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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第三章
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紡がれる決意 03 —残す者、残される者②—





 一月下旬、ブリクセン国。



 大陸との玄関口として栄えているこの国だったが、今や人の影はどこにもない。


 いや、街の中にそびえ立つ立派な城、そこにはまだ、数名の人影があった。


 『北の魔女』とも呼ばれる、女帝ハウメア。そしてその側近たちの姿が。


 ハウメアは空虚になった街並みを見下ろして、普段はめったに座ることのない玉座へと足を向けた——。




「ハウメア。避難は全員、無事に完了したよ」


「うん。あとは私たちだけだね」


 玉座に座るハウメアの元に、残った彼女の側近が近づいてくる。この国の政治の大部分を担う、三つ星冒険者の姉妹、ヒイアカとナマカだ。


 ハウメアは近くまで来た彼女たちを労った。


「ありがとねー、ヒイアカ、ナマカ。あなた達のおかげで、予定よりも早く終わったよー。ギリギリになると思ってたんだけどね」


「みんなが協力してくれたからね。ね、ナマカ」


「そうだね。でも、ハウメア。どうしたの? ハウメアがここに座るなんて珍しいじゃん」


「はは。この国を造った者として、最後にここからの景色をゆっくりと見てみたくなってねー」


 ハウメアはわざとらしく、にへらーと笑っておどけてみせた。だが、二人の側近の顔は険しくなる。


「……ハウメア。最後じゃないでしょ? あなたは帰ってきて、またここに座らなきゃ。そうだよね、ナマカ」


「うん、ヒイアカの言う通りだよ。この国を造った者として、ちゃんとここに帰ってこなきゃ」


「いや、わたしはもういいよ。いい機会だ。どうやらこの城は『大厄災』で半壊するみたいだし、そうしたら建て直す時に玉座を二つ作るんだ。あなた達のね」


「ハウメア……」


 ギュッと唇を噛み締めるヒイアカとナマカ。このことについては事前に話し合っていた。もしハウメアに何かあった場合は、ヒイアカとナマカ、二人でハウメアの跡を継ぐと。


 ハウメアは遠く、魔法国の方角に目を向けながら語る。


「……長かったねえ。きっかけはただ、この地で不審な動きを見せる魔法国の調査をすることだった。成り行き上、国を造らざるを得なかったんだけど……ここまで長く、大きくなるとは思ってもいなかったよ」


「……うん。でもね、ハウメアが冒険者ギルドを誘致してくれたから、私たちは出会えた。あの時は魔物が多くて驚いたよね、ナマカ」


「そうだね。あの時はエリスさんたちと一緒にただただ駆け回っていたよね。それがいつの間にか政治的なことまで押し付けられて……大変だったよね、ヒイアカ」


「あはは、ごめん、ごめん。でもね、あなた達が頑張ってくれたからこの地方は栄え、当初の目的であったヘクトールに引導を渡すことができた。あとはあのジジイの犯した非人道的な行いを清算するだけだ」


 ハウメアは目を閉じる。ヘクトールに弄ばれた千年前の被害者、少女ドメーニカ。残すは彼の非道によって無理矢理解放させられた彼女の『滅びの力』と、対峙するだけだ。


 ヒイアカとナマカは顔を見合わせて、ハウメアに申し出た。


「……ねえ、ハウメア。やっぱり私たちも行くよ。最後の戦いに」


「そうだよ。私たちがいなかったら、ハウメア、一人で何もできないでしょ?」


 だが、ハウメアは深く息をつく。


「……気持ちだけは受け取っておくよ。散々話し合ったでしょ? この国にリーダーは必要だ。誰も統治する者がいなければ、魔法国南部の自由自治区みたいに犯罪の温床地になっちゃうからね」


「……どうしても私たちは置いていくんだね?」


「ああ。あなた達なら安心して国を任せられる。さあ、この話はおしまいだ。今日は私がご飯を作るよ」


「「ハウメアが料理!?」」


 真剣な話をしていたつもりが、そのひと言で全部持っていかれた。ハウメアは目を細めてニヤリと笑う。


「あなた達、大概失礼だねー。たまにはわたしもあなた達に何かしてあげたいのさ」


「ちょ、ちょっと待ってハウメア! 料理なんてしたことあるの!?」


「えっ、えっ、二百年以上一緒にいるけど、一度もしたことないよね!?」


「んー。ま、初めてだけど魔法と一緒。レシピを守れば何とかなるでしょ。楽しみに待っていてねー」


 鼻歌交じりで退室していくハウメア。ヒイアカとナマカは目を丸くして見つめ合う。


「……大丈夫かな、ナマカ……」


「……最後の晩餐にならなきゃいいけど……」


 二人は困惑しながらも、ハウメアの風の吹き回しに微笑み合う。才女ハウメアの作る料理だ。きっと彼女なら、そつなくこなしてくれるに違いな——




 ————…………。




「……『毒を無くす魔法』……」


「……ヒイアカ……私にも……」


「……あなた達、やっぱり失礼だねー……」


 ——名状めいじょうし難き何かの作り手は、ここにもいた。咳き込む二人を横目に、ハウメアは美味しそうに料理を口に運ぶ。


「うんうん、初めてにしては上出来じゃない。いやー、わたし料理の才能あるかもー。決戦前にみんなに振る舞おうかなー」


「……やめて……戦う前から負けるつもり……?」


「……味音痴なんだね、ハウメア……そんな気はしてたけど……」


「ん? 美味しいじゃん。やっぱアレンジが効いたかなー」


 莉奈が目撃したら卒倒しそうな料理。ヒイアカとナマカは皿に残っている料理をハウメアに突き出した。


「……私たちの分も食べていいよ、ハウメア」


「……私たちの口には合わなかったみたい……」


「偏食家だねー、二人とも。せっかくの料理、食べて欲しいんだけど」


「「結構です!」」



 魔女の城の夜は、更けてゆく。ハウメアの意外な一面を知ってしまった二人は、テラスに出て苦笑いを浮かべた。


「……気持ちは嬉しいんだけどね、ナマカ」


「そうだね、ヒイアカ。でもやっぱり、私たちは連れていってもらえなさそうだね」


 二人は街明かりも一切ない夜の闇の中、目を合わせた。




「「——マッケマッケさんに、返事をしよう」」




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