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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第三章
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紡がれる決意 04 —女王として—





 一月も終わりに近づきつつある、ブリクセン国地方、万年氷穴内——。


 そこに佇む巨大な竜は氷竜の女王竜。そしてその前には人の姿をとった氷竜のフィア、サンカ、ルーの姿があった。


 フィアは恭しく女王竜に礼をする。


「では、母様。フィア、サンカ、ルー。リナ様のために人の子の手助けをしてまいります」


 女王竜は薄目を開け、フィアに応えた。


『……ふん。世界が滅びるというのなら、それも運命。受け入れるのが道理だが……他ならぬリナのためだ。我ら竜族の力、存分に奮ってこい』


「はい!」


 首を垂れる氷竜娘の三人。その背後から、青髪の女性グリムが歩み出てきた。


「すまないね、女王竜。彼女たちの力、お借りするよ」


『よい。それにしても『大厄災』か。ちなみにこの万年氷穴は、『赤い世界』とやらでどうなった?』


 その質問にグリムは、目を伏せて答えた。


「……そうだね。入り口は崖くずれで封鎖される。何年かしてなんとか中の様子は確認できたが……街は無事だったが、氷人族は全滅していたよ。恐らくは飢えにより、ね」


『……そうか。妾は動かなかったんじゃな』


「……いや、キミは……」


 グリムは、口をつぐむ。


 あの『赤い世界』で、彼女は氷人族に自らの『肉』を分け与えていたのだ。だが——彼女は魔物に区分される生物、魔素に還るもの。一時的に腹は膨れるが、それは栄養としてではなく魔素へと還ってしまう。


 次々と倒れていく氷人族を見守ることしかできなかったと、彼女はところどころ欠け落ちた肉体で寂しそうに語っていた。


 グリムが回想に耽っていたその時。杖をつきながら氷人族の長老が前に出てきた。


「大丈夫ですじゃ、女王竜様。必要な食料は大量に運び込んでおります。それに今は真冬、入り口付近の補強を進めておりますので、長きに渡り閉じ込められることはありませんじゃろう」


『……ふむ、そうか』


 女王竜は目を閉じる。彼女の冷たい鼻息が、その場を吹き抜けた。その冷気を受けながら、サンカが疑問を口にする。


「ねえ、母様は、力を貸してくれないの?」


『………………』


 女王竜は、何も答えない。ルーがサンカの服を引っ張り、自身の考えを口にした。


「…………母様に何かあったら、戦いに勝ててもこの万年氷穴が維持できないから。それに母様が戦いに参加したら、人の子たちみんな凍りついちゃうよ」


「ああ。母様の吐く息、凄いものね」


『……妾は妾の動きたいように動く。それだけじゃ』


 娘たちが話し合う中、女王竜は目を瞑りながらそう答えた。やがて女王竜から寝息が聞こえてきた。


 それを見たグリムは息を吐き、氷竜娘たちに向き直った。


「さて、という訳でキミ達の力に頼らせてもらうことにする。皆、明日には魔法国跡地に集合する運びになっている。よろしく頼むよ」


「……ねえ、グリム。クレーメンスもいるんでしょ?」


 フィアがなんだかモジモジしながらグリムに問いかけてきた。グリムは右手を差し出して、フィアに握手を求めた。


「ああ。状況に応じてにはなるが、キミは基本的にクレーメンスと行動を共にしてもらう。守りたい者のために、頑張ってくれ」


「……なっ……! う、うん。頑張るわ……」


 恥ずかしそうに手を握り返すフィア。続けてサンカがふんぞり返る。


「それで、私は? できればリナ様と一緒がいいんだけど」


「はは。キミは戦況に応じて各場所を飛び回ってもらう。莉奈と一緒の役割だ。それでいいかな?」


「……私が、リナ様と一緒の役割……! ま、まあ、人の子のために力を見せつけるっていうのも悪くないかもねっ!」


 はねっかえり娘サンカもグリムの手を取る。すっかりご満悦の様子だ。そして残る一人、ルーは——。


「……そして、ルー。キミには別働隊として、やってもらいたいことがある」


「…………私、が……?」


「そうだ。参戦には少し遅れてしまうことになるが——」


 グリムはルーにお願いをする。戦局を左右し得る、その一手を。


 やがてその内容を聞き終えたルーは、強く頷いた。


「…………わかった。そっちの方は任せて」


「頼むよ。キミになら、安心して任せられる」


 手を取り合うグリムとルー。そしてグリムは、長老に向き直った。


「では、私は皆を見送りに行ってくるよ。戻ってきたら例の件について話を詰めようか」


「ええ、もちろんですとも。どうか、お気をつけて——」



 こうして氷竜たちは、最終決戦へと向かった。その背中を見送る長老の背に、声がかけられる。


『——……長老、少しよいか?』


「じょ、女王竜様。お眠りなられていたのでは?」


『……ふん。眠るのは、まだ早い』


 女王竜は目を開け、長老に告げた。



『聞いてくれ、長老。妾の考えを。そして、お前たちの答えを聞かせてくれ——』



 ——この時、女王竜は長老に何を語ったのか——



 それは、今はまだ彼の胸の内に秘められるのだった。





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