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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第三章
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紡がれる決意 05 —旅立ちの朝—





 間も無く二月を迎えようとする、旅立ちの日の朝。空は澄み渡り、透明な青を映し出していた。


 その空からの日差しを受けながら、莉奈はグリムと共にクロカゲとアオカゲのいる馬房へと訪れた。


「やっほー、クロカゲ、アオカゲ。じゃあ、私たち、ちょっくら行ってくるからねー。いい? ご飯はたくさん用意しておくけど、いっぺんに食べないこと。私たちが戻ってくるまでいい子にしてるんだよ?」


 すでにここには大量の乾草やニンジン、リンゴが運び込まれている。ブルッと鳴きながら顔を寄せる二頭の顔を撫でながら、莉奈はグリムに振り返った。


「じゃ、グリム。説明してあげて」


「わかった。彼らは賢いからね、きっと伝わるさ」


 そう言いながらグリムは、馬房の壁にこの地方の地図を貼り付けた。二頭の馬は無言でそれを見つめる。


「いいかい? これから私たちは世界を守る戦いに行ってくる。もしかしたらこの家に誰も戻ってこないかもしれない。その時のことをキミたちに伝えておく」


 その言葉を聞いた二頭は、一転、不機嫌そうな様子になった。年明けに莉奈が話した時と同じだ。莉奈は肩をすくめてグリムに苦笑いを向けた。


「ね? やっぱりこの子たち、言葉を理解しているみたいなの」


「はは。私も彼らと行動を共にしていたからね、それは感じていたよ。なら、私たちの覚悟もわかってもらえるはずだ」


 グリムは改めて、クロカゲとアオカゲに向き直る。


「クロカゲ、アオカゲ。どうか莉奈の気持ちを汲み取ってあげて欲しい。心配事を抱えたままだと、莉奈は全力で戦えないからね」


「ブル……」


 二頭の馬は決まり悪そうに視線を逸らしながら前脚を引っ掻いた。莉奈とグリムは顔を見合わせ、ため息をつく。


「……前にも言ったけど、私も死ぬつもりはないから安心して。ただ、できれば言うことを聞いて私のことも安心させて欲しいな」


 莉奈の言葉にジッと耳を傾ける馬たち。その様子を見て、グリムは地図を指差し始めた。


「では、説明する。もし私たちが戻って来なかった場合……キミ達はブリクセンを抜け、大陸の方へと逃げ延びるんだ。ブリクセンまでの道筋はわかるよね?」


 クロカゲとアオカゲは、真剣に地図を眺めている。グリムは頷き、ペンを取り出した。


「そして、これが重要なのだが……『大厄災』という現象が起こるまでは、ここから動かないでもらいたい。この地域、この範囲が『大厄災』に見舞われる。この範囲を通る時に変わり果てた大地を見ることになると思うが、大陸の方は無事だ、安心してくれ。ただ、この範囲内はキミ達の食事となるものは無くなっているので、そこだけは注意してほしい」


 地図に線を引くグリム。それを見つめ続ける二頭の馬。莉奈は優しくクロカゲとアオカゲを撫でた。


「柵は開いてるけど、『大厄災』が起こるまでは絶対にこの範囲に近づかないでね。あと、私たちの帰りを待ち続けて飢え死になんてしちゃダメだよ? 約束ね」


「ブル」


 小さくいななきながらも、二頭は地図を見つめ続けている。グリムは腰に手を当て、息をついた。


「彼らもどうやら分かってくれたようだね。これでいいかい、莉奈」


「……うん、ありがとね、グリム。さ、みんな待ってるから、そろそろ行こっか」


 これで莉奈に思い残すことはない。あとは戦いを終え、願わくば全員無事でここに帰ってくるだけだ。



「じゃあね、クロカゲ、アオカゲー! 行ってきまーす!」



 莉奈は手を振り、馬房をあとにした。外へ出ると、庭には戦いへと向かう家族たちの姿があった。


「お待たせ。じゃ、みんな行こっか!」


 家族たちは、笑顔で莉奈を出迎える。エリスはゲートに手をかけ、その空間を開いた。


「じゃあ、魔法国跡地へご案内ー! 必要な物資は運び込んであるから、みんな、拠点へ運び込んじゃってねー」


 さながら、今からピクニックに出掛けるかのようなノリで皆に笑いかけるエリス。誠司が苦笑いをしてエリスに応えた。


「ああ、エリス。皆が集まるまでに終わらせておくさ。君も、大変だろうが各地の人たちを迎えに行ってくれ」


「まっかせなさーい! ささ、じゃあ順番に入っちゃってー!」



 ——『滅びの女神像』の発芽、及び『大厄災』発生まで予測ではあと一週間ほど。


 莉奈、ライラ、誠司、エリス、グリム、カルデネ、レザリア、ビオラ、ジョヴェディ——『滅び』の運命に抗う者たちは、今、最終決戦への地へと繋がるゲートを潜り抜ける。


 千年前を発端とした、悪意ある者によって開かれた破滅の箱。



 ——敵は、転移者の持つ『チートスキル』そのもの。



 その世界を滅ぼしかねない力を相手どるために、それぞれは思いを胸に秘め、旅立つのだった——。








 二頭の馬が、馬房から歩み出てきた。


「ブルッ」


 見渡すは、彼らが幾度となく通ってきた『迷いの森』。振り返れば、主不在の『魔女の家』。



 ——彼らは静かに、しっかりと、寄り添うように、歩き始めた。





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