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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第四章
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決戦[introduction] 02 —午後九時四十二分—





 夜。



 多少の喧騒を見せていた天幕内も、次第に静寂の訪れる時間が増えてきていた。


 粛々と戦いの準備を始める英雄たち。結局、イレギュラーな事態は起こらなかった。とはいえ、以前ジョヴェディが『種』の浮上を観測した影響で、多少の誤差は生じるだろう——というのがグリムの見立てだった。


 カチ、カチと時を刻む魔道具の針は進んでいく。


 破滅の運命に抗う者たちは、ただ静かにその時を待つ——。




 午後八時。


 グリムが定点観測の様子を皆に伝える。


「——現時点では、動きなし。『通信魔法』の唱え漏れがないか、各自確認してくれ。引き続き、待機をよろしく頼む」





 午後八時半。


 本をめくる微かな音、瞑想する者の静かな呼吸、規則正しく武器を研ぐ金属音。


 その中でも、初動の要となる元『厄災』たちは、ひときわ神経を研ぎ澄ませて待機していた。


 グリムは、告げる。


「——現時点では、動きなし。予測ではあと一時間ほど。引き続き、待機をよろしく頼む」






 午後九時。


 英雄たちは全ての準備を終え、静かに待機していた。


 だが、緊張に押しつぶされている者は誰一人としていない。皆、多かれ少なかれ修羅場を潜り抜けてきた歴戦の猛者だ。覚悟はいつでも、できている。


 グリムの声が静かに響き渡る。


「——引き続き、動きなし。予定通りと推測するが、誤差の範囲によってはいつ始まってもおかしくない。警戒しながら、待機」





 午後九時半。


 『赤い世界』で『大厄災』が発生した時刻、午後九時四十二分まで、残り十数分。


 端末に意識を集中していたグリムは、目を開いた。


「——土の隆起部分が動き始めた。予測通り、午後九時四十二分前後に出現する可能性が高い。『厄災』の皆は、合図と共に全力で障壁を張ってくれ」






 そして午後九時四十分。


 グリムは厳かに告げる。


「——現れた。脈動する『種』と六体の『天使像』だ。ルネディ、念のため、先行して影の障壁を」


「ええ、わかったわ」


 天幕がすっぽりとルネディの『影』に覆われる。今夜は満月の夜。ルネディの力が十全に発揮できる日だ。続けてグリムは莉奈に、語りかけた。


「莉奈。『種』付近の映像を、皆の頭の中に飛ばしてくれ」


「おっけー、了解!」


 莉奈は意識を飛ばし、『種』周辺の様子を皆に映像として送り届ける。


 各人の脳裏に、莉奈の視界の景色が映し出された。



 満月の光に照らされて薄っすらと浮かび上がる、赤々と脈動する大きな『種』。その周りには、『最後の厄災』と同じ姿をした存在六体が、無表情で『種』の周りに佇んでいる。


 これから彼らが戦うことになる相手——『天使像』は、『種』の発芽をじっと見守っていた。




 カチ、カチ——時は刻まれていく。




 それから二分後、午後九時四十二分。



 皆の脳裏に、巨大な『滅びの女神像』が顕現する姿が映し出された。


 立ち昇る光と共に現れたそれは、全長百メートルほど。無機質な顔立ち、表情は、ない。


 冬の空のような、銀鼠色。無機質、無表情。微笑みは浮かべていない。両手は軽く広げており、胸元に赤い宝石——




 ——グリムが記録し引き継がれたデータと完全に一致する。『赤い世界』を滅ぼした存在、『女神像』。その姿が、今、この地に現れた。




「——ルネディは『影』の障壁を維持。マルテディ、メルコレディ、ジョヴェディ。それぞれ全力の障壁を」


「はい!」「うん!」「……フン」


 皆が待機する天幕は、幾重にも重なる『厄災』たちの堅固な障壁に包み込まれた。



 次の瞬間——莉奈が送る映像に割り込むように、全く別の光景が全員の脳裏に映し出された。




 ——そう、『女神像』が微笑んでいる姿が。




「……『大厄災』が来るぞ! 各自、衝撃に備えろ!」



 莉奈は見る。女神の微笑みを。


 渦巻く『色彩』、この世のものとは思えない光景。飛ばした意識すら掻き消されそうになる。


 煌々と照らし出される景色。空が、大地が、不規則な色の渦に飲み込まれていく。


 幻想的な光景。だが、皆は本能で感じ取る。その『色彩』は、一切の生命の存在を許さない破滅の光だと。


 障壁の中にいても足元から凄まじい振動が伝わってくる。額に汗を浮かべ、険しい表情を浮かべる『厄災』たち。ジョヴェディは顔をしかめ、鼻を鳴らした。


「……フン。想像以上に強力じゃのう」


「どうだ、ジョヴェディ。持ちそうかい?」


 そのグリムの問いに、ジョヴェディは口端を吊り上げた。


「見りゃわかるじゃろう。ワシ一人ならいざ知らず、此奴らと力を合わせれば何の問題ない。さあ、準備を始めい」





 ——永劫に続くかと思われた『大厄災』の渦だったが、やがてそれは収まった。


 皆は頷き合い、それぞれエリスが構築しておいた各『フリーパス』のゲートの前へと向かう。


 視線がグリムに集中する。それを受けた彼女は——手を前に突き出した。



「誤差七秒、想定の範囲内、不確定要素は最小と判断、計画通り作戦を実行する!」



 大きく頷き、希望の光を目に宿す戦士たち。グリムは突き出した片腕を横に広げて、高らかに宣言した。



「——各自、行動開始! 最後に『微笑む』のは……私たちだ!」




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― 新着の感想 ―
いよいよ最終決戦 なろうの垢無しで読んでた頃に たまたまドメーニカと出会ってからの読者なので もうすぐ1年になりますが感慨深いものがありますね… この物語がどんな結末を迎えるのか、楽しみにしています
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