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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第三章
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紡がれる決意 01 —新年—






 大晦日の夜。『魔女の家』の面々は談笑しながら、時を刻む魔道具を見つめていた。



 カチ、カチ、カチ……



 やがて、時計の長針と短針は重なり——



「ンッ。それでは皆、新年明けまして——」



「「——おめでとうございまーす!」」



 誠司の呼びかけに、皆は顔を綻ばせて挨拶を交わし合う。


 日付も変わり、新しい年の幕開けだ。ビオラは感激した様子を見せながら、乾物を口に頬張った。


「はあ……いいものね。夜更かしして誰かと新しい年明けを迎えるなんて、今までしたことなかったわ。お姉様たちの世界の文化なんですって?」


「んー、文化っちゃ文化かな。こっちの世界、あんまり0時に日付けが変わる、って考え方一般的じゃないもんね。私たちの国だとね……ええと……ヘイ、グリム!」


「『はい、日本では除夜の鐘や二年参り、年籠りなどの伝統が根付いています。家庭では家族で年越しそばを食べながらテレビの特別番組を観たり、新年の抱負を語り合ったりと、穏やかに過ごすのが一般的ですね』」


「へえ、知らない言葉がいっぱい! グリムさん、教えて!——」


 グリムの解説に、キラキラした目で聞き入るビオラ。好奇心旺盛なエリスにカルデネ、ジョヴェディも彼女の話に耳を傾けている。


 その様子を眺めながら酒を飲む誠司と莉奈に、果実のジュースを飲み干したライラがニコニコしながら話しかけた。


「私も初めてだけど、楽しいね! リナ、お父さん!」


「そうだねえ。ライラは去年まで、誠司さんと入れ替わりの生活送ってたからねえ」


「……ああ。去年までは莉奈とヘザーと私の三人だけだったからな。それ以前に、莉奈が来るまでは年越しに何かしようなんて考えてもいなかったよ」


 そう。この家に莉奈が来たことにより、自然に年越しをこのように過ごすことになったのだ。彼女が生活に及ぼした影響は、大きい。


 莉奈は、遠く大陸の地で過ごす『転移者』に思いを馳せた。


「……『ちえり』さんも、新年祝っているのかなあ」


「……『転移者』、か。私たちが知らないだけで、まだまだこの世界には数多くの『転移者』がいるのかもな」


「ねえ、リナ。戦いが終わったらその『ちえり』さんに会いに行ってみようよ!」


 転移者『ちえり』——シェリーのことはこの家族に共有してある。考えてみれば、例え莉奈の『運命力』があったとしても転移者全員と縁を繋ぐのは奇跡的な確率だろう。この世界には他にも各地に呼び込まれた者がいるのかもしれない。


 莉奈はライラの頭をなでて、優しくうなずいた。


「そうだね。全部終わったら会いにいこうか、『ちえり』さんに」


「やったあ! リナ、大好き!」


 莉奈とライラは何度目になるか分からない乾杯を交わし合う。穏やかな時間。やがて、グリムの解説を聞き終えたビオラがうっとりとした表情で話に戻ってきた。


「すごいわね、お姉様。いろいろな年越しの過ごし方があるのね」


「そうでしょ、そうでしょー。ビオラも楽しみなねー」


「ええ、もちろん! だって、最後の年越しになるかもしれないから!」



 会話が、途切れる。沈黙がこの場を支配する。


 気まずい。人を気まずくさせる天才、ビオラ。彼女はまだ健在だったか——。



 その時、コツンとジョヴェディがビオラの頭を叩いた。


「これ、ビオラ。最後にしないためにワシらは戦うんじゃ。来年も皆で、ここに集まるぞい」


「……いたっ。あら、そうね。そのためにアタシたちは戦うんですものね。ごめんなさい、失礼したわ」


「えっ、ジョヴェディ、来年も来てくれるんだー?」


 ニヤニヤと笑いながら覗き込むエリスの問いに、ジョヴェディは歪な笑顔を作り出して答えた。


「フン。一年でライラが卒業できんかったらな」


「えー。じゃあ、私、ゆっくり教えてもらおーっと!」




 暖かい空気に包まれて、時間は過ぎていく。莉奈は満足そうに頷いて席を外し、表へと出た。






「クロカゲ、アオカゲ、起きてるー?」


「ブルッ!」


 莉奈は馬房へと入り、二頭の様子を見にきた。二頭は莉奈の呼びかけに応えて、すぐに顔をすり寄せてきた。


「ふふ、くすぐったいよお。クロカゲ、アオカゲ、あなたたちも、明けましておめでとー!」


 ふわりと浮き上がり、莉奈は柵に腰掛けた。愛おしそうに彼女のことを見つめる二頭。そんな彼らに、莉奈は優しく語りかけた。


「……あのね、クロカゲにアオカゲ、よく聞いて。二月の戦い、もしかしたらこの家に誰も戻ってこないかもしれない。その時は——」


 彼らの視線をしっかりと見つめ返して、莉奈は続けた。


「——柵は開けておくから、勝手に出て行っていいからね。あなた達なら大丈夫。自然に生きるもよし、いい人に拾われるもよし。私があなた達の幸せを願っているから、きっと『運命』は味方してくれるはずだよ」


 その言葉を聞いたクロカゲが——柵の上に乗っている莉奈を軽く小突き落とした。慌てて宙に踏み止まる莉奈。見ると、アオカゲも非難めいた視線を莉奈に向けている。


 莉奈は苦笑いをして、柵に座り直した。


「……本当に言葉わかるんだね、あなた達。大丈夫だよ、私の命に変えても、絶対にみんなを助けるから心配しなくてもいいよ」


 だが、二頭の馬の非難めいた視線はやまない。莉奈は肩をすくめて、二頭の頭を優しく撫でた。


「ふふ、ごめんね。私も死ぬつもりはないよ。万が一の話。ありがとね、心配してくれてるんだね……」


「ブル……」


 一転、二頭は寂しそうな目で莉奈を見つめた。その視線が引っかかり、莉奈は柵から飛び降りて二頭に向き直った。


「……もしかして……私たち、どっかで会ったこと……あったかな?」


「ブルッ!」


 クロカゲとアオカゲは、柵越しに顔を乗り出してきた。莉奈は馬たちの顔を撫でながら思う。そうは言ったものの、馬と親密になるなんてこの二頭が初めてだ。


 元の世界でも、馬を見たことは——いや、あれは確か、中学の修学旅行で北海道に行った時に見たくらいか。


 莉奈は息を吐き、二頭に声をかけた。


「じゃ、私そろそろ戻るねー。クロカゲもアオカゲも、寒いから気をつけるんだよー」


「「ブルッ」」


 二頭の鳴き声を背に受け、莉奈は去っていった。



 その背中を見送った二頭は——



 ——顔を見合わせて、頷き合うのだった。





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