アルフレードはしっかりと前を見据えながら問いかける。


「さあ、戦況は動いている。僕の力で勝率がわずかにでも上がるというのなら、この命、使ってくれ」


「……もちろん、その力は欲しい。しかし、その代償は……」


 残酷な選択は、グリムに委ねられた。その彼女の言い淀む言葉を聞いたアルフレードは、寂しく笑った。


「いや。僕だけがのうのうと生き延びてしまった。最期に彼らをこの目で見ることが出来たし、もう後悔はないよ」


 そう語る彼の顔は、穏やかだ。グリムは唇を噛み、絞り出すように声を発した。


「……すまない、アルフ。お願い、できるかい……」


「ああ、もちろんさ」


 グリムの決断を聞き満足そうに頷いたアルフレードは、今、その両手を広げた。


「皆、すまないね。ささやかな『呪い』を受け入れてくれ——」



 アルフレードは、その力を口にした。




「——『錬金術師の果てぬ夢(エリクサー)』」






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― 新着の感想 ―
おー思ったより早くアルフレードの出番が どんな効果なのやら…
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