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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
最終部 第一章
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「それぞれの」 09 —レザリア—








 莉奈がヴァナルガンドとの修行に出て、しばらく経った頃——。



 その場所へと向かう、二人の人物の影があった。


「……あの、グリム。なんであなたまで付いてきているのですか?」


「いや、レザリア。私も彼らに用事があるからね。せっかくだし、一緒に行こうじゃないか」


 スチャ。レザリアが剣の柄に手をかける。


「……前々から怪しいと思っていましたが、あなた、もしかして私のリナのことを……」


「……いや。大前提として、莉奈はキミの所有物ではないが……まあ、それでもキミ達が上手くいくことを祈ってはいるよ。お似合いの二人だからね」


「えへへー、そんなことないですよお。いえ、ありますが」


 一転、だらしない表情になってペシペシとグリムの背を叩くレザリア。ちょろい。


 グリムは軽く息を吐いて、歩みを進める。


「さて。もうすぐなんだろう? 彼らの住処は。あれがそうか?」


「……ああ、やってますね……」


 グリムの指差した青空には、揺らめき飛び交う青い炎が。そしてゴーグルを掛けたグリムの視界には、その中を瞬くように煌めいている白い影が映し出されていた。


 二人は顔を見合わせ、速度を上げるのだった。






「フハハハハッ! 微温ぬるい、微温いぞ、リナァッ!!」


「……ひいっ! ひいっっ!」


 容赦のないヴァナルガンドの攻撃。先ほどから『遠吠え』が響きっぱなしだ。


 無数の青い炎が莉奈目掛けて襲いかかる中、英雄『白い燕』は半べそになりながら必死に攻撃を避けかわしていた。


「リナちゃん、頑張れー!」


「ちょ、ハティさん、休んでないで手伝ってよ!」


「そうだぞ、ハティ。うぬもリナに攻撃せよっ!」


「はいはーい」


「……えっ、違う違う、そういう意味じゃなくて……え、マジ!?」


 二匹の神狼が莉奈に向かい駆け上がる。莉奈、絶体絶命——。


 その時。



 ——トスッ、トスットスッ



 三本の魔法の矢が、狼のお尻に刺さった。



「……ぬぐおおぉぉっっ!」


「……いってええぇぇっっ!」


「……あなた達、私のリナに何をしているんですか……?」


 ゆらりと歩み出てくるのは漆黒の瞳を宿したレザリア。その彼女の後頭部に、グリムがポコッと手刀を入れる。


「……いたっ! グリム、邪魔しないでください。私のリナがあっ!」


「落ち着け、レザリア。特訓だと言ってるだろう? キミは莉奈の成長を阻害する気か。あと、魔法の矢は禁止な。殺傷能力が高すぎる」


 見ると、ヴァナルガンドとハティの二匹は地面に落ち、ゴロゴロと転がっていた。


 その二匹に回復薬をぶっかけ、莉奈はレザリアたちの元へと向かう。


「こおら。何やってんの、レザリア」


「ああ、リナ! あなたのレザリアが、やって参りましたよおっ!」


 シュッ。莉奈はレザリアの抱きつきを『空間跳躍』でかわす。勢いのままべちゃと地面に伏すレザリア。


 莉奈はため息をついて、グリムに話しかけた。


「やっほー、グリム、久しぶりー。どうしたの、今日は。レザリアまで連れてきちゃって」


「……ああ。今度の戦いについて、彼らと話したくてね。レザリアは、アレだ。キミの成分が底をついたとかなんとか」


「……あー」


 全てを察した莉奈は、レザリアの前にしゃがみ込んだ。


「ねえ、レザリア」


「リナ」


「私ね、追いかけられるより、追いかける方が好きなの。マイナス10点」


 その言葉を聞いたレザリアは、この世の終わりのような顔つきになった。すっかり固まってスンスン泣き始めてしまった彼女を見て、苦笑いを浮かべながら莉奈は立ち上がる。


「じゃあ、休憩にしよっか。ヴァナルガンドさん、ハティさん、ご飯作っちゃうねー」







 簡素ではあるが、莉奈の用意した料理が全員に振る舞われる。今は人間形態になっているヴァナルガンドとハティも、その料理に舌鼓を打っていた。ヴァナルガンドは久しぶりの女性形態だ。


「うむ。相変わらず旨いのう、リナの拵えるものは。のう、ハティ」


「そうだねえ、大陸の方でもなかなかありつけないよ、この味は」


「ありがと、二人とも。レティさんの店の味には遠く及ばないけどね」


「ふむ、神話級生物も味覚は一緒なのかな。これは実に興味深いな……むしゃむしゃ」


「……ああ、リナの味……でも私は、マイナス10点の女……」


「……あの、レザリア。食事の時くらいは離れようか」


 和気藹々と皆は歓談する。そんな中で、莉奈とレザリアの様子を見ながらヴァナルガンドは怪訝な顔を浮かべた。


「それにしても、人の子は男女でつがいになるものなのだろう? 見たところ二人とも、女子おなごに見えるが……エルフ族はそうなのか?」


「いえ、ヴァナルガンド様。愛に性別は関係ありませんゆえ」


「そうだぜえ、オヤジ。遅れてるなあ」


 皿を舐めながら、ハティが事もなげに言った。


「なんつーんだっけ、それ。ああ、確か『ユリ』だ。可愛いは正義っつってな。男同士だと『ビーエル』って言うんだぜ、確か」


 そのハティの発した言葉を聞き、ピタリと莉奈とグリムは動きを止めて顔を見合わせる。やがてグリムは大きく目を見開きながら彼を見つめた。


「……待て。『百合』に『BL』だと?……いや、確かキミは以前、ルネディのことを『ロリババア』と称していたな?」


「待って、ハティさん。ルネディにそんなこと言ったの……? よく生きてたね……」


 莉奈がブルッと身震いする中で、グリムは続ける。


「教えてくれ、ハティ。キミはいったい、その言葉を誰から聞いた……?」


「ああ」


 ハティはフッと笑い、足を伸ばした。


「シェリーだよ、エルフ族の。レザリアさん、アンタもそうだけど、エルフ族って変なやつ多いんだな」


「うん? 我がお主を迎えに行った時、一緒にいたエルフの女子か?」


 ヴァナルガンドは誠司の頼みでハティを迎えにいくために、大陸の方へと出向いていた。そこで会ったのだろうが——レザリアが疑問の声を上げる。


「お待ちください、ハティさん。『シェリー』ですか?『ジェリー』とかではなくて?」


「ん? それがどうしたの、レザリア」


「はい。私たちエルフ族は名前に命名規則がありまして……シェリーとは絶対に名付けないはずなのですが……」


「そりゃそうさ」


 ハティは鍋からおかわりをよそいながら答えた。


「リナちゃん達と同じで、なんか別の世界から来たって言ってたな。本当の名前は『ちえり』だとか。そいつからいろいろと教えてもらったのさ」





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