紡がれる決意 06 —集結—
『滅びの女神像』出現予測箇所から、少し離れた岩場の陰。そこに張られた天幕には、エリスのゲートを通じて次々と人が集まってきていた。
まず、莉奈たち『魔女の家』の面々。それに加えて、直前まで身を置いていた『南の魔女』ビオラと『土の厄災』の使い手ジョヴェディが現地入りしていた。
続けてやってきたのは、オッカトル国方面に身を置く者たち。『東の魔女』セレスに、三つ星冒険者である『開拓者』ジュリアマリアと『巨鳥殺し』の異名を持つ獣人ボッズだ。
更にブリクセン国方面からは、『北の魔女』ハウメア、『歌姫』クラリス、『魔剣使い』クレーメンスが到着。
サランディア国方面からは元騎士団長であるノクスに、『光弾の射手』エンダー。『妖精王』アルフレードと、月の集落での特訓を終えたポラナに『旅エルフ』のダイズ。神狼ヴァナルガンドにハティの姿も見える。しかもその後ろからは——
「ニーゼたちも来たの!?」
「ふふ、当たり前だよ。みーんな来たよ!」
莉奈が驚く中、次々と西の森内、『花鳥風月』の集落のエルフ達が天幕の中に入ってくる。
女エルフのシズルに支えられながら、代表として月の集落の長、ナズールドが前に出た。
「やあ、リナ。私たちエルフ族、微力ながら今回の戦いに参加させてもらうよ」
彼の背後で力強く頷く、『風の集落』のチゼット、『花の集落』のミズレイア、『鳥の集落』のゾルゼを始めとする、エルフ族総勢二十余名。
そして更に、今到着したのであろう。表から羽ばたきの音が聞こえ、その直後、三人の氷竜娘たちが天幕内へと入ってきた。
「リナ様。フィア、サンカ、ルー、到着いたしました」
「……はは。よろしくねー」
「ほら、リナが困っているでしょう? あなた達、立ち上がりなさい」
氷竜娘たちに声を掛けるのは、『影の厄災』の使い手ルネディだ。その横にはもちろん、『砂の厄災』の使い手マルテディや『氷の厄災』の使い手メルコレディの姿もある。
総勢約五十名——今この天幕内には、最終決戦へ向けてトロア地方の最大戦力が集結していた。
†
「それでは、皆。まずは参加を決意してくれたことに心から感謝をする。ありがとう」
皆を一望できる位置に立ち、凛とした声を上げるのはグリムだ。今となってはすっかり見慣れたその顔に、皆は注目をする。
「改めて、私がこの戦いの指揮を執らせてもらうグリムだ。詳細に関しては後ほど一人ひとりに説明するが、まずは全体に向け概要を説明させてもらう」
先ほどまでの賑やかな空気とは一変、水を打ったような静けさが訪れる。グリムは板に張ってある大きな紙に、文字を書きながら説明を始めた。
「まず、我々が倒すべき相手についてだ。敵の本丸は、仮称『滅びの女神像』。世界を滅ぼす力を持つ概念的存在だ。奴が現れるのは一週間後の満月の夜と推定される。そしてその時、この地方の半分を吹き飛ばす『大厄災』が発生する」
一部の者たちから、深く息を漏らす音が聞こえてくる。グリムはひと息入れ、説明を続けた。
「その『滅びの女神像』には、一切の攻撃が通用しない。概念的存在だからね。唯一、女神像の胸にある赤い宝石には実体があるが……それも強固な結界に守られている」
赤い宝石——ドメーニカ。女神像をヘクトールの手によって『生み出された』彼女は、その中に囚われている。
「私たちの最終目標は、その赤い宝石の『破壊』、もしくは『無力化』だ。大筋のプランでは、その宝石の中に存在する『魂』を誠司が斬ることにより、女神像の存在の消失を狙う」
その言葉に、妖精王アルフレードはしっかりと頷いた。
彼が『最後の厄災』戦の時に語った、概念的存在を消す三つの方法の内の一つ——
——『もし、その存在を生み出したと思われる、今は種に封印されているドメーニカ。その彼女の存在を消すことができれば、あるいは』——
——女神像の力の大元である彼女の『魂』を消滅させることができれば、彼女の力の具現化した存在、『滅びの女神像』も消失するであろう。
一部の者たちからひそひそと話し合う声が聞こえてくる。グリムは先回りするかのように、紙に描き上げた女神像を指差した。
「まずは一回目の『大厄災』を発生させ、『厄災』の皆の力で凌ぐ。そしてその隙に女神像の消失を狙うことになるわけだが……さて、とはいえ概念的存在である女神像、攻撃が通用しない。なら、どうするか——」
グリムは紙にイラストを書き足していく。
「——まずは悪い話から。女神像の周りには、それを守るかのように『氷』、『風』、『土』、『砂』、『闇』、そして『光』の力を扱う仮称『天使像』が計六体控えている」
描いたイラストの各天使像に属性の印をつけながら、グリムは『赤い世界』での記憶——データを思い描いた。
「……厄介なのは、仮称『色彩』と呼ばれる攻撃だ。天使像同士の攻撃が混ざり合うことで、その威力は何倍にも膨れ上がる。決して、連携させてはいけない。そこで、キミたちの出番だが……——」
言い淀んだあと、グリムは顔を上げた。唇を噛み締めて口を開いたその顔からは、感情が消えていた。
「——キミたちの命、私に、預けてくれ」




