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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
最終部 第二章
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家族 01 —おかえりなさい—





 雪が薄っすらと積もり、辺りが薄暗くなり始める中で。久しぶりの我が家の扉に手をかけた私は、すうと息を吸い込み声を上げた。


「たっだいまー!」


 扉を開くと、奥からパタパタと足音が聞こえてきた。ああ、懐かしい足音。その少女は私目掛けて一直線に飛び込んできた。


「リナーッ、お帰りー!」


「……ふぐっ!?」


 ライラのタックルを受けた私は、よろめきながらもライラを抱え込む。そのライラは私の手を握って、ピョンピョン飛び跳ねた。


「もう、帰ってこないんじゃないかって心配したよ! 年明け、明後日だよ!?」


「あはは、ごめんごめん。ついつい特訓に熱が入っちゃってねえ。みんなはいる?」


「ふふーん!」


 ライラは口元を緩めて、ニコニコとしている。その時、奥の方から別の足音がやってきた。


「お姉様、お帰りなさい!」


「あっ、ビオラ! こっち来てたんだ!」


「ええ。スドラートのみんなの避難も終わったから、戦いが始まるまでこちらでご厄介になることにしたの。お姉様、待っていたわ!」


 ウィッチローブがよく似合うこの女性は、『南の魔女』ビオラだ。彼女を始めとする『四魔女』も、二月の戦いに参加することになっている。


 スドラートの漁村の人たちの避難は、無事に終わったようだ。彼女もどこかに身を寄せるという話は聞いていたけど、うちに来たのね。嬉しいなあ。


 雪を払い、二人に引っ張られながら家に入る私。その時、部屋からまた一人の人物が姿を現した。


「これ、二人とも。座学を放っぽりだして……まあ、今日は終わりにするかのう」


「あ、ジョヴェディ! ただいまー!」


「フン。燕よ、首尾はどうじゃ?」


「まあ、ね。まだまだリョウカには遠く及ばないけど、私なりに頑張ってるよ」


 その言葉を聞いた彼は、目を伏せ口元を緩ませた。


「……そうか。精進せえよ」


「おっ。優しいじゃん、ジョヴェディ」


「ジョヴお爺ちゃんは優しいよ!」


「ええ。お爺様、とても分かりやすく教えてくれるの!」


 ライラとビオラが嬉しそうに話す。そっか、ジョヴェディ、二人に魔法のこと教えてあげてるんだなあ。わちゃわちゃと話す私たちに背を向け、ジョヴェディは肩を揺らした。


「ククッ、勘違いするでない。来たるべき『大厄災』、全てはそこを乗り越えるためじゃ」


 私はライラを見て、ため息をついた。


「……相変わらず、ツンデレだねえ」


「ん? デレデレじゃない?」


「なあに、ツンデレって?」


「……お主たち、聞こえておるぞ……」



 うん、やっぱり我が家は落ち着くなあ。私はすっかり馴染み深くなったほのかな木の匂いを吸い込み、リビングへと向かうのだった。







「たっだいまー!」


 リビングに入ると、誠司さんにカルデネ、そしてこの家に滞在しているグリムが談笑している姿があった。誠司さんがこちらの方を見て、優しく微笑む。


「お帰り、莉奈。グリム君から聞いているが、ずいぶんと頑張っているようじゃないか」


「あはは、それなりにはね。だってヴァナルガンドさん、ノリノリなんだもん」


「はは、彼も相変わらずなんだな。しかし、莉奈。どうやらその彼ら相手に、互角以上の戦いをしていると聞いたが?」


「……うーん。とは言っても能力ありきだからね。まだまだ実力じゃみんなの足元にも及びませんって」


 私は白いマントを脱ぎ、部屋の壁のフックに引っ掛けた。その私の背に、カルデネの声が掛けられる。


「ふふ。相変わらず謙遜しちゃって。今ね、ちょうどみんなでリナとリョウカの話をしてたんだー」


「あー、そういえばカルデネ。確か、リョウカと会ったんだよね?」


「うん。セイジ様の手記が必要だったみたいだから。リナだったら読ませてあげてもいいかな、って」


 ピク。振り向いた私の視界に入ったのは、すっかり動きを止めてしまった誠司さんの姿だった。


「……待て、カルデネ君、初耳だぞ……。莉奈……いや、リョウカにも見せてしまったのか? あの手記を……」


「ごめんなさい、セイジ様。でも、あの手記は家族全員に見てもらった方がいいと思うの」


「……くっ。まさかあの手記がカルデネ君の手に渡っていたとは……いや、元を正せばヘザーが勝手に……」


 すっかり落ち着きをなくした誠司さんの元へと向かい、私はポンと肩を叩く。


「まあまあ。大丈夫だよ、誠司さん。私は読んでないし。という訳で、ねえ、カルデネ。後で読ませてねー」


「うん!」


「……絶対に、だ、め、だ!」


 立ちあがろうとした誠司さんの裾を、カルデネとグリムが引っ張って止める。遅れて入ってきたライラがとてとてとやってきて、私の手を取り、目を真っ直ぐに見てコクコクと頷いた。それはもうニヤニヤと頬を緩ませながら。


 あ、これ、アレだ。ライラにとって自慢の誠司さんの手記だ。『あとで私がお父さんを押さえつけるから、その隙に読んで!』という意思がはっきりと伝わってくる。


 私はライラに親指を立てて、とりあえずこの場の話題を変えた。


「そんで、エリスさんは台所かな?」


「うん、お食事の用意をしてるよ!」


「……ぐっ……待ちなさい、莉奈——」


 グリムに羽交い締めにされている誠司さんを見て笑みをこぼしながら、私は台所へと足を向けた。






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