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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第四章
585/610

決戦[introduction] 01 —決戦当日—






 決戦当日、正午過ぎ。



 莉奈は表へ出て、どこまでも、どこまでも澄み渡る青い空を見上げた。


 莉奈の主戦場、『空』。空は最後の戦いの果てに、その青さを保つのか、それとも赤く染まるのか。


 肌を刺す寒風が、莉奈の身を引き締める。


 決戦は、夜。戦いは深夜まで及ぶだろう。


 しばらく空を眺めた莉奈は、決意を秘めた表情で天幕内へと姿を消した——。







「土に隆起を確認。予定通り、今夜『発芽』する可能性が高い」


 昼過ぎまで睡眠をとっていた精鋭たちを前に、グリムは状況を告げる。


「改めて、伝えておく。『大厄災』の発生は、『赤い世界』での観測通りなら午後九時四十二分。皆の頭の中に『女神像』の姿が映し出される。それが合図だ」


 『厄災』娘たちが唾を飲み込む。初動、一番肝心な場面。『大厄災』を防げるかどうかは、彼女たちにかかっている。


「首尾よく『大厄災』の一波を凌げたら、あとは散々打ち合わせた通りだ。基本の流れを守り、戦況に変化が生じたら状況に応じて私が指示を出すからそれに従ってくれ」


 グリムは神妙に頷く皆を見渡した。そして、カルデネの方に軽く視線を向ける。


「さて。作戦通りにことが運び、女神像を取り巻く『天使像』の数を減らせたら……いよいよ『オペレーション・F』の発動だ。その作戦の実行タイミングは、実行可能かどうかも含めて私が判断する。頼んだぞ、エリス、莉奈。そして——」


 一瞬、目を伏せて、グリムは彼女を見つめた。


「——カルデネ」


「うん……いえ。はい、お任せください。覚悟はできております」


 『支配の杖』をしっかりと握りしめ、カルデネは深々と礼をする。皆が心配そうな表情で彼女のことを見つめる。


 ——『オペレーション・F』。結果は未知数の、危険だけが付きまとう作戦。


 その全容を知る皆の中には、止めようとする者もいたが——結局、カルデネの決意を変えるまでには至らなかった。


 グリムは一つ息を吐き、続ける。


「……さて。『オペレーション・F』の結果次第では戦いは終わるかもしれないが、それは期待しないで欲しい。我々の戦いは基本、『天使像』の撃破にある」


 そう言いながらグリムは掲示されている紙を指さした。


「繰り返しになるが、『赤い世界』での観測では、『天使像』を撃破するごとに『女神像』の実体化が確認された。もし全ての『天使像』を撃破できれば、『女神像』への攻撃も可能になるだろう。そして——」


 女神像の胸元に、彼女は印を入れた。



「——この『赤い宝石』を『女神像』から分離させる。その時に誠司が生存できていれば、私たちの勝利だ」








 夕刻。



 食事をとる者、仮眠をとる者、歓談をする者、一人でいる者——


 皆が皆、最後の戦いを前に思い思いの時間を過ごしていた。


 一通り皆の様子を見て回ってきた莉奈は、最後、ライラの隣に腰掛ける。


「やっ、ライラ。いよいよだねえ」


「うん、そだねえ。リナ、どう? 緊張してない?」


 優しい笑顔で莉奈に話しかけるライラ。その言葉に莉奈は苦笑いを浮かべた。


「あはは、先に言われちゃった。その様子だとライラは大丈夫そうだね」


「うん! だって、これが終わればみんなが楽しく暮らせる『白い世界』になるんでしょ? 楽しみだなあ」


 そう言ってライラは脚をパタパタとさせる。その様子を和やかに見ていた莉奈だったが、ふと、ライラの表情に陰りが差していることに気づいた。


「……ねえ、ライラ。もしかして無理してない?」


 ライラの脚が、ゆっくりと止まる。そして、先ほどの莉奈を真似るようにその顔に苦笑いを浮かべた。


「……あのね、リナ。私はね、『赤い世界』を経験してきた」


「……うん」


「外の世界で何が起こっているのかは知らなかったけど、それでもあの赤い空ははっきりと覚えてる。今度こそこの世界を、見捨てずに救ってあげなきゃ」


 大人びた口調になるライラ。でも、莉奈は知っている。いつもの無邪気なライラ、父のために怒りを露わにしたライラ、未来のために一つの世界を見捨てる決断をしたライラ——どれも本当のライラだ。


 今回の戦い、ライラが参加することには特に誠司が難色を示していた。だがこの少女は、頑なに戦う決意を曲げなかった。


 確かに今回の戦い、ライラの果たす役割は大きい。彼女は、とある『天使像』の相手を任されているのだ。その『天使像』の相手をできるのは、当面の間はライラとあともう一人しかいない予定になっている。


 莉奈はライラの頭を優しく撫でた。


「ライラ、すっかり大人になったねえ」


「だって私はこの見た目だけど、赤い世界の五年分余分に生きているんだよ。ふふ、リナより大人だね」


 少女ははにかみ、莉奈を見つめる。莉奈も微笑み返して、天井を見上げた。



「じゃあ、いっちょ救っちゃいますか、世界を」


「うん。もう一人のリナ……リョウカのためにもね」


「そだね。もう一人の『私』……リョウカのためにも」



 二人が見上げる天幕の向こうの空には、星が瞬き始めていた。



 ——世界の命運を賭けた最終決戦。



 始まりの夜は、刻一刻と迫ってきていた——。






変則的になりますが、次回は明日(10/24)の21:42に更新をする予定です。


その後は隔日のいつも通りの時間に戻りますのでよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
これは"光"担当ですね間違いない 半端だと思った投稿時間はリアルタイム連動でしたか 帰宅途中でちょうどいい
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